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第19話 技術者たちの宴


静まり返った基地の中、マコトたちは激戦で傷ついたロボットたちの修理を行っていた。


「これ、ほんまにボロボロやな……。」


エルナが旧式スーツの脚部を分解しながらぼやいた。

内部には高熱や蒸気による劣化が見られ、既に限界を迎えている部品も少なくなかった。


「流石にこれ以上は無理させられないな……。」


マコトも激戦を経て傷んだフレームや装甲を見つめ、苦い表情を浮かべた。

修理を続けてもこれ以上は耐えられないと感じていた。

 

マコトの言葉に、アイリスが心配そうに眉をひそめた。


「マコト、新しい(ロボット)を作った方がいいんじゃない?これ以上無理をしたら、命だって危ないよ。」


「それはわかってる。でも、この規模の新型を作るには時間がかかるし……」


彼が悩んでいると、後方からエルナが大きな声で割り込んできた。


「ほら、ウチが手伝ったるから、さっさと設計図出してみぃ!精霊の力をもっと効率的に使う仕組みとか、アイデアはあるんやろ?」


エルナの勢いに押され、マコトは机に置かれたスケッチブックを開き新たな設計図を見せた。

それを覗き込んだエルナの目が輝く。


「うっひゃー!これまたすごい発想やな!でも……ここの部分、蒸気圧が逃げて無駄になっとるで。こうしたらどうや?」


エルナは即座にアイデアを書き込み修正を提案する。

その手つきの速さに、アイリスは驚きの声を上げた。


「エルナ、すごいね!そんなにすぐに改善点がわかるなんて!」


「そらそうや。ドワーフの技術者は筋金入りやで?これくらい朝飯前や!」


彼女は得意げに笑いながらも、次々と鋭い指摘を飛ばしていく。

マコトもその勢いに感心しながら頷き、新たな設計案をまとめ始めた。


「よし、これならいけるかもしれない。さらに進化した攻撃特化の新型スーツ……いや、新型ロボットを作る!」


「よしよし、やっとその気になったか!」


エルナは拳を握りしめて応えた。


「だけどかなり時間は掛かりそうだ……完成までに何事も無ければ良いんだけど」


彼が重い口調で呟いたその時、エルナが大きな声を上げた。


「確かに一人や二人の手じゃ足りひん。ほんなら、ウチが亜人連合国(ヴァルグリス)の仲間たちに声かけたる!」


「仲間?」


「せや、技術者仲間や!ウチら亜人連合には腕利きの職人がようさんおるんや。そいつら呼んできたら、あっという間に仕上がるで!」


言うや否や、エルナは亜空間通信装置を使い国の技術者たちへ招集をかけた。

 

それから数日後――蒸気が立ち込める工房で、忙しなく行き交う技術者たちの声が響いていた。

小さな作業場は改築され、より広い工房へと様変わりしている。


エルナの連絡を受け、亜人連合国(ヴァルグリス)から技術者たちが急遽駆けつけたのだ。

その中心に立つのは、ドワーフの年長技術者グリムドだった。

彼はエルナと同じく背が低く幼い少年の様相だが、その鋭い眼光と落ち着いた佇まいから、熟練の技術者であることが一目でわかる。


「お嬢、アンタもえらいことしてくれたな。まさかこんな前線に急ぎの呼び出しが来るとは思わんかったわ。」


グリムドはエルナに声をかけた。

その声は作業場の喧騒をものともせず響く。


「しゃーないやろ。どーしてもアンタにも手伝ってほしかったんやから。」


「まぁ、わいらが手ぇ貸すっちゅうのはええけどな……。しかしこの図面、ほんまに全部あの子が考えたんか?」


グリムドは手に持った設計図をじっくりと眺める。

その視線の先には、新型ロボットの詳細な設計が広がっていた。

蒸気圧を動力にした駆動系、精霊の力を効率よく取り込む構造、そして複雑な部品の数々が精密に描かれている。


「お前さん、こんなもん一人でよく考えついたなぁ」


「いえ……一人じゃないですよ。」

 

マコトが静かに答える。

 

「アイリスやエルナや基地のみんな、それに以前の戦闘で得た教訓があってこその設計です。」


グリムドはふむ、と鼻を鳴らしながら図面を指でなぞった。


「なるほどな。こら、わいらでも思いつかん部分が多いわ。兄ちゃん、ほんまただもんやないで。」


「そらな、この兄ちゃん(マコト)は、ちょっと常識外れやからな!」


エルナが自慢げに胸を張ると、他のドワーフたちが笑い声を上げた。

その中には、すでに作業に取り掛かっている者もいる。


「よし、こっちは鍛冶に集中するで!お嬢、素材持ってきとき!」


「よっしゃ、すぐ持ってくわ!」


一方、エルフたちはロボットの動力系に興味津々だった。

彼らは魔法を扱うことに長けており、廃れたとはいえ精霊に対しても随一の知識を保有している。

だがそんな彼らにしても、それをこのように機械的な構造に組み込む発想は初めてだった。


「……精霊の力をこれほど効率よく利用するとは。人間(ヒト)の知識というのも侮れないものですね。」


長髪のエルフが呟きながら、図面の一部を指差した。

その指先には、蒸気と精霊のエネルギーを連動させるための回路図が描かれている。


「それにしても、精霊をこれほど制御できるのは驚異的だ。制御はほぼ不可能とされていたのに……。」


エルフの女性がため息混じりに言うと、マコトは少し考え込むように口を開いた。


「制御と言っても、実際には完全じゃありません。僕が使っているのは、精霊の力をできる限り引き出して協力してもらうための仕組みです。」


「それでも凄いことですよ。……精霊は自然の具現であり、ただ流れるままに存在するもの。その力を明確に使う術はこれまでの歴史にはない。」


「自然の具現……。」

 

マコトはふとその言葉を繰り返した。


「遥か昔には、精霊の力を活用しようとした試みは数多くありました。しかし精霊は“自然”そのものであり、思い通りに動いてはくれなかった。契約できてもその力を引き出すのは非常に難しく、安定して使うことは不可能だったのです。」


エルフの一人が頷きながら口を挟んだ。


「精霊は自由で、我々の命令を聞くこと自体が稀だ。だからこそ精霊を使役する技術は徐々に失われ、魔法や魔石を使う技術が主流になったのだ。」


その言葉にマコトは少し考え込むように視線を落とした。


「ちなみに、精霊が自然の具現なら…自然現象のすべてには精霊が関わっているんでしょうか?」


「そうです。火、水、土、風――四大精霊がそれぞれの属性を司っている。自然界の現象は彼らの力によって維持されている。」


「これは思いつきなんですけど……精霊って、四大精霊以外にもいるんじゃないですか?自然現象には全て精霊が関わっていると仮定すると例えば光や雷、もっと未知のものだって……。」


その問いにエルフたちは一瞬考え込む素振りを見せた後、首を振った。


「聞いたことがありません。過去の記録でも四大精霊だけが確認されています。けれど……精霊の力は、私たちが知る以上に多様で、未解明の領域が広いのかもしれない。」


マコトの言葉に、エルフたちは頷きながら新たな可能性を感じているようだった。

 

蒸気と金属音が入り混じる作業場の一角では、ノームたちが静かに話し合いながら計算と設計の調整を進めていた。


「ここの接続部分、力の流れを受ける点が多すぎるな……これじゃ負荷が集中して壊れやすくなる。」


小柄で学者のような風貌のノームが図面の一部を指差しながら呟く。

隣では別のノームが即座に計算式を紙に書き込んでいく。


「確かに。負荷を分散させるなら、ここに補強材を入れて、この部分を少し湾曲させる形にすれば良い。」


手元には精密な計算が書き込まれた紙が山積みされており、それぞれが別々の課題に取り組んでいる様子が見て取れる。


マコトがその様子に気づき、興味深げに近づいた。


「何をしているんですか?」


「強度計算だ。お前さんの図面は驚くべき発想が多いが、強度や安定性に少しだけ不安が残る。」


ノームの一人が落ち着いた声で答えると、別のノームが補足するように言った。


「例えばこの部分、動力の伝達において無理が生じる可能性がある。少し素材を見直し、形状を変えれば効率が3%は上がるだろう。」


「3%か……それでも大きいですね。」


マコトが感心したように呟くと、ノームたちは小さく頷いた。


「我々の仕事は、全体を見渡して矛盾や無駄を潰していくこと。細部がしっかりしていなければ、どれだけ素晴らしい発想でも崩れてしまうからな。」


彼らは話し合いながら次々に修正案を作成していく。


(……なんだろう、この感じ。)


脳裏に浮かんだのは異世界に来る前、会社で一人設計に没頭していた日々だった。

図面と向き合い、効率や精度を追求していたあの頃。

時に食事も取らず作業をしていた自分の姿が、目の前で動いている彼らに重なった。


ノームの一人が、不意にマコトの視線に気づいた。


「どうした?何か問題でもあるか?」


その問いにマコトは軽く首を振り、苦笑いを浮かべた。


「いや……ちょっと昔のことを思い出しただけです。」


(そうだ……俺もこんな風だった。あの頃は、もっと効率的な設計を追求することが全てだったな。)


心の中で呟きながら、ふと苦笑を浮かべる。


(でも……俺は他のことに目を向けられなかった。この人たちと違って周囲の人たちのことをちゃんと考え、誇りを持って仕事を出来てなかった気がする。)


ノームたちの姿を見ながら、マコトはどこか懐かしさと切なさが入り混じった感情に包まれた。


急ピッチで新型ロボットの開発作業が続く中、司令部に緊急の報せが届いた。


「報告!最前線が火の海と化し、部隊が次々に壊滅しています!」


伝令兵の声に、司令部の全員が一斉に顔を上げた。


「原因は……もしや噂に聞いた、魔王軍の豪炎将(フレイムロード)ヴェイラスか?」

 

司令官の言葉に、伝令兵は頷く。


「はい、奴が指揮する炎を纏った魔物の軍勢がこちらに向かって進軍中とのことです!」


その報告には作業場にも届けられた。

マコトは未完成の新型ロボットを見つめ、拳を握り締める。


「……新型はまだ動かせないか。」


彼は低く呟き、視線を旧型へと向けた。

そのフレームは、これまでの激戦であちこちに傷が刻まれている。

職人達の手で応急処置が施され何とか運用に耐え得る状態にはなっていた。


「……俺が行く。新型が間に合わない以上、旧型(コイツ)で出るしかない。」


声は静かだったが、その決断には切り捨てられないものへの執念が滲んでいた。

 

「間に合わなかったのは俺の責任だ。でも……今この時に立たなければ、誰も守れない。」


その場の誰も、何も言えなかった


マコトの目には悲壮な決意と燃えるような覚悟が宿っていた。


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