第20話 絶対防衛線
戦場となる荒野周辺は不気味な咆哮が響き渡り、地平線まで炎の赤が広がっていた。
焦土と化した大地は熱気で歪み、魔物たちの影が揺らいで見える。
灼熱の風が吹き荒れる中、マコトたちは荒れ果てた大地に降り立った。
遠くで立ち昇る黒煙が、魔物の軍勢が近づいていることを物語っている。
周囲の兵士たちには強い緊張が漂う。
マコトは旧式スーツに身を包み、辛うじて冷静さを保っていた。
「アイリス、エルナ、準備はいいか?」
「もちろん!どんな奴らだろうと、蹴散らしてやるんだから!」
アイリスはフェザーの翼を展開し、暴風槌を軽く振り上げて意気込む。
「ウチも問題あらへん。バイパーとコブラ、フル稼働でやったるで!」
エルナはバイパーとコブラを装着し、両腕と脚部の動きを確認する。
マコトは頷き、前方を見据えた。
「行くぞ!絶対に突破させるな!」
マコトはブースターを最大稼働させながら先陣を切った。その背後にはアイリス、エルナが続く。
荒野は周囲一帯が炎の海と化していた。
灼熱の風が吹き荒れ、赤い空が視界を支配する。
遠くから聞こえる兵士たちの絶叫と衝突音が、戦場の緊迫感を一層高めている。
「全員、しっかり守れ!ここが崩れたら全滅だぞ!」
司令官ダリウスが怒号を飛ばしながら前線に立ち、兵士たちを鼓舞していた。
隊列を組んで攻め立ててくる、燃える身体を持つ魔物たちに対し果敢に戦うが、その炎の威力と数により徐々に押されていた。
「くそっ、矢が通らない!」
「怯むな!足を狙え!奴らの動きを止めろ!」
ダリウスが大剣を片手に指揮を執る。
その顔には熱気と灰が混じり合い、傷だらけの鎧は彼の奮戦を物語っていた。
「全軍、配置を維持しろ!押し返すぞ!」
彼は言葉だけでなく自ら前線に立ち、燃え盛る戦場の中で大剣を振るう。
彼の剣撃が火炎歩兵の足を切り裂き、地面に崩れ落ちる。
「ダリウス様!危険です!後退してください!」
近くにいた若い兵士が叫ぶが、彼は首を振って答えた。
「私が退けば戦線が崩れる!指揮官の役目はここで兵を鼓舞することだ!」
その一言に兵士たちが奮い立ち、再び戦線を押し戻し始める。
「爆裂炎鳥が城壁に向かってきます!阻止しないと!」
一人の魔術師が叫ぶと、別の魔術師たちが杖を掲げた。
空中には無数の炎の鳥が渦を描きながら急降下してくる。
「風の術式!吹き飛ばせ!」
魔術師たちが一斉に術を発動させると、強烈な突風が爆裂炎鳥を襲い、軌道を外れて墜落する。
「倒しても倒してもキリがない……!」
マコトは旧式スーツの蒸気ブースターをフル稼働させ、迫り来る火炎歩兵たちを蹴散らしていた。
燃え盛る剣を振りかざして接近してくる魔物を一撃で粉砕しながらも、彼のスーツは徐々に限界に近づいていた。
「もう何匹目!? わかんなくなってきたよー!」
アイリスはフェザーを駆使し、空中を縦横無尽に駆け回る。
爆裂炎鳥が兵士たちに飛びかかろうとするたびに暴風槌を振り回し炎の鳥を叩き落とした。
「ウチのパイルバンカー、一度味わってみい!」
その頃エルナは炎鎧騎士たちの包囲を突破しようとしていた。
圧縮された蒸気が噴き出し、鋼鉄の杭を弾き出す。
重過ぎる一撃が硬い鎧をまとった敵の胸部を易々と貫き、炎が弾けるように消散した。
「ほんま、えげつない戦いやで……!」
しかし依然一対多数の状況は変わらない。
脚の刃も展開して死角から襲われない様に牽制しながら、炎鎧騎士たちの隙を伺っていた。
「一瞬たりとも油断できひんなぁ……キッツイで!」
膠着状態が続くと思われた。
瞬間、上空から高速で物体が飛来し炎鎧騎士を鎧ごと垂直に叩き潰した。
「――エルナ!大丈夫!?」
囲まれているのを見たアイリスが最大速度で駆けつけたのだった。
既に物言わぬ残骸と化した潰れた炎鎧騎士から槌を引き抜き、再び攻撃の姿勢を取る。
「助かったわ、アイリスちゃん!もーホンマ惚れてまうで!」
軽口を訊きながらもエルナは緊張を緩めない。
一方、兵士たちが押し返してもなお、燃え盛る魔物の軍勢は次々と押し寄せてきた。
矢を放ち、槍を突き立てるが、炎に包まれた体は簡単には倒れない。
「司令官!左翼が崩れます!」
「まだ持たせろ!もう少しで応援が――」
その瞬間、基地の外周から大きな爆音が響いた。魔物の一体が壁を乗り越え、直接兵士たちに襲い掛かったのだ。
「まずい、ここで崩されたら基地全体が……!」
ダリウスが駆け寄ろうとしたその時、轟音と共に地面を切り裂きながら、マコトの旧式スーツがその魔物に突進してきた。
「遅れてすみません!ここは俺に任せてください!」
マコトが叫びながら蒸気ブースターを最大稼働させ、一気に魔物を吹き飛ばした。
その隙に兵士たちが態勢を立て直す。
マコトたちの活躍に触発された兵士たちは、再び前線に戻り必死の応戦を続けた。
「君たちは左翼の援護を頼む!右から来る奴らは私たちで抑える!」
ダリウスは部下たちを鼓舞しながら、大剣を振りかざし、迫りくる魔物を斬り伏せた。
アイリスはフェザーで空を舞いながら、火炎魔物の群れを薙ぎ払う。
彼女の一撃がが炸裂するたび、地面が揺れ、魔物たちの隊列が乱れる。
「見事な攻撃だな……だが我々も負けてはいられん!」
エルナもバイパーとコブラを駆使して地上戦を支え続けた。
右腕のパイルバンカーが魔物の巨体を吹き飛ばし、左腕の高圧空気砲の連射が敵の進行を阻む。
「ここまで来たら引き下がれるかいな!どいつもこいつも、まとめて片付けたる!」
彼女の挑発に応えるように魔物たちが次々に襲い掛かるが、彼女はブースターを駆使して巧みにかわし、反撃を加える。
「アイリス、エルナ!ここが正念場だ!」
マコトが声を張り上げた。
己を奮い立たせる様に渾身の一撃を魔物たちに次々に叩き込む。
激しい戦闘の連続でスーツの装甲が、関節が、悲鳴の様な軋みを上げるが構わず魔物の群れに突撃し、蹴散らす。
「まだだ、まだやれる――!」
その時、大地が不気味な振動を伴って揺れ始めた。
「何だ、この揺れは……!?」
突如、地面の亀裂から溶岩が噴き出し、現れたのは巨大な魔物だった。
体は溶岩と岩石で構成され、赤熱化した部分が脈動しているように見える。
その巨体は他の魔物とは一線を画し、圧倒的な威圧感を放っていた。
「灼炎巨人!厄介な奴が来たな……!」
灼炎巨人は咆哮を上げ、地面に拳を叩きつける。
その瞬間、衝撃波が周囲の大地を裂き、灼熱の炎が周囲に広がった。
マコトは咄嗟にブースターを全開にして回避するが、迫る熱波にスーツの外装がじりじりと焼かれていく。
「このままじゃ勝てない……!」
マコトは蒸気で熱せられたスーツの中で歯を食いしばりながら、亜空間収納袋に手を伸ばした。
「来い、ギアブレイサー――!!」
その呼びかけに応じるように、空中からストームレイヴンが姿を現し、彼方からバスターブロウが駆けつける。
それぞれのパーツがマコトのパワードスーツと合体を始め、精霊獣機甲がその雄姿を現した。
「……こいつで、押し返す!」
マコトは一気に灼炎巨人との間合いを詰め、強化された脚部ブースターで跳躍しながら巨剣を振り下ろした。
しかし――
「硬い……!」
灼炎巨人の外殻は鋼鉄以上の硬度を持ち、わずかに裂け目を生じさせるだけだった。
巨人はすかさず反撃に転じ、溶岩のような拳を装甲に叩きつけた。
「くっ……まだだ!」
マコトは衝撃に耐えながら間合いを取り、再び攻撃の準備を整えた。
「精霊の力を一つに――! 剛閃覇斬――!」
マコトは出力を全て収束させ、蒸気と精霊の力を最大限まで引き出した。
そのエネルギーが一筋の光の刃となり、灼炎巨人に向けて放たれる。
轟音と共に刃が巨人を両断し、爆発音と共に巨体が崩れ落ちた。
溶岩が四方に飛び散り、辺りの熱気が一気に上昇する。
「……やったか?」
マコトが荒い息を吐きながら周囲を確認すると、残った魔物たちが混乱し始めた。
戦場にいた味方の兵士たちも歓声を上げ、士気を取り戻していく。
「ハハハハ!いいじゃないか、ここまで足掻く奴らを見るのも久しぶりだ!」
その時、戦場低く威圧的な声響き渡った。
声が放たれた瞬間、周囲の空気が一気に張り詰めた。
全員が声の方向に目を向けると、そこには燃え盛る炎の渦が現れていた。
炎の中からゆっくりと姿を現したのは、豪炎将ヴェイラス。
全身を覆う真紅の鎧は、まるで燃え上がる溶岩そのもの。頭部から伸びる二本の鋭い角と、手に握られた巨大な両刃斧が威圧感をさらに際立たせている。
しかも、その巨体は先ほどの灼炎巨人を上回り異様な存在感を放っていた。
「さあ、見せてくれよ、貴様らの全力を!」
ヴェイラスが斧を振り上げると、その周囲に巨大な炎の塊が生まれた。
それは一瞬で形を成し、炎の竜巻としてマコトたちに向かって放たれる。
「くそっ、みんな散れ!」
マコトが叫ぶと同時に、ブースターが蒸気を噴き出し、彼の体を後方へ跳ばした。
その直後、炎の竜巻が地面をえぐり、戦場全体を赤く染めた。
ヴェイラスは狂気を露わにしながら、戦場を炎の地獄へと変えていく。
彼の一撃一撃は、大地を揺るがし、味方の兵士たちを次々に圧倒していった。
「くそ……これが魔王軍の幹部かよ……!」
マコトはエレメンタルブレイサーのブースターを限界まで駆動させながら、猛攻をかわしていく。
しかし、圧倒的熱量はスーツを確実に蝕み、徐々に出力が低下していく。
「マコト、このままじゃ……!」
アイリスがフェザーで上空から援護しつつ叫ぶが、その声にも焦りが滲んでいる。
エルナもバイパーとコブラを駆使して地上戦を支えるが、炎の熱気で周囲の地形が崩壊し、動きが制限されていく。
「ハハハハ!どうした、もう終わりか!?それとも、このまま蒸し焼きになりたいのか?」
ヴェイラスは嘲笑を浮かべながら、巨大な両刃斧を大きく振り抜いた。
その一撃はまるで地獄そのものを具現化したかのように大地を焼き裂き、戦場を壊滅の渦へと叩き込んだ。
「みんな、退け!このままじゃ全滅する!」
マコトは歯を食いしばりながら、退却を促した。
自分が戦場に留まることで仲間たちを守ることを決意していたが、敵の圧倒的な力に撤退以外の選択肢がないことを悟る。
「フン、逃げるのか?まあいい、ゆっくりと歩を進めるとしよう。貴様らの命も残り僅かだ、恐怖に怯えながら灰と化すがいい!ハハハハハッ――!!」
ヴェイラスの嘲笑が戦場に響く中、マコトたちは基地への退却を余儀なくされた。
彼の背後では、炎の軍勢が戦場を蹂躙し続け、さらなる地獄を作り出していた。
「ちくしょう……!このままじゃ、どう足掻いても、勝てない……!」
マコトの胸に、炎のような悔しさが燃え上がっていた。
遂に、魔王軍幹部の戦闘力が明らかになりました。
今までの魔物たちとは次元の違う圧倒的な力。
蹂躙され、撤退を余儀なくされたマコトたち。
果たして豪炎将ヴェイラスを倒す事ができるのか!?
次回にご期待ください!
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