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第17話 断末魔


マコトは周囲の状況を素早く確認した。救出した部隊の兵士たちは疲労し切っており、武器もほとんど壊れている。彼らを守りながら戦うのは容易ではなかった。


「アイリス、兵士たちを守りながら後退するんだ!」

 

「任せて!」


マコトたちは部隊の前に立ち、後退する彼らを守るために武器を構えた。

すると女王吸血蟻は甲高い奇声を放つ。音波のようなその声に呼応するかのように周囲の吸血蟻(へいたい)たちが一斉に猛攻撃を仕掛けてきた。

 


兵士たちは怪我と疲労で足取りが重く、敵の猛攻を受け流す余力もない。


菓子に集る蟻の様に、吸血蟻の大群が押し寄せる。

 

マコトが近接戦で蟻を蹴散らしながら、詰められ過ぎないようにエルナが銃座で牽制して隙を潰す。


「そっちには行かせへんで!ほら、もっと寄ってきぃ!」

 

注意がそれた所にアイリスが上空から急転直下の低空飛行で飛び込み、兵士たちが囲まれないように薙ぎ払う。


撤退戦が激化する中、マコトは決断を下す。

装着モードを解除し、亜空間収納袋(シュリンク)から旧型のパワードスーツを取り出し乗り込んだ。


「エルナ、君がバイパーとコブラを使え!俺は旧型スーツ(コイツ)で殿を務める!君の技術とその二体の力があれば、この状況を打開できる!」


「って、ええ!? ほんまにウチでええんかいな……」

 

エルナは一瞬ためらったが、マコトの真剣な眼差しに決意を固めた。

 

「……わかったわ!見とき!ウチの技術、活かしたるからな!」


エルナは二体のロボットに近づき、装着モードを起動した。

蒸気が勢い良く噴き出しながら、バイパーとコブラの蛇型の体が次々と動き出す。

そして、それぞれの形状がエルナの体に合わせて変化していった。


バイパーは足元に滑り込むように絡みつき、そのしなやかな胴体が脚部を覆っていく。

鋼鉄の鱗を模した装甲が脚全体を包み込み、強化されたブースターが姿を現す。


一方、コブラは背中に飛び乗るように巻きつき、肩や胸部に装甲を形成していった。

毒蛇のフードを模した形状が威圧感を放ち、右腕には蒸気圧縮式のパイルバンカーが展開され、左腕には銃座と同様の高圧空気砲が形成される。


「おお、実際着けるとすごいなこれ!しかしほんまに動かせるんやろか?」


エルナが軽く一歩を踏み出すと、バイパーとコブラは瞬時に反応し、まるで彼女の意志そのものが具現化したように滑らかな動きを見せた。


「……すごいな……。ただの装甲やない、まるで生身と同等かそれ以上に動ける!さあ、やったるでー!」


魔物の群れが押し寄せる中、マコトは旧型のパワードスーツを纏い、女王吸血蟻との間合いを詰めた。

女王は威圧的な振る舞いで巨体を揺らしながら、尾部から毒液を勢いよく噴出する。

その液体が地面に触れると煙を上げ、酷い臭いと共に腐食音が響いた。


毒液(ソイツ)は厄介だな……!」


マコトはブースターを一気に噴射し、その場から飛び退く。毒液がスーツの外装にかすり、わずかに焦げた臭いが鼻を刺した。


「そんなもの、当たるかよ――!」


足元の岩を蹴り砕くような勢いで突進し、スーツの右腕を振り上げた。

内蔵された衝撃砲が展開し、蒸気が勢いよく噴き出す。重い一撃が女王の硬い外殻を貫こうとするが――


「……なんて硬さだ!」


拳が甲殻を貫ききれず、金属音を響かせながら跳ね返された。


女王はすかさず反撃に出る。

巨大な顎を勢いよく振り下ろし、地面が砕けるような音が響いた。

マコトは間一髪で回避し、さらに間合いを取る。


「パワーはシャドウベヒーモス程じゃないけど、この地形と状況だとキツイな……!」


疲弊した部隊を守りながらの撤退戦、守備側が数も状況も地形も圧倒的に不利な状況。

だが自分がこの戦さの要だとマコトは理解している。

女王の矛先が部隊に向けばひとたまりもない。

倒す事よりも注意を引く事を念頭に止まらずうごきつづける。


一方、後方ではエルナがバイパーとコブラを駆使し、迫り来る角豚を相手取っていた。バイパーの脚部ブースターが蒸気を噴き上げ、滑るように地面を駆け回る。


「ほらほら、こっちやで!ついてこれるんか?」


エルナは群れを引きつけながら、タイミングを見計らいコブラの右腕を振り上げる。

パイルバンカーが蒸気を勢いよく吐き出し、鋭い杭が角豚の腹部を貫き吹き飛ばした。

衝撃で巨体が揺らぎ、そのまま地面に崩れ落ちる。


「よっしゃ、どんどん来いや!」


アイリスは空中から状況を把握し、フェザーの補助アームでストームクラッシャーを操る。

槌を振り下ろすたび、地面が揺れるような衝撃が走る。


「エルナ!まだ大丈夫?」


「おう!そっちも気ぃつけや!」


二人は背中を預けるようにしながら、残存する部隊を必死に護衛していた。


マコトが立ち回る前線では、女王吸血蟻が鋭い吸血針を口内から放つ。

 一本一本が弾丸のような速度で飛来し、マコトはその場で回避を繰り返す。


「クソッ、図体の割に手数が多い……!」


一瞬の隙を突いて尾部から毒液が噴射される。

蒸気ブースターを限界まで使用し、飛び退くマコトだったが、毒液がすぐそばをかすめた。その強い腐食作用でスーツの一部が焼け焦げる。


「まるで毒のスナイパーだな……!」


しかし、マコトはその攻撃を逆手に取り、わざと毒液を盾代わりの岩へ誘導する。

岩が腐食する間に急接近し、衝撃砲を再び撃ち抜いた。


「これでどうだ――!」


甲殻がわずかに裂け、体液が吹き出す。女王吸血蟻は激昂し、巨体を持ち上げて体当たりを仕掛けた。


「っ……まだまだこっからだ!」


マコトは踏ん張り、巨大な敵を正面から受け止める。スーツが軋みを上げるが、なんとか持ちこたえた。


女王吸血蟻と戦闘の余波が地を揺らし、撤退する兵士たちは圧倒的な威圧感に動けなくなっていた。

マコトは毒液をかわしつつ、傷ついたスーツを見下ろして苦々しく呟いた。


「装甲がもう限界だ……このまま正面からの殴り合いじゃ保たない!」


その時、後方からエルナの叫び声が届いた。


「マコト!その足止めはウチに任せぇ!」


エルナは敵の注意を引こうと考えた。

コブラの右腕に装備されたパイルバンカーが静かに蒸気を圧縮し始める。

巨大な吸血蟻の群れに狙いを定めると、彼女は一気に撃ち放った。


「喰らえ、このゴッツい一撃――!」


ゴゴンッ!


杭が凄まじい音とともに放たれ、最前列の吸血蟻数匹をまとめて貫いた。飛び散る体液と共に、その巨体が次々と地に崩れ落ちる。


「おっしゃ、かかってこんかい!」


エルナの挑発に女王吸血蟻は低く唸り声を上げ、彼女の方へ視線を向けた。

その巨大な体が揺れるたび、地面が震える。


「悪いけど、アンタの相手はウチや!」


エルナは左腕に装備された圧縮空気砲を展開。細かい調整を加えながらレバーを引き、二発の弾丸を発射した。


ゴウッ!


弾丸が女王の足元を正確に捉え、硬い甲殻を揺さぶると共に、足元の地面を吹き飛ばした。女王吸血蟻はバランスを崩し、一瞬その動きが鈍る。


「今や!アイリス!」


アイリスはフェザーの噴射を最大出力にして上空から急降下を仕掛けた。地面すれすれで鋭角に曲がりながら、ストームクラッシャーを構える。


「これで仕留める!」


槌を大きく振りかぶり、アイリスは女王の横腹に強烈な一撃を叩き込んだ。

蒸気圧と風の精霊の力が融合し、轟音と共に甲殻の一部が砕け散る。

女王は断末魔のような叫び声を上げ、その巨体が激しく揺れた。


「やったの……?」


しかし、女王吸血蟻は倒れず、激昂したかの様に尾部を振り上げて毒液を周囲に大量に撒き散らした。

散らばる液体が岩や地面を次々と溶かし、周囲の兵士たちが慌てて後退する。


「くそっ、まだ動けるのか!」


マコトは一歩踏み出し、旧型スーツの蒸気ブースターを最大まで稼働させた。

猛然と女王に突進し、鋼鉄の拳を振り下ろす。


「これで決める!」


拳が女王の頭部に直撃し、わずかにひび割れを生じさせたが、それでも女王は倒れない。

その巨大な顎がマコトに迫る。間一髪で避けた彼の耳元を、風を切る音が通り抜けた。

 

「まだ、終わりじゃない!」


アイリスが素早く上空へ戻り、フェザーの補助アームで再度ストームクラッシャーを構えた。

同時に、エルナがバイパーの脚部ブースターを全開にして、女王吸血蟻の側面へ回り込む。


「ウチも行くで!」


エルナはコブラの左腕に備え付けた圧縮空気砲を最大出力で発射。強烈な風圧が女王の足元を吹き飛ばし、再び動きを鈍らせた。


「マコト、今や!」


アイリスがタイミングを合わせ、女王の頭部に向けて真っ直ぐ急降下する。その一撃は甲殻を砕き、内部の柔らかい部分を露出させた。


マコトは戦いの中で生じたわずかな隙を見逃さなかった。


「これで終わりだ――!!」


蒸気ブースターを爆発的に稼働させ、女王の頭部に向けて渾身の鉄拳(ジェットナックル)を振り下ろす。その拳が女王の露出した部分を貫き、巨体がゆっくりと崩れ落ちた。


周囲の兵士たちが静寂の中でマコトたちを見つめていた。そして、誰かが小さく呟いた。


「……やった、倒したぞ……!」


次第に歓声が広がり、アイリスとエルナは顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべた。


だが、その瞬間――。


絶命したと思われた女王吸血蟻が、不意にけたたましい断末魔の咆哮をあげた。鈍い低音が空気を震わせ、その音が山脈全体に反響する。


「何だ……!?まだ生きているのか!?」


マコトが驚き、身構えた。

だが、それは女王自身の動きではなかった。彼女は既に事切れている。

だが崩れ落ちた巨体の向こう、山脈の奥に広がる洞窟の闇から、地鳴りのような音と共に無数の赤い光が瞬いた。


「……あれは……目だ!吸血蟻の目だ!」

 

兵士の一人が叫ぶ。


そして、地面が震えた。洞窟の奥から黒い波のように押し寄せてくるのは、無数の吸血蟻たちだった。

地を埋め尽くす群れが、まるで洪水のように迫ってくる。


「……くそっ、女王を倒せば終わりじゃなかったか……!」

 

マコトが苦々しく呟く。


アイリスが咄嗟に空を見上げ、周囲を確認する。

 

「マコト!これ、絶対絶命ってやつだよね!?」


エルナも顔を青ざめさせながら叫ぶ。

 

「こんな数、いくら何でもどうにもならへんで!」


兵士たちは完全に恐慌状態に陥った。


「退却だ!全員退却――!!」

 

指揮官が叫ぶが、動けない者も少なくない。


マコトは拳を握りしめながら歯を食いしばる。

 

「くそ……まだだ……絶対に、ここで全滅なんてさせない!」


だが、その言葉の裏には焦燥感が滲んでいた。果たして、この状況を覆す手段はあるのか――?


 

守りながらの戦いは厳しい。

昆虫系の大群に追い詰められる絶望…

某防衛軍とか大好きです。

終わったかと思いきや、さらに視界を埋め尽くす大群が襲いかかる。

果たしてどうなってしまうのか......!

次回にご期待ください!


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