第16話 新型ロボ、コブラ出撃
マコトは工房で新たな設計図を広げ、エルナとアイリスに説明していた。
「これが新型ロボ、名前は『コブラ』って言うんだ。バイパーと対になって、戦闘での対応力をさらに高めるために開発している。」
設計図には、バイパーと同様に蛇型のフレームが描かれている。
「バイパーが下半身を補助するパワードスーツに変形するのに対して、コブラは上半身を補助する形態に変形するんだ。それに……複座機能もある!」
「複座機能って……つまり人を乗せられるの?」
アイリスが尋ねると、マコトは頷いた。
「そう。戦場でのサポート役を同乗させるために考案したんだ。ただし、それができるのはパワードスーツ形態の時だけなんだけど。」
エルナが設計図をじっと見つめた後、呟いた。
「なるほどな……ええ設計やけど、ここがまだ完成しとらんな。」
彼女は図面の一部を指差す。
「そうなんだ。この高圧がかかる部分と装甲の一部は、まだ適切な素材がなくて……これには焔紅鉱を使う必要があると思っている。」
マコトがそう言うと、エルナはにやりと笑った。
「ほな、ウチの出番やな!」
その後作業は急ピッチで進められた。
焔紅鉱を使った新たな動力炉とフレームが組み上げられ、ついにコブラが完成する。
「動作確認も問題なし……これなら大丈夫だ。」
マコトが満足そうに頷く。
コブラはバイパーとは違った特徴的な形状をしており、その頭部は生物のコブラをモチーフに、特有のフード型の形状が目を引く。
「これは……凄いね。」
アイリスが感嘆の声を漏らす。
「こんなもん、ウチらの国でも見たことないわ!」
エルナも目を輝かせながらコブラを眺めた。
そして複座にはもう一つある物が取り付けられている。
同乗者が戦闘にも参加出来るように増設した銃座だ。
「うん……圧縮空気供給ラインも問題なし。これなら周囲の牽制や長距離射撃にも十分対応できる。」
蒸気の圧力計を確認しながら、マコトは複座の耐久性や安定性を何度もテストした。
エルナが興味津々の表情でその作業を見つめる。
「なあなあ、その銃座ってどんなんなん?ただの弓矢よりはるかに高性能そうやけど!」
マコトはにやりと笑い、試しに銃座を動かしてみせた。
銃口が軽やかに回転し、固定された試験用の的に向けられる。スイッチを押すと圧縮空気の発射音と共に弾丸の代わりに風の衝撃が的に命中し、勢いよく吹き飛ばした。
「こんな感じだよ。蒸気と圧縮空気と風の精霊の力を同時に使うから連続で撃てる。ただし威力はそれほど高くないけど、魔物の足止めや牽制には十分だ。」
エルナは目を輝かせて頷く。
「なんや、めっちゃ便利やん!これならどんな敵にも対応できそうや!」
しかしコブラの完成を喜ぶ間もなく、工房の扉が大きく開け放たれ兵士が慌てた様子で駆け込んできた。
「皆さん、大変です――!」
「一体どうしたの!?」
アイリスが急いで兵士に駆け寄る。
「山脈地帯で部隊が魔物の大群に囲まれ、孤立しています!伝令兵が命がけで戻ってきましたが、すぐに救援を送らなければ全滅の危機です!」
その言葉に場の空気が一気に緊張感で包まれる。
「山脈地帯……」
マコトが眉をひそめる。
「はい。山脈の峡谷付近で魔物による包囲網が形成され、動けない状態とのことです。」
兵士が焦りの色を滲ませながら答えた。
マコトはすぐに立ち上がり基地の中枢部へ向かう。
その頃ダリウスは急報を受け、作戦会議室で地図を広げ頭を悩ませていた。
「山脈地帯の峡谷で孤立した部隊を救出するには、それなりの準備がいるし移動にはかなり時間がかかる……だが、それでは間に合わない――。」
「それなら僕たちが先行します。」
会議室に入ってきたマコトが力強く言った。
ダリウスはマコトを見つめ、少しの間考え込む。
「……それは助かるが、流石に無茶ではないか?魔物の包囲網を突破するのは容易ではないぞ。」
「僕たちには……新兵器があります。これを使えばかなり早く移動できます。到着後は僕たちが何としても時間を稼ぎますので、その間に援軍を準備してください。」
マコトの言葉には強い決意が込められていた。
ダリウスは静かに頷き、部下に指示を出した。
「わかった。お前たちの判断を信じる。だが、くれぐれも気をつけろ。」
その後三人は準備を整えていた。
アイリスは槌を手に取り、戦闘用装備を身につける。
エルナは工具と予備パーツを背負い、コブラの背部座席に乗り込む準備をしている。
「ウチも一緒に行くで!」
「本当に来るんですね……。」
アイリスが呆れた表情を浮かべる。
「当たり前やろ!こんなおもろいモンが現場でどう動くか、見届けんでどうするんや。」
エルナが意気揚々と応じる。
マコトはバイパーとコブラを同時に起動し、それぞれのパーツが鋼鉄の音を立てて形状を変えていく。
「コブラ、背部複座を展開――。」
マコトが命令すると、コブラのフレームが背中に滑り込み、複座がゆっくりと展開された。
さらに、バイパーが下半身を覆い脚部を強化。蒸気が力強く吹き出し、フレームがマコトの全身を包み込む。
「ウチがここに乗ればええんやな?」
エルナが複座に軽やかに乗り込み、ベルトを締めながら笑みを浮かべる。
「こんなん、ほんま夢みたいやわ。よっしゃ!あとは頼むで、マコト!」
「しっかり掴まってろ、スピードを上げるからな。」
アイリスはその様子を見届けながら、フェザーの翼を展開していた。
翼の付け根から噴き出す圧縮空気の音が響き、蒸気と風の力で軽々と地面を離れる。
「私は空中から偵察と援護に回るわ!」
アイリスが手を挙げて先に飛び立つ。
「よし、俺たちも行くぞ!」
マコトが背中の複座の安定を確認しつつ、蒸気の圧力を高め、力強く地面を蹴った。
凄まじい速度で疾走した二機は、あっという間に峡谷の入り口に到着した。
その先では孤立した部隊が魔物の群れに包囲されているのが確認できた。
兵士たちは疲労困憊し、陣形は崩壊寸前だ。
「数が多いな……これだけの数やと、まともに行っても危険や。」
エルナが後方を確認しつつ警戒の声を上げる。
「俺たちで突破する。アイリス、敵の配置を空から確認して、指示を頼む!」
マコトが上空に声をかけると、アイリスがすぐに応じた。
「了解!魔物は谷の中腹に特に多く集まってる!地上から一気に突っ込むのは危ないわ!」
彼女が指差す方向には、魔物が密集している様子が見える。
「このままじゃ孤立した部隊が持たない……!」
アイリスが険しい表情で上空から叫ぶ。
眼下には兵士たちが魔物の群れに囲まれ、必死に防衛線を保っている姿が見えた。
「吸血蟻か……奴らは集団で動くから突破は至難の業だ。それに角豚まであんなにいるなんて……。」
マコトが険しい顔で呟く。
吸血蟻たちは無数の細かな足音で地面を揺らし、赤い体を光らせながら周囲を取り囲んでいる。
その中で角豚が時折突進し、兵士たちの防衛線を崩そうとしていた。
「正面突破は無理か……!」
複座からエルナが叫ぶ。
「でも、ほっといたら全滅するやろ!」
マコトは険しい表情で周囲を見渡し、何か策を考える。すると少し先にそびえる岩場が目に入った。
「エルナ、あの岩場に登るぞ。高所から銃座を使えば、魔物の陣形を崩せるはずだ。」
「ほな、早よ行こか!ここで見つかったらおしまいやで!」
エルナが少し不安げに言う。
「大丈夫だ、コイツのスピードなら気づかれる前にたどり着ける。」
マコトは脚部の出力を調整し、その脚力を活かし険しい地形を音も無く一気に駆け上がる。
複座のエルナも体を低くし、しっかりと銃座を握っている。
「よっしゃ、到着や!」
エルナが銃座を固定しながら声を上げる。
「ここからなら魔物の群れの中心を狙える。まずは奴らに一発デカいのをお見舞いして混乱させてやろう!」
マコトが指示を飛ばす。
「そーいうのはウチに任しとき!」
エルナがレバーを操作すると、銃座の銃口がわずかに開き、圧縮空気を限界まで貯めた弾が装填される。
「撃つでっ!」
圧縮空気弾が発射され、鋭い音を立てながら吸血蟻の密集地帯に着弾した。衝撃で地面が裂け、群れが中央から分断される。
「効いたで!これで兵士らが持ちこたえられる隙ができた!」
エルナが満足げに言う。
「今度は連射だ!散らばった奴らを狙って動きを止めてくれ。」
「あいあいさー!」
瞬時にレバーを操作し、弱いが速射が可能な連射モードに切り替える。
銃座がリズミカルな音を立て、次々と圧縮空気の弾を発射して吸血蟻を雑多に撃つ。
弾が命中するたびに、魔物たちは怯んで混乱し始めた。
「よっしゃ!これなら集団で動けへんやろ!」
エルナが興奮した声を上げる。
「今がチャンスだ!アイリス、上空からオークを牽制してくれ!」
マコトが叫ぶ。
「了解!任せて!」
アイリスは蒸気噴射で上空から急降下した。
風を巻き起こしながら槌を振り下ろし、一匹の角豚を吹き飛ばす。
マコトはバイパーの脚力で岩場から飛び降り、銃座の連射弾に援護されながら、吸血蟻たちの隙間を抜けて孤立した兵士たちへと駆け寄った。
「援軍だ!援軍が来たぞ!」
兵士たちが歓声を上げる。
「全員、こっちだ!隙を見て防衛線を突破するぞ!」
その声に兵士たちは安堵し、素早く動き始めた。
だが、突如として地面が揺れ峡谷の岩壁を食い破り、新たな魔物の群れが現れた。
そしてその遥か後方からは異様に巨大な吸血蟻、女王吸血蟻が姿を現わした――
これで上下のセットが揃いました!
最初はテ◯カマン的なスーツを思い描いていたんですが、気づけば複座の銃座付きでアーミー色強めにな感じになっていました。
敵を蹴散らしたのも束の間、昆虫タイプには必ずデカい親玉がいるのが定番です。
バイパー&コブラの真の戦闘能力やいかに!?
次回にご期待ください!
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