不可避
ようやく会社にたどり着きデスクでグッタリとしていると
「どうしたんですか!頭がボサボサ、化粧もしてないじゃないですか!」
聞き慣れた女性の声が聞こえるが答える気にもならない。
気を聞かせた女性はわざとなのだろうか「コーヒー買ってきたんですよ、よかったらどうぞ!」元気な声で声を掛けてきた。
「あっ、ありがとうね、昨晩からいろいろあって…」
そのまま飲めばいいものを今朝の事があったのでコーヒーを別の器に移し替えながら、独り言のように呟く。
底には何もなかった…
ホッと息をつぎ、温かいコーヒーを口に含む。
「おいしい…」
「さて、今日も仕事を頑張りましょう!」
「その前に身だしなみを整えてくださいね」
女性がイタズラな笑顔で言う。
「あ〜、わかったわかりました!」
化粧室へと向かおうとすると
「裸足じゃないですか!?靴はどうしたんですか?」
「これからは健康のため社内では裸足にしようと思って、わざとよ、わ・ざ・と。」
「そうですか…」異様に汚れた足を見ながら納得が行かないとばかりに答えた。
「会社なら安全よね…」
鏡を見ながら、化粧を始める。
ファンデーションを塗ろうとフタを開ける時、手に「それ」が落ちてきた!
「イヤー!」
叫び声を聞きつけた女性が慌てて化粧室にやって来た。
「どうしたんですか!」
「蜘蛛が、蜘蛛が…」
女性は手元を見て
「何言ってるんですか、ただのホコリじゃないですか!」と言われもう一度、手元を見ると大きなホコリだった…
「疲れているんじゃないですか?」
「そうかも…でも仕事には支障はないわ。」
「そうですか…」
デスクに戻りPCの電源を入れる。
プログラミング用のソフトを立ち上げ仕事を始める。
キーを打つ音がオフィスに響く…
手が滑って「アステリスク(*)」がモニターに映った瞬間、
「イヤぁー!」
椅子から転げ落ちた。
部下達が集まってくる
「どうしましたか!?」
「蜘蛛が…イヤー!」髪を掻きむしりながら叫ぶ。
「アステリスクじゃないですか?見間違えですよ。」
震えながらモニターに目をやった…
確かにアステリスクだ。
ヨロっと椅子に腰掛け、フゥ〜と息を整え仕事再開。
米印(※)を見て、手が震えて言う事を効かない。
「少し休ませてもらうわ…」
ヨロヨロとオフィスを出、いつもは使わない社員食堂へ向かう。
「昨日、朝蜘蛛を殺したばっかりに…なんで…」
ブツブツとお経のように呟きながら重い足を引きずる。
社員食堂は広く、社長の趣味なんだろう一般的な食堂と違いカフェのような空間になっていて、癒やしの効果を狙ったであろう観葉植物も多数置かれていた。
椅子に座りテーブルに両ひじをつき、顔を覆う。
本当に疲れたし何も考えたくない
ハァー…息をつき、覆い被せていた手をのけると目の前に「それ」がいた。
気を失ったのかオフィスのソファーに横たわっていた。