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第18話 勝利の代償、次なる影


マコトたちは吸血蟻の群れに押し込まれながらも、後退しつつ必死に部隊を守っていた。

果ての無い無数の足音が戦場を震わせる。


「このままじゃ全滅だ……!」


マコトが歯を食いしばりながら吸血蟻を蹴散らす。だが、その表情には焦りが滲んでいた。

アイリスとエルナも全力を尽くしていたが、無限とも思える群れの数に次第に押されつつあった。


その時――


「全員、伏せろ!」

 

遠方から響く轟音。

群れの後方に突然爆炎が立ち上り、数十匹の吸血蟻が吹き飛んだ。


「なんだ……!?」

 

マコトが振り向くと、救出部隊が整然と戦場へ進軍してくる姿が見えた。

前列には歩兵が盾を構え、その後ろでは魔術師たちが呪文を詠唱している。

さらに後方には弓兵が列を成し、一斉射撃の準備を整えていた。


「遅れてすまん!」

 

馬上から響く声は司令官ダリウスその人だった。

彼の指揮の下、救出部隊は完璧な陣形を組んで進軍してくる。

エルナはその姿を見て思わず叫んだ。

 

「おいおいおい!基地の司令官がこんな最前線に出てきてええんか!? 普通もっと後ろにおらなあかんやろ!」


ダリウスはエルナの声を聞きつけ、にやりと笑った。

 

「戦さは後ろに構えているだけでは士気は上がらん。時に将が先頭に立てば兵たちも奮い立つ。そういうものだ!」


エルナは呆れたように肩をすくめる。

 

「ほんまもんの無茶するタイプやな……ウチも負けてられへんわ!」


ダリウスは馬を声を張り上げた。

 

「全軍、突撃!魔術師は火壁を展開、弓兵は狙いを定めろ!ここで奴らを叩き潰すぞ!」

 

ダリウスの命令に従い、前列の歩兵たちが盾を構えながら吸血蟻の群れへ突進していく。

彼らが群れの勢いを止める間に、後方から魔術師たちの魔法と弓兵の矢が雨のように降り注いだ。


「マコト!」

 

アイリスが空中から叫ぶ。

 

「これでもう守りに徹しなくてもいいよね!」


「ああ……攻撃に切り替えるぞ!」

 

マコトは旧型スーツのブースターを最大出力にして突進を開始。

攻撃かわしながら吸血蟻の中心部に突っ込み、衝撃砲を放つ。

 

「散々やってくれたよな……? 倍返しだ――!!」

 

爆音と共に、十数匹の吸血蟻がまとめて吹き飛んだ。


一方、エルナはバイパーとコブラを駆使し、群れの端を分断していく。

 

「こっち来いや!全部吹き飛ばしたる!」

 

彼女は右腕のパイルバンカーを構え、タイミングを計って杭を打ち込む。

鋭い音と共に敵の群れが崩れ、その巨体が粉砕される。


アイリスも空中でフェザーの補助アームを最大稼働させ、ストームクラッシャーを振り下ろすたびに地面を揺るがせる。

 

「もう遠慮しないからね……かかってきなさい!」

 

彼女は次々と敵を薙ぎ払い、群れの混乱を誘った。


そして援軍もダリウスの的確な指揮のもと、部隊全体が連携して戦闘を優位に進めていく。

 

「魔術師、次の呪文を用意しろ!弓兵、中央突破を支援せよ!」

 

魔術師の放った炎の壁が吸血蟻の進路を封鎖し、弓兵の矢が飛び交い敵の数を減らしていく。


やがて最後の吸血蟻が地面に崩れ落ち、戦場は静寂に包まれた。

兵士たちは次々と武器を置いて地面に腰を下ろす。

肩で息をしながら、互いの無事を確かめ合う姿があちらこちらに見られた。


「やったぞ……勝った……!」

 

小さな声で呟いた兵士が次第に笑顔を浮かべると、それが波紋のように広がり、歓声と笑い声が戦場に響き始めた。


ダリウスが馬から降り、マコトたちのもとへ歩み寄る。

 

「見事だった。お前たちがいなければ、この戦いに勝利することは不可能だっただろう。」

 

彼の言葉にマコトは微かに微笑みを浮かべたが、その顔には疲労の色が濃かった。


「俺たちだけじゃ無理でした。みんなが力を合わせたから勝てたんです。」

 

そう答えたマコトの視線は、傷つきながらも戦い抜いた舞台の兵士たちに向けられていた。


アイリスがフェザーを外し、地面に降り立つと、マコトの肩を軽く叩いた。


「ふぅ……これで終わり、だよね?」

 

「そうだな。でも、油断はできない。この山脈が完全に安全になるわけじゃない。」

 

マコトはそう言いながら、瓦礫のように積み重なった吸血蟻の死骸を見つめた。


エルナもパワードスーツを解除し、地面に腰を下ろして息をつく。

 

「ほんま、えげつない戦いやったわ……この間まで、まさかウチがこんな最前線でゴリゴリに戦うなんて、思ってもみいひんかったわ……」


マコトたちも救出された兵士たちも疲労困憊だったが、残念ながらゆっくりしている暇はなかった。

 

「グズグズはしてられないぞ、全軍、撤収!」

 

ダリウスが声を上げると、救出された兵士たちと共に戦場を離れる準備が始まった。


一方、戦場から離れた山の頂。

黒雲に覆われた天空の下、冷たい風が吹き抜ける岩場に、一つの影が佇んでいた。


魔王軍の六魔将の一人、虚晶将(ヴォイドロード)ゼファルドが透き通った結晶の体で月光を受けその身を冷ややかに輝かせながら、戦場を冷徹な目で見下ろしていた。


「なるほど……素晴らしい。」

 

彼の結晶の瞳に映るのは、疲弊しながらも戦い抜いたマコトたちの姿だった。

戦場を支配していたのは彼らが操る“未知の機構”――その動きは滑らかで、まるで生き物のように敵を圧倒していた。


ゼファルドは無数の吸血蟻たちをなぎ倒した戦場の痕跡に目を走らせた後、今度は三人――マコト、アイリス、エルナの動きに注目した。


戦闘が終わるやいなや、三人は未知の機構の傍に集まり、即座に点検と整備を始めていた。

マコトが扉のような部分を開け、内部をチェックする姿にゼファルドの目が鋭く光る。


「……こいつが全ての中心か。」

 

彼は冷たく呟いた。


「この三人のうち、明らかに指揮を執っているのはあの男……技術的な指示を的確に出しているところを見ると、恐らくこの“機構”を作り上げたのも奴だろう。」


彼はマコトが仲間たちと連携し、精密な作業を手際よく進める様子を見て推測を深めた。

さらに未知の機構たちが互いに補い合う設計であることに気づく。


「組織的で、無駄がない……単なる兵器ではないな。これを“生み出した者”の発想力と創造力――これが人類側に与える影響は計り知れない。」

 

ゼファルドの声には感嘆と苛立ちが交じっていた。


「未知の技術、未知の発想……。」

 

彼の視線はマコトに固定される。

その手元は躊躇なく、戦闘後の損傷を瞬時に把握し、次の戦いに備えた調整を施していた。


「……興味深い。お前が、この技術を創り出した張本人だろう。」

 

ゼファルドは、マコトの動きのひとつひとつを観察しながら冷静に分析した。


彼は自らも魔王軍の兵器開発を担う技術者であり、様々な魔法や術式を駆使して数々の魔物を生み出してきた。

しかし目の前で繰り広げられた光景は、彼の創造物とは全く異なる存在だった。

 

「鋼鉄の体……精霊の力と蒸気圧の融合……実に興味深い。人類にこれほどの技術力と創造力があるとは思っていなかった。」

 

彼の結晶の指先が僅かに震えた。

それは技術者としての純粋な感嘆であると同時に、自らの限界を感じさせる脅威でもあった。


「これほどの発想力を持つ者が人類にいるとはな……。」


結晶の手を拳の形に強く握りしめる。その冷たい声に混じるのは明確な敵意だった。


「放置するには、あまりにも危険すぎる。」

 

彼の結晶の顔に浮かぶ怒気を孕んだ不気味な視線が月光に照らされ、戦場に向けられた。


「魔王様の悲願……人類の完全なる殲滅。その障害となり得る存在だ。」

 

ゼファルドの声は低く、静かだったが、そこに込められた決意は揺るぎないものだった。


彼は次なる計画の構想を練り始めていた。

 

「シャドウベヒーモスに続き、今回の実験も破られたか……。だが、得るものもあった。」


ゼファルドの結晶の体が静かに煌めき、その存在が闇の中へと溶け込んでいく。


「私がいつか……お前の“力”を奪い取り、その力を持って人類に恐怖と絶望を与えてやろう。」

 

その背後には、マコトたちが勝利の余韻に浸る戦場が静かに佇んでいた――。


その存在に誰も気づかぬまま、魔王軍はマコトたちの存在を新たな脅威として認識し始めていた。

次なる戦いの火種が、静かに動き出す。

 

遂に魔王軍にマコトとロボットの存在が知られてしまいました。

果たしてこの邂逅がどの様な展開となっていくのか…


そして旧式スーツの限界を感じたマコトが、更なる力を開発!?

しかし同時に基地にかつてない脅威が迫る…

次回にご期待ください!


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