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禁域

夏も終わり涼しくなってきた9月の中旬。

様々な人が一つの場所に集まっていた。


そんな場所の少し離れたところで


「全く、遅いぞ幾人!」


平八は待ち合わせに遅れてやってきた幾人に叱りつけるように言う。


「すまない、3人もすまないな。ちょっと用事が長引いた」

「まぁ、俺としてはいいけどよ、お前たちはどうよ?」


平八そういって他の3人、恭平、瑠衣、桜に聞く。

3人は平気だと答えると平八は良しと言って先導していく。


「さぁ行くぞ!諸君!」


そんな状況の中でとある3人組を恭平は見つける。


「テンション低いぞ!晴臣!」

「そうよ、もっとはしゃぎましょ!」

「いやいや、二人のテンションに付いてけてないだけだよ」


仲の良さそうな3人ではあるが、恭平には少し違和感があった。

一人、中心であるその少年が心を閉ざしてるように見える。


「まるで…あいつ…みたいだな」


ふと、幾人の方を見ると珍しく、幾人の表情が崩れていた。

それは驚愕であり、汗をビッショリかいている。


恭平がその先を見ると


二人の少年が一人の少年に怒られていた。


「お前達は関係者側に回れ!」

「いや、俺たちだって一応、ライブに興味があるし」

「ここまで人気なら見てみたいのだが」

「うるせぇ、お前達は護衛で見る余裕なんかねぇよ」


二人の少年が引きずられていってる様子だった。

幾人が二人が離れていくのを見てホッとしている様子を恭平は見ていた。


「知り合いなのか?」

「…珍しいな。お前から話しかけてくるなんて」

「いいだろ、別にさ。会った時は確かに感情に流されたけど、あの時、本当は別の目的があったんだろ?」


恭平の言葉に幾人は言葉を失う。

そして、下唇を噛んで息を吐く。


「何だろうな、多分…血なのかもな」


幾人はポツリと呟く。

恭平は首を傾げる。


「お前もその気がある、俺たちは多分、勝手に一人で背負っちまうような人間に生まれちまったんだよ」

「…何となく、分かるような気もするな」


幾人は静域を思い出しながら言う。

どうしても関係ないと思った人間を突き放す傾向がある。

それは自分一人で出来る、その結果周りを助けられる…そんな勝手な押し付けが気遣いが彼らにはあった。


だからこそ恭平は分かってしまった。


「だからと言って俺がお前達を見捨てたことには変わりない」


幾人の自嘲に恭平は体を強張らせる。


「言わないとわかんねぇだろ」

「それはお前も同じだろ?」

「俺は…」

「お前の幼馴染の瑠衣は何でそんなに怒っているんだろうな?」


その言葉に恭平は何も言えなくなる。


「自覚していても誰かに助けを求められるほど俺達は器用な人間じゃないんだよ」


幾人のその表情は諦めにも似た酷く乾いた笑みだった。


「なぁ、幾人…全部…」


恭平が言おうとした瞬間、列が動き出す。


『はい、押さないでください!』


スタッフの声が聞こえてきて、恭平たちの話が途切れ5人は歩いて行くのだった。


他の3人は3人で話していた為、幾人たちの話が耳に入ることはなかった。



**


息を呑む。


私こと北条 祈にとってここが初の大舞台。

他の四人も私と同じだ。


だけど、どこか雰囲気が…


「みんな、どうしたの?」

「え、あいや、何でもねぇよ」

「まぁ、僕達はさ…ほら」

「別に何でもないわよ…でも、やっぱりそうよね…」

「分かりきってたことですけど…まぁ〜そう言う感じよねー」


恐らく私には分からないプレッシャーが四人にはあった。

でも、何かを言おうとは思ってない。


言ってしまえば自分を責めてしまうと感じてるような気がする。


「ねぇ、みんな…提案があるんだけどさ」


私は話し出す。

その提案に四人は驚いた表情をしていた。


「いいの?アンタ、自分で自分を貶めてるようなものよ!」

「いいんだよ、私はここにいる人みんなが満足できるライブにしたい!それだけだから」

「リハーサルなしのぶっつけ本番だぜ?」

「みんななら出来るよ!それにいざとなれば私が一緒に歌うよ」

「…僕は音痴だよ…」

「なら合わせよう!私も外して綺麗にして見せる!」

「本気なの〜?私たちのテンポを作るためだけに歌うって…」

「うん!だってみんなで楽しく歌って、踊ってそうすれば、ステージは5人いるんだから、みんな輝いて最高の感動を与えよう!私はそれをするためにアイドルになったんだから!」


私は全力で笑う。


「さぁ、みんなの覚悟は?みんなは何のためにアイドルになったの?」


その言葉に四人は言葉を失う。


何でだろうか四人の心が見える気がする。


ー初めはいつだったのだろうか?ー


ー子どの頃、憧れだったー


ー気がつけば自己承認のためになってたいたー


ー人付き合いが苦手な私が変われるにはー



「「「「あぁ、そうか」」」」


「俺は

「僕は

「私は

「私…は


彼女みたいに誰かに認められたかったんだ」」」」


声は出ていない。

でも、私には確かに聞こえた。


純粋だった頃の自分の願いが。


だから…


「それじゃぁ、オンステージだ」


笑顔で前に出る。



**



ライブが始まる。

その時、誰もが…感動した。


「すげぇ!歌姫だけじゃなかったんだ!」

「あの子、夢って子だっけ?可愛いしいい声だ!」

「キャー、銀様ぁー!」

「流くん視線送ってぇ!」

「星様ぁ!罵ってくださーい!」


誰もが違和感を覚えなかった。

それぞれがソロパートがある中で決して祈…いや叶だけはソロを歌わないし目立たない。

ただひたすらに全員に合わせて歌い続ける。


それでも


「スゲェな、やっぱり歌姫は綺麗で美しい歌声だ」


ステージに立つ5人が全員が主役。


そんな理想論が叶ったようなライブがそこにはあった。

そうしてライブが続いていき大熱狂の中で叶は楽しかった。


目に見える全てがキラキラとしていて叶にとっては素晴らしい時間が流れていた。


「さぁ!次の曲と行きたいけど!いい加減、アンタも歌いなさい!」


星が叶を前に引っ張り出す。


「歌姫って世間で呼ばれているんだ、いい加減歌った方が観客の期待に応えられるだろ?」

「は、話が違くない?」


銀の言葉に困惑する叶。


「大丈夫よー、叶ちゃんがヘマしたら」

「僕達が乗っ取ってやりますから」

「二人とも」


3人が背中を押す。

そして、引っ張る星は


「このグループのセンターはアンタしか務まらないわ!」


叶が今日、初めてステージの最前線に立った。

その熱気に、その光景に…


「あぁ、ようやく叶ったんだ」


涙が一粒溢れ。


「いくよー!」


歌い出す。


その瞬間、爆音が響いた。


「危ねぇ!」


叶はそんな声が聞こえた瞬間、咄嗟に振り返る。

叶がいた後ろ、四人がいる後ろの照明が纏めて落ちて行く光景が目に入る。


「みんな!」


叶…否、祈は急いで四人の方に駆け寄る。

すると、そこには四人を庇う、俊介、寧々、天馬、円華の姿があった。


「ててて…怪我はなさそうだな、他は大丈夫か?」


俊介が声を出す、庇った煌を見てホッと息を吐いた俊介は焦って周りを見る。


「こっちは大丈夫そうだ」


丈流を守った天馬の声。


「私は平気」


銀杏を守った寧々の声。


「何とか無事だよ」


空夢を守った円華の声。


俊介はそれを聞いて安堵の息を漏らす。


「ヒッヒッヒっ、あなた達が介入することは分かっていましたよ本条の方々」


酷く痩せ細った男がステージに上がってくる。

それを見た人間全員の体に鳥肌が立つ。


嫌悪感。


それがこのライブ会場にいる人間全員を支配する。


「あなたは…」

「おっと、動かない方がいいぞい」


祈が近寄ろうとした瞬間、男の近くにいた深くフードを被った男が一人のファンにナイフを突きつけていた。


「あんたのやられたくないことは誰かが目の前で死ぬこと…それだけわかれば動けなくするのは簡単さ」


祈は動けない。

いや、それどころかこう言った人気商売をしてる以上、俊介達も動くことができない。


周りのファン達は怒りで乗り出そうとしているが他にも男の仲間がいるようで突き落とされている。


だが、俊介はどうにか出来ると言う確信があった。


男達の背後から構えて踏み出そうとしている存在がいる。


炎が煌めく。


踏み出された足は人質にまっすぐ向かっていく。

だが、それは…



彼らにとって希望的なものでしかなかった。

踏み出した火鎚が地に伏せる。


別方向からとてつもないスピードで走り出した月葉が吹き飛ばされる。


雪矢が倒れる。


「ヒッヒッ、仲間がいることは織り込み済みだよ〜ヒッヒッヒッ。それと」


後ろの方で悲鳴が聞こえる。


パニックになって逃げ出そうとした人間が血を流して死んだ様子を確認した人間がざわつき始めて、動揺が連鎖していく。


そんな中で男だけが笑う。


「面白いなぁ、そう思わんか?たった一人の死だけで恐れてこうもパニックになり叫ぶ出す人間達…あぁ〜満たされる」


男は嗤う。


「この狂人が」

「東条 俊介、それをお前が言うのか?自分の目的の為に自分の理念のために親を殺したお前が」


俊介は拳を握るだけ。

もし、人質をどうにかしても会場にいる人間全員を守ることは俊介達にはできない。


さらにはファンに紛れて多くの協力者がいることも分かっている。

でも、俊介は誰が敵で誰が味方か分かっていなかった。

故に動くことができない。


「まぁ、思うことは沢山あるだろうな。だから一つだけ君達が助かる唯一の方法を教えようか。新入りアレをあの女に渡せ」


男の言葉に反応した人質を取っている男は自分のナイフを祈に向かって投げる。


それが好機と思う人間はこの場所にはいない。


「ヒッヒッ、この状況でもし逆らえば誰が死んでたのにな、残念だなぁ」


その状況を笑い、残念だと言う男はそう言って人質を取ってる男に新しいナイフを渡す。


「さぁ、北条 祈。自害しろ」

「え?」


唐突なことに驚く祈。


ガギンッ


響く金属同士のぶつかり合う音。

それは一つではなかった。


二つ。


雪矢と火鎚が動き出した。


「あいつら…」


俊介は二人を見て怒るが…それを諌めるのがすぐ近くに現れた。


「本来、君達本条家はあの二人も同じ考えでなくては困ります」


少女の声、その声に煌と共に俊介は反応する。


「アンタは…」


そこにいるのはフードを深く被った少女だった。

桜色の髪が見えており、それだけで俊介は誰か理解した。


「狂い咲き桜の…」

「えぇ、那奈です。とりあえず…今回はあの二人の行動は間違いです」


そう言って那奈は小さな種を二つ投げる。

それは樹木のようになり火鎚と雪矢を拘束する。


「ほぉ、流石に人質を一人殺そうと思いましたが…仲間割れですか」


男はそう言って那奈を見る。


「そうですね、今回の一件、決めることができるのは護衛の彼らでも私たちでもありませんから」


遠くでキッと月葉が那奈を睨む。

彼女は構わずにナイフを拾う。


「選択するのは君らでもあなた達でもなく、祈…あなたの選択が必要です」


そして那奈は祈にナイフを持たせる。

周りの視線は那奈と祈に向けられる。


「彼女に選択肢があるとでも?」

「ありますよ、少なくともここで死なずにこの会場、全てを見殺しにするか、自殺を選ぶかくらいのですが」

「彼女は全ての人間を救いたい、そんなことを過らせる程の奇人ですよ!彼女の前には選択がないのにそれは詭弁ですね」

「そうなのですか?」


那奈はジッと祈を見つめる。

祈は息を呑む。


彼女が何を期待してるのか祈には分からない。


でも、彼女の答えは決まっている。


「あなたがあなた達が誰で何者で?何を期待して、何を恐れてるのかはわからない。でも…」


祈はファン達を見て大きく息を吸う。


「私のせいで誰が不幸になる。そんなのは嫌だ!」


誰もが目を見開く。


「ダメ!祈!」

「…ごめんね。月葉、あなたにたくさん助けてもらったのに。ごめんねみんな…私は…ここで」


ナイフを自分の首に突きつける。


「死ぬことを選ぶよ」


その言葉に反応したのは俊介と煌だった。

だが、その行動も那奈の放った光の柱によって止められる。


鮮血が舞う。


だが、それでも死ねない。


次に行われるのは自分の心臓にナイフを突き立てる祈の姿。


そして、心臓にナイフを突き立て胴と首が勢いで千切れ飛ぶ。


その様子を目撃した人々が悲鳴を上げる。


那奈は最後を見届け、そっと目を伏せる。


「那奈!お前!何をしてるのか分かってるのか!?」


俊介が叫ぶ。

それと共に、様々な人々が彼女を糾弾する。


「この人殺し!」

「お前のせいで叶が死んだんだ!」

「何やってんだよ!止めろよ!」

「お前は人の心が無いのか!」

「自分が助かる為に人を犠牲にする人間の屑が!」


それを聞いてもなお那奈の瞳は揺るがない。


「これしか最善は無いんだよ」

「ふざけんな!誰かが死ぬことが最善な訳ねぇだろうが!」


俊介が那奈の襟首を掴み上げる。


「ヒッヒッヒっ!素晴らしいですねー。多くの人間を助けようとした人間の考えを振り切って一人の人間を糾弾する。英断を行なった人間を非難する最高ですね」


男は大声で笑う。


そして、


「もう人質は要りませんね。新入り、傀儡と共にここにいる人間を全員殺せ」

「…っっ!わかりました」


一瞬、躊躇いが見えるが人質を取っていた男が動き出す。


「おい!話が違うだろうが!」


俊介の言葉に男は首を傾げる。


「確かに他の人間を助けたければと言いましたが、彼女が死んだ後はどうするかまでは言及したつもりはないですよ」

「テメェ!」


俊介は那奈を放り投げると男に向かおうとするが…


「動くな!」


那奈が静止する。

そして、


「あなたは最後に何を求めた。あなたは死ぬ前に求めたでしょ…もう、条件は揃った」


那奈はそして続ける。


「覚醒の条件は揃った」


その瞬間、会場が揺れる。

大量のエネルギーの奔流が会場全体を包み込む。


**


私は…


死んだ…はずだよね。


ジッと会場を見ていた。

私の体が見える。


思った以上に切断面はグロイものだなと思う。


私はまだ


「いいや、間違いなく君は死ぬ」


聞き覚えのある声が話しかけてくる。


「ゆうま?」

「あぁ、勇馬だ」


目の前には半透明の勇馬が座って私を見ていた。


「なんで?」

「今、君の脳内に直接、話しかけている。君の脳はこの話をし続ける限り死滅はしない。でも、外の情報は俺のこと以外、何一つ入らない」

「そっか、本当に死ぬんだね」

「うん、正確に自分の核を傷付けたからね」

「はは」


私は笑う。

よく見れば勇馬に少しだけ表情があるような気がした。


「ねぇ、勇馬」

「何?」


聞いていいのだろうか、答えは返ってくるのだろうか?


それでも私は聞かずにいられなかった。


「私は…あなたに感動を与えられた?」

「…」


勇馬はジッと見つめる。

そして、少し笑った。


「そんなことか、出会って初めてからずっと動いていたよ…心が」

「…嘘つき…」

「嘘じゃないさ」

「感動してないじゃん」


勇馬はジッと私を見て小首を傾げる。

そして、彼は首を振り笑う。


私をジッと見つめて口にする。


「ごめんね。俺は君を利用する。今までも…これからも」


私はそれを見て涙が流れてくる。


「ようやく…ようやくだ…」

「祈?」

「あなたの本心をようやく聞けた」

「俺の…?」

「そう、貴方の…残酷な言葉なのにとても優しい言葉」


私は涙で目の前が見えなくなる。

これは意識だけの空間だ。

それなのに…


「どうすれば良い?勇馬」

「君の望むようにすればいい。それが俺の願いと一致する筈だから」

「…」


私の…望むように


「君は死ぬ時、何を願った」

「みんなを救いたい」

「なら、それをすれば」

「できるの?」

「できるさ、それが君の力なのだから」


光が溢れる、それは私の中から抜け落ちて溢れ出てくる。


「これは…」


**


痩せ細った男は呆然としていた。

この光景は予想外のものだった。


「バカな…バカなバカなバカな!あり得ない!何をした!?寺等院 那奈!!」

「私の名前を知ってるんですね。そして、私は何もしてませんよ。ただ、あなたは選択を間違えた…それだけです」

「お前以外に誰がいる!?それをできる存在はお前しかいないだろ!観客も!本条のガキ達も!護衛のガキ達も!全員を転移させるなんて一介の人間には不可能だ!!」


そう、この会場にいるのは那奈と祈の死体、そしてこの会場を占拠した存在しかいない。

ファンに紛れた男側の人間も含めてここにいる。

故に


「私には敵対者と味方の区別がない。と言えば私が犯人ではないことが分かるでしょう」


那奈はそう言うが、男達はもう既に一人しかいない那奈に銃や武器を向けていた。


「まぁ、関係ないことですね」


那奈がそう言った瞬間、男の仲間達が倒れていく。


「なんだこの骸骨!」

「や、やめろぉ!」


那奈の呼びかけに応じた人や獣の骨が地面から這い出して来て男達を襲う。


「さて、主犯のあなたの名前聞いてなかったね」


那奈はそう言って木剣を男に向ける。


「ヒッヒッヒ、中々に厄介ですね。外との通信手段はこちらから絶ってしまってますし、この会場から我々を出さないつもりですか」

「興奮してるのは勝手だけどこちらの質問に答えて欲しいのだけど?」

「おっと失礼、私には名前というものが与えられていない、でも、私はこう名乗ることを許されている、よってこの称号を君に教えよう『嫌悪の殉教者』」


那奈はその称号を聞いて訝しむ。


「あれ、君の横にいる新入りは原善に属するから君もその組織に属すると思っていたのだけど」


那奈は先程から嫌悪の殉教者に新入りと呼ばれていた男、神宮を見て質問する。

嫌悪の殉教者は嗤う。


「中々に良い目をしていますねえ。しかし、なぜ私が原善に所属していないと思いで?」

「あら、そもそも原善は宗教的に見えるけど、理念を持った一つの組織であり、宗教的価値観を否定していた筈です」

「ヒッヒッヒっ確かに、原善は要らぬ混乱を起こさぬ為に宗教の全てを否定する形を持っていますねー、あーなるほど、安心してください。私は目的のために死ぬ故にそう呼ばれているだけですよ」


那奈はそれを聞いてなるほどとため息を吐く。


(規模が大きくなってしまってるから一枚岩では無くなってるわけか)


那奈そう結論付けると改めて木剣を構えて周囲を見回す。


「ただの雑魚でしたらあなた一人に全員殺されてしまいますね。しかし、こちらにはあなたに対抗するために四人の化け物を用意させていただきました」


嫌悪の殉教者の前に四人の男女が立つ。


それは先ほど火鎚と雪矢、月葉を抑えていた存在であり、一歩後ろで見ている少女が明らかにリーダーに見える。


一人は刀を腰に差している、和服の男だった。

黒い髪に碧い瞳をしており、長髪の髪を一纏めにしている。


一人は杖、正確に言うならスタッフと呼ぶような杖を持っているローブを羽織った初老の男性だった。

白髪、紅瞳をしており、同じく長髪であり、一緒に蓄えた長いヒゲと同じように広がっている。


一人は糸を指から垂らしている少女だった。

彼女は黄金の瞳と髪をしており、口元と髪は布で隠されており、表情や髪の長さが那奈から見てわからないでいた。

また、タイツのようなもので体を覆っており、最低限の布だけであり明らかに動きやすそうな服装だった。


そして、最後の一人


(1番後ろの素手の子が1番やばそう)


那奈はその存在を目に入れるだけで身震いがした。

雰囲気などを見る限り、その少女は強くは見えない。

脱力した様子で微笑む彼女は至って平凡な服。

それは違和感を覚えるほどにまでに自然体であり、決して強そうには見えない。


栗色のウェーブがかかった髪を弄りながらブーツのつま先を地面にコンコンとして履き心地を確かめている。


そして、全員に共通していることがある、全員見た目は違えど首輪をしている。


「さてと…ここから…ですね」


那奈は息を呑む。

男は嗤う。


(どれだけ時間を稼げるか…)


これ以上の言葉は無かった。

那奈は龍脈からエネルギーを取り出して竜の形を作り出して攻撃を始める。


糸使いがその竜を切り裂く、刀使いが一刀を持って切り開く、杖使いが杖を振るい破壊を齎す。


(救いは1番やばいのが動かないこと…)


那奈はそれだけを考えてそれ以上のエネルギーで自身の身を守る。

再び竜の形を取り放ち続ける。


攻撃を緩めればこの危険な四人が外に向かう。


那奈の人形はそこらの相手なら余裕で勝てるレベルにまで強力だが、この4人の一人にすら障害として認識されることはない。


神宮はギリギリ、障害となる。


そして嫌悪の殉教者はそもそもの相性の問題として彼が手を出していないと那奈は認識していた。


故に那奈にとって自分と言う存在が四人で戦わなければならない相手と認識させなければならなかった。


木剣を構えて那奈が踏み込む。


竜の形を模したエネルギーは複数、次々に現れていき四人に迫り来る。


それを防ぐことに四人の力を割く状態を作り那奈は近接に持ち込む。


だが…


ガンっ


目の前に出て来たのは素手の少女だった。


「君、おもしろいよ」


彼女は木剣を指で摘みながらそう言うと木剣から手を離して那奈の腹を蹴る。


「カハッ!!」


その衝撃は強く、那奈の体は軽く吹き飛んで奥までバウンドしていく。


「はぁはぁ…流石に近接戦闘は無理ですか…」


那奈はそう言うとより多くの竜を作り出して放つ。

四人はそれを弾く。


だが、弾くよりも早く次の竜が迫る。


このまま四人を押し込めるなんて希望は那奈にはない。

素手の少女だけは違ったのだ。


一人だけ竜をものともせずに一撃で弾き飛ばす。


(いくら私が万全じゃないと言ってもこれは流石に足止めできる時間は少ないですね)


那奈は人形を作り弓で牽制を始めながらそんなことを考える。

そんな中で誰も気づいていない。


祈の死体がこの場に無くなっていることに。


**



ライブ会場から離れた市街地にて、ファンや俊介達は立っていた。


急なことで何が起きたかとパニックになる人混みの中、一人外れた場所に俊介はいた。



『ようやく通じました』

「その様子だと何度も連絡しようとしてくれていたようだな。どうやらライブ会場全体に通信障害を意図的に起こされていたみたいだ」


闇の構成員との連絡をし状況の報告と把握に努めるようにしていた。

だが、俊介にとって今1番、知りたいことは自身の情報を明かすことではなく、


『それよりも現在、ライブ会場より半径10キロほどの地区で大規模のテロ活動、破壊行為が行われています』

「それはこちらも確認している、ライブ会場内では気づかなかったが一歩外に出れば火の手があちらこちらから見える」


そう、俊介達が転移させられて初めに見たものは倒壊したビルや爆発音、火事などの破壊活動の現場だった。

幸いにもあくまでも見える位置であり、テロ組織が俊介達の所には来ていない。


だが、ライブ会場もまだ近いため、周囲の安全は最悪と言ってもいい状態だった。


『おそらくライブ会場の通信障害などに対して行われている陽動だと思われます』

「にしては大規模なことだな」

『本命を隠すなら大きい方がより効果が大きいですからね』

「木を隠すなら森の中と言った話か?とは言っても、これだけの人員を無為にできる裏のある組織は情報網にないな」


少し考え込むが何も思いつかないと踏んだ俊介はすぐに思考を切り替える。


「お前達は警察や絶対悪と連携してテロの収束を行ってくれ、こちらはライブ会場にいた人間の保護に努める」

『了解』


通信が終わり俊介は近くで様子を見ていた10人を見る。


「煌、お前は今から客を落ち着かせろ」

「わ、わかったけど…そんないきなり」

「俺たちを雇ったのはお前だ。それくらいの協力はしてもらうぞ。一般中学生とアイドル、どっちの方が人の話を聞きやすいか分かるだろう」

「了解、みんなもそれでいい?」


煌は他の3人にそう聞くとそれに納得したようでさんにとも頷く。


「頼んだぞ、そして火鎚と雪矢、月葉は客を守るために散れ人数は多いから守り切る為に今回ばかりは能力の使用制限は無くす。記憶処理はこっちでどうとでもする」

「「了解」」


火鎚と雪矢は返事をし、月葉はいきなり振られたことに戸惑いながらも頷く。


そして、最後に俊介は自分の仲間を見る。


「天馬、円華はアイドル組の警護兼説明役だ。二人なら前に立つことも得意だろ?」

「まぁな」

「オッケー」

「寧々は偵察兼連絡中継を頼む。俺は周辺の様子見だな」


一通りの指示を終えて俊介は一人、集団から外れていく。

そうしてる間に徐々に落ち着きが見え始めて安堵息を漏らしながら俊介は市街地に出る。


「状況…いや、聞くまでもないか複数の武装集団が破壊活動を行なってるわけか」


目の前に広がる光景を見てポツリと呟く。

すぐ近くには黒い衣装に包んだ闇の人間がおり、俊介の後ろについていた。


「はい、現在は破壊活動を行なっていると思われる組織は少なくとも五つほど確認しています」

「なるほど、目的は?」

「能力者という存在を世界に知らしめるそうです」

「ほーその組織達は協力して行なったと?」

「いえ、どうやら同時に同じ場所で行なったそうで、組織同士の抗争まで発展してます」

「は?」


俊介は状況を整理しようと眉間に手を当てる。


「どういう状況だよ…たまたま時期、場所全部が一緒だった?何かの誘導の可能性は?」

「いえ、一組織のリーダーを捕らえて尋問しましたが特に何も」

「今考えても答えは出なそうだな、警察の方との協力は」

「現在、同じように暴れてる組織として処理せざる負えない為、手を出さないでもらいたいとのことです」

「…そうか」


俊介としては予想通りであり、それと同時に悠長な時間はないと感じた。

だが、それでも彼にとって取るべき行動はまだあった。


「お前達は監視を続けろ。今から俺は個人として一人でこの騒動を鎮圧してくる」

「…分かりました、では我々は監視を続けます」


それと共に闇の人間は消えていく。

息をゆっくりも吐く。


俊介は腕章を取り出して腕に付ける。


それはあの戦いを終えて疾風から渡されたものであり、


『そうだ、お前にはこれを渡しておく』

『な、なんですか、これ…』

『これは絶対悪の人間であることを証明するためのものだ』

『なんでこれを俺に?』

『お前がもし本条家の地位を頼ることができずに一人で動く時にはこれを付けろ。そしたら、俺が手を貸す』

『なんでまた…』

『君の知っての通り、東条…いや、十条の家は執行者だ…雪菜と那奈は根本は裁くという形の存在だ』

『何が言いたい?』

『お前は…そうだな執行者には向いていない。お前はどちらかと言うと正義の味方のような存在だからだ』

『意味がわからないのだが』

『簡単な話、お前は本条家に向いていない。だから本条家じゃ出来ないことをその責任を俺が取ってやると言えば分かるか?』


と、当時のことを思い出して俊介は笑みを漏らす。


「そういうことかよ。確かにこれは」


拳銃とそのホルスターを着けて戦闘準備を整えていく。

そして、前を向く。


「俺という個人でしか出来ない問題だ」


彼は一人で戦場に足を踏み入れるのだった。




**祈side


「はぁ…はあ…」


私は今、力が入らない状態となっていた。

先ほどの光で何かが抜け落ちたような状態となり、ただでさえ朦朧とした意識が霞んでいる。


勇馬はそんな私を見て何か戸惑っているように見える。


「予測が外れた。しかし、予定通りの現象が発生したのは間違いない…やはり……の覚醒の予測は不可能か…しかしそれはそれで…」


必死な様子だ。

…どれくらい時間が経ったのかな?


痛みも苦しさも消えて、段々と楽になっていく。

体が暖かく眠く…


意識が遠く…


そんな時だった。


「そうか、忘れていたな。記憶を失ったりと様々なケースのせいで覚醒を勘違いしていた。俺がやっていたのは覚醒ではなく力の引き出しだけだ」


勇馬は私をしっかりと見てそう言う。

今、寝ようとしている私を寝かさないと顔を近づける。


「勇馬、私…眠いよ…」

「そうか、眠る前に聞きたいことがいくつかある。いいかい?」

「ん、勇馬の言うことなら」


私は精一杯に笑えてるかな?


私は勇馬にとってどう見えてるのかな?


「なぜ君はアイドルを目指した?」

「え?それは私が感動したから」

「なぜ君は誰かに認められたいと思う?」

「そんなこと…私思ってないよ?」

「なぜ君は俺といたんだい?」

「頼まれたから」

「なぜ君は…」


ずっと質問を続ける。

こんなくだらない質問ばかりが続いていき…


私の心の底がざわめき始めていた。


なんだろうこれ嫌な気分。


これって…


これは…


嫌だ…もうこれ以上…聞かないで…これ以上、私を


「なぜ君は孤独を恐れているんだい?」

「…え、あ」


その質問は私が今までされた質問とは違い答えることができなかった。

頭が真っ白になる。


「なぜ君は人を救う」

「…」

「なぜ君は自分という人間を軽視する?」

「…………て」

「なぜ君は自分を見ようとしない」

「やめて…」

「なぜ君は深く関わろうとしない」

「なぜ…」


なぜ、なんで…やめて私を見ないで…


私に突きつけられる無限の疑問。


なぜ?

なぜ?

なぜ?


なぜ…なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ









何故…私はこんなにも人の視線を恐れてるのだろうか?


あぁ、違う…私は目を逸らしていたいんだ…。


この事実に…



あぁ、そうか、…



私の考えていたことは共有なんかじゃなかった。


私という一つの存在を使って、周囲を手助けしてるつもりだったんだ。


だってそれでようやく…私自身を…周りと対等に…



「それが君の思いか」


え?



**



私は目を覚ます。


身体中がふわふわしてるような感覚でなんか気持ち悪い。


「はぁはぁ…」


周りが異様に暗くてふと気づく、ここは


「昨日の森」


私が目覚めた場所は昨日、戦闘をした森の中だった。

そして、目の前には


「勇馬?」

「ん?気がついたのか」

「は、はい…なんで私は…」

「肉体の再構築を行う際に場所を移しただけだ」

「再構築?」

「あーその説明は…長くなるからなぁ…」


ふと、私は違和感を感じた。


彼のその視線、言葉、表情の全てが初めて見るものに感じた。


「もしかして…記憶が戻ったの?」

「…」

「え、違った?」


私のたどり着いた結論は一つだった。


「どうしてそう思った」

「…あなたの感情が垣間見えたから」


そう、見えたのだ彼の感情が…


「なるほどな、それはお前のせいであって記憶の有無ではない。そもそも自身の自我と自己の崩壊を起こさないために記憶がないだけだ」

「えっと、どういうこと?てか、それと感情がないことに関係があるの?」

「…あまり話すことではないけど、元々北条 勇馬という男の感情は後付けされたものにしか過ぎないとだけ、後は今度説明する。それよりお前のことだ」


あ、そうだった。

今の私は少し不思議な感覚がある。


なんというか自分の体じゃないというかふわふわしてるというか…


「透けてる!?」

「そりゃぁ、身体がなければ透けるだろ」

「勇馬の言い方が冷たい!?」

「そっちを突っ込むのは後にしろ」

「は、はい」


多分、コレが感情のあった時の勇馬。

なんだろう、少し冷たくて遠いようにも感じるけど私を見てる気がする。


「元々擬似肉体で構成されていた体はこの鍵の破損によって消滅した」

「鍵?」


私に見せてくる鍵はどこか見覚えがあった。

これは…たしか


「あ、トラックに轢かれた時に貰ったやつ」

「ほぉ、まぁそこはいい。コレがお前の肉体を形作っていた核だ」

「これを修復すれば…」

「それは悪手だ」


勇馬が私の考えを一瞬で否定する。

何故と考えるが特に何か問題が出てこない。


「そもそも1番の災いの種を折角壊したのに直すかっての」

「コレが災いの種なの?」

「あぁ、本条 響鬼や戦争屋の二つが少なくともこの鍵を作り出すまたは入手しようとしている。まぁ、前者はもうすでに完成しているようだから後者の方が厄介だ」

「そんな代物なの?」

「まぁ、封印都市の入り口を開く鍵だからな」


また、分からない単語が出てきた。

多分、彼の頭の中にはコレらの因果が繋がっているのだろうか?


「繋がってねぇよ」

「心をよんだの?」

「読んでない、正確には表層の推測と仮定で観測しただけだ」

「余計に意味が分からない」

「俺も理屈は理解してない。ただ教科書テキスト通り出来るだけだ」


一体何のテキストだろうか?

でも、分かったことがある。


感情が戻ったと言ってもまだ薄いように感じる。

そして、基本的な部分は未だに星を観測していた時のように演算を行い続けている感じがある。

その結果を表層的に戻った感情が演算結果を受け止めて語っているような感じだ。


「俺の推測してる場合か?まずお前は人〈・〉と対等になりたいんだろ?」

「うん」

「なら、まずはその透け透けのエネルギー生命体のままじゃなくて、しっかりと身体を構築しろ。ついでに自身の自我と概念の確立を行え」

「い、いきなりそんなこと言われても」

「出来ないとかじゃなくてやれ。じゃないと今、時間稼ぎしている那奈が暴走状態に入る」


あ、そっか。


私はようやく事態を飲み込めた。

あの時、きた少女は私が死なないことを知っていて1番被害が少なくなるように立ち回った。

その後、私が死んだ後もこれ以上被害を出さないようにしてくれているんだ。


でも、それも長く続かないなら…


「…」

「真面目にやる気になったか」

「それでどうやればいいの?」


私は聞く。

とりあえず、なんかフワッとしたよくわからないものの対処なんて私はしたことないゆえに手段が分からない。


「どうやれと言われても困る。お前の場合、誰かに教わるのではなく、自然とまた自分の感情に従うことが重要だ」

「それってどういうこと?」

「普通の能力者ならフワッとでもアドバイスはできる。でも、お前のようなタイプは違う。感覚というものが存在しない。と同じ事を説明することしかできないことから察してくれ」


彼は肩をすくめて首を横に振る。


え、何それ困る。


何も説明することができない。

ん、待てよ今の言い方少し引っかかる。


「それって私がそう言う人間だからと言うわけではなくて、力の種類がそう言う類ということ?」

「ん、あぁその通りだ」

「なるほど、それって私が当たり前のように使えると言うこと?」

「近くもあり遠くもある。まだ認識と覚醒が起きてないから当然のように使えないから当たり前ではない」


なんか、本当に難しい話だ。

でも、ここまでの話を思い出そう。


だって彼は長く長く問答を続けた。


そこに意味はあるはずだ。



「なんか言ってよ」

「特に間違いがないのに何を言えと?」

「冷たいな…」


でも、やっぱりなんか落ち着く。

てか、こらそこなんでって引かない。


本当に心読んでくるからタチ悪い。


「だから読めないぞ」

「それは読んでるの範疇だから」


私が何者で…


いや、そんなこと考える必要はない。


必要なのは私の考えと意思。


そこだけだ。


私は人と対等でありたい。


その形を成す方法。

私が人の為にできること。


それは…


私は言葉にすることを躊躇う。

そして勇馬を見ると


「俺自身お前の答えの意味がわからない。でも、口にしてみろ。その意思決定がその概念がお前を形作る」


その言葉に私は安心する。


心からその想いがその考えがあふれてくる。


「私は人の傷を背負い私の命一つで私は人の為になんだってして見せる。それが私の願いだ」


光が私の体から溢れてくる。


「そう、それだ、それが君の原点であり全ての在り方。例え君からその想いが消えていてもその考えが君の原点であり始まりである。故にその概念は…」


言われなくても分かる。

私の概念は…



**


那奈は現在、一人で6人の人間を相手していた。


「やはりあなたは危険ですねぇ」


殉教者は笑いながらそう言う。

だが、そんな言葉は届かずただ、僅かに残る意識の中で那奈は思考する。


(今の私は彼らにとって危険なものとして認識されている。お陰で彼らの抜本的戦力は私にしかヘイトが向いてない)


那奈が木剣を薙ぐ。

それだけでエネルギーの塊が6人を攫い那奈の前に無防備に出される。


「我が力は姿カタチを裂かぬ、そのツルギは心霊をもつて核を裂くものなり」


紡がれる言葉はまるで時間が止まってるのかと錯覚するほどにゆっくりに聞こえ、一瞬にして紡がれる。


「天上天下、我が前に無意味なり『現神薙天斬アラカミナグカミキリツルギ』」


木剣が光を放ち刀身を伸ばす。エネルギーによって構成された筋が剣筋を通り、脈打つ木剣になり、木剣の形も凸凹だらけの不恰好のものから綺麗な剣と見紛うような木剣へと変わっていた。


その剣を作り出した瞬間、那奈の動きに変化が起きる。

その動きは超人的なものへと変化する。

引き寄せたとは言えでも那奈と6人の距離は8メートルほど空いていた。


それでもこの場にいる全員にとっては踏み込み一歩の範囲。

要するに間合いの中である。


だが那奈は違う。


彼女の根本は霊の力であり、武技は然程のものでもない。

言ってしまえば3メートルが彼女の間合い。


達人の域に達したものが、もしいれば彼女を倒すことも可能だろう。


だが、それは『現神薙天斬ノ剣』が無い那奈の話である。


彼女の霊格の届く範囲、一キロメートル圏内が彼女の間合い。

そして、それは一歩の範囲では無い。


神宮は見た。


目の前に気がつけばいた那奈の姿を。


(速い…)


必死に体を捻るが空中にいる彼らは圧倒的不利にいた。

だが…

素手の少女がその状態を許すわけがなかった。


「…その一点の境地を『仙人』と呼ぶ!」


少女は蹴る。

それは空気そのものであり、決して動けるものではない。


だがそれに気づいた那奈は神宮に振るうはずだった剣を引き、足運びだけで少女を正面に捉える。


現在那奈に見えるものは他者の力の流れ。

それによってこれからくる攻撃、くる行動、全てが見えている。

だが、それと同時に見えていたものがあった。


(勝てないな。差があり過ぎる)


敗北の未来だった。

少女の持つ力は圧倒的なものと呼べるものだった。


現在の那奈と同じ何かしらの異常を持つか極致に立った存在。


その力に置いて本来優劣など簡単に付くものではない。

しかし、完全に錆びつき切った那奈と錆が少し取れた少女。


その差が今の戦力差。


瞬間的な打合い。


それは一度や2度ではなく何十何百も重なり合い互いにぶつけ合う。


拳と木剣。


一見、殺傷性の薄く見える二つ凶器。


だが、それは誤りであると誰もが認識できる。


少女の一撃が暴風となり、遠くにある壁を穿つ。


那奈の一つの動きで一瞬とは言えでも少女の動きが止まる。


(ありえねぇ…なんだよこれ…)


そんな中で神宮はそんなことを思っていた。


それもそのはず、現状、全員が動くことができる。

しかし、6対1なんて状況は存在していない。


実質、あの二人の一対一である。


(殉教者は兎も角、あの3人が横槍を入れてるが動きを止められて次の瞬間には打合いに戻ってる。実質無いと同義)


その現状は今まで神宮のいた世界ではあり得ないと言っても過言ではなかった。

いや、そもそも彼の捉えていた世界というものが違ったとも言える。


彼にとって世界は理不尽なまでに不平等と言えた。


生まれや存在が絶対であり、人として生まれた存在は例えどんな存在であれ、届くことのできない領域がある。


だが、この二人は違った。


人にして、人の身にしてその領域に片足…いや、そこまでは行っていなくても指先だけでも入っている。


神宮はそう感じていた。


拮抗した打合いの中で他の3人も動き出す。


那奈の体はボロボロであり、素手の少女相手一人と互角までは行けていなかった。

故に他の3人が動き出せば必然的に那奈の敗北…いや、死は確定する。


至近距離での打合いは3人の介入によって崩れていく。


杖を持っていた老人からは無数の雷が放たれる。


刀を持った男からは無数の剣線が放たれる。


糸を操る少女は舞台を壊して、舞台の瓦礫を糸で持ち上げて投げつけていく。


足場が崩れて体勢が崩れた那奈はこれらの攻撃を避ける術はない。


(…私の…いや…まだだ)


那奈の髪が輝く。


桜のような粒子が舞う。


「悪足掻き…させてもらいます!」


大きなエネルギーが那奈の木剣に集約される。

これは那奈の間合いであった一キロメートル圏内を支配するために使ったエネルギー、霊力そのもの…いや、この場合、こう呼ぼう、天格へと昇華したこの格の力を天力と。


その支配した力は木剣に圧縮されて解き放たれる。


「奥義…」


那奈は呟く。


「六色七斬流『無形の型』」


那奈は空中を歩行するように体勢を立て直すと木剣を両手で持ち振り上げる。


誰もがその光景を見て呆けていた。


それは殉教者や神宮、4人の強者、この場にいた誰もが今の那奈を見ていた。


「しまった…全員伏せて!」


それを言ったのは素手の少女。

動き出そうとした。


だが、遅かった。


「堕落」


この場の全員が膝を着く。



彼女の言葉は言霊へと変わり、誰もが頭を垂れる。


その一撃を避けることはできない。



はずだった。


ただ一人の異質な存在だけが立っている。


「ヒッヒッ…横着…しましたね。寺等院 那奈」


那奈から力が一気に抜ける。

急激な変化に那奈はよろめく。


「あなたは最初に狙うべき或いは全員を狙う瞬間を間違えた」

「…こんなこと言うのも間違いだとわかってます」


殉教者に対して那奈は睨み、そして吐き捨てる。


「ホント!嫌な奴ですね!」

「褒め言葉と受け取ろう」


その瞬間、殉教者は那奈の目の前にまで踏み込む。

それは先ほどまでの戦いよりも速く力強いものであり、那奈はそれに反応することができない。


掌底が叩き込まれて那奈の体は吹き飛ばされる。


那奈の体が壁に打ち付けられてそのまま崩れ落ちる。


「あなたの失敗は簡単、殉教者を軽視したことですね」


殉教者はそう言って那奈の近くに立つと腕を振り上げる。


「ほんと、そう…だね」


那奈は呟く。


彼女の失敗は嫌悪の殉教者相手に嫌悪の感情を向けてしまったこと。

それによって殉教者に力を与えてしまっていた。


那奈はそれを理解していたが、どうすることもできないことが事実だった。


故に…


「あなたは…嫌悪の感情を受け止める…それでいいんですよね?」

「おや、ここでお喋りですか、まぁいいでしょう。こちらとしても確認したいことがありますのでね。その通りだと解答しましょう」

「そ、それなら後悔しないでね。私の苦しみを絶望を怒りを悲しみを焦燥を無力感をその身に受けて…私の本当の感情を見せてあげる」


那奈の言葉…その意味を理解したものはこの場にどれほどいただろうか。

少なくとも少女は理解したように急いで那奈を殺そうと走り出していた。


殉教者は何かを悟ったのか腕を振り下ろす。


しかし、遅すぎた。


「これより執行の時間を始める」


那奈の一言にその場が凍りつくように遅くなる。


いや、正確にはそう感じるように濃密な天力が支配した。


この場の誰もが動けなくなる。

ただ一人を除いて…。


そんな中で素手の少女が呟く。


「これがかつて処刑人と呼ばれた者の力…」


那奈の瞳には誰も映っていない。

ただ歩いてるだけであり、ゆっくりと舞台の上に立つ。


それと共に濃密な天力が緩み、全員が動けるようになる。


刀を持った男が動く。


だが、男の動きが鈍化していく。

そうしてる間に那奈は歌う。


「全員!全力攻撃!分体を生み出される前に殺せ!」


素手の少女だけが次に起きることに気付く。

しかし、それは叶わない。


大量の骸骨…いや、正確には無数の肉を得た骸骨だった人の姿をしたものが肉壁となる。

そして、この場にいる全員に対して攻撃を始める。


それは先ほどまでの脆い骸骨とは違う。


「無数の骸…上立つ者は…神も人も在らず、深淵の中」


歌が支配する。


概念が書き変わる。


世界が反転する。


「死の超えた先に…我が頂へと骸にうえなく、死の先の今を我が究極へと行く」


…う…た…は続かない。


その意味にその意図に気づけない者はいないだろうか?


いや、そんな些事ではなく、過去ではない、……那奈……殉教者ではない者の嗅いでいない空想でなきものは明るくはなく、那奈ではない者は促すほかない。


過去でも未来でもない、他の場所ではない、人ではない、小さくない、何か不定でもないものが消えていない。

それは…それを…それが…








「なんだあれ…」


じん…少女でないものが呟く


それは………正常ではない。



**



川では無い場所の平和では無いものが緩やかではなくなった時。


森では無いものを検索していない者がいた。


「くっそ、見えるのに分かるのに何も分からない」


加藤はその山では無いものを見て混乱していた。

彼自身、その理由が分かっていない。


しかし違和感だけが流れ込んでくる。


疾風では無いものについてどう言及すればいいのか報告すればいいのか分かっていなかった。


故に何も報告も出来ずに加藤は混乱し続けるだけだった。



その時…


「おや、私と同じ野次馬がいるとはな」


男の声がした。

その男は老人とも青年とも、はたまた少年とも判別ができない。


フードを深く被っておりジッと加藤を見ていた。


「あなたは…」

「私は観察者とでも名乗っておこう。その名さえ出せば君の上は理解を示すだろう」

「…なるほど」


理解はしていない。

しかし、目の前の相手がどのような存在かは認識できた加藤は警戒をしつつもそれを許容する。


「それでなんで俺の前に?」

「それは君が困ってるように見えてね。ビルでないもの一帯を認識できないのだろう?」

「何を言いたいのかは分かったけどなんだその言い回し?」

「おや、私は紛れもなく川ではない場所を指した。いや、君にとって山ではない場所の名称は迂遠に聞こえているのかね」


不思議そうに観察者はそう言うと再度、ビルではない場所を見る。


「今、君に起きていることは正常でもあり非正常である。例えば私が君の名前、加藤と呼ぶ」

「なんで俺の名前を…」

「そう、君も私も認識している。だが、今、君の名を呼んだ時、君と私はこう捉える、疾風ではない者…或いは私ではない者とまぁ、派生は様々だ、要するに固有非固有関係なく限定し得る情報全てが否定でしか表現できない結果的に橋ではない場所で起きていることは確定的な認識として君は見ることができない」


加藤はその意味を理解し切れる程に観察者の見ている世界に浸かってはいなかった。

しかし一つ理解したことがある。


「これが疾風さんの言っていた。神の力…いや、或いは届き得る力の持つ次元の違い」

「なるほど、確かに君に持つ格とは違い過ぎる故に見えない…間違いとも言えないな」


彼の呟きに観察者はなるほどと解釈に頷く。


「では、一つ良きことを教えよう。那奈ではない者達は前進ではない事を行なっている。それによって向かいうつことができえないかは分からないがな」

「えーっと…んー」

「まぁ、私の発言をメモをしておきたまえ。私にとっては見えるのだから」


観察者がそう言って様子を見て状況を話していると唐突にノイズが聞こえる。


「これは通信機…」


加藤がノイズを鳴らす通信機を加藤は取り出して必死に音を聞こうとするがノイズ以外何も聞こえてこない。


その場にいる観察者以外は


「よほど聞かれたくないのかい?疾風」

「ーーー」

「なるほど、虚無による暴走を経て君の力の錆が取れたのか」

「ーー」

「私について何も分からないのならそれでいい。何度も言うが私は観察者だ」

「ーーー」

「そうだな、私は君を知っている」

「ーーー」

「何者であろうといいであろう。私は私の仲間と違い君たちと敵対する意思がないそれだけ分かってもらえれば個人的にこれ以上何も望まない。故にこの話は無意であると判断し切り上げたいのだが?」

「ーーー」

「確かにそうだな…なら君の同族の目的を話したら信用していただけるかな?」

「ーーー」


悩むようにノイズが小さくなる。


「あの、何を話してるのですか?てか、疾風さんは…」

「ーー…あぁ、すまない。色々と準備をしていたから勢いで話していた。加藤が聞きたいのなら聞いても大丈夫だ」

「私としてはそれは困りますのでーーーーとだけ」

「なるほど、確かに話せないか。すまないな加藤。今からお前は市街地の破壊活動の方を任せたい」

「わかりました」

「それと無線はここに置いていけ、少しお前に聞かせられないことがある」


明確に聞かせられないと疾風は言う。

疾風は基本的に部下に言えること言えないことは明確なものとして分けており、その上で部下にそれを伝える。

そこに嘘はなく、それを知った上で部下はその内容を聞くことはない。


故に


「わかりました」


それだけ言って加藤は去る。


「お前が何者かは永遠の謎だと俺は思ってる観察者」

「意外と簡単な答えだよ。君たちを知り君達を思う存在なのだから」

「そうか、一つ聞きたいのだが俺の計画を知ってるのか?」

「今のところ君の成そうとしてることは知っている。部下を全員引き込むのだろう?」

「…ああ」

「可能不可能の話しでは可能だが、アドバイスさせていただくと、君は不必要なものまで背負うつもりかい?」


観察者言葉に疾風は黙る。


分かっている。


疾風にとってこれは重荷以外の何者でもない。

確かに数は正義であると言うが、目の前の圧倒的な存在の前には数は意味など為さない。


彼はそれを知っている。


だが、


「お前もし…俺を知ってるなら分かるはずだ」

「…君が王だからか」

「そういうことだと。自分の手元にあるものを零さない」


その答えに観察者は笑う。

それは嘲笑などではなく、楽しそうにそして嬉しそうに笑っていた。


「ならば私から言おう。君なら平気だと」

「そうか、不思議と安心するな」

「もう一度聞くが本当に私が何者か知らないのかね?」

「あぁ、分からない。でも、あんたは俺には認識できない言葉を言った…だからお前にこの質問をした。それだけだ」


疾風はそう言うと一方的に通信を切る。

観察者はジッと無線を見つめた後…ため息を吐く。


「なるほど、これは失敗したな。これでは私が…ふふっ流石にないか。期待をし過ぎたよ。かつての級友よ」


そう独り言を呟くのだった。



**



ある公園にて、万を超える人がいた。


それはライ…ぶ…か…い…公園ではない場所から逃げてきた人によってごった返しており、彼らは現在市街地で起きている大規模なテロから逃れるために身を寄せ合っていた。


通常であればある程度開けており、バリケードもない公園で避難すること自体おかしな話だった。


だが、それでも問題ない理由があった。


「遅い」


月葉が近づいてくる武装集団を一人残らず殺す。

そこに躊躇いや迷いはなく、周囲に混乱を起こさないために公園より離れた、目撃がされ難い場所にてそれを実行していた。


「貴様!我々の崇高なる目的の邪魔をするつもりか!」

「崇高とか高尚とか言うならまずは他人に迷惑かけないことを学んでからにしてくんない。勘違い系やら凝り固まった思考系、不満の爆発系とか聞き飽きたんだよね」

「我々の意思をそんなチンケなものと一緒にするなぁ!!!」

「そ、」


月葉はヘッドホンを投げる。


男達は少なくとも10人はいる。

だが、月葉怯むことなく前へ進む。


リーダーの男が振るう力をすり抜けるように避け、部下の首に滑らせるように短剣の刃を突き立てていき、僅か1秒にも満たない一瞬のうちにリーダー以外の全員の首を切り飛ばす。


「ふぅ、なんか速くなった?」


そんな感覚に疑問に思って月葉は少し身体を確認している。


「な、何が…いや、そんな攻撃何度もできるわけがない!死ねぇ!」


リーダーの男は月葉の後ろから迫り来る。

男にとって能力者の持つエネルギーはとても少ないものであり、何度も月葉のような動きが可能と言う認識はなかった。


だが、


「頭上…注意ね」


ヘッドホンが男の後頭部に落ちる。


「ほら、だから言ったじゃん。まぁ、これで終わらせるんだけど」


男が衝撃で怯む瞬間には月葉は短剣を振るっており男を一撃で殺していた。


「やっぱり速くなってる」


難なくヘッドホンを空中で取った月葉は不思議そうに首を傾げるのだった。


しかし


「まだまだ、沢山いるわけね。まぁ、いいけどさ。この事態どう収集つける気なんだか」


次々に来るテロリストに対してその刃を振るう。


また別の場所では南条 円が戦っていた。


彼女は決して戦うことが得意というわけではない。


強さとしては然程もない。


だが、


「その音は聞いちゃいけないよ…ショックサウンド」


ギターを鳴らす。

音が大きな揺れとなる。


周囲のテロリストはそれだけで倒れていく。


「貴様!何をした!」

「そんなもの自分で考えたら?」


音が鳴る。

その音を聞いたものは次々と倒れていく。


耐えた者たちが円を捕まえようと襲いかかる。


「そこは私の世界だよ」


音が鳴る。

それと同時に大地が競り上がる。

いや、そんな程度では終えない。



大地が割れ隆起し、テロリストたちを飲み込む。


誰もいなくなった道の真ん中で円はため息を吐く。


その理由はこの先にいる一人の男が原因だった。


「よぉ、嬢ちゃん。あんた円華っていう歌い手だろ?」


それは長髪のプリン頭の男だった。

男はギターを持っておりニヤニヤとしていた。


「同じようにギターを扱うってことは音を使って共鳴反応を起こす。そう言う戦い方だろ?」


共鳴反応。


本来ならば、二人の人間がエネルギーを音という手段でぶつけ合うことによって周囲に強力な振動波を発生させる技術。


基本二人で行うその技は音を重ね合わせることによって起こしていた。


そんな音楽を嗜むこちら側の人間であれば誰もが知っている知識を披露する男。


そして何よりも…


「そういうあなたは盲目だけが取り柄の三流ミュージシャン…いえ、これでは三流に失礼か。盲目だけが取り柄で自尊心だけが育って未だにミュージシャンにすらなれない擬かな?」


挑発するように円は話す。


「舐めてんじゃねぇぞこのクソアマ!」


ギターの音が響く。

それにより共鳴が発生し、大地を砕く。

それに対して円は軽く音を鳴らして衝撃を軽減する。


「所詮は振動による現象にしか過ぎないからちょっとの妨害で簡単に霧散する」


当然のように語る。


「そんなことも知らずに先ほどまで有頂天になって語ってたの?」

「っっ!だが、テメェも決定打がないはずだ!」

「だから、盲目だと言ったのだけど」

「…は?」


男は思考する。

そして、冷や汗が出る。


「なんで、俺の目が見えないと?」

「本当に見えないという確信はないけどね。でも、情報の齟齬があればそれは認識する上での情報の違い。この場合、目視と推測したそれだけ」


男はここで言葉を詰まらせた。


(何を見逃した?何を失敗した?一体何をこの女はやった?まさか…)


円はギターを弾く。


それは耳を塞ぎたくなるような不協和音。


その音に思わず男は敏感な耳を塞ぐ。


「死の音」


その円の最後の言葉を聞かずに男は事切れた。


「ふぅ」


円は息を吐く。

額からは汗が伝っており、体も少しふらついていた。


「やっぱりこの力の負担はすごいな」


円は軽くギターを鳴らすともう大丈夫と呟いて腰を下ろす。


「お疲れだな」


そんな時にそんな風に声を掛けられて円は体を跳ねる。


「びっくりした…俊介かぁ急に声かけないで…探知にさっきまで引っかからない位置にいたのに」

「すまないな、急いでいたからお前の探知範囲の外から走ってきたんだ」

「一応500メートル強はあるのだけど…」

「つまりはそういうことだ」


俊介はそう言って担いでいた人を見せる。


「この人は?」

「どうやら、間に合わなかったみたいでな…」


俊介は少し俯くがすぐに顔を上げる。


「なるほどだから急いでいたのね」


下ろされた人はまだ若い青年だった。

だがら、身体中にはたくさんの弾痕があり、銃器で撃たれたことがわかる。


そして、それが致命傷となり息絶えていた。


「俺が見つけた時はまだ息があったんだよ」

「…」

「ままならないな。どんな強い力を持っていてもどんな丈夫な体を持っていても誰かを守ることはできない」


俊介の言葉に円はようやく口を開く。


「当然でしょ、私達は普通の人より強いだけ。結局はそれだけ」

「…そうだな」


俊介は拳を握る。

無力を後悔するように…


だが、


「歌ってのは人を救えないんだよ。歌は勇気を与えるというけど何もできないことには変わらない。だから私は歌に力を込める。歌で何かを実現したい。だって、そうすれば世界を世界中を救えるのだから…でも、どんなに私の歌に力があってもそれはできない」

「…」


円は空を見上げてギターを手に取る。

そして、曲を奏でる。


「だから諦めることもまた一つの答えだよ」


円は苦笑を浮かべて俊介を見る。


だが、俊介は首を横に振る。


「俺はそれでも…諦めることができない。ここで諦めれば何のためにあの日、本条家と戦ったと思ってる」

「俊介…」


俊介は再び戦地に向く。


「なんてな。ただの俺の我儘だ」


そう言って俊介は笑うと去っていくのだった。

残された円は…


「なんでうちの親戚ってこうも偏ってるのかな。私も人のことは言えないけどさ」



**



都市ではない。

そこに一人ではないのがいた。


「さてと、準備はいいか祈」


人ではない者が聞く。

それに対して


「わ、わからないが答えになるけど…」


普通ではない者が答えた。


「そうかそうか、それは何よりだ。でもな、お前がやらなくては禁域が生まれちまう」

「那奈さんを救えないとかではなく!?」

「それもあるが、世間的な危険があると言った方が緊張感あるだろ?てか、禁域と言ってわかるのか?」

「いや、わかんない…よ?」


……


「これより先に行けば本格的に俺たちの認知は修復不可能レベルにまで捩れ曲がる。常人が入れば精神に異常をきたして、廃人になる。それが禁域だ」

「…廃人に」

「ここからは俺は何も認知しない。那奈の禁域に対して今の俺じゃ無力だ」

「えっと…要するに?」

「祈が認知し続けろ。中で何が起きてるのか。ここはどこなのか、俺とお前が何者で誰なのか」


人で無…き…者がひら…くザザッ…ガァァァギィィィ!!


そこは摩天楼であった。

いやそんな事実はない…


そこはそこは…そこあそこあれあの……



何もない闇が…いや、そこに舞台…否…


勇馬は見た…いや、見てない、いや、それより…否、是…



**side???



かの者たちは『命』の禁域に足を踏み入れた。

二人の勇者たる者は


北条 優馬


北条 祈


の二人であった。


勇者たちは禁域に対する対抗手段を持っていない。

だが、その対抗する術の一端を勇者勇馬は勇者祈に授けていた。


おっと、これは少し呼び辛いな。


勇馬の目は無く、正確に認知する術はない。

だが、祈は違う。


だが、彼女にそれは可能か。


彼女の心の中は…


ー気持ち…わる…なんだっけ?何を考えて…いや、それより…あれ?おかしい…これは…何をしたいんだった…あれ今何を考えて…ー


と言った風に自身の感情に対する認知すら歪んでいた。

その分彼はすごいね。


流石は後付けで生まれた感情つくりものだけはある。


そして、この禁域内に他には…



殉教者と呼ばれる存在達はもう既に撤退している。

まぁ、禁域をどうにかするのなら拘束してる仲間を解放しないと反撃もできないのだから妥当な判断といえよう。


おっと禁域という言葉を注釈し忘れるところだった。


禁域というのは言ってしまえば神に近い領域と言える。

霊天神の中でも神に限りなく近づいた者であれば人間でも使える力。


そこでは何が起きるか。


まぁ中身は人によって違うが、一律して起きることがある。


それは神に届かぬ者達に送る試練。


存在と認知の曖昧化だ。


中に入る、観測する、ただそれだけのことでそれは発生し、自身の認知が歪められて現実を認識できなくなる。


その対策として否定によって徐々に認知を定める手段がある。


それは間違った解答だ。

禁域の外にいるのならそれも一つの解答と言えたであろう。

だが、中は話が変わる。

完全に歪められた認知は自分が立ってる場所を否定することすらできない。

ましてや自分が誰なのかすら分からなくなり、自己の存在を希薄化する。


そう、思考すらも認知できなくなり、自己意識が壊れていく。


故に自身の体を認知できなくなり走ってるつもりが止まっていることだってある。


故に今彼らを襲っているものは…


自己形成である。


己が形を明確化し認知するのでは無く定める必要がある。


そうでなければ彼らの肉と魂はその場で自壊することであろう。


さぁ、勇者達の選択は…もう時間がないぞ。


『命』の代弁者達は既に君たちを殺そうと動いている。


ん?


ようやくか



(まずは私の名前を言う)


祈は心で反芻する。


(私は…誰?…いや、分かるはず)


「私は北条 祈」


その言葉は彼女の存在を定義するものだ。

故にたったその一言で彼女は五感を取り戻し四肢の制御権を取り戻した。


お見事だ。


彼女は今、神殺しの資格を得た。


**祈



ようやく私は目が見えるようになった。

だけど、その目の前に映るのは歪み切った世界だった。

私は空中に…否、どこに立っているのか分からない。


足元に床と呼べる者がないと思ったが次の瞬間には床に立っている。


そう思えば天井に壁に椅子に机の下にと私は自分が立っている場所がわからなかった。


あれ、そもそもここに机はあったのだろうか?


いや、あったのだろう。


そもそもここは何処だったか?


と言うより、私が見ていたものはなんだったのだろうか?


暗闇しか眩しい?


あれ、何これ?


「祈!!呑まれるな!言っただろ!俺たちのいる場所を考えろ!」


誰かの声が聞こえる。


後ろからだ?

いや、前から?


違う右から…いや、左…ううん、上だ…違う私の真下…



分からない…さっきまで何を考えて…いや、この思考は危険だ。


「私は祈…北条 祈…そして、今話しかけてきたのは北条 勇馬」


言い聞かせる。

そうすれば…


見つけた。


私の目に映るものは全てが認識できない中で一人だけ見えた少年。


それが北条 勇馬だった。


「って、血だらけ!?」

「ようやく、出来たか。これで俺はお前を認識できる。まぁ、でも他のものは相変わらず真っ暗なままだ」


勇馬の体は血だらけで今も戦っているかのように忙しなく動いてる。


「何がいるの?」


私が聞くと…


「残念ながらわからない。でも、危害あるものに反応して動いてるわけだから結論を言うなら何かいる」


勇馬は淡々と答える。


それは何処か冷たく機械的にも感じた。


だが、それを考えるよりも前に私のやるべきことがある。

次にやることは…えっと…なんだったか分からなくてなってきた。


そもそもここは何処だったのだろうか?


「歌え…お前の根源だろ」


ぐちゃぐちゃになっていた私の思考にその言葉が届く。

そうだ、そうだった。


まずは歌おう。


歌が支配する。


その歌は万物を魅了するものではない。


その歌は素晴らしいものと評されるかもしれない。



でも、最高ではない。


私の望みはただ一つ。


この歌を聴いた人が救われますように。


その思考に辿り着いた瞬間。


視界が開けていく。


気がつけば私はライブ会場のステージの上に立ち。

傷だらけになっていた。


でも、その歌は止まらない。


いくつもの巨大な髑髏が…いや、あの場合、骸骨…いや、がしゃどくろに近い物が大量にいた。


「分体までは認知できなかったか」


勇馬がポツリと呟く。

そこでようやく思い出していく。


私がやるべきことを。



『まずは自分が誰か問え、その答えが最初の関門を乗り越えられる。その次は場所か仲間だ。とにかく、自分のいる場所を認知する必要がある。仲間は俺だったらアドバイスすることができるからだ。最後は分体と本体だ』


正直、分体と本体の意味が分からない。

それでも、


いける。

私ならできる。


後は彼女の名前を…


「那奈」






何も起きなかった。



「え?」


なんで?


どうして?


だって認知を…


私は勇馬を見る。


「すまない…俺の考えが甘かった」




**



火鎚は今避難してきている人々を守るために現在、普段から人通りが少ない小道にいた。


「ふぅ、こう言った連中はこう言う道の方をなんで通るのかね」


呆れたようにそう呟いて周辺に転がる人間、一人一人を拘束していく。

その際に死んでしまった人間は端に寄せていた。


その数は他の円、寧々、天馬の相手している数より遥かに多く、そうやってゆっくりと拘束してる間にも…


「人、はっけーん!」


ロケットランチャーが放たれる。

それ以外にも無数の発砲音が響き、火鎚を殺そうと死線が迫ってきていた。


「はぁ、全く…永炎」


炎が逆巻く。


「鉄の融点…あれ、弾丸とかって鉛だったか?まぁ、いいか。こんなポッと出した炎でも3000度はある。この程度簡単に蒸発してしまうさ」


火鎚は歩き出す。


「ば、、化け物が!」

「くそっ、なんでこんな危険な能力者がこんなところに」

「いや、魔力を込めた弾丸を浴びせろ!」


テロリスト達は慌てながらも火鎚を殺す弾丸を用意していく。


だが、


「無駄だ」


火鎚が踏み込む。

1番近くの男に掌底が入る。


「ば、馬鹿な五十メートは離れていたんだぞ!」

「いいから撃て!」

「しかし、仲間が…」

「今ここであいつを放置すれば次は他の仲間だぞ!一人の犠牲であの化け物を殺せるなら上々だ!」


一人の言葉に戸惑いながらも発砲する。

だが、躊躇うものも多く存在する。


「はぁ、俺たちもそうだがこう言う仲間意識が弱点なんだよ…こう言ったあぶれ者組織は」


火鎚はそう言って発砲した人間から制圧していく。

その際に制圧された人間は味方の弾丸により死んでいく。


「俺たちの礎になれよ!」


再び放たれるロケットランチャーに火鎚は反応する。

近くにいる仲間諸共殺す気で放たれた弾頭。


今までの行動から火鎚は自分から人を殺さないと踏んでの行動。

故に先ほどのような炎は周囲を巻き込み殺してしまう故に出来ないと…


「はぁ、バカだろ」

「ッッガ…な、何が」

「今までの動きを見ていればこの程度の遅い弾丸相手に遅れをとると思ったのかよ」


火鎚は放たれた弾頭が着弾するよりも速く動き男を制圧していた。


「本当に…お前は…人間なのか?」


その言葉に火鎚は少しの間、沈黙する。


そして


「さぁな、少なくとも俺を人間として生きることを願ったものならいる。どうしようもなくお人好しの馬鹿がな」


そうして火鎚はまた一つの組織の制圧を終えるのだった。


「とは言ってもこうもバラバラの組織が同時にテロとか何が起きてんだか」


火鎚はやっと終えた拘束作業の開放感を味わいながらも考えていた。


(今回の一件、ただの陽動にしてはおかしなことばかりだ)


火鎚の抱く疑問はいくつか存在した。


一つはテロの規模。

ただの陽動であれば少人数の立てこもりなどで十分である。

しかし、これは何十…いや、下手したら百を超える組織のテロである。


そして、それに付随した疑問。


決して協力してない点である。

起きてることを考えれば一テロリスト達の暴走とも取れる。

しかし、組織的に動いてるのが多く、その上で同じテロリスト同士で抗争している。


「そう、まるで偶然…偶々…同じ日の同じ時間に全く同じようにテロを起こしたように…」


至った結論に火鎚は息を呑む。


(果たしてそれは本当に偶然なのか…それは)


そこまで考えた時だった。


「なんだ、懐かしい気配を感じたと思えば君か」


その言葉に火鎚は振り返る。


その先にいたのは…


「誰だ?」


黒と赤の入り混じった髪をした男がそこにいた。


なんとなく散歩してきたような軽さで、火鎚を見ていた。


「あぁ、そうか俺はいない存在だったね。なら初めましてだ。『要素エレメンツ』の炎を司る者、いや、俺の視点から見たら炎の擬似要素レプリカエレメンツ火鎚」


男はそう言って火鎚を見据えていた。

久しく執筆作業をご無沙汰していたので、指が動かなくなっていました。

そして、暫く、雪菜視点と交互にやる予定でしたが思った以上に今回側の話が膨大でしたので次もこの視点でいかせていただきます。


さて、今回色々な要素が更に出てきて混乱してることでしょう。

パッと答えられるものでもないのですが疑問点などがありましたらぜひ感想などでお聞かせください。

言えない部分についてはノーコメントとさせていただきますので返信は最低限になると思います。

誤字脱字についても教えていただけると嬉しいです。


気に入って頂けたならブクマ評価してくださるとやる気に繋がります。


これからも不定期になりますがよろしくお願いします。

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