魔法少女と覇者の王3
「はぁ…はぁ」
息を切れる声だけが少女を支配する。
目の前にあるのはクレーターのできた地面だった。
少女…カノは目の前にいる自分の師匠となる少女、雪菜を見て乾いた笑みを浮かべる。
「━━━━」
雪菜が話しかけるがカノの耳には届かない。
疲れ切ったカノの耳に届くのは心臓の鼓動と自身の息遣いだけだった。
(視界がぼやけてる)
目に映るのは白んだ景色であり吐き気を催していた。
(苦しい…辛い…キツイ…なんでこんなことに…でも、あれより…あれ?どうでもいい)
カノは立ち上がる。
「もう一度…お願いします」
その言葉に雪菜は…
「いや流石にやめようよ」
ドン引きしていた。
約三週間の間、ぶっ続けで訓練していた。
雪菜の体力は問題ないが明らかにカノのオーバーワークだった。
何度も止めているのだがまるで聞こえていないようにもう一度と繰り返すのみだった。
現に今も
「もう一度…もう一度お願いします」
あまりのエンドレスさに気絶させるために雪菜は強めに攻撃したのだが一向に倒れる気配がないどころか徐々にカノの動きが良くなってきていた。
それは成長というより
「まるで思い出してるよう…」
雪菜は顔を引きつらせる。
この顔をこの意思を彼女は知っていた。
それは、だがそんなわけはないと雪菜は首を振り正面を向く。
「次は確実に意識を刈り取る」
雪菜の目の前に剣が顕現される。
その剣を手に取り目をつむる。
「その一刀は万物の流れを断ち切るために、その一刀は星をこの手にするために」
目を見開く。
辺りが痺れるような空気が流れる。
雪菜にとって本来この文言は必要のないものであった。
しかし錆びついた彼女の力を安全に引き出すためには唱え、明確化する必要性があった。
故に
その一撃は雪菜が今まで扱ってきた中で間違いなく最高の一撃。
三週間の徐々に上げてきた出力が錆びついた自身の力の油となり全盛期まではいかなくても今までに出したくても出せなかった一撃を振るうことができた。
その一撃はお世辞を言っても鋭くはない鈍いものだった。
その遅い一刀にカノは
(あぁ、これは…遅いんじゃない…私の魔力が周囲の魔力が奪われていく…)
理解した。
しかし理解したところで防ぐことができないことを理解するだけだった。
例え逃げ離れたとしてもその剣は吸い込むようにカノを引っ張り切り捨てるだろう。
「…解放」
雪菜が呟く。
瞬間何かが弾けた。
剣は切り抜いたように加速し目に見えない速度で縦に振るわれる。
その一連の行動がエネルギーの奔流を生み出しカノを吸い寄せ、切り伏せる。
「|総てを手にした一刀(覇者)」
雪菜はふうっと息を吐くとゆっくりと腰を下ろす。
「この体で今の一撃に無理があったかぁ」
体の節々が痛みを訴えかけ、放出されたエネルギーに耐え切れなかったエネルギーの回路はボロボロであり雪菜の体から血が出ていた。
守護の癒しで自身を治すが
「治しきれなかったかぁ」
魂にまで負担がかかっておりあくまで肉体の保護を目的とした彼女の回復能力は相性が悪い傷だった。
「おっとカノは死なないように注意したけど、さすがに気絶したね」
安堵し雪菜は彼女をとある小屋に運んでいく。
その小屋とは
「ようやく帰ってきたか、心配したよ」
一人の少年が私を迎えてきた。
彼は明日美であり、どうやらこの辺りで雪虎に稽古を付けていたと雪菜は把握している。
だが現在、雪虎は修行の最終段階に入っており、ある老人とひたすら本気の切りあいをしていた。
「にしてもまさか君があの町側から来るとはね」
「そんなにおかしいこと?」
「おかしいよあの町の入り口は基本的にこの山しかないと言えばわかるかな?」
「なるほどここに二回ほど侵入してるけどそれは異常ね」
彼女は苦笑いをしながらそう言ってのける。
そんな彼女に明日美は苦笑いする。
「にしても雪菜も無茶したね、錆びついたその力を使う意味を理解してるのかい?」
「えっともしかして相当やばいやつ?」
「ふむ、そうだなぁ勇馬のバランス崩壊を覚えているかい?」
「な、なんとなくは」
勇馬が一時期、エネルギーを使用するだけで肉体に負担がかかっていた時期、それは強い印象となって残っている。
故に雪菜は「辛そう」や「痛そう」そして何より「危険だ」と認識していた。
「今、君の使う力はそうなり得る類のもの」
「え…な、なんで」
「なんでってそれは…それが勇馬が願ったことなんだよ」
明日美はそこか悲しそうな様子でポツリと呟く。
雪菜ではないどこか遠くを見つめていた。
「彼と敵対しないために君や疾風を彼らを人間にした。かつての級友たちが殺しあうところを彼と殺しあうこと勇馬が嫌ったんだ。無駄だったけどね」
「それって誰の…」
「さぁそのうちわかるさ、俺個人としては思い出してほしくないけど」
明日美はそう言うと立ち上がって部屋を出ようとする。
ドアを開くとき「あ、そうそう伝えていことがあった」と言って振り向かずに話し出す。
「俺は臆病でね…君たちは眩しかったんだ。俺は君たちが羨ましかった憧れだった。俺は独りぼっちで逃げてばかりだったからさ。だから…」
ドアを開きポツリと呟いた。
「ごめん、何もできなくて」
ドアが閉じられる。
残された雪菜は何を言われたのか理解できなかった。でも
「何謝っているんだか…わかんないよ。あれは私たちの戦争でしょ?」
雪菜は自分でも何を言っているのかわかっていなかった。
でもこの言葉が適切だということだけはわかった。
**
次の日となり雪菜はカノにいろいろな説明をしていた。
「な、なるほど?んーえーっと要するに私の力は確かに魔法少女の力ではあるけど根本は私の原理の基づいたものであると…?」
内容を聞き終えて反芻していくカノだが、
「意味が分からないですね」
「ですよねー」
雪菜が笑っていた。
雪菜が話したことは力とは何かその根本であり彼女の力の根源を推察した上で話していた。
「そもそも魔法少女の力として渡された力が外部機関的補助装置というのすら理解できないのですが」
「それに関しては明日美が言っていたことだから詳しいことは説明できないかな」
「それはいいのですが私の根源とは?」
「あーそれについてね、少しそこについては省いたのだけど…そして私のは見分けがつかないから間違いを言うわけにはいかない、でもカノは幸か不幸かはたまた偶然か必然か、呪いか祝福か概念と密接なつながりがある」
「概念?」
「私の見立てが正解なのか外れているのかわからない点がはっきりとは言えないけどね」
「それは強くなれるということなんですか?」
「そうだね」
雪菜は肯定する。
それに対してカノは息を大きく吸う。
胸に手に当て自分の体を見る。
「私が…強く」
息を呑む。
そして雪菜を見る。
「早く強くなりたいです」
その言葉は強く思いのこもったもの。
だが雪菜は
「無理」
一言断った。
「え…」
予想外なことに固まるカノにため息を吐いて雪菜は立ち上がる。
「ついてきて」
「は、はい」
廊下に出て雪菜は断った理由を話し始める。
「正直に言うと残り一週間でアレに勝つのは不可能、正直私としては一度諦めるのが正しい」
「で、でも」
「でもも何も別にこの町から追放されたからと言ってこの町にかかわる方法はいくらでもある。それに外で鍛えたほうが効果的なんだよ。いくらこの町の時間の流れが速くてもこの場所は成長というものを阻害している。力の使い方を学ぶのなら兎も角、力を強くするという一点だけは外のほうが効率がいいんだよ」
「それでも」
「だから今からそれを解決できる馬鹿に会いに行く」
雪菜はそう言ってたどり着いた先のドアを開け放つ。
そこには
「思ったより情けなく倒れてるね、雪虎」
「久々に会う仲間に毒吐くなよ雪菜」
稽古上にてボロボロの状態で倒れ伏している雪虎がいた。
「あれ手合わせ相手のおじいちゃんは?挨拶したかったのだけど」
「それに関しては俺を叩き伏せた後に一週間見直せとか言って山の中に行っちまったよ」
「ならちょうどよかった。この子に修行を付けてあげて」
雪菜はカノを前に出してそう切り出した。
いきなりのことにカノは戸惑う中で雪虎は溜息を吐く。
「通常ならふざけるなの一言だ」
「そう言うということは違うのでしょ」
「そう…だな。でもいいのか俺の見立てだと俺たちの同類だぞ」
「…やっぱりか」
雪菜は頭を抱える。
だがそれと同時に確信があった。
「雪虎なら彼女を短期間に引き上げられるでしょ?」
「それこそ覚醒の一歩手前までは余裕だ」
「それ自分で言うんだ」
「俺の力はそう使うことができることをお前は知ってるだろう」
「うん、だからお願いできる」
雪菜がここで初めて下手に出た。
雪虎は意外そうに雪菜を見ると首をすくめる。
「いいけどさ、本人の意思確認をさせてくれ。こんなことする必要なんざ無くてもっとゆくっり、人として終える未来もある」
雪虎はそう言ってカノを見る。
「え、えっと…」
戸惑うカノに雪虎は近づき優しく声をかける。
「お前の名は?」
「カノ…です」
「そうかよい名だ」
雪虎は決して愛想はよくない笑みを浮かべて言葉を続ける。
「君が選択しようとしてるのは今の時代には必要のないものだ」
雪虎の言葉は重い。
その言葉を聞きカノは思わず息を呑む。
「その力を手にすれば世界が変わるとか言うがそんなことはない。ただできることが大きくなりただ人より強くなるなんてただ実感の薄い力だ」
「そ、そうなんですか」
拍子抜けするような内容に思わずカノの緊張が解れる。
だがそんな彼女に雪虎は
「そう思えるのはきっと十年?百年?それとももっと先かもしれない」
「え?」
「今選択した君にとっては何の苦しみのない未来の自分がようやく世界が変わったことに気づき焦燥と苦しみに苛まれ続ける」
きっといつかの自分が後悔したこと。
それはいつの日の記憶か…
はたまたこれから先の未来の物語か。
雪虎は語らない、雪菜も語らない。
これは自分だけしかわからない自分だけの苦しみ。
「仲間がいる?そんなのは安心には繋がらない。同じに思える仲間と君はきっと全く別の世界が見えているはずさ。俺と雪菜のように君と俺たちのように」
目に見える世界はいくら同じで見えても、彼らにとって世界の在り方は酷く歪で醜く壊れて見えてしまう。
ただ在りようが違うだけでその壊れて見える世界はとても同じものには見えない。
「君にはいくつかの選択肢がある。何があったか知らないけど。全てを諦めてただの凡人として生き続けることだってできる。こんな邪道ではなくてゆっくりと成長を続けて確実な力を得ることによって残酷な未来を回避する。君が残酷な未来を選択する理由なんてない、いずれこの町は崩壊してこの町の住民ごと失っていく未来は変えようがないものだ。だから…」
雪虎は真剣な表情でカノを見る。
「君がこの選択を取る必要性はないんだ。たとえ君が救えた命があったとして俺はそれが大事だとは思えない。言い方は悪いかもしれないが君の代わりはいくらでもいるんだ。そうやって無理をしなくてもこの町の結末は変わらない。だから…」
「諦めろというんですか?」
「…」
雪虎は静かにうなずく。
「勝手に決めないでください!!」
カノが大きな声で反論する。
思わず雪虎は雪菜を見る。
その様子に雪菜は何やら自慢げに頷く。
「私には守りたいものがあります。例えそれを守り切ることができない…いえそんな未来何て私は許したくないんです。だってそうじゃないですか!勝手に何未来の私を決めているんですか!!私は守りたい…あの子を…アオイを私は守ります!!その上で私はどんな未来が待っていてもこの選択を後悔しません!決してあなた達の怯える絶望になんか屈しません!!それが私の選択です!!」
雪虎は目を見開く。
「大きく出たな。あぁそうだないつの日の俺もそうだったように君もそうなんだな」
雪虎には最近鮮明になっていく記憶があった。
どうして忘れてしまっていたのかわからないような大切な記憶。
原書よりも遥か遠い遠い過去の自分。
雪虎自身の原点。
たった一人の友人を主を救うためにずっと泣き続け、ずっと足掻き続けて、そうして手に入れたこの力を雪虎はそんな自分と重ね合わせた。
(烏滸がましいにもほどがある、俺は生き恥をさらしたのによ)
雪虎は笑う。
「君の選択を尊重しよう。たとえ君が絶望に屈しても忘れるなよ俺たちがいる、君は一人じゃない」
雪虎はそう言って座る。
「さぁ始めようか」
「は、はい!」
雪虎の言葉にカノは反応して同じように座る。
「あと雪菜は暇になると思うから出ていいぞ。やりたいこと、あるんだろう」
「バレてたか」
「お前だけでも十二分には出来たはずだからな」
「いいや、これに関しては私じゃできないよ買いかぶりすぎだよ」
雪菜はそう言って部屋から出ていくのだった。
「まったくあのお姫様は…」
「雪菜ってお姫様なんですか?」
「んーどちらともいえないと答えておこうか、とにかく始めるぞ一週間しかないんだろ」
「はい!」
****
雪菜は一人町の中を歩いていた。
日が沈み始めて人通りが少なくなっていく中で
「また迷った」
雪菜はポツリと呟く。
先ほどから目的となる場所にはたどり着けていなかったが彼女は気にした様子もなく周囲を見て回る。
そして目的地にたどり着く。
「二時間半か」
呟いた時間はここに来るまでにかかった時間であり本来ならば五分もあれば着く位置だった。
雪菜は自分の方向音痴さに肩を竦めると、時計を確認する。
(前に確認したときに歪みの前兆っぽく見えたから気にしてたけど正解みたい)
目の前にあるのは空間の穴だった。
それは雪菜が来る数秒前にできたものであり雪菜以外の人間が察知することはない。
故に雪菜はその場所で待機することを選択した。
そうすることにより
「来た」
雪菜の目当ての人物が現れるからだ。
その人物はゴスロリ調のドレスを身にまとい右手にはマスケット銃が握られていた。
「あなたは…外の人間ですか」
「そういうあなたは魔法少女でいいよね?」
「いったい何の用ですか?カノの手伝いをしていたみたいですが肝心のカノはどこにいるのですか?」
「彼女は訓練中。私はあなたを話をしたくてアオイ」
雪菜の言葉に魔法少女は不機嫌そうに顔をしかめる。
「気やすく呼ばないでください」
「そう言わないでよ3年前…いや、36年前に一緒に戦った中じゃんカノンさんと一緒に」
「…」
雪菜の言葉にアオイはキッと睨みつける。
「覚えていたんですね」
「覚えていたよでも昔とあまりにも違いすぎたこの町に困惑してさ、まさか36年も同じ姿でいるとは思わなくて」
「なるほど知らないふりをしておくべきでしたね」
失敗したと自嘲の笑みをこぼす彼女に対して雪菜はどうしても違和感を拭えなかった。
「いったい何があったの?」
「はぁ知った風に聞かないでください」
「私は知らないから聞きたいの」
「そうですよねあなたは本当に私たちについて何も知らないのですから」
拒絶するようにアオイは言葉を吐き捨てる。
「あの時の私にはほとんど力がなかった何があったかだけでも」
「何があったってあなたはこの町に何年いるんですか?」
その問いの意味を雪菜は分からなかった。
「一年もいない一年いたところであなたは理解できないはずです。私は外に出て絶望したことなんてわかるわけがない」
アオイは雪菜を突き放し空間の穴に入ろうとする。
「待って」
雪菜が止めようと手を伸ばした時
バッシ!!
雪菜の手が弾かれる。
「お前が私に触るな!!」
「…」
「私はお前が嫌いだ」
雪菜は言葉を失う。
だがすぐに頭を振り思考を変える。
「私が嫌いでも構わない。でもカノはこの街の住人でしょ、魔法少女として力を示せたなら追放しないで欲しい」
「わざわざ聞く価値もないですね。しかし、万が一でも私に一撃でも当てられるなら考えましょう魔法少女が強いことは私にとって利益になります。それとその際はその努力に免じてあなたの滞在の延長も許可します」
アオイはそれだけ言って空間の穴に消えていくのだった。
「え?」
雪菜はあまりの内容に硬直していた。
「なんか緩くない!?」
意外な内容に雪菜は驚くのだった




