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パトリツァ・コンタビリタ 二十

 あの会話を漏れ聞いてから数日後、またぐったりしたご様子のあの方を連れて旦那様が帰宅されました。玄関先で出迎えたわたくしには一切目もくれず、使用人に指示を出しながら、自らあの方を抱えて執務室に向かわれます。

 執務室の片隅に寝台を持ち込んで、そこであの方を休養させながら旦那様はお仕事をされるご様子。片時も離れたくないという旦那様の態度に、わたくしの怒りと屈辱はますます強くなる一方です。

 旦那様は「呼ばれぬ限りは誰も執務室に絶対に近付かぬように」ときつく申し渡され、そのままあの方に付き添いながら政務に取りかかられました。


 わたくしは旦那様たちのご様子が気になってたまらず、何度も執務室の近くに行こうとしたのですが、執務室のある2階は廊下の入口に私兵が立って人の出入りを拒んでいるので、室内はおろか廊下に入ることすらできません。

 自分の屋敷だと言うのに、自由に出歩くこともできないなんて。何一つ悪いことをしていないわたくしが、なぜこんな屈辱を受けなければならないのでしょうか。

 侍女に訴えても「あとで旦那様のお時間が空いたら話し合いましょう」と言われるだけ。誰もわたくしをあの部屋に入れてはくれません。

 やはりこの家にはわたくしの居場所はどこにもないのでしょうか。


 一人ぼっちの夕食を終え、湯を使って一人きりで夫婦の寝室で休みます。

 そういえば旦那様が最後にこちらにいらっしゃったのはいつの事だったでしょう?最近はプルクラ様やエスピーア様とお出かけするのに夢中で全く気になっておりませんでした。

 心の昂りや身体の熱はエスピーア様にお会いするか、孤児院に行けば鎮めることができました。

 今は昂った心を一人抱え、火照った身体を慰める事もできず、何がいけなかったのかを悶々と考え続けるしかありません。なんという拷問でしょう。

 いっそ死ねと言われた方がまだマシかもしれません。それでも夜が白む頃になると、疲れたわたくしの身体は勝手に睡眠を求めて夢の国へと旅立ったのでした。


 翌日も執務室周辺は立ち入ることができませんでした。

 仕方なく朝食を取りに食堂に向かいますと、珍しいことに旦那様がわたくしをお待ちでした。ああ、きっと旦那様はようやくわたくしの正しさを、あの方の肩を持った己の非を悟って謝罪するおつもりなのでしょう。


「おはよう、パトリツァ。昨日から執務室に来ようとしていたらしいけれども、何か用でも?」


「い……いえその……旦那様はどうしていらっしゃるかと」


「今はとても大切な政務を抱えています。機密文書もあるので執務室には決して近づかないように。何か急な用があるなら執事か警備の者に伝えて下さい」


 わたくしが何か用事があるかと思って聞きに来てくださっただけのようです。それにしても、妻であるわたくしを遠ざけなければならない大切な政務とは何でしょう?ただあの方と二人きりになりたいだけではないですか?


「しばらく不在がちになりますが、出かける時は必ず侍女と護衛を連れて行くように。行き先は執事の誰かを通して必ず伝えて下さいね」


 それだけ言い残して旦那様は今日も出勤されました。


 おや?あの方は今日はご一緒ではありませんのね?

 そういえばプルクラ様がしばらくあの方が旦那様と共に行動できなくなるとおっしゃっていましたが、このことでしょうか?だとすれば何とかしてあの方とお会いして外に連れ出さなければなりません。

 しかし、あの方がいる執務室のある階にはわたくしは入れてもらえません。どうすればよろしいのかしら……


 わたくしはプルクラ様とエスピーア様にお手紙をしたためることにいたしました。

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