幼少の記憶
ーーーーー父が死んだ。
幼かった俺は、この言葉よりも、母が少し泣いていた姿の方が悲しかったと記憶している。
俺の父は誰もが知っているもはや伝説である"神勇"グラウスである。
そして母は、名の知れた自警クラン「プリベンダー」のサブマスターだった様だ。でも本人曰く
「マスターのミーシャがしっかりしてないから私が細かい事は全部やってたのよ?」とか、
「実力はほぼ拮抗してたから、仕事量も含めればほぼ私がクランマスターみたいなものだったわ?」
とか何とかで、何かと実質クランマスターであることを強調してくる。悔しかったのかな……?
父と母の間に息子がいるのは知られているが、幸いな事に、俺が息子であると知っている人はあまりいない。と思う。
約10年の修行の間に母達は出逢い、俺を産んだ。
以降の事は良く母から聞かされるが、正直、父の事はあまり覚えていない。
物心着いた時には父は居なくて、母と2人で静かに暮らしていたから。
覚えているのは一つ、優しかった父の笑顔だけだ。
これから戦場に向かうとは到底思えないあの笑顔。
思えば母が泣いていたのが少しだけなのは、覚悟は出来ていたからなのかもしれない。
死地へ向かう、男を見送る覚悟を。
というのを、今目の前にある問題事を見て思い出した。いや、現実逃避に近いのかもしれないな。
本日中何度目かの"コレ"を、これから一体いくつやれば良いのだろうか……そう思いながら、もはやテンプレと化した受け答えをする。
「"神勇"グラウス様の息子である貴方様に、選ばれし者しか抜けないという聖剣への挑戦をしてもらいたい!!!!!!!!」
「無理です!嫌です!お断りします!!!!!!!!!!!」