第14話 アイリス、翔ぶ
中央広場を抜けると、周囲の雰囲気が一変した。
その先には明らかに軍事施設とわかる頑丈な建物がそびえ立ち、重装備の衛兵が厳しい表情で立哨している。
マコトはリューガスから預かった紹介状を取り出し、衛兵に見せた。
「リューガス様から紹介状を預かっています。基地の責任者にお会いしたいのですが。」
衛兵は推薦状を確認すると、通行を許可し、二人を内部へと案内した。
中は外観以上に整然としていた。
兵士たちは忙しそうに書類を運び、武器や防具を点検している。
最奥部に案内されると、そこには簡素ながらも威厳のある軍服をまとった初老の男性が立っていた。
「君たちがあのリューガス様から紹介された者たちか。私はこの基地の司令官、ダリウスだ。」
彼は推薦状を受け取り、じっくりと内容を確認した後、部下に目配せをした。
「確かにリューガス様の署名……本物のようだな。まずは宿舎で一息つくといい。」
彼の言葉に礼儀正しさが感じられ、マコトたちは部下の案内で宿舎へ向かった。
やがて夜も更けて基地は静寂に包まれていた。
夜間も警備が厳しく、兵士たちが城壁を巡回している音だけが響いていた。
二人は宿舎で休息を取っていたが、その静けさを切り裂くような警報が突然鳴り響いた。
「緊急事態だ!魔物が接近中!」
叫び声が重なり基地全体が慌ただしく動き始める。
外を見ると城壁の上で灯された警備の松明が揺れ、異変が起きていることを告げていた。
矢継ぎ早に準備を済ませ、二人は外へ飛び出した。
混乱の中、兵士たちが城壁へと走るのを見てマコトは近くの兵士に声をかけた。
「戦況はどうなっているんですか!?」
「魔物の群れだ!突然現れて、城壁に迫っている!数はかなり多い……!」
彼は少し考え込むようにしてから、アイリスを振り返った。
「僕たちも行くぞ。」
「もちろん!」
アイリスは力強く頷き二人は城壁のほうへと駆け出した。
外から鳴り響く警鐘と兵士たちの叫び声が混じり合う。
「魔物が城壁に接近中!全員配置につけ!」
二人は混乱の中、城壁付近へと急行した。
そこには無数の魔物が迫っており、兵士たちが必死に応戦していた。
「アイリス、あれを見ろ!土蜥蜴だ!」
「土蜥蜴?」
「身体を硬化させて弾丸のように突進してくる魔物だ!防御力が高く集団で動いて陣形を崩そうとする厄介なやつだ!」
さらに、上空にはいくつもの巨大な影が不気味に舞っているのが見えた。
「空には闇蝙蝠か……くそ、アイツは毒性の鱗粉を振り撒くんだ。このままじゃ危険だ……!」
土蜥蜴たちは城壁に突進を繰り返していた。
そのたびに鈍い音が響き、壁が揺れる。
「コイツらを放っておいたら城壁がもたない!」
マコトの危惧した事は現実の物となり、戦場全体が混乱していた。
防衛線は徐々に崩れつつある。
「全員、城壁内へ撤退だ!このままじゃ全滅する!」
兵隊長らしき男が叫ぶ声が響き渡る。
だが、誰もその指示をまともに実行できる状況ではなかった。
――戦場は完全な混乱状態に陥っていた。
城壁には亀裂が入り、崩落の危険が迫る。
そのとき、鋭い声が混乱を切り裂いた。
「俺たちがやります!下がってください!」
兵士たちが振り向くと、亜空間収納袋を手にしたマコトの姿があった。
「無茶を言うな!」
兵隊長が声を張り上げる。
「君たちでは無理だ!こんな状況、一体どうやって――」
次の瞬間、マコトが亜空間収納袋から長くうねる鋼鉄の蛇を取り出した。
その異様な姿に、兵隊長の言葉はかき消され、兵士たちは全員が息を呑む。
鋼鉄の蛇――バイパーが地面を滑るように動き始めた。
その異質な存在に兵士奴は呆気に取られた。
「なんだ、あれは……?」
「金属、いや……生物なのか?それにしては……!」
兵士たちがざわめく中、マコトは冷静に指示を飛ばした。
「バイパー、土蜥蜴を止めろ!」
バイパーは鋼鉄の胴体をしならせ土蜥蜴に向かっていく。その巨体を絡め取り、鋼の締め付けで息の根を止めた。
さらに別の土蜥蜴が突進してくるとその足元に滑り込み、蛇のように絡みついて体勢を崩させた。
「なんて動きだ……!」
「あれは味方なのか……!?」
兵士たちはバイパーの力強い動きに圧倒されていた。
その中、指揮官ダリウスが数匹の土蜥蜴に囲まれ必死に応戦していた。
毒粉の影響で動きが鈍り、魔物たちを捌ききれずにいる。
「ダリウス様が囲まれている!誰か助けに――」
兵士たちの叫び声が響く中、マコトは冷静に判断を下した。
「バイパー、装着モード!」
土蜥蜴を絡め取っていたバイパーが鋼鉄の胴をほどき、マコトの脚元に戻ってきた。
そして形状を変化させ、蒸気を噴き出しながら下半身に絡みついていく。
脚部を覆い、脚力を強化する形態へと変化する。
さらに、両足の外側に鋭利な刃が展開し、蒸気圧で振動を始めた。
「くそっ……ここで終わりなのか……!」
土蜥蜴が低い唸り声を上げながらダリウスに一斉に襲いかかる。
彼は剣を振り上げるが、体が思うように動かない。
兵士たちも援護に駆けつけようとするが、毒粉と魔物の猛攻で身動きが取れず、誰もが司令官の命運を案じたその瞬間――。
「間に合った!」
遠くから地面を切り裂くような音が戦場に響いた。
蒸気の力で一気に加速したマコトは、ダリウスが囲まれている場所へと猛スピードで駆けつけた。
土蜥蜴たちが鋭い爪を振り下ろそうとしたその瞬間、マコトが間に飛び込んだ。
「やらせない――!」
右脚を大きく振り上げると、鋼鉄の刃が土蜥蜴の胴体を一閃。硬い鱗が鋭い音を立てて裂け、魔物は地面に崩れ落ちた。
さらに、左脚を回し蹴りのように振ると、他の魔物たちも次々と切り刻まれていく。
「すごい……あの刃、あんなに硬い魔物をものともしない!」
「あれ程の速さで動けるなんて……!」
兵士たちはその圧倒的な動きに目を見張った。
囲んでいた最後の一匹が鋼鉄の刃で倒されると、ダリウスが安堵の表情を浮かべた。
「本当に助かった……君のおかげで命拾いした……!」
マコトは彼に短く頷き、安全な場所への退避を促した。
「後は任せてください。必ずここを守ります!」
ダリウスが兵士たちとともに後退していく中、マコトは戦場を見渡し、次なる危機に目を向けた。
アイリスは苦々しい表情で上空を見上げた。
空には闇蝙蝠の群れが不気味に飛び回り、毒粉を撒き散らし続けている。
「どうするの、マコト……?あんな空を飛ぶ相手、一体どう戦えば……!」
歯痒さに唇を噛むアイリスの元にマコトは駆けつけ、真剣な表情で応えた。
「とっておきがあるんだ。それなら、この状況を打開できる。」
「とっておき……?」
アイリスが首をかしげると、マコトは亜空間収納袋からある物を取り出した。
「でも、その力を使うには君の協力が必要だ。」
彼が差し出したのは、翼のようなパーツと補助アームを備えたフレーム状の装置だった。
その存在感に、アイリスは目を見張った。
「これを……私が使うの?」
アイリスは装置を見つめながら問うた。
「そう、空中専用パワードスーツ。名前は…フェザー。これを装着すれば、空中でも戦える力が手に入る。君の力が必要なんだ。」
マコトの言葉に、アイリスは決意を込めて頷いた。
装置を背中に固定すると、装置が稼働を始めた。
翼のようなパーツがゆっくりと展開し、肩から腕にかけて補助アームが滑らかに連結される。
さらに、腰を包み込むしなやかな装甲が体に馴染むように固定された。
「……軽い!本当にこれが鎧なの?」
驚きの声を上げるアイリスに、マコトは自信に満ちた笑みを見せた。
「動いてみてくれ。君の動きに追従するはずだ。」
アイリスが一歩踏み出すと、装置がまるで自分の体の一部であるかのように反応した。
彼女はその性能に感動し、さらに試すように翼を動かしてみる。
「すごい……これなら空の奴らとも戦える!」
「武器はこれを使ってくれ。」
マコトはさらにもう一つの武器――巨大な槌を手渡した。アイリスがその重厚な槌を見て一瞬驚いたが、フェザーの補助アームが槌をしっかりと支えた。
「この槌……私でも扱えるなんて!」
「蒸気圧と風の精霊の力を使い、一撃で全てを打ち砕ける武器だ。その名も暴風大槌。」
アイリスは槌を握りしめ、柄のレバーを引いてみた。内部で蒸気が高まり、先端が青白い光を放ち始める。
その輝きに、彼女の表情は決意に満ちていった。
「わかった、マコト!これで私が空の脅威を排除する!」
アイリスはフェザーの翼を展開し、背中から蒸気が放出される音と共に翼の付け根から圧縮された空気が噴き出し、彼女の体を軽々と持ち上げる。
「いくわよ!」
瞬間、翼からの噴射が彼女を高く押し上げ、アイリスは一直線に空中へと飛び立った。
毒粉を撒き散らす闇蝙蝠の群れに突っ込む直前、彼女は急激に軌道を変えた。翼の噴射が左右に切り替わり、圧縮空気の勢いで鋭角なターンを描く。
「すごい……! これなら思い通りに動ける!」
アイリスはその機動力を存分に活かし、空中を縦横無尽に駆け回る。毒粉を避けながら、次々と敵を叩き落としていった。
槌を振り抜くたび、蒸気圧が青白い光となって炸裂する。その間も、翼の噴射が巧みに働き、素早い上下移動や急旋回を可能にしていた。
一匹、また一匹と群れが崩れていく中、闇蝙蝠たちは完全に混乱し、統率を失い始めた。
群れの中で唯一冷静に動くリーダー格の闇蝙蝠がアイリスを睨みつけた。その様子を見て、彼女は目標を定めた。
「あなたがリーダーね……!」
アイリスは翼の噴射を強め、一気に加速してリーダーに急接近した。
敵は毒粉を撒いて迎撃しようとするが、彼女は素早く回避し、槌を構える。
「これで終わりよ!」
蒸気圧が最大まで高まると同時に、フェザーの翼から強力な噴射が放たれ、槌の威力をさらに高める。
ストームクラッシャーを振り下ろすと、青白い光が閃き、リーダーの頭部を直撃した。
悲鳴を上げたリーダー格は瞬時に地上へと叩きつけられた。
その衝撃で周囲にいた闇蝙蝠たちも完全に散り、空の脅威が消え去った。
同時にマコトも地上で残存する魔物を倒し切り、アイリスの元へ駆けつけた。
彼女が地上へと降り立ち槌を肩に担ぎながら振り返ると、兵士たちが歓声を上げているのが聞こえた。
「やったぞ!空の魔物が全滅した!」
「凄い……まるで戦場の女神だ……!」
疲れた表情を浮かべながらも、アイリスは確かな自信に満ちた瞳でマコトを見つめた。
「これで……少しは役に立てたかな?」
マコトは頷き、彼女の肩に軽く手を置いた。
新たな街ですが早速の襲撃です、前線なので戦時下の様なイメージをしております。
アイリスちゃんの初戦闘のお披露目!
次は新キャラも登場!?新メカも!?
次回をお楽しみに!
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