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Basis35. 青天の霹靂

 連休明けの照葉学園はある一つの話題で盛り上がっていた。


「ねぇ海緒、さっきから聞こえる双塔乱舞(リージョンロンド)ってなんなの?」

「共盟同士のタッグマッチの大会だってさ。なんか今年から6月の初めにやるって」


 共盟、それは照葉学園独自の制度である。端的に言えば期間限定の相棒。友達作りの起点のようなものであるが、それを利用した大会というのは面白いものだと思う。こういう学園もの特有の謎の大会は私は結構好きな部類であったりする。


「まっ、優勝するのはアタシと篝ちゃんだけどねー!」

「……海緒さん、距離が近いです……」

「なんだよぉ! ってかいい加減その堅っ苦しい呼び方やめたら?」

「私にも覚悟というものが!」


 目の前で篝と海緒がもみくちゃになっている。この二人が共盟を組んだこと自体がかなり異色だと思う。戦闘スタイルだけで言えばこの二人の相性はかなりのものだ。だが性格的にどこかずれている。このズレはタッグマッチだと案外足枷になるかもしれない。


「篝ちゃん」

「……柚」

「みおーん」

「むがー! もごもごもご!」


 この二人の膠着は待ちに待ったかのように現れた柚ちゃんと風花によって止められた。ストッパーとして優秀だなこの二人。海緒に関しては納得できないのかまだもごもご言っているが。


「朝からお元気ですわね皆さん」

「アイリスおはよー! ……ちょっと雰囲気変わった?」

「今日は少しだけ張り切っておめかししましたのよ」


 普段のアイリスも美人ではあるが、やはりちゃんとしたメイクを施したアイリスは誰もが振り向くようなそういうカリスマ的な美人へとランクアップしている。


「うーい、ホームルームやんぞー」


 いつもの気怠げな表情で東風先生が入ってくる。こんなビジュアルでとんでもない武闘派というのが今でも信じられない。


「んあー、いつもなら出席取るだけなんだけど今日はちょっと事情が違うんだよなぁ。このクラスに転入生が入りまーす。おら入れ」


 前にアイリスが言っていた従妹の転入に関係するのだろうか? にわかにざわつく教室へと一人の少女が足を踏み入れた。


 その少女はアイリスと同じく燃えるような髪の色をしているが、アイリスとは違ってショートヘアに纏めており、遠目から見れば美形の男子と間違えてしまいそうだ。アイリスの事前情報が無ければ女の子と思わなかっただろう。


 明らかに教室の空気が変わった。とんでもない転校生が入ってきたことによって男女ともにボルテージが上がっている。


「……自己紹介するか?」

「はい。皆様ご機嫌麗しゅうございます。僕はアイビー・キネマゼンタ。アイリスの従妹です。とは言っても誕生日は二週間くらいしか変わらないのですが……。ふつつか者ではありますが、皆様仲良くしてください」

 

 ……すごいイケメンだ。ひとつひとつの所作から上品な香りが漂ってきそう。……これ本当は男の子でしたって言われても誰も文句言えないぞ? 既に一部の女子からは歓声が上がっている。男子はといえばその美貌に開いた口がふさがらないといったところか。


「……これほんとにアイリスの従妹なの?」

「ええ、間違いなく女の子ですわ」

「……すご」


 私もそう感嘆する他なかった。自己紹介を終えて自分の席へとつかつかと歩くアイビー。その目線が一瞬だけ私の方を向いたような気がした。その視線は嫌なものというよりかは、まるで同族を歓迎するかのような……少なくとも敵意のあるものでは無かったと思う。


 お昼休み、明らかに普段以上に生徒が押しかけていた。目的は当然アイビー。その姿を一目拝もうと上級生の人までやってこられてはまともにお昼を食べることすらままならない。そのため私たちは生徒会室のお世話になることになった。


「生徒会室は避難所じゃないんだけど……まぁ華凜ちゃんが来てくれるならそれもいいかもね」

「会長を巻き込んですまないと思っている」

「浅茅さんはつまみ出していいかしら?」

「そんなぁ許して! お願いだ、まだ死にたくないよぉ!」


 玲先輩はどうやら、軽口を叩ける程度には海緒と仲が良いようだ。あの孤児院でもいろいろあったから……二人の間に奇妙な信頼が生まれているのかもしれない。今ここにいるのは玲先輩と海緒、あとは海緒にくっついてきた風花だけだ。篝と柚ちゃんは二人で別のところに行っているという。


「……生徒会ってもう少し人がいるイメージなんですけど」

「大体私ひとりで何とかなっちゃうからね……細々としたところはマナミールに投げられるから私以外は名ばかりなのよ」


 玲先輩はバリキャリという存在なのだろう。なんでもできてしまうハイパースペックの持ち主。生徒会という雑務であれば玲先輩ひとりで何とか出来てしまうのかもしれない。


「そういえばですけど、双塔乱舞(リージョンロンド)を考えたのも玲先輩ですか?」

「元々この時期はめぼしいイベントが無かったからね。修学旅行を冬に移したおかげでその部分がスッカラカン。だから今年から共盟の強化を兼ねた大会をってこと。ちょうど連休終わりから1ヶ月後だしね」


 1ヶ月もあれば共盟としての連携や親睦を深めることは容易いという判断か。しかし共盟での大会となると、やはり私は玲先輩と組むことになるが、正直玲先輩ひとりで全員なぎ倒せそうな気がするのだが……


「それよりも今は『焼失する黒』の問題のほうが大事よ。この大会を見越して刺客を送り込んでくるかも。だから今日から特訓よ華凜ちゃん」

「……特訓?」

「華凜ちゃんは潜在能力こそ高いけど、それを扱える下地がない。今は魔装の力で無理やり補っているけど、当然白の魔術を使えば反動で自分の身体を傷つけることになる」

「……ですね」

「魔術適正を上げずとも魔術をうまく扱える。それがその魔装に込められた願いでしょう? なら華凜ちゃんはその願いを叶えてあげないとね」


 風花のほうを一瞥すると、彼女は既にお昼を食べ終わってタブレットを叩いていた。何かを開発しているのだろうが、膝に乗っている小さなイルカのぬいぐるみが彼女がまだ少女であることを示しているようで微笑ましい。


 私は私自身の願いだけでなく、大切な人たちの願いも一緒に背負っている。だから、強くなれるという機会があるのであればそれは絶対に逃してはいけない!


「よろしくお願いします。私は……強くならないといけませんから」


 こうして、1ヶ月後の双塔乱舞(リージョンロンド)に向けた特訓が幕を開けるのであった。

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