クラウディオ・ケラヴノス 二十五
死んだ筈の僕が目覚めたのは、なぜかやたらとキラキラしている白っぽい空間だった。そこで僕は虹色に輝く女の子(仮)に猛烈な勢いで勧誘を受けている。
「とにかく、あんたを今救ってやれるのはあたしだけってこと。
あんたが眷属になってくれれば、あんたが彼氏とずっと一緒にいられる空間を作ってあげるわよ。ね、迷う事なんかないでしょ?」
「そうだね。迷うまでもなく、エリィに断りもなく君の眷属になったりしないよ」
また即答すると、目の前の何かはわかりやすく逆上した。実にわかりやすい人(?)だ。
根拠もなしに他人が自分の思い通りに動くと思い込んでいるから、相手が予想外の行動に出るとすぐに逆上して癇癪を起こす。まぁ、こういうタイプはその際に本性をあらわにしてくれる奴が多いから、扱いやすいといえば扱いやすいんだけど。
そんな事より僕は今の自分の格好を何とかしたい。さすがにいつまでも全裸は困る。とりあえず大きな布でもあれば巻き付けておけるんだけど。
そんな風に思っていたら、いつの間にか白い貫頭衣みたいなものを着ていた。素材は目の前のアレがきているような、不思議な光沢のあるもので、薄くて軽くて、とにかく肌触りが良い。
天使の羽衣、というのはこんな感じなんだろうな。
うん、これはこれで悪くないけど、下着とズボンもほしいな。服の方はフスタネーラでもいいけど。
あとなんだか疲れたからお茶も飲みたい。
そう思ったら色々出てきたからお茶で一服して、先方が落ち着くのを待つことにした。
「もう、何なのこの子!?おとなしそうな顔してめちゃくちゃ頑固じゃない!!
しかも勝手に服出して着てるし!?なんか勝手に寛がないでよ……っ!!
もう全っ然お話にならない……っ!!まさかアンタあのゾンビの手先……っ!?」
涙目でダンダンと足を踏み鳴らして癇癪を起しているところをみると、見かけの年齢よりもずっと幼いのかもしれない。相手が何なのか、何を目的としているかさっぱりわからないけれども、とにかく相手のペースを乱す事には成功したらしい。
「君、さっきからやかましいよ。だいたいゾンビって何?とりあえずお茶でも飲む?」
「いらないわよ……っ!!だから勝手にくつろいでるんじゃないって……っ!!人の話を聞きなさいよ!!やっぱりアンタあのゾンビの手先でしょ!?」
いやだから、ゾンビって何??今の会話でゾンビが出てくる余地なかったよね?
「君が誰だかもわからないのにおとなしく従うわけがないだろう。だいたい、さっきから彼氏彼氏ってうるさいけど、エリィとはそういう関係じゃないよ。
あとお腹スース―するから帯ない?」
「ああもうめんどくさい!!アンタたちは単に身体の関係が持てないだけでしょ!?
告白こそしてないけど、お互いにずっと恋していて、愛し合ってるんだから彼氏以外の何物でもないじゃない!!それよりアンタ彼氏に会いたいの!?会いたくないの!?」
「そりゃ会いたいに決まってる……」
「だったら何でいちいち彼氏の許可がなければあたしに従うかどうかも決められない訳?」
「違うよ、君には従わないというだけ。さっき言ったよね。僕は身も心も全部、エリィのものだから」
口にしたとたん、なぜか頬を温かいものが伝って行った。驚いて指でふれるとかすかに濡れている。
自分で思っていた以上に、彼に逢いたい気持ちは強かったらしい。
「ふぅん……なるほどね」
それを見た女の子(仮)は納得したようにつぶやくと、にんまりと笑っていきなり姿を消してしまった。
1人残された僕はものすごく手持無沙汰。あの女の子(仮)は何なんだろう?僕に何をさせたいのかわからないけれども、もう利用されるのはうんざりだ。
彼と共にいられるならと思って、手の中にあるものはみんな差し出してきた。僕にとってはどうでも良いものばかりだったから。
それなのに、そのせいで、次から次へと要求されて、挙句の果てにこうやって彼と引き離されて、あまつさえ泣かせてしまったではないか。どうしたら、今度こそいつまでも一緒にいられるのか考えなければ。
そう思っていたのだけれども。
いつの間にか、目の前に、彼がいた。
柔らかそうな短い黒髪に、晴れた日の海のように澄んだ蒼い瞳は潤んで驚きに見開かれている。
「エリィ!!」
もう何も考えられず、ただ愛しい人の胸に飛びついた。見間違うはずがない。
まごうことなき本物の、僕のたった一人の、大切な人。
もう二度と逢えないと諦めていた、その胸に顔をうずめると、優しく抱きしめていつものように髪を撫でてくれる。
溢れだす涙が止まってくれるまで、僕たちはずっとそうしていた。もう絶対に、離れたりするものか。