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想い…

作者: みゆぅ

時間の流れが早くなりすぎるので、ゆっくりと黙読をお願いしますm(__)m

「麻由美…麻由美…麻由美…置いていかないでくれ…!」


麻由美は、私の妻だ。

どんな時でも彼女は笑顔だった。

結婚して25年たつが、

彼女はいつも笑顔で…。

そんな彼女に私は何度救われたろうか。

彼女は私にとって空気。

なくてはならない存在だ。

しかし残酷にも、それに気付いたのは彼女が。

死ぬ直前だった。



『行ってらっしゃい、あなた』


彼女は笑顔で私にハンカチを渡した。

私は、軽く頷く。

そしてそれを受取り無言でスーツの内ポケットにしまった。


「行ってくる」


ただ一言。

いつもと、変わらない朝。

私は玄関の扉を開けて、静かに閉めた。

季節は春。

会社までの道のりを桜が舞う。

だけど、私は綺麗だとは感じなかった。

いや。

見ようともしなかった。

そそくさと道を歩く。

子供たちが笑いながら隣を走り去っていく。

だけど、それすらも雑音でしかなかった。

いつもと同じ。

いつものように仕事に行って、いつものように真っ直ぐ帰ってくる。

妻と二人で、ご飯を食べて寝る。

その毎日。

仕事も20年以上同じ作業の繰り返し。

入社当時は戸惑うことも多々あったが、今では淡々とこなしていく。


「ただいま」


ガチャリと玄関の扉をあける。

その声に合わせるように奥からパタパタとスリッパの音が近付いてきた。


『おかえりなさい。あなた。』


妻は笑顔で迎える。


「あぁ」


そっけなく答えて、鞄を渡し靴を脱いだ。


部屋に向かう私の後を妻は小走りで付いてきた。


『ご飯にします?

お風呂にします?』


お決まりの言葉。


私は上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながら少し考える。


「…飯」


私のそっけない態度にも妻は笑う。


『ねぇ、あなた』


スーツをかけながら、突然妻が話しかけてきた。

私は黙ったまま今度はネクタイを渡す。


『桜…明日、桜を見に行きませんか?』


明日は日曜日。

妻と出掛けるのは何年ぶりだろうか?

それもたまには良いなと思い妻に承諾の返事をする。


「あぁ」


それを聞いた妻は、満面の笑みを浮かべた。

そんなに行きたかったのだろうか。

つい苦笑してしまう。

会話は、それで終了した。

いつものように、無言でご飯を食べる。

妻は…いつもより、ニコニコしていたが。



「麻由美。

準備は済んだか?」


翌朝。

我が家はバタバタしていた。

そう、お花見に行くためだ。


『おまたせっ』


妻は、大きなバッグをもってニコニコしていた。

そんなに楽しみだったのかと改めて思う。


「貸せっ」


それだけ言って、妻から荷物を取ると自分の肩にかけた。


『ありがとう』


妻は、やっぱり笑顔。


いつも通る道。

でも、妻と通ると景色がかわったように感じがした。

自分は、何をみていたのだろうかと不思議に思う。

こんなに奇麗な景色が近くに有ったのに。。。


『綺麗でしょ?』


妻の言葉に、頷いて顔を見る。


「綺麗だ…」


妻が、美しいということも忘れていた。

こんなに美しい人は何処にもいないのに…。


『桜…見ないの?』


その言葉に我に返ると、妻は真っ赤な顔をしていた。

それを見て気づく。

桜をみる妻に見惚れていた自分に。


「あ…」


照れ隠しに、そっけなく顔を反らすと妻は笑った。


『お弁当、たべましょうか』


大きな桜の木の下でシートとお弁当を広げて。

そこに腰かける。


『ねぇ。あなた』


妻が話しかけてきた。


『あなたは、優しくて生真面目で…』


私は、何かの違和感を感じ口を挟もうとしたが妻には珍しく

話を進める。


『そこが大好きだけど、たまには桜を見上げたりして心を休めるのも必要だと思うの。』


妻の周りに花びらが舞う。


『私は、あなたのそばにいるから』


それを聞き、私は涙を流した。


『自分を責めて苦しまないで』


妻は、優しく笑う。


『私は、幸せだから』


涙が止まらない。

どんなに苦しくても、涙なんてでなかったのに…。


―――今日は麻由美の命日だ。

命日にこんな夢を見るなんて。

少し苦笑する。

桜なんて、見に行ったことなんてなかったのに。

それでも幸せだったのか。

涙が止まらない。


『どうかされましたか?』


突然、声をかけられて驚いた。

そこにいたのは麻由美。


「お前が、死んだ夢を見たんだ」


妻のことだ。

笑ってくれるはず。

なのに…。


『思い出したんですか?』


違和感。


『奥様が、亡くなられてから倒れられて…』


返って来た言葉に耳を疑った。


何の、話だ?


妻は、さらに続ける。


『でも記憶が戻ってよかった。もう三年も、入院していたんですよ?』


やめろ!!


私は、カッとなって立ち上がった。


「なにをフザけているんだ。君は、ここにいるじゃないか!」


私は妻に怒鳴ると、病院を飛び出した。


そもそも、何故 私は病院にいたんだ?


そうだ。

家だ。

家に帰らないと妻が心配する。


家に…


家?


家はどこだ?


私は、誰だ?


道端に呆然としていると一枚の花びらが舞った。

その瞬間、脳裏に蘇った麻由美の姿。


麻由美、迎えに来たのか?


私は、ふらふらと妻の元に歩く。


『いままで、ありがとう。

もう苦しまないで。

愛しているわ』


いつもと様子の違う妻に違和感を感じた。


「麻由美、置いていくなっ」


とっさに叫ぶものの、足が動かない。


『私は、事故で死んだの。

だから、私の分も生きて。

自ら死を選んだら迎えになんて行かないから。

心が疲れたら、桜を見て私を思い出して。

それだけでいいから。』


死んだ…麻由美が…


その瞬間、私は総てを思い出していた。


「…約束するよ。生きると。」


一呼吸置いて、そう答えると妻は私の好きな笑顔で消えていった。




・・・・

『大丈夫ですか?

いきなり病院を飛び出すなんて』


あわてる看護婦。

よく見れば・・・というか、妻には少しも似ていないと苦笑する。


私は、病院の入り口で倒れてたらしい。


『3年と言ったかな』


突然の私の質問に戸惑いを見せた。


『妻の麻由美が死んでから3年ですか』


私が苦笑すると看護婦も苦笑。


気がつけば私も、随分と老けこんだなと思う。


私は、久しぶりに笑った。







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― 新着の感想 ―
[一言] なんだか…深いですね、、 短いのに色んなものが詰まってる気がしました。
[一言] 拝読させていただきました。 文章評価としては、文頭を一字空けるとか…(三点リーダ)の使い方のせいもあって抑えました。 ストーリは面白いと思うのだが、何故か物足りなさを感じてしまいました。自…
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