7 氷の貴公子は一途に恋をする
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「私も悪かったと思っているのよ?まさか公爵家の嫡男が妻にと切望していた相手だなんて思ってもいなくて。だってあのときのライラったら、あまりにかっこよかったんですもの。あんなに素敵な剣士を、騎士として任命しないなんて、ありえないでしょう?」
王妃の言葉にチャールズもまた深く頷いた。
「確かに。彼女の凛々しい姿にますます心を奪われたのは否定しません」
「そうでしょう?」
くすくすと面白そうに笑う王妃。氷の貴公子などと呼ばれているがその実態は、一人の少女に夢中なただの恋に焦がれる男だ。
あれ以来、王宮に蔓延る敵対勢力は残らず排除した。今の王宮はあまりにも平和だ。この男を味方にさえつけておけば、こののちの王女の治世も盤石なものとなるだろう。ライラを手放すのは惜しいが、ここはチャールズに恩を売る方がいいと判断を下したのだ。
何よりも、あの可愛い娘に、そろそろ恋を教えてやりたい。
チャールズは全く気付いていないが、チャールズを前にしたときに妙に緊張し、耳の後ろを赤くさせるライラに、王妃は気付いていた。
(なんとも初々しい二人だこと……)
それに、ライラが傍にいてくれたなら、きっと王女の夫となるジョシュアも、気性の真っすぐないい子に育つに違いない。王女がいい子に育ったように。
「がんばりなさい。あとはあなた次第よ。うかうかしていると、そのまま弟の護衛騎士としてまた王宮勤めになってしまうわよ。なにしろあの子は、本当に真面目なんだから」
くすりと笑う王妃の言葉に、真っ青になるチャールズ。
「ちょ、ちょっと屋敷に戻ってまいります!」
そういうと慌てて駆けだしていくチャールズを、おっとりとほほ笑みながら見送るのだった。