表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/88

クラウディオ・ケラヴノス 十九

 結局、子供の治療にはエリィが付き添うという事でなんとか納得してもらった。

 まぁ、マリウス殿下からの依頼って時点で本当は僕たちに断る選択肢はないんだけど、やっぱり彼にはちゃんと納得してもらいたいから、毎回なんとか説得している。説得と言っても、結局渋るエリィに僕が無理やり押し切って認めてもらう形で、彼が本当に納得して僕を送り出してくれたことは、たぶん一度もないとは思うんだけどね。

 今回は今まで以上に消耗がきついとは思うけど、その後の事も考えると失敗はできない。


 病人は、とても可愛らしい男の子だった。やつれた頬が痛ましい。

 大丈夫、ちゃんと僕が健康な血液と骨髄を作ってあげるから。

 元気になって、これから沢山走り回って楽しいことを経験して。沢山幸せになって、無事に大人になってね。

 術を展開して成功したと確信した後はもう、意識にもやがかかってしまった。かろうじて控室に入って、エリィと目が合ってからの事は覚えていない。


 とにかく身体が重い。

 身体が言うことを聞いてくれなくて、目をあける事すらできない。どこにいるかもわからぬまま、ただ意識だけがたゆたって、でも時折エリィの存在を感じていた。

 必死に何かあたたかいものを僕に与えようとしてくれている。その都度、少しずつ身体が軽くなる。


 彼だけだ、僕に何かを差し出せと言わないのは。

 むしろ差し出すなと心の底から言ってくれる。そして僕に与えようとしてくれる。ただそばにいてくれるだけで、僕には充分すぎるくらいなのに。


 だから、彼か僕かどちらか一方がリスクを取らなければならないのであれば、迷わず僕が取ることにする。絶対に奴らの餌食になんかさせないから。


 みんなのお望み通り、わかりやすく消耗した姿を晒してやった。

 後は一日も早く戦えるまで回復して、こちらを舐めてかかって出てきた奴らを一網打尽にしなくては。


 何度かうっすらと意識が浮上しながらもしっかり覚醒する事はできず、結局ちゃんと目を覚ましたのは術を使った翌々日の朝だった。

 覚悟していたよりは身体も辛くなかったのでほっとしたのだが、エリィはものすごく怒っていた。それだけ心配をかけたのだろうと思うと申し訳ない。

 さっきも僕が倒れてしまったせいで、二人分の政務をこなさねばならず、登庁しない訳にはいかないとぼやきながら出勤していった。


 なんとか朝食をとってトリオの相手をしていると、パトリツィア夫人が来て猫なで声で僕の真似をしていた。

 トリオは気味悪がって近寄ろうとしなかったけど、珍しく逆上する事もなく、僕に媚びるような事を言う。おそらくプルクラ嬢あたりに何か言われているのだろう。

 それでも悪意のこもった視線がギラついていて、近くにいると疲れてしまう。

エリィが彼女を執務室や僕の私室には近付けないよう手配してくれたのがありがたい。


 流石に身体がきついので何日かお休みしたいと言うと、エリィは快諾してくれた。本当は弱っている時ほど離れたくないのだけど、こればかりは仕方ない。

 早く連中を片付けて、また心置きなく一緒にいられるようにしないと。


 政務が溜まっているだろうに、エリィは定時で帰ってきてくれた。

 執務室に寝台を運び込んでくれたので、そこで休みつつ彼が持ち帰った仕事を少しだけ手伝わせてもらう。

 夜だけでも一緒にいて欲しいと子供みたいな我儘を言ったら、仕方ないなぁ、と言いつつ快諾してくれた。くっつきあって眠りにつくと、びっくりするくらいよく眠れる。

 今夜も彼のぬくもりのなかで、幸せな夢を見た。

 不思議なことに、彼を感じるたびに何かあたたかなものが流れ込み、身体の重苦しさが少しずつ楽になっていく。実は夢などではなく、本当に何かわけてくれていたのかもしれない。

 だって目覚めると、消耗しきっていた生命がまた少し、充分な睡眠だけでは説明できない程度には回復していたのだもの。


 大丈夫、僕はまだ戦える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ