37 エピローグ、そして新たなる…
◇ ◇ ◇
【オリュンポス恒星系 第一惑星ゼウス 宇宙港】
統一時間4月10日 18時45分
ミソラたちを乗せた駆逐艦スピカは惑星ゼウス近郊のトランジットポイントまでたどり着いていた。
しかし、艦はそこで動きを停められていた。
オリュンポス恒星系内で現れたホールの対応を終えた艦が、ほぼ同じ時間に帰還しはじめていたため、宇宙港が混雑し、入港まで待たされていたのだった。
出港時とは逆に、トランジットポイントから宇宙港の方へと艦船の列ができていた。
◇ ◇ ◇
艦に機体を収容した後、ミソラ、アイン、ツヴァイの3人はゼウスに到着するまでの間、自由に過ごしてよいと伝えられた。
ミソラたちはシャワーを浴びた後、3人で食事を取った。
食事の後は、艦の現在地を確認したり、あと何時間で宇宙港に到着できるのかなど、雑談を楽しんだ。
その後、アインとツヴァイは仮眠を取るため展望室へと向かい、それを見送ったミソラは1人格納庫へと来ていた。
彼女も疲れや眠気はあったが、それよりも先にどうしてもクロウと話をしたいと思ったのだった。
「どうしてアイツは、アンタの体を乗っ取った後、わざわざ殲闘騎を奪ったのかしら」
コクピットに入り、エインヘリアルシステムを起動したミソラは、早速、自らの疑問をクロウへと話した。
「宇宙怪獣になるんだったら、ゼウス内にも機体はあったし。それに人がたくさんいるゼウスで変化した方が、あっちにとっては都合がいいはずなのに…」
宇宙怪獣は人類に関連するものを襲う習性がある。
ホールから現れた宇宙怪獣は近くにある有人惑星や宇宙開拓船団など、人類に関わるものを目指して移動する。
理由は分からないが、この習性は宇宙怪獣の存在が確認されてから、変わることなく見られたものだった。
しかし、宇宙怪獣となったクロウは人が住む惑星、しかもその首都星の中に来ていたのにもかかわらず、正体を現さずに星を抜けだし、姿をくらましてしまったのだ。
「ゼウスの中で1人で暴れてもすぐに撃退されると思ったのかしら…?」
「さあな…宇宙怪獣のことだ。詳しくはわからないけど…でも、もしかしたらあいつらの習性以上に、重要なことがあったのかもしれないな」
「なによそれ」
「知らねーよ。でも、習性に逆らってまで行動をしたんだぜ? それには理由がなきゃおかしいだろ?」
「そうね…」
クロウの言葉を見て、ミソラは考える。
あのクロウ――宇宙怪獣が自らの習性に逆らってまで逃げ出した理由。
「もしかして…アンタ?」
「俺?」
「いいえ、やっぱりなんでもない」
ミソラは自分の考えを口に出したが、それをすぐに取り下げた。
宇宙怪獣が人間の体を欲しがるなんて、ばかげている。
「ま、これは俺たちじゃなくて、学者が考えることだろ」
文章だけのはずだが、クロウが投げやりな態度を取っていることに、ミソラは気がついた。
「それよりも、ミソラ」
「なによ」
「お前、疲れてるだろ。今はいろいろ考えるよりも、体を休めた方がいいと思うぜ?」
「べ、別に大丈夫よ!」
「無理するなよ。疲れたって顔してるぞ」
ついにムキになるミソラだったが、クロウの指摘は図星だった。
「わかったわよ…アンタと話しても結論はでないと思ってたし…ちょっと休むわ」
そう言うと、ミソラはシートにもたれかかった。
「待て、ここで寝るのかよ…」
クロウのメッセージが表示される頃には、ミソラは目を閉じていた。
◇ ◇ ◇
同時刻。
寝息を立て始めたミソラを見ながら、クロウは安堵のため息をついた。
「よかった…」
今回の戦いでも、ミソラは生きて帰って来れた。
もちろん、運が良かったといえる出来事もあったが、彼の補助によってミソラが助かった場面も、何回かあった。
「軍人になっても、誇れることなんてなにもないと思ったんだけどなぁ」
今、クロウの胸の中にあるのは、1人の女の子を助けられたという、誇らしい気持ちだった。
「いや…もう俺は死んでるんだから、軍人でもないのか?」
そんなことを考えて、少年は苦笑いするのだった。
◇ ◇ ◇
【???】
同時刻。
彼が目を覚ますと、そこは明かり1つない暗闇の中だった。
宇宙の暗闇とは違う。
宇宙であれば、遠くを見れば、煌めく星々が見られるはずだ。
だが、この場所にはなにもなかった。
彼は目覚めたことを後悔した。
「ちくしょう…どうして」
彼はそう呟くが、その言葉も音として広がることはしない。文字として表示されることもない。
◇ ◇ ◇
…どれくらいの時間が経っただろうか。
数秒かもしれないし、数年かもしれない。
彼は自分がどれくらいの間、ここにいるのか判断できずにいた。
この空間には、時間という概念が――正確には時を測るものがなにひとつなかったのだ。
ただ、彼としても無為に時間を過ごしていたわけではない。
この空間内で、自分が思いつく限りのことを試していた。
だが、そのどれもが失敗に終わっていた。
なぜならこの場所には何もなかったから――
何も聞こえない、何も見えない、何も感じない、完全なる無の世界。
彼はずっとその暗闇の中にいた。
孤独である、心が壊れそうだ。
いっそ、壊れてしまえばいいのだが…
だが、彼の意識は今もずっと、正常なままこの空間の中にあった。
むしろ、彼の意識のみがこの場所でただ1つ確実に存在するものだった。
あるのか分からない時間だけが、過ぎていく――
変化が起きたのは、どれくらいの時間が経ってからだったろうか…
突如として、彼の視界が開けた。
驚いて、あたりを見回すと、そこは殲闘騎のコクピットの中のようだった。
「ここは…シグルドの?」
だが、彼は違和感を覚える。
こんなコクピットは、見たことがない。
そのコクピットは、壁も、ハンドルも、ありとあらゆるものが薄紅色をしていた。
エースパイロットの専用機か?
いや、それでも、ここまでのカスタムができるものなのだろうか?
なんにせよ、とんだ塗装好きもいたものだ。
そんなことを考えながら、視界を拡大してみる。
そして、彼はコクピットの異常に気がついた。
薄紅色の正体が塗装ではないことに気がついた。
それは、まるで機械のハンドルを生物が模倣したかのような構造をしていて…
「これって…」
嫌な予感がする。
彼は、殲闘騎のシステムを起動すると…機体の現在位置を確認した。
「…なっ」
表示された場所を見た彼は、絶句した。
そして、大慌てで外の景色を確認する。
「嘘だろ…ここって…」
その場所はコクピットの内部と同様に、薄紅色をした空間だった。
生物由来の色…
土も、木も、空も…全てが紅い。
「じゃあ、ここは…本当に…」
彼が目覚めた場所、そこは…
数世紀前に宇宙怪獣によって奪われ、彼らの住処となった星であった。
【太陽系 第三惑星地球】
紅い空に、紅い大地…そして地上から生える、植物のような形をした触手。
記録映像で見た――人が住んでいた当時の環境とはずいぶんと違う。
だが、シグルドはこの場所を、確かに地球だと表示していた。
「なんで、俺…地球なんかに? 俺は…ミソラと一緒に宇宙怪獣と戦っていた…はずなのに」
彼のつぶやきは…誰にも聞き取られることはなかった。
いや、聞き取られるわけがなかった。
なぜなら彼――クロウ・シノサカには、体が存在しないのだから。
◇ ◇ ◇
この日、目覚めた彼の人格は、自身をクロウ・シノサカだと認識していた。
だが、それは不自然な出来事であった。
普通ではありえないことであった。
あってはならないことだった。
なぜならば…
地球で目覚めた彼がクロウ・シノサカであったとするなら…
この地球と、遠く離れた銀河で…
2人の同一人物が存在することになるのだから。
「銀河のドラゴンスレイヤー」鼓動編・了
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・『銀河のドラゴンスレイヤー』新編は2018年5月上旬より連載開始予定です。




