紛れもない
結構、寝たはずなんだけど実感がない。
心身ともに疲れが抜けてない感覚から開放されたい一心で、窓を開けようとカーテンに手を伸ばす。
いない
窓を開けて朝日と少し冷たい空気が目を覚ます。
「ん〜、気持ちいい!」
大きく伸びをしながら深呼吸と共に声がでた。
「さて朝ごはんにしますか!」
台所に通じるノブに手をかけて一瞬、手が止まった。
昨日、冷蔵庫に「それ」が2匹いたんだった。
しかし、夢だったのか現実だったのかあやふやで、思い切って扉を開ける。
いない
夢だったんだ!
朝ごはんのベーコンエッグとトースト、ドリップで淹れたコーヒーの香りがたまらなく食欲をそそる。
「いただきます!」
ベーコンエッグにフォークを向けると
「それ」がいた!
「うっ!」思わず息を呑む。
一緒に焼かれたであろう「それ」は足を縮め裏返っていた。
反射的に皿ごと払いのけ、床で砕ける音が部屋に響く。
早い鼓動と息を整えるために、コーヒーを飲むと、コップの底に「それ」がいた。
手で口を塞ぐよりも嘔吐感が先に走り、テーブルに吐き出す。
頭を掻きむしり、眉間にシワを寄せ、唸り声とも言えない声を上げる。
逃げるようにトイレに駆け込むと「それ」が4匹。昨日見た2匹、さっきの2匹が頭によぎる…
「もう!なんなのよ!」と声を荒らげ素手で叩き潰す手に潰れた「それ」の腹から白い汁が目についた。
慌てて蛇口を回し手を洗いながら、酷い顔つきの自分を映す鏡を見た…その後ろに「それ」が10匹以上がうごめいている。
「嫌だ!」叫び声をあげながら、家を出ようと玄関に走りヒールに足を入れた瞬間、「グシャ」変な感触をした足を恐る恐る引いてみると、ヒールの中、自分の足に「それ」の死骸が何匹もついていた。
靴の事はもう、どうでもいい!
ドアを開け裸足で外に逃げ出した。
朦朧と歩きながら会社へ向かう…周りの人が冷ややかな目で見てる…なんでだろう。あっ、靴を履いてないからか…と歩いていると
「お姉さん?」
「お姉さんてば!」
声をかけてきたのは高校生だろうか制服に身を包んだ男の子だった。
「あの…背中に蜘蛛が付いてますよ。」
「え…」
慌ててジャケットを脱ぐと背中一杯に「それ」が張り付いていた。
「ギャーッ!」
ジャケットを捨て走り出す、逃げなければ!
後ろから「お姉さーん!」男の声が聞こえるが、その声も遠くなり聞こえなくなった。