表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/74

第24話 冷徹なる布石

燃え盛っていた戦場はすでに静寂を取り戻していた。

空には淡い月光が差し込み、周囲の焦げた大地と赤熱した岩が冷めつつあった。倒れたヴェイラスの巨体は、まるで炎が消え去った蝋燭のように微動だにしない。


しかし、その静寂を破るように、突如青白い光がヴェイラスの体から発せられた。光は徐々に強まり、周囲の暗闇を照らす。


その瞬間、地面に複雑な術式が描かれたように青い魔法陣が浮かび上がる。光の輪郭はますます鮮明になり、ヴェイラスの巨体がふわりと宙に浮いた。


直後に眩い光が溢れた。その光が収束した瞬間、ヴェイラスの姿は跡形もなく消え去っていた。


残されたのは、ひたすらに続く静寂だけだった。


場面は変わり、遥か遠方。

荒涼とした土地の地下深くに隠された巨大な研究施設が存在していた。岩盤を削り出して作られたその空間は、冷たい金属と魔力の光で満たされている。

施設全体が複雑な魔法術式で覆われており、外部からの侵入を完全に拒んでいた。


その中心部に設置された巨大な転送装置が淡い青い光を放ち、静寂を破るように低い振動音を響かせた。

やがて装置の上に浮かび上がる術式が輝きを増し、次の瞬間、ヴェイラスの巨体が空間に現れる。


無数の魔力の糸が装置から伸び、傷ついたヴェイラスの身体を支えるように漂っている。


その光景を冷徹な瞳で見つめていたのは、虚晶将ゼファルドだった。


「やれやれ、貴様も随分と無様な姿になったものだな……」


ゼファルドは結晶の指を動かし、ヴェイラスの巨体に歩み寄る。その指先が魔力を帯びた輝きをまとい、ヴェイラスの身体に触れると、彼の命がまだ辛うじて繋がっていることを確認した。


「まだ死ぬには早い。お前には、まだやらねばならないことが山ほどあるのだからな」


ゼファルドは指先で空間に魔法陣を描き出し、部屋の奥に設置された巨大な蘇生装置を稼働させた。

装置の内部には液体が満たされており、魔法の術式が緩やかに回転している。


「ヴェイラス。貴様の敗北、無駄にはならん……」


ゼファルドは操作盤に結晶の手を伸ばし、近くに置かれた魔晶鏡を起動させた。鏡面に浮かび上がる映像には、ヴァルカニック・ブレイカーが魔物の群れを蹴散らし、ヴェイラスと互角以上に戦う姿が映し出されていた。


「これは……女王吸血蟻の時とは比べ物にならないな」


ゼファルドは鏡面を指でなぞり、画面を凝視する。

その結晶の手が淡い光を放ち、鏡に映る映像に反応しているようだった。その眼差しには畏怖と感嘆、そして好奇心が混じっていた。


「どこまで、この力は成長するのか――」


彼は魔晶鏡を見つめ続けた後、ふと冷笑を浮かべた。


「だが、解析は進んでいる。近い将来――貴様はその『進化』によって、必ず自らの破滅を招くだろう」


静かな部屋に響くのは、装置の機械音とゼファルドの低い呟きだけだった。

その言葉は未来を予言するものか、ただの嘲笑か。


ゼファルドは魔晶鏡を閉じると、ヴェイラスの蘇生装置に背を向けて歩き出した。

結晶でできた無機質な身体が淡い光を放ち、足音だけが静寂の中に響く。


彼が向かった先は施設の奥深くにある、暗く広大な部屋だった。その空間は、いくつもの蒸気駆動の試作機が無造作に放置された、廃棄場のような場所だった。


巨大な蒸気管が無数に絡まり、錆びた歯車や壊れたフレームが積み上げられている。それらはすべて、ゼファルドの手によって生み出され、不要と判断され捨てられた試作機の残骸だ。

中には人型に近いものもあれば、奇妙な獣のような形状のものもある。それらがまるで墓標のように並び、空間全体に冷たい威圧感を与えていた。


「……愚作ばかりだな」


ゼファルドは足元の小さな歯車を踏み砕き、無関心に呟いた。だがその声の奥底には、わずかな苛立ちが滲んでいた。これまでの試作機たちは、彼の目にはどれも未完成で無価値なものとして映っていた。


積み上げられた残骸を見上げながら、彼は静かに立ち止まる。


ゼファルドの結晶の指先が微かに動き、周囲の空間に新たな魔法術式を描き出した。それはこれまでの廃棄物から何かを得ようとしているようにも見えた。


「……それでも、いずれは“我が作品”が全てを凌駕する。その時こそ、お前の力も無意味となるだろう、人間よ」


彼の言葉には冷たさと確信が混ざり合い、響き渡る音がさらに空間を冷え込ませた。積み上げられた機械の残骸を見下ろしながら、ゼファルドはさらに続ける。


「だが、感謝するがいい。お前の努力は無駄ではなかった。この私が、完全なる存在へと昇華してやるのだからな。」


結晶の目が淡く輝き、ゼファルドの声が鋭さを増していく。


「“勝利”とは、一時の結果でしかない。最終的な勝利者は……魔王軍(我々)だ。」


彼はそう呟くと、冷たく硬い足音を響かせて部屋を去っていく。

その背後に残るのは、無数の試作機の残骸と、冷たく静まり返った地下研究施設の空間だけだった。


三章へ続く幕間、いかがだったでしょうか?

今回魔王軍の新たな脅威が動き出す場面を描きました。

虚晶将ゼファルドの計画が、今後どのように展開されていくのか――次章もぜひ楽しみにしていてください。


良ければレビュー、感想や評価、ブックマークを頂けると大変励みになります!ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマお願いします!励みになりますので何卒m(._.)m 感想もいただけると喜びます(*´ω`*)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ