NTD放送局のプライド&オフ会の相談
ようやく諸々のゴタゴタが落ち着いてきたので投稿再開します!
NTD放送局視点
「社長。バンバン苦情届いてますよ。見苦しいもん映すな、って大騒ぎですわ」
「だろうな。批判は織り込み済みだ。言わせておけば良い。どうせ協会の老害共が手を回しているだけだろうしな」
シニカルに笑う男は、部下からの報告に呆れ顔で返す。
敬う気のない部下の態度と、相変わらず辟易する程に己の邪魔をするダンジョン協会の上役たち。
白髪の混じってきた野暮な髪を弄りつつ、男はため息を吐いた。
日本テレビダンジョンズ。通称NTDの代表取締役である男……夜張冬樹は、世迷言葉の配信を地上波で流そうと強行した本人でもある。
幾らダンジョン配信の影響によってコンプライアンスが多少緩和しようと、やっていることは未成年の実名実写ドキュメンタリー(死)。
PTAやその他諸々から苦情が来るのは当然である。
「いやー、面白いっスね! 普段自分たちだって、人の生き死に見て喜んでるカスのくせして、責める大義名分を持った瞬間に手のひら裏返すんスから。人間って浅ましー」
ケタケタ笑う金髪の男に夜張は、緊張感のない部下だと嘆息しつつも、大部分の苦情処理を任せていることに一抹の申し訳無さを覚えていた。
この金髪、仕事だけは有能なのだ。
それも対人にかかれば右に出る者はいないと言えるほどに。
今でこそ取り繕っていない彼だが、彼の外面は超合金の強化外骨格だ。
雑務のエースである彼だからこそ、夜張は軽い口調に文句を言うこともなく信頼できている。
「……そうは言ってやるな。普段は慈善事業を謳ってやってるんだ。いきなり地上波でスプラッタあたおか配信を流し始めたら責めるのも無理はないだろ」
「それについては世迷が世迷ってるのが悪いと思うんスけどね〜。まさかボクも社長もこんなイかれてる奴とは思わなかったでしょ! というか、アホの思考回路を予想しようだなんて事が馬鹿げていたんス」
「まあ、それは言えてるがな。とは言え、十分と言える程に視聴率だとか広告費を稼がせてもらってるから文句は言えないが」
ハァ、と二人揃ってため息を吐く。
この会話から分かる通り、初めからここまで苦情が届く予定はなかった。
世迷言葉のことは不運な青年だとは思いつつも、明るいキャラクター含めてテレビ受けすると予測したから、地上波で流すことを強行した。
穏健派とも言われていた夜張が、苦情を織り込み済みで強行した理由は、単に金になると思ったからである。
ドデカく稼げるタイミングで、地位と名誉をドブに捨てることを画策していたのは間違いない。
そして、その目論見通り……いや、予想以上に金を稼ぐことができたのは幸運だっただろう。
ただ────
──思ったより世迷言葉がぶっ壊れていたことによる後処理に追われていることを除けば、だが。
世迷言葉の異常性は、一度でも彼のピンチを見れば明らかである。
間違いなく普通の人間の思考回路をしていない。
裏を返せば、独特なキャラが人気を呼ぶこともある……が、常軌を逸している場合は別である。
「でもまあ仕方ないッスよね」
金髪の男は笑った。
諦めと微かな憧憬の混じる微笑み。
夜張も全く同じ表情で笑っていた。
「「ファンになっちまったからには」」
顔を見合わせてフッ、と笑う。
想いは同じ。
そして──ただの諦めの境地である。
ぶっちゃけ、ファンであろうと何であろうと、仕事を増やした張本人だ。自業自得であっても、その責任の所在の一端を心の奥底で押し付けている。
『もう少し思慮深くなってもろて』
これが二人の願いである。無理だ。
「仕事するかぁ……」
「そっスね〜。あ、そういえば近々ランキング上位者が色々と動くらしいっスよ? 世迷が落ちたダンジョンに、救助って名目で行くとか。自分は資源狙いで国から命令されたんじゃないかと思うっスけどね〜」
「あ? そういう大事なことは先に言いやがれ!」
夜張はすみませんっス〜、とヘラヘラ笑う金髪の男を一喝した。
そんなタレコミは寝耳に水であり、ニュース番組も運営しているNTDにとっては、特大のネタ。
詳しく話を聞くべく、夜張は問うた。
「ランキング上位者か。誰が動くんだ?」
金髪の男は「えっと〜」とニヤニヤしながら言った。
「アレン・ラスター、ユミナ・ラステル、シエンナ・カトラル。この三人っスね」
「全員世迷リスナーじゃねぇか!!」
☆☆☆
アレン・ラスター視点
「さすがにそろそろ煩わしいな」
「本国からの暗殺依頼、でしたか?」
「まあね。なぜ私がドハマリしてる配信者を殺しに行かなければならない? 大手を振って応援してる私にそんな巫山戯た頼み事をするなど正気の沙汰ではないだろう」
「では行かないと?」
「いや、行くが」
「は?」
張り詰めていた空気が一瞬にして解けた。
目を丸くする、スーツ姿の金髪ポニーテールの美女……ユミナ・ラステル。
彼女は私の方を訝しげに見る。
「やれやれ。君とはこれだけ長い付き合いなのに、ちっとも私のことを理解していない」
「狂人の考えが分かるわけないじゃないですか」
酷い物言いをする秘書。世迷言葉のリスナーみたいなことを言わないでくれないか。私は狂っているわけではない。
感情を制御して押し隠すよりも、狂うフリをして全てを嘲笑う方が楽なのだと気がついただけだ。
「なぜ推しに会えるチャンスを不意にするというんだ? 折角本国から依頼、という名の免罪符を手にしたんだ。これを利用する手はないだろう。それに期間を指定しなかった奴らが悪い」
「考え方が直結厨ですよ、それ。しかもいつの間にか推しに変わったんですか。アナタの世迷言葉への愛情? 喜悦? ともかくとして、抱えるクソデカ感情は異常だと思いますが」
私が世迷言葉へ抱いてる感情は、期待と興味と喜悦の三つほどだ。そこまで非真面目に享楽しているわけでもないのだ。
これでも伊達に世界二位と呼ばれていない。
「失敬な。傾倒し過ぎて共に倒れ込むなど本末転倒だろう。私は程々に彼に入れ込んでいるに過ぎない」
「その結果が私への負債、ですか」
……どうせ給料日に多額が振り込まれる。前借りであって、確実に返せる保証があるのだから許して欲しいが。
秘書への借金、ととてつもなく外聞の悪い行為ではあるが、彼女とて世界ランキング上位者。腐る程に金はある。
そんなことを考えていると、まるで思考を透かされたようにジト目で私を見る秘書に、口角の端を歪めることで答える。
「……ハァ。まあ、精々トラブルを起こさないことを祈ります。久しぶりのダンジョン探索でしょうし、頑張ってきてください」
……ふむ?
私は秘書の言葉に首を傾げる。
「何を他人事みたいに言っている? 当然君も行くが?」
「はァ?」
「これを期に世迷言葉リスナーのオフ会を開こうと思う。君は当然強制参加だ」
今度こそ秘書の目から光が失われた。
諦めてくれたまえ。日本には一蓮托生なる言葉があるだろう。それと同じだ。恐らく。
☆☆☆
シエンナ・カトラル視点
「は? 何で私がオフ会に行かなきゃならないのよっ! まるで世迷言葉のファンみたいじゃない!」
世界二位からのメールということで身構えていたのが馬鹿みたい。長ったらしいが、実態はただのオフ会。
暗殺依頼とかどうせあの馬鹿なら何とかする。
それを二位も分かっていて誘ってるフシがある。
「私が行くとでも思ってるのかしら。ハッ、世迷言葉のファンだと勘違いしてるなら二位も節穴ね」
私はただ彼のよく分からないアホみたいな……いや、実際ただのアホである奴の思考回路を何とか理解しようと試みてるだけに過ぎない。
好き好んで奴の配信を見て爆笑してる別ベクトルのアホとは訳が違う。
「それにオフ会と言っても、二位と秘書と私の三人だけじゃない。暗殺依頼の名目だからって過剰戦力が過ぎるでしょうに」
東京ダンジョンは、他国のダンジョンと比べて魔境だと耳にする。とは言っても、Sランクのランキング上位者が三人もいればすぐに片がつく。
問題は階層移動にかなりの時間を消費すること。
どれだけ早くても半年はかかる気がする。それだけ東京ダンジョンは広い。
「自国を放っておくわけにも……いや、問題ないわね」
私の国にはもう一人だけSランク探索者がいる。
奴に任せておけば万が一ダンジョン災害が起こっても問題なく片付けることができる。
「はぁ……。面倒だからパスね」
と、断りのメールを送ろうとした時だった。
タイミング良く二位からのメールがもう一通送られてきたのだ。
『秘書です。主人が報酬について明記していなかったので補足をさせていただきます。報酬は即金900億。貴方様が欲しがっていた特S級の赤色魔石も差し上げます』
「……」
私はポチポチとスマホを操作する。
うーん、と背伸びをしてベットに横たわる。
「べ、別に世迷言葉が気になるわけじゃないから! 報酬のためよ! …………いや、本当に気になるわけじゃないわね」
誰に言うわけでもなく叫んだ私だったが、振り返ってよく考えてみれば会いたいという気持ちなど微塵もなかった。
むしろ直接会ったら面倒になることは確実。
「……だからと言って報酬に釣られてることが明白なのも癪だわ」
できればダンジョンに沈んでくれないかしら。あのアホ。
閉じ込められてても火種でしかないのに、出てきたら確実に火種どころか爆薬だ。
日本という国はすごいわね。あんな害しかないアホを生み出せるんだもの。
HENTAI文化の極み……。
「直接会えばまともとか……」
無理か。