第12話 魔王軍
雷鳴が轟く世界の果ての山脈。
何者も生きては帰れないと言われる呪われた山脈の中腹にそびえ立つ「終焉の塔」
瘴気が満ちるその土地では草木も育たず、大地はひび割れ、空は絶えず黒雲に覆われている。
周囲には、過去にこの地を侵そうとした生物たちの巨大な髑髏が散乱しており、この塔がただの建造物ではないことを雄弁に語っていた。
塔の最上階、謁見の間。
そこは魔王軍の中枢であり、世界を脅かす計画が練られる恐怖の中心である。
「全員、揃ったな……と言いたいところだが。」
黒い翼を持った戦略参謀である黒魔将グラディウスが冷たい笑みを浮かべた。
その声には皮肉が込められ、空いている椅子を見つめる瞳は冷徹そのものだった。
銀色の毛並みを持つ獣人、銀牙将レクシスが軽く肩をすくめた。
「ヴェイラスは任務中よ。豪炎将らしく前線で炎の嵐でも起こして人間どもを蹴散らしてるんじゃない?問題は幻影将の奴……また好き勝手しているんじゃない?」
「いつものことだ。」
透明な結晶の体を持つ虚晶将ゼファルドが静かに微笑む。
その姿は薄暗い光を受けて煌めき、不気味な存在感を放っていた。
「あいつは必要なときに現れる。それで十分だろう?」
「――十分…?」
グラディウスが視線を鋭くし、冷たく言い放つ。
「魔王様の悲願を果たすためには、全員の力が必要だ。“幻影将”の気まぐれが計画を狂わせる可能性を甘く見るな。」
「心配するな。」
巨体を揺らしながら笑ったのは轟斧将ドゥガルス。
その笑い声はまるで地響きのようだった。
「邪魔する奴がいれば、俺の斧で叩き潰す。それだけだ。」
「相変わらずの脳筋バカね。」
レクシスが軽く笑うが、その瞳には冷ややかな光が宿る。
「でも頼りになるのも事実よ。私の邪魔さえしなければね。」
「さて、話を戻そう。」
グラディウスが場を締めるように低く言い放つ。
その言葉に、幹部たちは緊張を滲ませた。
「シャドウベヒーモスが討伐されたとの報告が届いている。」
その一言で、部屋の空気がさらに重くなった。
「例のシャドウベヒーモスが討伐されたというの?」
レクシス眉をひそめ呟いた。
「アレは元々の巨体と凶暴性で既に十分な脅威だというのに、その強化個体が倒されたというの――」
「その通り。」
ゼファルドが結晶の指を鳴らしながら静かに答えた。
「肉体の硬度を増幅し、魔力回路を強化して耐久力と攻撃力を引き上げた。その上で生存本能を操作し、限界以上の戦闘能力を引き出す術法を施している。」
「その強化を施した個体が討たれたというならば、原因を探る必要があるな。」
グラディウスが目を細める。
「しかも場所は最前線などではなく、エルセリオン王国の片田舎の辺境の地。試験がてら人間どもを蹂躙出来ると思ったが結果は……聞いたとおりだ。」
ゼファルドが付け加えた。
一見して表情の読み取れない結晶で出来た顔であるが、その声からは強い苛立ちを感じ取れる。
「シャドウベヒーモスは、近々対人類軍に投入する予定の魔生物兵器の実験型だ。今回の目的は、その戦闘能力と限界を測ることだった。」
「報告によれば、エルセリオン王国のエストゥールとリューガスが現地で確認されたとか。」
「リューガス……あの剣術の達人か。」
ドゥガルスが冷静に呟いた。
その瞳には微かな苛立ちが浮かぶ。
「奴は大陸10指にも名を連ねる剣士。接近戦では他に並ぶ者がほとんどいない。」
「エストゥールも忘れるな。」
ゼファルドが低く言い添えた。
「あの老人も魔法においては大陸屈指の実力者だ。その力は個々の魔術師の規模を超え、戦場全体を掌握する力を持つ。」
「その二人が組んだのなら、討伐も不可能ではないが……。」
グラディウスがさらに低い声で続ける。
「問題は、それだけで終わらなかった可能性だ。あの村で何か“異常な力”が働いたと考えるべきかもしれない。」
「異常な力……。」
レクシスが興味深げに呟いた。その赤い瞳が鋭く輝いている。
「その正体を突き止める必要があるわね。それが敵の新たな切り札ならば、早急に潰すべきだし。」
「その未知の力、掴めれば計画に活かせるかもしれない。」
ゼファルドが考え込むように目を細めた。
「開発にとって貴重な情報となるだろう。」
「ならば、俺が行こう。」
ドゥガルスが巨体を揺らして立ち上がった。その言葉は雷鳴のように響き渡る。
「辺境に潜む真実を暴いてやる。そのついでに、邪魔者がいれば片付けるだけだ!」
「いいや、この件に力任せの探りは不要だ。」
グラディウスが冷たく制止する。
「まずは確実な情報を集める。レクシス、お前に任せる。」
「了解。」
レクシスが不敵に笑い、静かに頷いた。
「忘れるな。我らが果たすべき使命はただ一つ――魔王様の悲願、人類の完全なる打倒だ。」
グラディウスの声には揺るぎない決意が込められていた。
ゼファルドが微笑みながら結晶の体を煌めかせた。
「次の試作型の準備は進んでいる。この敗北を糧に、より強力な兵器を生み出してみせよう。」
「それでいい。」
グラディウスが静かに頷く。
「人類どもの終焉は近い。魔王様の名の下、全てを闇に還すのだ。」
雷鳴が轟き、不吉な稲妻が塔を包む中、幹部たちはそれぞれの任務に散っていった。
黒い塔の上空にまたひとつ稲妻が走る。
魔王軍の次なる計画が、静かに動き出そうとしていた。
魔王軍の幹部たちの顔見せ回です。
なぜ魔王はここまで人類を滅ぼそうとするのか......
次回から遂に第2章の開幕です、新たな出会い、新たな戦いにご期待ください!
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