エルネスト・タシトゥルヌ 二十五
事が起きたのはディディが倒れて三日後のことだ。
大至急報告したい事があると、家の者が役所まで飛んできたのだ。嫌な予感でいっぱいの俺がはやる心を抑えて報せを読むと、なんとパトリツァがディディを強引に孤児院に連れ出したらしい。
何を言っても聞かず、俺に知らせずに外出させろと泣きわめくので、侍女と護衛を一名ずつ連れて出かける事、使用人に尾行して随時場所をこちらに知らせるよう指示を出したので、後で人を送ってほしいとのことが、見慣れた綺麗な筆跡で書かれていた。
なんという事だ。どう考えても罠だろう。
ディディはあえて罠にかかることで、自らを奴らを誘き出すための餌としたのだ。
俺はすぐ警邏本部に駆けつけた。とても使いを出して、その返事を待っているような余裕はない。
事情を話して本部で待機中だった騎士たちを派遣してもらうことになった。俺も馬を借りて同行させてもらう。
私兵や使用人たちは優秀で、パトリツァたちの足取りはすぐにわかった。
必死に馬を走らせ、貧民街の裏路地へと急ぐ。
いくつもの角を曲がって、薄暗い路地の奥へと入り込んで……そこで目にした光景を、何年経っても俺は忘れる事が出来ないだろう。
倒れて意識のないゴロツキに、腹をおさえてみっともなく泣きわめく男女、そしてその向こうで血の海の中うずくまっているのは……
その無残な姿を見た瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。