手記・2
小学高学年、中学を張りぼてのふにふにメンタルでなんとかやり過ごしたもののメッキ加工のその場しのぎではそこいらが限界だった。寧ろよくもった方だと褒めてやりたいくらいである。
高校に入学するものの入学式の場で例の如く大輪の花を咲かせてしまった私は早々に青春時代をドロップアウトした。
はじめのうちは不登校生徒という形で一応学校に籍だけは残していたのだが、数日数週間と欠席を重ねるにつれすっかり登校する気が失せてしまった私はそのまま退学することとなった。
辞めてしまってみると緊張、閉塞感やストレスといったものから解放され今までの人生は何だったのだろうかと思える程私は活力を取り戻した。
社会性と引き換えに自由を手に入れたのである。
とはいっても一歩自宅を出ればすぐにストレスを感じ身体は不穏な呻き声を上げる。昔は気にならなかった他人の視線などにも過剰に反応しがくがくと震えが走る。私はちっぽけな自由と共に完全な引きこもりとして完成してしまった。とはいえ後悔しているかと訊かれたら自信をもって否、と答えるだろう。
それだけあのちっぽけな自由は私にとって価値のあるものだった。
びっちゃんからパーフェクト引きこもラーへと覚醒した私は、そうなった者が一様に通る道をなぞるようにゲームや漫画、アニメといったものに深く傾倒していった。二次元の世界に私を傷つけるものはおらず、私は何者にだってなることができた。
その中でも私が特に愛していたものがオンラインゲームだ。
現実世界で他人と碌にコミュニケーションが取れない私でもこの世界では他者と話し、共に笑うことができるまさに夢のような世界だった。
さてガチガチの引きこもりへと覚醒したところで引きこもりである。万能感などあるはずも無く空腹感や虚脱感、睡眠欲だってごりごりにある。
腹痛だってある。
閉ざされ平穏な世界でメンタル面の心配は無くなったが、頻度が減ったとはいえそれに伴って腹痛が消えることは無かった。それはもう長年連れ添った夫婦のように声に出さずとも「わかってますよあなた」と言わんばかりに不意に激烈な腹痛に襲われることなどが多々ある。
その日もゲーム中不意に激しい腹痛に襲われた私はトイレへと駆け込んだ。
私の記憶があるのはここまでである。
どうやらこの日私はその短い生涯を終えてしまったらしい。