第13話 その名はバイパー
朝焼けの光がリブラム村を優しく包み込む中、マコトとアイリスは村の門前に立っていた。
村人たちが見送る中、彼らは新たな旅路に向けて歩みを進めようとしていた。
するとエストゥールがマコトに小さな袋を手渡した。
「これは亜空間収納袋だ。これ程の容量の物は他には王国の宝物庫くらいにしか無かろう。次の戦いに備えるために役立てると良い。」
「こんな貴重なものを、僕がもらっても良いんですか?」
マコトは驚きながら袋を受け取った。
「それだけのことをお前は成し遂げた……私はお前がこれからどれほどの可能性を示すかを見たいのだ。」
エストゥールの鋭い視線がマコトを見据える。
「……分かりました。大切に使わせていただきます。」
マコトは袋をしっかりと握りしめ、深く頭を下げた。
旅立ちを前に、リューガスがマコトに歩み寄った。
彼はこれから王都へ戻り、今回の事件の詳細を国王に報告することになっていた。
「マコト、お前がこの村で成し遂げたことは見事だった。」
リューガスは冷静な口調ながらも、どこか柔らかい表情を浮かべる。
「ありがとうございます。でも、僕一人の力じゃありません。村のみんなと、アイリスやリューガスさん、エストゥールさん達がいてくれたから……。」
マコトが謙虚に答えると、リューガスは短く笑った。
「そう言うな。この功績は間違いなくお前のものだ。王都に戻り、国王陛下に必ず伝える。」
その声には、確かな信頼が感じられた。
「……ありがとうございます。」
マコトは深く頭を下げる。
リューガスはその場から一歩下がり、振り返りながら短く告げた。
「生きろ、マコト。そして……次も期待している。」
その言葉を最後に、リューガスは馬に乗り、王都への道を進み始めた。
マコトはその背中を静かに見送りながら、心の中で感謝と新たな決意を噛み締めた。
すると2人が前線の街へ旅立つと聞いて、シャドウベヒーモスに襲われて村に保護されていた行商人が自分が馬車を出すから乗って行ってくれと名乗りでた。
「マコトさん、あなたには本当に感謝している。私の命があるのは、村が助けてくれたから。そしてあなたがあの化け物を討ち果たしてくれたからです。」
行商人は穏やかな口調ながらも、目に強い感謝の色を浮かべていた。
「改めてそんな風に言われると何だか照れますね。」
マコトが微笑みながら答えると、アイリスが元気よく声を上げる。
「でも、本当のことじゃない!村を守る為にマコトがどれだけ働いた事か、皆んなが知ってるよ!」
「確かに。マコトさん、あなたがあれを討たなければ、今頃この村も……そして私も生きてはいなかった。」
行商人が静かに頭を下げる。
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。」
マコトは優しく言葉を添えた。
「それでも、私はあなたに少しでもお礼がしたい。せめて街まで乗せていくから、しっかり休んでください。」
そう言いながら、行商人は荷馬車を整え、手綱を引いた。
馬車は穏やかな旅路を進んでいた。
木漏れ日の差す道を馬がゆっくりと歩いていく。
しかしその静けさを破るように、突然前方から怒声が響いた。
「おい、止まりやがれ!」
道の真ん中に汚れた革鎧を身にまとった男たちが立ちふさがった。
5、6人の盗賊たちが、剣や棍棒を手に、不敵な笑みを浮かべている。
「荷物を全部置いてけ!そうすりゃ命だけは助けてやるぞ!」
リーダー格の男が吐き捨てるように叫び、剣を肩に担ぐ。
行商人が眉をひそめ、馬車をゆっくりと止めた。
「まずいな……盗賊か。」
「……いきなり出てきたけど、本当にいるんだね、こういう人たち。」
アイリスが馬車の荷台から顔を出し、不安げに前方を見つめる。
「ここは僕に任せてください。」
マコトがそう言いながら亜空間収納袋に手を伸ばす。
その中から取り出したのは、2メートルほどの細長いロボットだった。
を思わせるフォルムを持ち、金属音を鳴らしながら動く様子は独特の威圧感を漂わせている。
バイパーは地面に置かれると、まるで命を持つかのように滑らかに動き始めた。
その動きは不規則でありながらも確実に敵へと向かっていく。
蛇のようなその体は、関節部分に鋼鉄の節が組み込まれており、自由に曲がりながら進む。
「な、なんだこいつは……?」
盗賊たちは目の前の異様な存在に言葉を失った。
「おい、なにビビってんだ!なんだあんなもん!斧で思い切りぶっ叩きゃお終いよ!」
リーダーが吠えるが、その声を遮るようにバイパーが地を滑る音が響いた。
バイパーは地面を滑りながら最前列の盗賊に接近すると、その胴体を大きくうねらせて相手の足に絡みついた。
「ぐ、ぐわっ!なんだこれ……動けねぇっ!」
盗賊が叫ぶ間もなく、鋼鉄の体が彼を締め上げ、息を詰まらせる。
そのまま次の盗賊に向かって滑り込み、別の男の手首に巻きつく。
「うわっ!こいつ、剣が……!」
締め付けの力で武器を地面に落とすと、バイパーは素早く体を解き、別の方向へと動き始めた。
リーダーが大きな斧を肩に担ぎ、挑発するように吠えた。
「てめぇ!そんなガラクタに頼ってんじゃねぇ!叩き潰してやる!」
その言葉を無視するように、マコトは静かにバイパーを呼び戻した。
滑るように地面を進んで戻ってきたバイパーは、マコトの足元で動きを止めると、鋼鉄の節がカチリと音を立てて変形を始めた。
胴体部分が二つに折れ、蛇のような形状が徐々に人間の下半身に近い形へと変わっていく。
長い鋼鉄の節が一本の強固なフレームを成し、マコトの足にぴったりと装着されるように縮んでいく。
さらに、その外側を覆う装甲板が展開し、鈍い光を放ちながら彼の脚部を完全に保護する形となった。
「バイパー、動力全開。」
マコトの短い指示に応じるように、パワードスーツが蒸気を噴出し低い唸りを上げた。内蔵された動力機構が稼働を開始し、彼の動きを大幅に強化する準備が整った。
「な、なんだよそれは……!」
リーダーがたじろぎながら後ずさる。
マコトはゆっくりと足を踏み出した。その一歩は、以前とは比べ物にならないほど力強く、地面に微かな震動を伝える。バイパーの補助で加速された動きは、彼の体重以上の力を地面に伝え、周囲に圧倒的な威圧感を与えた。
「――これで、終わりだ。」
マコトが短く呟き、地を蹴った。
リーダーが斧を構えて叫ぶ。
「てめぇなんかっ!ぶっ殺してやるっ!!」
彼は全力で斧を振り下ろした。
しかし、マコトは冷静にその軌道を見極め、バイパーの補助で強化された脚力を活かして素早く横に跳んだ。
斧は地面に突き刺さり、鈍い衝撃音を響かせた。
次の瞬間、マコトはリーダーの懐に飛び込み、鋼鉄の脚で斧の柄を蹴り上げた。
「なっ……!?」
驚愕の表情を浮かべたリーダーの手から、斧が宙を舞って遠くの茂みに飛び込む。
「お前の負けだ。」
マコトは低い声で告げ、脚部を大きく振り上げてリーダーの足元をすくい上げた。
体勢を崩したリーダーはそのまま地面に転倒し、さらに鋼鉄の脚部が彼の体を押さえつけた。
「う、うぐっ……くそっ……!」
リーダーは苦しげに息を吐きながら、腕を伸ばして抵抗しようとするが、バイパーの脚部が微調整され、完全に動きを封じる形となる。
「分かった、分かったよ!降参だ……!」
彼が疲れ切った声で叫ぶと、周囲の盗賊たちもそれに続いて武器を放り投げた。
「もう、勘弁してくれ……。」
盗賊の一人が震える声で呟いた。
戦闘が終わり、盗賊たちを素早くロープで縛り上げた。
行商人が荷台を開けて手招きする。
「ここに詰め込んでおけば街まで問題ないでしょう。」
縛られた盗賊たちは荷台に押し込まれ、無力なまま座り込む。
「こんな目に遭うなんて……。」
一人が呟くが、アイリスが軽く手を振りながら一蹴する。
「当然の報いよ。おとなしくしてなさい。」
行商人は軽く息をついて馬車の準備を整えた。
数日後、盗賊を荷台に乗せたままマコトたちは無事に前線近くの街「フォルディア」へ到着した。
高くそびえる城壁が遠目にも見えるほど巨大で、その威容に圧倒される。
門前には厳しい表情の衛兵たちが見張りに立ち、旅人や商人の荷物を確認している。
「ここがフォルディア……すごい活気だね。」
アイリスが馬車の上から周囲を見渡し、興奮気味に呟いた。
門の前に馬車が到着すると、衛兵の一人が歩み寄る。
「この街に何の用だ?」
行商人がすぐに前に出て、盗賊の捕縛について簡潔に説明した。
「――と言うわけでして。おかげさまで、この方たちのおかげで命拾いしました。」
衛兵たちは荷台を確認し、盗賊たちを引き取ると同時に、マコトたちに感謝を述べた。
「これは大きな手柄だ、報奨金も支払われるぞ。ちなみに君たち二人も街に入るつもりか?」
マコトは静かに頷きいた。
「俺たちは前線での戦いに加わる為に来ました。推薦状も持っています。」
衛兵はそれを聞くと途端に表情が明るくなった。
「そうかそうか、それはありがたい!今は赤ん坊の手も借りたいくらい人手が足りないからな……通行を許可しよう。基地は中央広場を抜けた先だ、何かあればまた聞きにくるといい。」
「ありがとうございます。」
マコトとアイリスは丁寧に礼を述べ、門を通り抜けて街の中へと足を踏み入れた。
新型は軽量で対人や敵味方乱れる戦場で効果を発揮するイメージで書きました。
実は…まだ新型、作ってるんです!
次回をお楽しみに!
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