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第21話 紅鉄の城


今にも崩壊しそうなボロボロの状態でマコトは何とか帰還していた。

スーツから降りたその顔には疲労と焦り、そして苛立ちが滲んでいた。


「……くそ、もう限界だ。これじゃ次は……!」

 

マコトは拳を強く握りしめ工房の壁を殴りつけた。

鈍い音が響き渡り、作業中の技術者たちが一瞬驚いて振り返る。


「マコト――!!」

 

アイリスが険しい表情で駆け寄り、彼の肩を掴む。

 

「しっかりして!こんな時に自分を見失ってどうするの!」


「でも……どうすればいい!?旧式(コイツ)じゃもう戦えない。新型もまだ完成してない。なのに敵はどんどん近づいてくるんだぞ……!」


苛立ちを隠せないマコトに、アイリスは涙を滲ませた目で声をかけた。


「それでも……マコトならきっと何とかしてくれるって私は信じてる……!いつもみたいに、ね?」

 

アイリスの言葉は静かだったが、確かな信頼と励ましが込められていた。

彼女の瞳に浮かぶ確信に満ちた光が、マコトの胸に静かに響く。


しばらく沈黙が流れた後、彼は深く息をつき、冷静さを取り戻したように顔を上げた。


「焦っても仕方ないよな……ありがとう。」

 

「うん。それでこそマコトだよ。」

 

アイリスは優しく微笑み、そっと肩に置いた手を離した。


工房の一角では技術者たちが不眠不休で作業を続けていた。

グリムドが汗を拭いながら、進捗状況を報告する。


兄ちゃん(マコト)、今の出来は80%までっちゅうところや。ここからが正念場やが……ワシらの腕、信じてもらおう。」

 

彼の言葉にエルナも負けじと腕を組み、胸を張る。


「そやそや、グリムド(おっさん)の言う通りや。間に合うかどうかギリギリのラインが一番燃えるんが、ウチら職人やからな!」

 

作業の合間にも、火花が飛び散る音が響く。


ドワーフたちが装甲や機械部分の調整を進める中、エルフたちは動力炉に集まり、精霊の力を引き出すための理論構築に没頭していた。


「ここで火の精霊の力をさらに向上させるためには、風の精霊を用いてその力の圧縮を行うべきだ。」

 

エルフの一人が冷静な口調で理論を語る。

彼女の指先から流れる魔力の光が動力炉の構造を示し、理想的なエネルギー循環の模型を描き出していた。


「圧縮した力を一気に放出すれば、高圧高熱を効率よく引き出せる。ただし、この理論を実行するには、精霊そのものに指示を与える技術が必要だ……。」

 

彼女はそこで言葉を止め、マコトを見つめた。


「君ならできるだろう、マコト。この精霊たちの力をまとめ上げることが。」


マコトは頷いた。

 

「わかった。やってみるよ。」


動力炉の前に立ったマコトは、深呼吸をして集中する。

火の精霊たちが炉の中で揺らめき、風の精霊がその周囲を漂っているのを感じ取る。


「火の精霊たち、力を貸してくれ。お前たちのエネルギーを最大限に発揮するために……」


穏やかな声で語りかけると、火の精霊たちは熱の波を揺らめかせ、答えるように光を強めた。


「そして、風の精霊たち。火の力を包み込み、圧縮してくれ。彼らの力を制御して、超高圧状態を作り出してほしい。」


風の精霊たちが微細な旋風を巻き起こし、火の精霊たちを包み込んでいく。

動力炉の中で、精霊たちの力が見事に調和し、エネルギーがどんどん高まっていくのがわかる。


エルフの技術者がその様子を見守り、満足げに頷いた。

 

「完璧だ……精霊をここまで見事に制御できる者を初めて見た。本当に素晴らしい。」


「俺だけの力じゃない。皆さんの知識と経験があってこそですから。」


マコトは汗をぬぐいながら答えた。


エルフたちは再び微調整に入る。

その横でマコトは精霊たちに新たな指示を送り続け、動力炉の調整を進めた。


そしてノームの学者たちは精密な計算と理論で、全体のバランスを仕上げていく。


「……これで動力の無駄(ロス)を最小限に抑えられるはずだ。」


「ありがとうございます。でも、果たして間に合うか――」

 

焦りを隠せないマコトに、彼は静かに首を振った。


「焦りは禁物だ、若者よ。私たちは長い年月を経て、技術を磨いてきた。最善を尽くせば、必ず成果はついてくる。」


「……よし、俺も手伝います!絶対に間に合わせよう!」

 

マコトが力強く声を上げると、全員が熱意を込めて頷いた。

工房には蒸気の音と作業音が響き渡り、最後の仕上げが急ピッチで進められていく。


「さあ、仕上げや!」

 

エルナの号令で、グリムドが最後のパーツを装着する。

 

「これで完成や。ワシらの技術の集大成やで!」

 

焔紅鉱(イグナリウム)の装甲は暗紅色に鈍い輝きを放ち、圧倒的な重厚感を纏っている。

フレームや内部機構にも同じ金属が使用されており、これまでとは比較にならないほどの高い耐熱性と防御力を備えている。

太く力強い手足は圧倒的なパワーを秘め、敵を蹂躙する。

両肩には圧縮高熱弾を放つ連射式砲(チェーンガン)が搭載され、中型魔物も一撃で仕留める威力を誇っている。


獣を思わせる様な頭部は目の部分が赤く輝くたび、まるで生命を宿しているかのような威圧感を見せる。


その姿はまさに勝利をもたらす巨神である。


「これが……!」

 

マコトは息を呑む。見る者すべてを圧倒する存在感だった。


「新しいロボット……」

 

アイリスが感嘆の声を漏らしながら、興奮した様子でロボットを見上げた。

 

「すごいね、今までのと全然違う……!」


エルナも腕を組み、誇らしげに頷く。

 

「ほんまや。こんなもん、この世のどこを探しても無いで!」


アイリスはふとマコトの方に顔を向け、尋ねた。

 

「ねえ、新型ロボット(この子)の名前は?もう決めてるの?」


その問いに、マコトは真剣な表情で新型機を見上げた。

 

「そうだな……」


一瞬の静寂の後、マコトは口にした。

 

「皆んなを守る新しい力……その名も、崩天巨甲騎ヴァルカニック・ブレイカーだ。」


その名前が響き渡ると、アイリスが微笑みながら小さく拍手をした。

 

「いい名前だね!この子にぴったり!」


「そうやな!」

 

エルナも頷く。

 

「名前負けせんように、大暴れしてもらわんと困るで!」


グリムドもニヤリと笑う。

 

「そいつの力を見せたる時やな。」


マコトは機体に近づき、そっと装甲に手を触れた。

 

「頼むぞ……俺たちの力になってくれ。」


出撃ため、マコトは新型ロボットのコックピットへと乗り込む。

巨大な影が工房の奥からゆっくりと動き出した。


その頃、基地の周囲には赤い光が差し込み、熱波が立ち込めていた。

遠方から徐々に迫る炎の軍勢。

前回の戦いで数を減らしたとは思えない程だった。

最後尾を悠然と進むのは、何体もの灼炎巨人(フレアタイタン)とその背後に悠然と佇む豪炎将(フレイムロード)ヴェイラス。


ヴェイラスは自慢の巨大な両刃斧を肩に担ぎながら笑みを浮かべた。

 

「人間どもよ、最後の刻だ。我が炎に焼き尽くされるがいい!」


その言葉とともに、魔物たちが一斉に動き出す。


「来るぞ……!」

 

ダリウスが前線に立ち、兵士たちに指示を飛ばす。

だが、圧倒的な軍勢に兵士たちは緊張の色を隠せない。


その時、基地から轟音とともに巨大な影が飛び出した。

戦場に現れるや否や、全ての視線が釘付けになる。


「おい……あれは……!」

 

兵士たちの中から驚きの声が漏れる。


大地を揺らし着地すると、両肩に搭載されたチェーンガンを展開し圧縮高熱弾が連射されると魔物たちが次々と炎と煙の中に消えていった。

 

「次は……空だ!」

 

操作を切り替え、宙を舞う爆裂炎鳥(ヘルクレスト)を狙う。

空を埋め尽くす正に弾幕が爆裂炎鳥を次々撃ち抜き、羽を散らしながら爆散していく。


するとマコトの前に三体の灼炎巨人(フレアタイタン)が立ち塞がった。


「またお前らか……この前とは違うぞ!」

 

マコトはブースターを全開にして突進する。


灼炎巨人が溶岩の拳を振り上げて襲いかかる。

しかし凄まじい突進力(ブースト)に全く動きが追いついていない。


マコトは巨腕を振りかぶり、その拳を灼炎巨人たちに矢継ぎ早に叩き込む。

その一撃でフレアタイタンたちの巨体はあっさりと砕け散った。


「これが……皆んなの力を結集した、ヴァルカニック・ブレイカーだ……!」


「ほう……ただ逃げ帰ったわけではなかったようだな。」


ヴェイラスの目に一瞬の好奇心が宿る。


マコトが拡声機能で、ヴェイラスに告げる。

 

「ヴェイラス……今度は俺たちがお前に恐怖を与える番だ!!」


ヴェイラスは嗤う。

 

「やはり貴様が乗っているのか。しかし前回と同じ様なその鉄クズでこの俺に挑もうというのはなぁ!」


ヴェイラスは両刃斧を構え一気に駆け出した。

マコトも正面から迎え撃つ。


ヴェイラスの一撃が放たれる。


「焼き尽くせ、全てを灰燼と化せ――!」


その斧から放たれる炎の奔流が機体を直撃した。

だが……マコトはその一撃を掌で受け止め、そのまま押し返した。


「馬鹿な……!? 片手で受け止めただと……!」


ヴェイラスが驚愕の声を漏らす。

 

「こっちは全力なんだ……遊びに付き合ってる暇はない!」


その言葉とともに、その巨大な右腕が振り上げられる。

拳がヴェイラスに叩き込まれ、彼の体が後方へ吹き飛ばされた。


地面に転がるヴェイラスが一瞬呆然とした表情を浮かべる。

しかしすぐに、それは狂気の笑みに変わった。

 

「そうだ、そうでなくてはつまらん!面白い!面白いぞ!」


「どうしたヴェイラス、その程度か!」

 

マコトが挑発するように叫ぶ。

 

「この俺を侮るとは……その挑発、乗ってやろう!」


巨体がぶつかり合い、衝撃が周囲を吹き飛ばす。

ヴェイラスは竜巻のような勢いで斧を振り回すが、マコトは冷静に反撃の機会をうかがっていた。


「お前の動き、読めてきた……!」

 

マコトは左腕で斧をはじき、瞬時に右拳を振り抜いた。

その一撃がヴェイラスの胸部に直撃し、彼の巨体が大きく後退する。


「ぐぬっ……!」

 

ヴェイラスは体勢を崩しながらも踏みとどまった。

その顔には怒りと驚きが混じる。

反撃を試みるが、マコトの操縦動く程に洗練されており、その攻撃は確実にヴェイラスを追い詰めていった。


「くそっ……!」

 

斧が弾き飛ばされ、巨体が大きく揺れる。

地面に拳を突き立て膝をつく。

明らかにヴェイラスが……押されていた。


「フン……」

 

ヴェイラスは息も荒く立ち上がり、マコトを睨みつけた。

 

「……認めてやる。お前は強い!」


そう言うと、ヴェイラスは笑みを浮かべながら鎧の一部を剥ぎ取り始めた。

 

「だが、この俺が本気を出せばどうなるか……見せてやろう!」


剥ぎ取られた部分から赤熱するような魔力が溢れ出し、その熱波が周囲の空気を焼き尽くす。

 

「とくと味わうがいい、俺の真の力を――!」


その身体は炎そのものとなり、灼熱の炎が渦を巻きながら溢れ出す。

周囲の魔物たちさえもその熱気に焼かれて悲鳴をあげる。


「ここからが本番だ!さあ、始めようか――!」


ヴェイラスは両腕を広げ、大地を踏みしめながら魔力を爆発させる。


マコトは汗の滲む手で操縦桿を握りしめた。

 

「……ここからが正念場か。いいだろう……全力でぶつかってやる!」

 

決戦の幕が、ここに切って落とされた。

 

遂に新たなる力が誕生しました!

男のロマンを詰め込んだ、正面から全力のタイマン勝負!

この戦いの決着はどうなってしまうのか……

次回にご期待ください!


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