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異世界美少女エリス<ルーペリアの眼鏡の魔法>

佐々木悠介は、上司に叱られた帰り道、公園のベンチで一人ぼんやりと座っていた。月の光が彼の疲れた心を照らすように、夜の静けさが癒しを与えていた。


「人生なんて、ただの徒労だよな…」


そう呟いた時、突然、視界に銀髪の少女が現れた。あまりの美しさに幻覚かと思ったが、その瞳は彼を真っ直ぐに見つめていた。


「はじめまして、悠介。私はエリス。この世界にちょっとした贈り物を届けに来たの」


「贈り物? 何の冗談だよ」


彼女は微笑み、小さな眼鏡を差し出した。薄い金色の縁が月光に輝いている。


「これは『ルーペリアの眼鏡』。これをかければ、物の細部が見えるわ」


「細部? どういう意味だ?」


「例えば、この眼鏡を通すと、人の感情や嘘が透けて見えるの。使い方次第で、とても便利になるわよ」


悠介は半信半疑ながらも、それを受け取った。


翌朝、悠介は何気なくその眼鏡をかけてみた。すると、会社で同僚が話している姿が奇妙に見えた。相手の顔に微妙な色のオーラが浮かび上がり、感情が視覚化されているようだった。


「これは…驚きだ」


たとえば、上司の笑顔の裏に浮かぶ真っ赤な苛立ち、同僚の何気ない返事の中に隠れた青い緊張。それらが手に取るように分かるのだ。


「これなら、人間関係をもっと上手く立ち回れるかも」


彼は次第にこの能力を楽しむようになった。顧客との会話では相手の微妙な嘘を見抜き、商談を有利に進めた。おかげで上司からの評価も上がり、仕事が順調に回り始めた。


だが、彼の心には別の欲望が芽生え始めた。


「これだけの力があるなら、あいつらに復讐してもいいんじゃないか?」


悠介が「恨み」を抱いていたのは、かつて婚約を破棄した元恋人の美奈子と、彼女を奪った友人の篠原だった。


ある日、悠介は偶然美奈子と再会した。眼鏡を通して彼女を見ると、そのオーラに虚栄と後悔の色が見えた。彼女は今の生活に満足していないらしい。


悠介はその情報を活用し、彼女が職場で抱えるトラブルを焚き付けた。結果、美奈子は信頼を失い、仕事を辞める羽目になった。


次に篠原の番だ。彼は篠原が密かに不正をしている証拠を探し出し、それを会社に密告した。篠原は地位も財産も失い、完全に社会から孤立した。


「ざまぁみろ」


悠介は溜飲を下げた。彼にとって眼鏡は最強の武器だった。


だが、それと同時に彼の世界は歪み始めた。眼鏡を外しても、周囲の人々の感情が頭の中に浮かび上がるようになり、心が休まらない。


「やめろ…静かにしてくれ…!」


さらに、悠介の行動は自分にも跳ね返ってきた。会社での裏工作が発覚し、同僚たちからの信頼を失ったのだ。


「何でこうなるんだ…?」


苦悩の中、エリスが再び現れた。


「どうやら、力を使いすぎたみたいね」


「助けてくれ…!」


「いいえ、それはできない。けれど、ひとつだけ言っておくわ。この眼鏡は、人の弱さを見るためのものではなく、自分の弱さを見つめるためのものだったのよ」


エリスは悠介に微笑みを残し、消え去った。


悠介は眼鏡を叩き壊し、全てを捨てる覚悟で新しい道を探すことにした。エリスの言葉を胸に、彼は初めて自分の心と向き合うことを決めたのだった。

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