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クラウディオ・ケラヴノス 十六

 朝、温かなものに包まれて、とても幸せな気分で目が覚めた。心なしか身体が軽い。

 目をあけるとエリィの腕の中だった。なんとなく気持ち良くて彼の胸に頬を摺り寄せる。子供みたいだな、とちょっと苦笑すると、ちょうど覚醒したエリィと目が合った。


「おはよう、エリィ。夕べはおかげですごくよく眠れたよ」


 本当に、夕べの身体の重さが嘘みたい。

 やっぱりエリィと一緒にいると心だけじゃなくて身体も軽くなるみたい。彼と一緒にくっついて眠った後は、消耗した生命力が明らかに回復している。彼は治癒魔法の類は使えないはずなんだけど……とても不思議なはずなんだけど、すごく自然な事に思えてしまうのは何故なんだろう。


 そのまま一緒に起き出して軽く朝の運動をして、汗を拭いて、トリオとちょっと散歩をして。

 早めに制服に着替えて書斎でパトリツァ夫人を待った。


 登庁時間が迫る中、だいぶ僕たちを待たせて現れたパトリツァ夫人は、どこの夜会に行くの?ってくらいきっちり着飾っている。そりゃ待たされるわけだ。

 ……それにしても、ゆうべ僕のこと襲ってエリィを怒らせたのに、なんで僕が見立てたドレス着てくるかな……ちょっと神経を疑ってしまう。

 もしかして、それ見繕ったのが僕だってすっかり忘れてるのかな??


「随分と遅かったな。我々は朝の食事も鍛錬も済ませて身を清めた後だが」


 ああダメだ、エリィ最初っから頭に血が上っている。

 まぁ、出勤前にさんざん待たされた上に、現れた夫人の格好が格好だからね。僕だって一瞬「喧嘩売ってるの?」って思ったもの。


「ちょっと、エリィ……最初から喧嘩腰はダメ。おはようございます、パトリツァ夫人。朝からお呼び立てして申し訳ありません」


 何とか宥めたけれども、二人とも相当ヒートアップしているようで、感情的な言葉の応酬が続く。

 ……うん、そりゃ阿婆擦あばずれ呼ばわりはさすがに僕もかちんと来たけどさ。よりによって愛人作りまくるだけじゃ飽き足らずに児童買春に走った人が言う台詞じゃないよね。

 だいたい、僕は幼少時に巻き込まれた犯罪はともかく自分の意思で他人と性的な関係を持ったことはないよ?少なくとも下半身の欲求に従って生きている夫人よりは身持ちは良いつもりだ。


「エリィ、言い方。パトリツァ夫人、不快な思いをさせてしまったのは私の不徳の致すところで、申し訳ありませんでした。

 しかし、私はあくまでタシトゥルヌ侯爵の補佐官として、政務のお手伝いに伺っているだけです。業務を円滑に行うため私室までご用意いただいておりますが、この家の使用人ではございませんので、誤解のなきよう。

 エリィ、これでいいね?」


 仕方がないので僕が要点だけ話してとりなしたんだけど……

 エリィはコメカミのあたりがぴくぴくしているし、夫人は夫人で逆上して、僕がこの家を乗っ取るつもりだとか喚いてる。

 エリィが相手にしないもんだから使用人たちに訴えてるけど……そりゃ誰も相手にしないよね。

 エリィはエリィで、夫人に愛称で呼ばれてさらにヒートアップしてるし……これではお話にならない。いや、気持ちはわかるんだけどさ。


「お言葉ですが夫人、私がアナトリオ様のお相手をするのも、お子様があなたに懐かないのも、貴女が母親としての義務をすべて放棄しておられるからです。この年齢の幼子には家族の愛情が必要不可欠です。私がアナトリオ様と関わるのがお嫌なら、ご自身がお子様と向き合うべきでしょう。

 孤児院で縁もゆかりもない子供と遊んで楽しむのは貴女の勝手ですが、我が子を放置して良い事にはなりません。しばらく外出を控えてご自身の生活やご家族とのかかわりを見つめ直されてはいかがです?」


 もう登庁時間だし、いい加減このにらみ合いに付き合うのも嫌になったので、さっさと話をまとめて切り上げてしまった。結局、僕のこと襲った件についてもうやむやになっちゃったけど、さすがにこれだけエリィが怒ってるのを見ればもう手を出しては来ない……よね?

 あ~あ、せっかくいい気分で目覚めて、トリオも可愛くて、とってもいい朝だったのに、もう台無し。


「我々はもう登庁の時間なのでもう行きますが、今日一日このところの自分の言動を振り返って反省してください」


 付き合いきれない気分だったのはエリィも同じだったようで、冷たく言い置くとさっさと書斎を出てしまった。もちろん僕もすぐ後に続く。


 執事が閉めた扉の向こうから、甲高い獣のようなヒステリックな叫び声が聞こえたが、気にせず馬車に乗り込んで登庁した。

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