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クラウディオ・ケラヴノス 十二

 法務省に戻ってからは警邏の人と打ち合わせてどんどん摘発を進める事にした。


「このところ貧民街を中心に強い多幸感を与える薬が出回っているんですが、出出どころが不明で困っていたのです。まさか教会がばらまいていたとは……」


 警邏の若い騎士が呆れたように話してくれる。炊き出しに混ぜ込まれていたのは盲点だったらしく、早急に調べてくれることになった。


 ちょうど調査を依頼していた孤児院についても、地方の孤児院で人頭税のごまかしと人身売買が行われているという裏が取れたという。そして児童売春のために「躾」を受けた子供が王都に「出荷」されている事も。

 まだ十歳にもならない子にまで客を取らせているとは……絶対に赦せない。


「なかなか尻尾を掴めずにいたのですが、監査局から提示された資料のおかげで動かぬ証拠も押さえられました。これで令状が取れるので、人数を揃えて一斉に強制捜査できます」


 ただの疑念で済めばと思っていたけど、やっぱり現実に行われている犯罪だったらしい。かなり大規模な犯罪を長年見逃してしまっていたのは(ほぞ)()む思いだが、後悔ならば後からいくらでもできる。

 とにかく今は一刻も早く犯罪者どもを摘発し、被害に遭っている人々を救出するために、できることやるべきことを迅速にこなしていく他あるまい。


「ところで、ケラヴノス卿は騎士団には復帰されないのですか?目の付け所も鋭いし、腕も立つし、警邏(うち)にいらしていただけば本当に心強いです」


 報告と情報交換が一段落したところで、僕より少しだけ年下の警邏騎士が騎士団に戻らないかと誘ってきた。

 組織犯罪を取り締まる部署にいる彼は僕たち監査局と協力して捜査に当たることが多く、僕の事を高く評価してくれているようだ。

 純粋に僕の能力を評価して慕ってくれるのはありがたいが、僕は監査の仕事がしたいというより、エリィと一緒にマリウス殿下のお役に立ちたい。


「僕はここが気に入っているから。それにアーベリッシュ卿みたいに古い事を気にしない人ばかりじゃないし」


「すみません、無神経でした。ご放念ください」


 少しだけ気まずさを前面に出して断ると、僕の過去を知っているらしい彼は表情を曇らせて謝罪してくれた。彼は素直で優しい人なんだけど、真っすぐすぎて捻くれた人間の悪意にとても鈍いようだ。

 犯罪捜査に携わる上で少々心配ではあるが、社会的に弱い立場にある被害者にも親身に寄り添う姿勢はとても好ましい。この純朴さは失わないまま、これから経験を積んで良い騎士に育ってほしい。


 彼が警邏に帰投した後、渡された資料をエリィと確認した。

 人身売買の資料に続いて例の娼館まがいの性的虐待を行っている孤児院の資料を目にして、エリィの顔色が変わる。


「……ここ、パトリツァがよく遊びに行っている孤児院だ」


「まさか夫人……『接待』を受けてやしないだろうね……」A


「おおいにあり得るな」


 あり得る、というよりは十中八九受けてるだろうね。

 最近夫人が少しずつ良い方向に変わってるって喜んでたから、エリィがショックを受けなければいいけど。

 まぁでも、夫人がトリオを疎んじる訳がよくわかった。


「子供なんて泣いたり癇癪起こしたりするのが当たり前なものだけど、そういう不自然に仕込まれた『良い子』の姿を見て『本来のあるべき子供の姿』だと思い込んでいるんだろうね」


 確かに高位貴族の女性なんて、幼い子供と接する機会はあまりないとは思うけど……世間知らずにもほどがあるだろう。


「すまない、大丈夫か?」


 呆れのあまり、つい深々と嘆息してしまうと、僕の事を案じられてしまった。

 たしかに大人に絶対に逆らえないように教え込まれて、訳も分からず性的な奉仕をさせられるおぞましさは僕自身も覚えがある。

 以前は連想するような事を見聞きしただけでフラッシュバックを起こし、周囲にさんざん迷惑をかけたりもした。

 でも今は大丈夫。ずっとエリィが傍にいて支えてくれて来たから。

 だから今被害に遭っている子供たちは僕が何としても救い出さなければ。


「僕は大丈夫。それより一日も早く検挙できるよう、僕たちは今できることをしていこう。

 今日は早めに帰って、ちゃんと夫人とお話ししてね?場合によってはマシューにも協力してもらおう」


 いつもの言動を鑑みるに彼女がそんな『孤児院』で何のサービスも受けていないと言うことは考えにくいが、それでも万が一という可能性もないわけではない。パトリツァ夫人のことは正直どうでもいいが、裏切られてエリィが傷つく姿を見るのは嫌だ。

 ただ『慰問』をしていただけならば本当に良いのだけれども。

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