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第2章 「父のアルバムが語る、少年の正体」

 病院の売店で掘り出してきた懐かしアニメのグッズに、ロボットアニメの趣味が私とピッタリ合う入院患者の少年。

 この予想以上の収穫に、私はスッカリ御機嫌になっちゃったの。

「二度なぁ〜い青春っ、お前に賭ぁけた〜っ!鋼鉄武神・マシ〜ンオ〜!」

 堺医大付属病院から帰路に就く足取りはスキップするみたいに軽やかだし、まるで売店の再現みたいに、マシンオーの主題歌を口ずさんじゃうし。

「病院での一部始終をお父さんが聞いたら、きっと喜んでくれるだろうなぁ。なんたって、お父さんはマシンオーのリアルタイム世代だもの。」

 この時の私の心情を四字熟語で表すとしたら、「意気揚々」がピッタリかな。


 帰宅するやいなや、私は一階の居間へと直行した。

「ただいま、お父さん!お祖父ちゃんの御見舞い、行ってきたよ!」

 そうして襖を軽やかに開け、テレビを眺めているスラックスとベスト姿の人影に呼び掛ける。

 ちょうどCMに切り替わったから、テレビの邪魔にはならないよね。

「お帰り、京花。ご苦労だったね。随分と上機嫌じゃないか。」

 振り向いた中年男性は、空になった卓袱台のグラスにビールを手酌しながら、御見舞いから帰宅した私を笑顔で労ってくれる。

 彼の名前は枚方修久(ひらかたのぶひさ)、私のお父さんなの。

 会社から帰ったら、居間でテレビを見ながら晩酌。

 それが父の日課なんだ。

「まあね、お父さん!御見舞いに行った後、色々と面白い事があったんだ!」

 私は父がビールの御供にしていた豆菓子を失敬しながら、堺医大付属病院で起きたアレコレを報告したんだ。

 昔のアニメのキャラクターグッズを、病院の売店で買い漁った事。

 欽也君という入院患者の少年と、懐かしのロボットアニメである「鋼鉄武神マシンオー」の話で意気投合した事。

 こうして振り返ると、なかなかに濃厚な一日だったね。

「その欽也君って子、私より二つも年下なのに、マシンオーの事になると詳しいんだ!その割に、『マシンオーΣ・鋼鉄創世記』は全然知らないから、面白いよね!去年に完結したばかりのOVAなのにさ。まるで、本放送時の子が現代にタイムスリップしたみたいだよ!」

 話しているうちにスッカリ楽しくなっちゃって、随分と大声になっていると自覚するよ。

 身振りや手振りも、かなりのオーバーアクションになっちゃっているし。

「そうか、京花…」

 その一方、父は最初の頃こそ盛んに相槌を打っていたものの、次第に口数が少なくなり、遂には俯いて考え込んでしまったんだ。

「あれっ?どうしたの、お父さん?」

 余りに異様な父の反応に、私はビックリしちゃったんだ。

 何か、気に障る事でもしちゃったのかな?

「ゴメン、お父さん…その場にいない子の事を笑うなんて、良くないよね。」

 自分なりに反省点をみつけたけど、父は何も言ってくれなかった。

 機嫌を損ねた原因は、この件じゃないのかな?

「それとも、ナイター中継の邪魔をしたから…」

「違う…そうじゃないんだ、京花…」

 小さく頭を振る父に、苛立った様子は見られなかったの。

「お父さん、少し気になる事があってね。その子、本当に欽也君と言ったのかい?」

 むしろ、疑惑と動揺を必死で堪えているようだった。

「うん、車塚欽也君。私と同じ榎元東小に通っているんだって。でも、初めて見る子だったよ。」

 私は四年生で、欽也君は二年生。

 学年が違うにしても、学校行事で一緒になる可能性はあるよね。

 比較的体調が良かった一年生の時は、欣也君も運動会や避難訓練とかに参加していたみたいだし。

「そうか…少し待っていなさい。見せたい物があるんだ。」

 そう言って立ち上がった父は、随分と思い詰めた顔をしていたんだ。


 居間に戻ってきた父が抱えていたのは、年代物のアルバムだったの。

「小学校の時に撮った写真の大半は、このアルバムにまとめてあるんだ。」

 そうして父はアルバムを卓袱台に広げ、一枚の写真を指差したんだ。

 病室と思わしき部屋を背景に、二人の男の子が笑顔で並んでいる。

 マシンオーの大型ソフビ人形を二人で掲げているポーズなんか、新生児を抱っこしている若夫婦みたい。

「椅子に座っている子が、小二の頃のお父さんだよ。そして、もう一人の子が…」

「あっ、欽也君!」

 アルバムを注視した私は、思わず声を上げてしまったんだ。

 だって、ベッドに腰掛けて笑顔を浮かべている少年は、私が病院で仲良しになった子と瓜二つだったんだもの。

「へえ…欽也君ってお父さん似だったんだ。だけど、驚いちゃったよ。私と欽也君って、お父さん同士も顔見知りだったんだね。」

 脳裏に浮かんだ非現実的な想像を打ち消すために、私は出来るだけ常識的な解釈を試みたんだ。

 だけど、それも虚しい足掻きだったね。

「違うんだよ、京花。欽也君というのは、この子なんだ。」

 私なりの常識的な解釈は、父によって退けられてしまったんだ。

「お父さんと欽也君は、小学生の時の友達だったんだ。『ノブ君』や『キン坊』と、互いに呼び合う間柄でね。」

 確か、欽也君のクラスの友達も、ノブ君ってニックネームだったね。

 そのノブ君というのは、お父さんの事だったんだ。

「欽也君は元々、あんまり身体が丈夫じゃなかったから、外で遊ぶよりも、家の中でテレビやマンガで遊ぶ方が好きな子だったよ。特に『鋼鉄武神マシンオー』が大好きでね。合金のオモチャやプラモデルなんかは、仲間内では誰よりも早く買って貰えていたんだ。そのオモチャで遊びたくて、御見舞いに託けて足繁く通ったっけ。」

 きっと欽也君の御両親は、外で遊べない病弱な息子のせめてもの慰めに、マシンオーのオモチャを好きなだけ買い与えていたんだろうな。

「あれは確か、お父さんが小学二年生の頃だったかな…欽也君は病状が悪化して、学校にも通えなくなってしまったんだ。その頃には欽也君とすっかり仲良しになっていたから、病院への御見舞いも定期的に行っていたんだよ。」

 アルバムの写真も、その頃に撮った物なんだって。

「じゃ…じゃあさ、お父さん…その欽也君って子、どうなったの?」

 正直言って、この質問を切り出すのは怖かった。

 だけど、このままウヤムヤにしてしまうのは、それ以上に恐ろしかったんだ。

「元気になって、退院出来たんだよね?そうなんだよね、お父さん!?」

 私が昼間に出会ったのは欽也君の息子さんで、その子は父親経由で私の事を知っていた。

 父親の名前を騙ったのは私をからかう為で、一昔前のロボットアニメに詳しかったのも父親に影響されての事。

 色々と無理はあるけれど、何とか導き出せた現実的な解釈に、私は縋り付きたかったんだ。

 だけど、そうは問屋が降ろさなかったね。

「残念だけど亡くなってしまったんだ。あれはマシンオーの最終回が放送される前の週の事だから、よく覚えているよ。欽也君、最終回を楽しみにしていたからね…」

 寂しげな父の言葉に、私の頭は真っ白になってしまった。

 私が昼間に会った欽也君とは、果たして何者なのだろうか…

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