表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/88

クラウディオ・ケラヴノス 九

 今日は仕事が(はかど)ったのはいいのだけど、すっかり帰りが遅くなってしまって、あたりはもう真っ暗。

 さすがにちょっと頑張りすぎたかな?もうお腹ぺこぺこだよ。


 家についたら、パトリツァ夫人はまだ帰ってないらしい。今日は遅くなると伝えてあったにしても、さすがに遅すぎない?

 どうやらエスピーア殿とディナーに行ったらしい。それも|休憩室つき個室のレストラン《グランメゾン》で。


 さすがにまずいんじゃないのかな?

 いや、高位貴族なんだから外食するのが|それなりの格のあるレストラン《グランメゾン》じゃなければいけないのはわかるんだよ。

 でもさ、未婚の男性と二人っきりで個室に夜遅くまでこもっているのは……さすがに色々と疑われても仕方ないんじゃないかな。

 もともと奔放(ほんぽう)な人だとわかっていて結婚したから、エリィも今更ショックを受けたりはしないみたいだけど……ここまで人目をはばからずに遊び歩かれると、おおっぴらに噂が広がってしまえば家名に(きず)がつく。

 さすがに今回ばかりはエリィも呆れかえっていた。


 僕もちょっと呆れながら私室に戻ろうとすると、子供部屋でアナトリオがひっくり返って駄々をこねていた。どうやらお風呂を嫌がってるらしい。

 困っている乳母たちには申し訳ないのだけど、ジタバタ暴れる姿も可愛らしい。もうそうやって自己主張を始める年頃なんだね。

 そうだ、いい事考えた。


「ね、一緒にお風呂入ってもいい?」


 言った瞬間、周囲の空気が凍り付いた。……いかん、ちょっと周囲の眼が痛い。

 何だかエリィも使用人たちも唖然(あぜん)として僕の顔を見ていて、だんだんいたたまれなくなってくる。確かに貴族の子供は親とか一族の大人とお風呂入ったりしないもんね……ちょっと非常識だったかな……

 でもお風呂を怖がるのはたぶん水が怖いからで、懐いてる人が一緒に抱っこして入る事でだいぶ緩和されると思うんだ。僕が帰って来たことに気付いたトリオがぎゅぅってしがみついてきたので抱き上げて、もう一度一緒にお願いしたら、なぜかみんな諦めたような顔で許可してくれた。

 なんだか僕の事を見る目が妙に生温かい気がするけど、きっと気のせいだよね?


 お風呂からあがって、ほこほこした可愛いトリオがうとうとしだしたので、このまま寝かしつける事にした。

 ちょうどそこに帰って来たパトリツァ夫人と鉢合わせしたので「一緒に寝かしつけします?」って誘ったら逆上されてしまってまた失敗。

 なんかお前呼ばわりされたらエリィが怒って「勘違いしてませんか」と夫人を窘めたんだけど、もちろん逆効果。聞く耳持たずにドスドス足音も荒く立ち去ってしまった。

 ちゃんとエスピーア殿の事とかも話し合わなきゃいけないのに、困ったなぁ……


 翌朝もトリオの歩く練習につきあってから登庁して政務に励んだ。もちろん月虹教団の摘発が最優先なんだけど、他の仕事もないわけじゃないからね。

 あらかた書類が片付いたところで屋敷から急ぎの使いが。どうしたんだろう?


「パトリツァがティコス家の娘と接触したそうだ。随分と意気投合したようだな」


 ティコス家のプルクラ嬢と言えば、エスピーア殿が集めてきた子供たちを仕込む役回りの人だよね。エスピーア殿だけでも頭が痛いのに、大丈夫かな……


「念のため早めに帰宅して話をしてみる」


「僕は時間をずらして帰った方が良さそうだね。僕がいると意固地になって聞く耳持たなくなるから」


 つい失言して逆上させてしまう僕は、いない方が話を聞きやすいだろう。先にエリィに帰ってもらって、話を聞いている頃合いを見計らって帰宅する。


 後で執務室で合流して話を聞いてみると、プルクラ嬢との会話そのものは世間話程度で大したことはなかったみたい。

 芝居に誘われたのと、近々屋敷に呼んでお茶をしたいとのこと。人目の多い芝居やうちの屋敷の中ならおかしなこともされないだろうという事で許可したそうだ。

 夫人がやる気満々だから今日は寝室を共にしないと、と苦笑していた。苦手意識が前面に出ていて、夫人がちょっと気の毒なんだけど……


 お互いに割り切った政略結婚の筈なんだけど、夫人はエリィを微塵(みじん)も愛してないのに、エリィが自分に心底惚れ込んでいて当然と思ってるところがあるから困る。

もちろん、政略結婚でもお互いの努力で愛のある家庭は築く事は可能なんだろうけど……見事なまでにお互いその気がないからね。

 それでもエリィは夫人を尊重する姿勢は見せてたけど、夫人はエリィの事を所有物扱いだから……最近はエリィも諦めて勝手にしろって思ってるみたいだね。


 本音を言うと、僕もちょっと……いやかなり面白くない。

 彼はそんなに安っぽい人間じゃないんだ。政略でも何でも、せっかく結ばれたんだから大切にしてほしい。僕にはどうあってもできないことだから。


 今夜はあまり熟睡できそうにないなぁ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ