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予兆

歌姫抹殺計画


達成課題、歌姫の殺害


難度S


現状彼女を殺す手段は無く、現実的達成は不可能である。

しかし、歌姫の覚醒前に殺害することは急務である。

現在、吸血鬼を送ったが消息不明。

途中まで観測した結果、暗殺の成功したものの、直ぐに再生したところを観測。


また、そのすぐ後に妨害があり、現在の状況は不明。


以上のことから歌姫の暗殺に傀儡を使うことを決定。


「てことでよろしくお願いします」


上記の内容がさらに事細かく、言い回しも難しくした資料をある男に渡す女がいた。


とある会議室の場であり、それはとある大企業だった。


「ふむ、アトラ アストラルと呼べばいいのか?」


男は少し悩みながら女に話しかける。


「えぇ、私はアトラ アストラル。気軽にアトラとお呼びください、馬場殿」

「わかった。アトラ、本当にこの命令は我々の主人からの命令なのか?」

「ええ、主人からの命令です」


アトラは微笑みながら肯定する。

馬場と呼ばれた男は訝しげにアトラを見る。


彼にとってアトラは何度か会ったことがある。

彼らが主人と仰ぐ存在の集まりの幹部の1人にアトラがいた。


しかし、通常での関わりはなく互いに名前を知る余地がない。


「なるほど、しかし四災についてはどう対応するつもりだ?」

「それは我々では対処ができないので我々の主人が直々に出るそうですよ」

「そうか、我々の主人がか。わかった。傀儡はあまり好きではないのだが、その命令を実行するとしよう」

「命令だなんて大袈裟ですね。お願い、ですよ」


不機嫌そうに彼はアトラを見る。


「そんな睨まないでくださいよ。私達は同じ主人を持つものじゃないですか。そうだ互いの親交の為にも世間話でもしましょう。どうも私は最初から本題を切り出してしまいますので忘れてましたね」

「そうだな、俺が気になることは、この会社はなんだ?」


現在いる場所を用意したのはアトラであり、その場所の支配人のように立ち振る舞い、誰も彼女には逆らっていない。


「そこを聞きますか、簡単ですよ。ここは私の会社ですから」

「それはトップってことか?」

「ええ、その通りですよ。私にとって必要だと考えたから作らせていただきました」


彼女はまるで会社ですら物のように振る舞う。


どこまでも傲慢で、尊大な振る舞いは人によっては嫌悪感さえ覚えるような言葉。


それに対して馬場は何も思わない訳ではない。


しかし、


「そうか、ならこの会社は我々の主人にとって都合のいい駒ということか?」

「ええ、主人にとって素晴らしいものとなっております」


彼女は笑いながら口元で手を合わせて話を続けていく。


「そもそも、この会社の上層部の殆どは私と同じですので、裏切りの心配もない。下に行けば、いつでも足切りできる人材達」


彼女は止まることなく話し続ける中で馬場は少し息を吐く。

渡された書類を見てため息を吐く。


通常、彼らがこれまで与えられてきた任務は難度DからBとされていた。


だが、目の前にある任務はSと呼ばれる難度。


これは現在の戦力ではほぼ不可能とされる難度Aが緊急性を持った際に難度Sと認定する。


そして、元々歌姫殺害計画は難度Cの緊急性の高い依頼だった。


(難度S…今までに無い任務…傀儡を使う程なのか一度確認する必要があるな)


「あれ、方針は決まりましたか?」

「心でもお前は読めるのか?」

「全然読めませんよ。ただ同じ思考を私がした覚えがあるので理解できただけです」

「そうかい、ならこちらも色々と試してから傀儡を出すという方針で大丈夫か?」

「えぇ、期限は歌姫が覚醒するまでですのでいくらでも試してください」

「了解」


馬場は動き出す為に会議室から出る。

出た先にはよく知る存在がスマホを弄りながら「あ、終わった?」と興味なさげに聞いてきていた。


「はぁ、神宮。少しは年上を敬え」

「えーめんど、てかおっさんは俺にテキトーに命令してるだけでいいんだから充分敬ってるよ」

「んなもん、得意分野の違いだろ」


神宮と呼ばれた少年と言い合いになる馬場は先ほどと比べて楽しそうにしていた。

そうして、ビルから出て車に乗り込む2人。


「それで…今回の依頼は?」

「…ふぅ、今回の件で手を引いたほうがいいかもな」

「どしたの?」

「知れば知るほどこの組織の理念がわかんねぇんだよ」

「それ、前々から言ってたじゃん」

「うるせぇ、とりあえず今回の依頼はいくつか手を打ってからお前を出す」

「いつも通りね、りょーかい」


そんな軽口を2人が叩き合っている頃。

先ほどまでいた会議室にて、アトラはまた別の男と対談していた。


「アトラ幹部、私を呼んだ理由をお聞きしても」

「ええ、先ほどの彼らを監視してください」

「それは?」

「裏切る可能性があるからですよ」

「わかりました。では、裏切った際は」


アトラは親指を立てて首を切るように動かす。


「消してください」


ニコリと笑う。


「御意に」


男が消え、1人残った会議室でアトラはほくそ笑む。


「くだらないですね。そう思いますよね我が主人」


彼女はそう言うと窓の下の光景を見下ろのだった。



**


ガッシャン!!


照明が落ちる。


私はそれに驚いて尻餅をついて目の前にある光景に呆然としていた。


「また、か」


隣にいる銀杏が呟く。


「祈!」


私は自分の名前を呼ばれて目が覚める。

その声の主は私の目の前に顔をがあり、真剣な様子で私を見ている。


「…あ、ありがとうございます。月葉」


彼女は照明が落ちてくるタイミングで私に体当たりして私を照明から守ってくれていた。


「気がついたんなら別にいいけどさ、今週でこれで何度目よ」

「えーっと、5度目?」

「バカ!そんなの一々数えんなっての。全く、もう少し危機意識持ちなって。まだ、続くかも知れないし」


月葉そう言って私から離れると他の4人と話す。


「ど?みんな怪我はなさそ?」

「え、あぁ、俺は大丈夫だ」

「僕も問題はないよ」

「え、えぇ、私も問題ないわ」

「私も問題ないわー」

「そ、それならいいか」


月葉がそういって元の関係者席に戻ろうとしたタイミングだった。


「いや、それならいいかじゃないでしょ!」

「そうよ、月葉ちゃんは大丈夫なのー?」

「え、ウチ?」


唐突に話を振られたように月葉は困惑した様子だった。

私もその心配はある。

でも、彼女は


「え、ウチ?じゃないでしょ!あんた毎度私達を庇ってあんたこそ怪我してないでしょうね!?」

「そうよ、怪我を確認してくれないと私達心配よ」

「え、そっか…そう、だよね?うん、ウチは特に問題ない。怪我も特にしてないし」


そう言ってクルッと彼女は回る。

相変わらず彼女は自分という存在を少し度外視し過ぎている。

月葉自身は死にたくないらしいが、こう言った場面を見たら自然と体が動くらしく、別の意味で心配が募るばかりだった。


「えっと、月葉?」

「祈、どしたの?もしかして…怪我してる!?」

「いや、それは特に問題ないかな、月葉知ってるでしょ」

「まぁ、それは確かに」

「そうじゃなくて、ありがとう」

「…別に護衛だしお礼なんか要らないし」


月葉そう言って戻っていくのだった。


「にしても、あんたが襲われたって日から本当に毎日不幸が起きるわね」


煌は私の方に来て話しかけてくる。


「昨日は煌ちゃんに棚の小道具が一気に落ちてきたものね」


空夢がそう言うと煌は苦い顔をしつつ「そうね」と言う。

ここ数日、連続してこう言った事故が頻発しており、私達の誰かしらが毎度怪我をしそうになる。


何が起きてるかそれは理解できる。


でも、それを伝えることは憚れる。

知って自己防衛をすることよりも知ってしまった方が危険を晒す可能性が高いと月葉は言っていた。


「兎に角、再開したらしっかりとリハーサルやっていこう!もう直ぐライブなんだし!」


私はそう言って周りを鼓舞させる。

4人とも少しだけ苦い表情している。

ライブは2日後。


これで終わりなんて思えない。


そんなことを考えているのだろうか?


「そ、そうだな!俺達はアイドルとして成功する為にここにいるんだ!こんなことで立ち止まってられないな!」


銀杏がそう言うと少し場の空気が良くなる。


そうして今日のリハーサルは結果的にはいい方向で終わった。


その日の夜。


「ようやく、犯人について掴めてきたけど」


そう、曖昧な様子でリビングから月葉が話しかけてくる。

私は現在、夕飯を作っており隣には勇馬が手伝っている。


「現状、原善が率いる、一般生物至上主義団体が関わっていることかい?」

「ちょちょ、話が早いってウチはまだ掴めてきたって話しかしてないのに何でウチが推測から確信に変わったことを先に言っちゃうの?」

「初日の時から君が答えを言っていただろう?」

「いや、言ってなくない?」

「吸血鬼などの異常存在を嫌うのは現状では原善しかいない。そこから君を脅して祈を襲わせたのは原善である確率が80%程に及んでいる」

「てか、初めから分かってたんなら言ってくれてもいいじゃん」

「20%は違うのだ」


と、私を置いて2人が話している。

何を言ってるか私にはよく分からない。


しかし、ある程度、犯人についての目星は付いてきたようだけど…。


「原善って何?」


純粋な疑問が残る。

それに対して月葉は言葉に詰まらせている。

対して勇馬は直ぐに答えを始める。


「原善というのはとある存在に対する仮称だ」

「とある存在って言うのは」

「神や吸血鬼といった異常な存在を嫌い、それら全てをこの世界から消そうとしている存在だよ」

「ふーん、何で私は…って、そっか私も異常な存在に入るのか」

「その通りだ」


だから私が命を狙われる訳か。


「んじゃ、後残りの2割って何なの?」

「あ、それうちも気になった」

「ふむ、こちらの記憶も曖昧なのでこいつだとは言えないが、残り2割で1番可能性が高いのは、神派と呼ばれる存在だろうな」

「「神派?」」


「えーっと神って要するに全知全能みたいな感じのアレ?」

「まぁ、認識としては間違ってるかもしれないが、概ね間違いはない」

「神って実在するんですね」


私の感想に勇馬は考えるように顎に手を当てる。


「実在…か。それはその通りとも言えるし言えないとも言える」

「どう言うこと?」

「神というのは確かにいるが、現在この世界には神がいないまたは姿を完全に暗ませている」

「えーっと、それは」

「まぁ、この疑問を答える術はこちらには無いと考えてくれ。こちらの持つ知識や事柄に付いては非常に曖昧なものであり本来の記憶にすら存在しない情報だから不安定なものだ」


不安定…彼は記憶が基本的に無い。

けれど自身の記憶をある程度なら掘り起こすことは出来ている。


それと同時に自分という人間が余計に分からないと悩ませてるように私には見える。


「ところで祈、ぼーっとしてると焦がすぞ」

「…あ、やばいやばい」


私の持つフライパンから少しだけ焦げた匂いがして急いで私は混ぜていく。


「神派ってのは知らんけど、原善の可能性はとても高いのは間違いない」

「目的は分かるけど、なんで私をそんなに狙ってるの?」

「それは…あんたがあまりにも歪だからだと…思う」

「曖昧だな」

「ウチだって、祈のこと何も知らないし、アイツらが狙う理由もよく分かんないって」

「そこが分からないことには終わりが見えないな」


勇馬にも理由が分からないようで少し空の方に目を向けていた。


**


とある一室。

事務所などの堅苦しい雰囲気はなくテーブルがあり、ソファ、テレビ、ビデオ機器などといったものが揃った私室にて馬場と神宮が話し合っていた。


「現状、尽く失敗か」

「馬場さんのやり方の問題じゃないか?」

「確かになぁ、まぁ次でお前を投入する。もし、それで上手くいかないなら傀儡を使うことを検討する」

「確かにそれが1番いいか」


馬場のやり方に同意し、考え込む神宮。


「そもそも離れることを決めたならこの任務を放棄してもいいんじゃないのか?」

「はっ、そしたら今俺たちを監視してる奴らに俺達は殺されるだろうさ」

「マジかよ」

「安心しろ発言が聞ける位置じゃない」


神宮は少し嫌な顔をする。

馬場はそれに対して笑う。


「俺達はこの組織に対して義理は果たした。あの人に挨拶しておさらばする予定だったが、この監視は俺たちを殺す気だ」

「なら」

「やめておけ、神宮の力では勝てない。というか相性が悪いな」


さらに嫌そうな顔をする神宮。

そんな彼に馬場は盛大に笑う。


「お前もそんな顔をすんだな…ふはは、やべー腹いてぇ」

「おい!」

「いや、すまんすまん」

「にしてもこの組織のトップは幹部が好き勝手やってるのによくまぁここまで放っておくな」


神宮と馬場が掴んでる情報の中でこの組織の幹部達は全員、好き勝手やっている。

それはアトラのように他者を駒として利用し尽くす存在や人身売買、大量虐殺、自爆作戦などなどと挙げればキリがない。


任務の達成のためなら他人の命や部下の命を軽く見ている。


「…お前はそう言えば見たことないんだったな」

「原善ってのは聞いたことあるけどよく分かんないのだが?」

「あいつは人に興味がない。いや、正確には人が何をしようがどうでもいいんだよ」

「それって…」

「最終的にあいつが定めた存在が一つでも多く生きていれば何をしようがあの男は感知する気がない」


その言葉に神宮の額から一筋の汗が溢れる。


「何だよ…それ」

「さぁな、だがあれはそれくらいの上位な存在ってことだ」


馬場は目を瞑り首を振る。

それだけで神宮はどうすればいいのか理解する。


彼らの答えは単純なものだった。


不干渉



この2人ができることは限られている。

2人は先ほどまでの話題を忘れてしばらくの間互いに心を落ち着かせる。


そして、時間となる。


「さてと、残念ながら明日のライブは中止になるさ歌姫さんよ。いけるな、神宮」

「分かってる確実に殺す」

「ほれ、インカムだ」

「助かるな」


2人は部屋を出る。

その表情は無機質であり、2人が本気であることを示していた。


**


「今日も何もなかったな」


銀杏はリハーサルが終わり安堵したように話し出す。


「あの5日間の方が異常だったのよ」

「まぁまぁ、みんな無事なんだし明日が本番なんだから無駄話も無しにしよ」

「まぁ、そうね」


ため息つきながら煌が強めに否定する。それに対して丈流が宥める。


そんな中で


「…」

「どうかしたの祈ちゃん」

「あ、空夢。いや、ちょっとね」

「なんか思い悩んでるようだからよかったら相談してほしいなぁ」

「うん、そうだね。もしもさ…もし、私のせいでライブがめちゃくちゃになったらみんな恨むかな」


祈は一つの不安があった。

原善の手下がライブを丸ごと壊してしまうのではないかと。


「んー難しい質問でしねー。でも、私は少なくともあなたのせいじゃないと思いますよー」


空夢は正直に答えた。

それに対して祈は驚いた表情をしている。


「例え、ここ数日の事故が祈ちゃんが関係したとして、それに対して祈ちゃんが悪いんですか?いいえ、違いますよ。私はそれを行った人間を恨みますよー」

「…なんか、見透かされてるみたいだね」

「さぁ、でも無関係じゃないんでしょー?急に雇った護衛の月葉ちゃんと言い」

「それは…どうでしょうか」


祈はそう言うと笑って荷物を持ってドアの前に立つ。


「皆さん、また明日、私は先にホテルに行ってるね」


そう言って祈は外に駆け出す。

残された4人はそんな祈を見て不安を覚えるが4人は何もすることができなかった。


「月葉…本当に行くの?」

「まぁ、逃げても意味なしいね、ウチとしてはここで決着を付けられる方が楽だし」


まだ夕日が沈み始めた頃。

現在いる場所は街から少し離れたライブ会場となるホール近く。


ホテルは街の方にあるが2人は逆方向の森の中に入っていく。


そして、その先に1人の少年がいた。


「やぁ、本当に来たんだね」


そこにいたのは神宮だった。


月葉は短剣とヘッドホンを取り出して神宮を見据える。


「吸血鬼の君、確か君は組織に雇われていたよね?」

「それが?」

「なら、彼女を殺してもう一度戻るなら今回の件を不問にするように俺の方から問いかけよう」

「それにウチが乗るって?」

「乗らないだろうね」


神宮は笑う。


「ただ、聞いただけさ。1人も2人も変わらないけどただ、殺すなら少ない方がいい。そう思うだろう?」

「ウチに勝てるとでも?」

「さぁ、やってみれば分かるさ」


その言葉が引き金となる。


月葉が踏み込む。

獲物を握り、ヘッドホンを放り投げる。


それに対して神宮は素手で対応する。


短剣を持つ手を弾きその勢いのまま、拳を放つ。

月葉に対する衝撃は大きくはない。


しかし、怯むには十分。


神宮は手首を捻り上げてそのまま落とす。


ドサッと月葉は地に伏せる。


そのまま拘束され獲物を落とされる月葉は常人であればこれ以上の抵抗はできないだろう。


「吸血鬼…舐めるな」


瞬時に自身の腕を更に捻り、想像とは違う方向に力が流れた神宮の手は緩む。

その瞬間を狙い腕の自由を作り出した月葉は体勢を変えて神宮の顔面に蹴りを入れて後ろへ飛ぶと共に立ち上がる。


だが、拳が迫ってきていた。


月葉が拳を避けるが姿勢が低く、体の自由が効く体勢ではない月葉の顔面に蹴りが飛んでくる。


今度は確実なマウントポジションを取る神宮が突きつけた物は拳ではなかった。


「終わりだよ吸血鬼」


銃を持つ神宮の先には月葉の頭があった。


「まさか、そんな強いなんてね」

「悪いな、これでも俺は処刑人と呼ばれるくらいには人を殺した経験が豊富でな」

「みくびったってところね。でも、あんたもウチをみくびりすぎだよ」


月葉が笑う。


神宮の頭に衝撃が走る。

その瞬間を月葉は見逃さない。


銃を弾き、下半身を勢いよく突き上げて神宮を投げる。


弾いた銃を手にして投げられた神宮に突き付ける。


「これで形勢が逆転」


その言葉と同時に月葉の首にヘッドホンが掛かる。


「まさか、ヘッドホンが落ちてくるとはな」

「ただのパフォーマンスな訳ないでしょ」

「それもそうか」


神宮はそう言って自身を叱責するように笑う。

そして、「仕方ない」と言葉を漏らした。


「君も一般人じゃないんだ。使っても構わないよな」


そう言って神宮が立ち上がる。


バァンっ


月葉が動いた瞬間に引き金を引く。

だが、月葉それを確認した瞬間、目を見開き銃を捨てる。


目の前には神宮はいなかった。


「判断は良いな」


声が聞こえた瞬間には遅かった。

月葉の腹には拳がめり込み、吹き飛ばされる。


その力は強く、月葉は地面に叩きつけられバウンドしながら奥へと吹っ飛んでいく。


そんな中で…


「…けっ…しょ…う、か!!」


血生化を使用する。

血が固まる。


息が止まる。

だが、それも一瞬。


彼女の体が輝き始める。

血が固まり、光始める。


結晶のように固まった血は月葉の体を薄く覆い鎧となる。


体制を直す。


が、次の時には神宮はすぐそばにいた。


振り上げた足は早く、月葉が対処する暇がない。


簡単に蹴り飛ばされる。


「っっ!!」


声にならない悲鳴が月葉から溢れる。

そのまま倒れ込む月葉は必至に立ち上がろうと力を込める。


(動かない…体が痛い…何これ?理不尽すぎない?だって、同じように能力を使っただけ…それなのにこんだけの差があるの?普通の肉体での戦いは互角だったのに…能力ってだけでこれだけの差が生まれるものなの?)


足音が聞こえる。


「月葉!」


(ウチの前に…バカ!何のために戦ってると思ってんの。ウチなんか庇ってないで逃げろし)


必死に力を込めるが月葉の体は動かない。

ただ、地面を握りしめるだけ。


そんな彼女の頬に一筋の涙が溢れる。


(悔しい…ウチは何でこんなに…こんなに弱いんだろう…)


(あれ?誰?いや、違う…記憶だ)


月葉はありもしない情景を幻視する。

そんな自分に笑いが込み上げる。


ただ呼吸をするだけでも苦しいこの体で笑えないとしても心の中で笑う。


こんな時に妄想かと。


(あれ、でもこの記憶…ずっと昔)


『一つは贄となる。一つは死の淵となる。一つは不屈となる。一つは膨大な記憶となる。君は何を求める、月葉?』


その声を彼女は知っている。


**


「月葉にはこれ以上手を出させない」

「そうかい、でもそれは嬢ちゃんが死ぬということだ」


乾いた破裂音が私の耳を蹂躙する。

先ほどまで聞いていた銃声より何倍も大きいそれは私の顔を弾き飛ばす。


死を確信すると共に、


これでは死ねないと理解した。


「なるほど、どれだけの傷を与えても死なない。これが難度Sの理由か」


私が立ち上がると男はそんなことを言っていた。

よく見たら私の服がボロボロになっており、とても服としての機能があるとは言えない状態になっていた。


きっと、頭を弾き飛ばした後も何度も撃ったのだろう。


「分かったなら帰ってください」

「いいや、折角無抵抗なんだ色々と試させてもらうぞ嬢ちゃん」


男はそう言って私の髪を掴む。

私を放り投げると共に銃声が鳴る。


次の瞬間、肉体の感覚が消える。


それでも私は


「肉体を完全に消滅させても再生するのか」


男はそう言うと舌打ちをする。

私を見る目が面倒なものを見る目に変わる。


「あなたじゃ私を殺せないんだから諦めてよ」

「そうもいかないさ。それに俺は人の魂を壊す方法を知っている」

「そんな簡単に壊せるとでも?」

「簡単ではないな。俺自身に直接魂を攻撃する手段がないからな」


そう言って男が近づいてくる。


そして、


痛みが走る。

私は気がつけば地面を張っている。


さっきまでとは違う。


即死するような状態ではない。


故に私の体には激痛が走り続ける。


「ほぉ、足を失って叫ばないのか?」

「…はぁ、っっ!はぁ、知ってる?人間…ってのはっ…意外と瞬間的痛みとかじゃ…叫ばないのよ」

「そうだな、だが継続的かつ予測できる痛みはそうでもないんだよ」


私の足の切断面に男はナイフを刺す。


「っあぁっっ!!」


私は痛みで叫ぶ。

叫ばないように唇を噛むがその度に痛みが増幅する。


「知ってるか、恐怖や痛みは叫ぶことによって軽減される。要するにこのような場合、人間は本能的に叫ぶようにしているんだ」

「っいだいぃぃ!」


更に傷口を開くように男はナイフを動かす。

私は両足からくる痛みに情け無く声を上げることしかできない。


だが、そんな中で私の腕が振るわれている。


「邪魔だな…その腕」


男の声と共に私の腕の感覚が消える。


「っっ!!」


腕が切り落とされる。

私はその様子に痛みよりも笑いが込み上げてくる。


理不尽だと。


「…こんな、…下手くそな拷問で…私が…折れるとでも?」

「さぁな、とにかくお前の精神を折る、次に思考を折る、そうして折っていけば魂が壊れる。俺が知ってるのはそれだけだ」

「っがぁぁぁ!!」


そうして再生しないように男は私の傷口にナイフを刺していく。

私はただ、痛みを堪えることしかできなかった。


それでも


「…この…程度で…私がぁぁっっ!!…折れぇ…る……でもぉ…ぁ…ぁぁ…」

「確かにこの調子だと、痛みや貞操、君に直接危害を加える方法では無意味だろうな」


私を見透かすようにこの男は私を見下ろしていた。


「そうだなぁ、君は聡明だ。限界や不可能なことさまざまな事を察している」


私の髪を掴み私の目を見てくる。


「何に怯えている?あれだけ傷を負っても恐れなかった君が」


男は私を放り投げると立ち上がり、銃を手に持つ。

ゆっくりとした足取りで私から離れていく。


その先は…


「…やめ…ろ…ぁぁ…ぁ…や…めろ…」


私は察してしまう。

この男が何をしようとしているのか。


「やめ…て…お…ねが…いだから…それは」


男はそんな私の声を聞いて振り返る。


「やはりそうか、君は自分の前で他者が死ぬ事を恐れている」


銃を彼は構える。


「やめろ」


私は立ち上がり走り出す。

体は完全に再生を終えて私は男を止めるために走る。


だが、引き金が引かれる。


バァンっ


月葉の右腕が消える。

男の手は止まらない。


次弾を撃とうと次の場所に照準を合わせようとする。


私はそれに追いつき腕に銃を持つしがみつこうとする。


だが、それは躱されて私の腹に蹴りが飛んでくる。


「己の無力を呪え。そして、絶望しろ。目の前で人が死んでいく様子を指を咥えて見てろ」


無力…


そっか…無力か


私は痛みで動かない体を労るように木の根に背中を預けて座り込む。

力を抜けば自然と視線が下がる。


いつぶりだろうか…目の前を見ないのは


恐怖や劣等感…何よりも自分の現実が嫌だという感情。


私は私を知らない、私の常識外の世界に出てやり直せると思った。


でも、


「私は無力」


呟くと共に涙が溢れる。

枯れたと思っていたものはいつの間にか潤っていたらしい。


あーこの痛みに慣れている自分がいる。

逃避の仕方がわかっている自分がいる。


「思ったより折れるのが早かったな」


男の声が聞こえる。

情けない。


どうしようもなく情け無い。


でも、それでも私は…


失った命


失うはずだった


「私は輝きたい」


手を伸ばす。

私の心は痛みに慣れている。


私の思いは痛みを受け入れている。


なら、私は…



壇上に立って輝く彼女を初めて見て私は何を思った?


輝きたい…



違う。



「私は誰かの痛みを癒す力が欲しい!!」


手を伸ばすその先にあるものは何かは分からない。


バァッン


何度目の発砲か分からない。

でも、次の瞬間私の四肢の感覚と光が失った。


**


「は?」


神宮は理解できないことに呆けていた。

それは目の前で確実に頭を爆ぜさせる予定だった少女、月葉の体が無事だったからに他ならない。


いや、それどころか


「部位欠損も含めて傷が全部治っている?」


あり得ない状態。

神宮はそう感じた。


そして、この行為を行うに至った人間を見る。


「はは、まさかそんなバカな力あんのかよ…いや、それどころかそんな事をするバカがこの世にいんのかよ!」


神宮は叫ぶ。

その視線の先には四肢と顔を失った祈が再生してる姿だった。


神宮はその在り方を恐ろしく感じると共に笑いが込み上げてきていた。


(あーそりゃぁ普通じゃ無理だわ)


ここで初めて神宮の心が折れ始めていた。

それでも、彼のだ歩んできた数々の修羅場が彼の心を支える。


「確実にお前だけは殺す。そうする事で歌姫を心を折るための一手になる!!」


銃を構えて神宮は引き金を引く。

その先は月葉。


バァンっ


だが、その弾丸は地面を抉るだけだった。


神宮の後ろから声が聞こえる。


「なんか分かんないけどさ。どうやら随分とウチの友達、虐めたみたいじゃん。アンタ、地獄行きでドーヨ?」


神宮の後ろを振り向く。

だが、それと同時に神宮の腹に蹴りが入る。


その蹴りは威力が高いのかはたまたその勢いが強いのか神宮は気にぶつかるまで弾き飛ばされる。


「あぁ、全く貧乏くじを引かされる。今ので通信機が逝っちまいやがったか…でもちょっと俺に攻撃を当てたからと言って調子に乗ってんじゃないぞガキが」


**


気がつけばウチはいつもの一室。


勇馬と祈と自分の暮らす部屋にいた。


だが、その部屋は無機質であり何もない。


ただその中心で、ただいるだけの存在がジッとしていた。


『ゆう…ま?』


ウチが声をかけるが返事がない。


勇馬と思われる少年はただジッとしているだけ。

雑音が聞こえる。


ドアが開く。


それをウチは見た。


『え?これって…ウチ?』


ドアを開いた存在は自分とそっくりないや、これは多分…ウチだ。

でも、ウチにこんな記憶は無い。


「アンタがウチを呼んだ理由は?」

「…」


勇馬はゆっくりとウチ?の方を向く。

その瞳は何も映さない。


壁も天井も人も…


だが、それでも口を開いた。


「君は明日、殺される」

「そんな事を言うために呼んだの?」


沈黙が流れる。

この中のウチには覚悟ができている。

いや、少し前のウチと同じだ。


「君にはもう選択肢がない」

「何の話をしてるか分かんないんだけどさ、なんかそれっぽく周りくどい事言わないで分かりやすくしてくんないかな」

「分かりやすく…なるほど、君は私が見つけた最後の1人だ」


無言の時間が流れる。

この2人の会話がウチにスッと入ってきてそれに背筋が凍り始めていた。


「は?キモっ、そもそもアンタは何者なの急にきた連絡を来たら訳わかんないことばっかり言ってさ」

『待って!ちょ、コレやばいってマジでやばいって』


ウチはもう次の話が分からなくなってくる。

ただ、勇馬は答えずにジッとこの空間のウチを見ている。


「なんか答えてよ、ウチはアンタは殺されます、はいそうです、目的は何ですかって聞いたら見出したとか意味不なんだけど」

『ねぇ、ここにいる勇馬には届かないことは分かってる…でも答えて』


ウチは目の前の勇馬の正面に立つ。

そして、口を開く…ノイズが走る。


それは時間を合わせるように音を合わせるようにピタリと合った。


『「アンタの目的は何?」』


ギィィィン


耳鳴りがする。

多量のノイズが走り、目の前の勇馬の顔がノイズでブレる。


そして、次の瞬間、ウチは彼の見たことない表情を見た。


「今度こそ仲間を1人も失わない」


偶然?偶々?ウチとの関係は偶発的?


違う全部、必然だ。


そして、勇馬はこの記憶を覚えてるのか覚えてないのかウチを再び見出した。

そして、次はウチを仲間として迎え入れた。


『あーもう、気が狂うな…でも、コレが勇馬の感情』


ウチは微笑む。

その笑顔を

その憂いた表情を

その真剣な表情を

その照れた顔を

その少し悲しそうな顔を


全部、全部、守りたい。

今度は死なない。


今度は後悔しない。


プツンっ


まるでテレビが切れるように目の前が真っ暗になる。


そして、ウチは目が覚める。


「確実にお前だけは殺す。そうする事で歌姫を心を折るための一手になる!!」


怒鳴り声が聞こえる。それと同時に私は動けた。

身体が軽い。


一跳び、それだけで想像以上に動く。


「なんか分かんないけどさ。どうやら随分とウチの友達、虐めたみたいじゃん。アンタ、地獄行きでドーヨ?」


目の前にした男は先ほどまでと比べて恐怖がない。

だから、こんな大口を叩けた。


「君が俺を倒せるみたいだな?」

「さぁね、ウチは負ける気がしないよ。ウチが死ぬことで悲しむ人がいるかもしれないからね」


ウチはもう1人ではない。

孤独の戦いは終わりだ。


祈がウチを救おうとしたようにウチが祈を守ろうとしたのと同じようにここには仲間がいる。


だから、踏み出せる。


重い足は無くなった。

無力感は無くなった。


気がつけば男の前に立つ。

男は反応できずにウチの蹴りが顔面に入る。


自然と自分の力の使い方が分かる。


その力は衝撃を増大させて男を弾き飛ばす。


「っっ、何が…」


戸惑いながらも受け身を取る男を見る前にウチは一歩、踏んだ。


「速すぎる…」


目の前に男がいる、一歩で目測10メートルを一瞬で辿り着けた。

自然と手が出る。

出てきた拳は男の腹を捉える。


キィインとモスキート音が響く。


少し頭が痛くなる。


でも男を再び弾き飛ばすことに成功した。


「ガハッ、ホントついてないな…まさか吸血鬼がそんな力を使うとはな」


男は血を吐きながら立ち上がる。


「こちらも本気で行かなくては無作法と言うものだな」


男は空の銃の弾倉を取り出すと拳銃に装填する。


「さぁ、行くぞ」


バァッン!!!!!


先ほどまでにない破裂音が辺りを支配する。

次の瞬間、巨大な竜を模したエネルギーの塊が周囲を破壊し尽くす。


ウチは自分の持つ足の速さを利用してその竜を避け続ける。

だが、それだけで終わりではなかった。


「魔装千年龍の顕現」


男の服装が変わる。

スケイルアーマーを身に纏い銀色の竜の頭を模した仮面を付けている。


その手にはギザギザとした刃の付いた大剣とも斧とも称することができる武器を持っていた。


ウチは踏み出す。


「疾っ!!」


斧がウチの停止地点に振るわれる。

斧を防ぐために短剣を使い攻撃を逸らす。


だが、ウチは本命に気付かずにいた。


男の周囲が爆発する。

ウチはそれに巻き込まれて吹き飛ばされる。


「っつぅ!!」


瞬時に理解する今のはエネルギーを放出しただけの衝撃波であると…


って、そんなこと出来るって相当エネルギーに差があるって…


立て直しながら考えてるタイミングで男の斧が迫る。


ウチは再度、短剣を使いいなそうとするが


「がぁっ!!」


次はその斧から衝撃波が放たれて押し潰される。

地面をバウンドしてもう一度、ウチに斧を叩きつけようとする。


ウチは地面に手を付いて思いっきり押し出す。


自身のエネルギーも使い押し出した瞬間、地面が脆く崩れる。

それは男の周囲も同じであり、男はバランスを崩す。


ウチが立つ地面もなく互いにバランスを崩して動けない状態。

その状態で男がやることをウチは理解していた。


故に自身の防御にエネルギーを割く。


そして、予想通りの行動が飛んでくる。


先ほどと同じ衝撃波がウチを襲う。


来るとわかる力であっても馬鹿げた力の衝撃波は更に地面を抉り、ウチの防御を貫通してくる。


咄嗟に左手を前に出し緩衝材にする。


べギィっ


腕から嫌な音が鳴り吹き飛ばされる。

痛みが左腕から走る。


ウチはその腕を敢えて、支えにして受け身を取る。

聞きたくないような音が左腕から鳴り続ける。


痛みで悶えたい思いを押し殺してウチは立ち上がる。


「もう無駄な抵抗はやめた方が苦しまないぞ」

「うっさい、ウチは死ぬ気なんてないしまだ負けてない」


強がる。

死ぬわけにはいかないし、この男を逃すわけにもいかない。


身体中が痛い。


でも、だからと言って…


「倒れる訳には行かないんだわ」

「そうか、なら圧倒的な差の前に死ぬがいい」


ウチは死ねない。

死ねば悲しむ人間がまだいるを


何かを成すために生きるんじゃない。


誰かと笑い合える、そんな小さな幸せのハッピーエンドを本気でまた夢描いてる男がいる。


ウチはそんなの不可能なんて笑っただろう。


でも、


「そこにウチが入ってるんだ!こんなところで夢を壊させない」


放たれる衝撃波と斧を短剣では防ぎ切れない、左腕は使い物にはならない。


だからと言って防ぎ切れない訳じゃない。


ウチはまず、短剣に斧を当てる。


ギィィィン!


衝撃波が音により発生して男が放つ衝撃波を和らげる。


それでも、


「ガハッ…」


体は吹き飛ばされて、ウチは意識が遠のく。


「もう諦めて死を受け入れろ」

「…悪い…けど、ウチは…簡単に…受け入れる…気なんて…ないし」

「そうか」


斧が振りかぶられる。

ここで終わりか…


目を閉じる。

ウチの体はもう動かない。


諦めが浮かんだ時


「〜♪」


声が聞こえる。

それは歌声だ。


てか、なんでこんなところで歌声が…


目に映ったのは血だらけの中で必至に歌う祈の姿だった。

胸の前に手を握りしめて祈るように歌う。


体の傷が癒えていく。


ウチにあった傷は全て元の通りになり、祈に傷が出来ていく。


「やはり、狂ってやがる…死なないから?そんなので他人ひとの傷を肩代わり出来るわけがない!!」


男は狂ったようにそして、怯えるようにウチらを睨みつける。


「確かに人間の社会性の中には自己献身と自己犠牲が発生することがある。しかしそれはあくまでも自己陶酔と偽善による結果だ。そんな程度のものが概念や力になれるわけがない」


頭を掻き乱しながら男の目は血走ったものに変わる。

そして


「貴様は異常だ…北条 祈」


歌声だけが響く。

今の男は無防備に見えるが、違う。


ピリついており、刺激を与えれば爆発してしまう危険物のような感じがする。


ウチは動けずにいた中で


歌が止む。


「私は当然のことを当たり前のことを実行してるだけ。ただ私は私の歌で1人でも多くの人を感動させたい、そこに何の特別さなんてない」


祈の言葉にウチは否定の言葉が思い付く。

当然、その異常性を理解している男の言葉はウチと同じ…


「ははっ、当たり前?当然?何がだ?自分の歌で1人でも多く幸せにしたい?あぁ、そうだなそんな高尚なものは確かに誰だって抱く偽善だ」


でも決定的に彼女の意味は違う。


「お前のそれは自分の満足感も、充足感も、達成感もないんだよ。お前のやることはただそう定義付けられた機械…そう…そうか、機械か!」


納得したように笑う男はウチから見たら不気味だった。

だが、男の雰囲気が変わる。


ウチと祈を見るとゆっくりと斧を構える。


「原善があんたらを嫌う理由を分かったよ。そして、この組織の理念もようやくな」


斧を落とす。


「やめだ。俺の勝ち目はない。そして、戦う気なんて無くなった」


そう言って彼は踵を返すと「またな」と呟いて離れていく。


「逃すかっての」

「月葉!!」


ウチが追いかけようとするが祈に呼び止められる。

彼女を見ると首を横に振っていた。


「いいの?あれ、放置したら厄介そうだけど」

「…」


祈が黙る。


「んー?」


と言うかどうしたらいいか分かんないって感じなんだけどさ、まぁ、いいか。


「てか、勝手に1人で何を納得してるんだか」


ウチは男の去っていった方向を見てつぶやくのだった。



**

月葉達との戦闘場所から離れた場所、木々の隙間から月葉達の位置が望遠鏡などを使用すれば見えるほどの距離のビルの屋上に馬場はいた。


そして、その傍には先ほど戻ってきたばかりの神宮が息を切らしながら何かを説明していた。


「なるほど確かに原善の目的がそうなら理解はできる。だが…それと同時に分からないことも増えた」

「そのやり方か…」


拭えない違和感が2人にはあり、それだけが解消できないでいた。

しかし、2人の答えはすでに決まっており笑い合う。


「何にしても俺らのやることは変わんないな」


馬場の言葉に神宮は頷く。


「てことで俺達を逃がしてほしいのだが、アトラの刺客さんよ」


馬場の言葉に影が反応する。

それはビルの屋上の入り口にいた。


「気付かれてしまいましたか」


男はドアの影から出ると2人の前に出る。

その体はひどく痩せ細っており、その首には枷が付いていた。


全体的に肉付きが悪く顔は目のと口、鼻が飛び出すように萎んでおり、腕や足は細く、骨が浮き出ていた。


「どんな奴かは知ってるが、お前は何者か確認させてもらおうか?」


馬場は拳銃を男に向ける。


「おやおや、随分と気が立っておられるようで」


男は煽るようにそう言う。

馬場はそれに対して発砲で答えた。

男の足元に銃痕ができる。


「次は撃つぞ」


そのまま銃を男の額に向けて脅す馬場に対して神宮は違和感を持つ。


(こんなにおっさんが気を立つなんて)


神宮にとってはおかしな光景だった。

基本直上型であり、戦闘を担う自分がこのような発言をすることはある。


しかし、馬場は状況を冷静に見る司令塔だ。


故の違和感。


イラついてる様子が見て取れる。

だから、


「おい、神宮…何を」


神宮は馬場を押し退けて銃を構える。


「あんた、おっさんに何をした」

「いえいえ、何かしたと言うことはありませんよ」

「今確信できた、正面から向き合うとあんたから不快感しかしない…要するにあんたは人に自分の姿を見せることによって冷静さを失わせている」


神宮の言葉に男は黙る。


そう思ったかと思うと男の口は三日月状に開き始める。


「ヒャッヒャッ、直ぐ気がつきますか」


神宮のすぐ横で馬場は自分を落ち着かせている。

神宮は男の言葉に動揺することもなく、ジッとその動きを観察していた。


「こちらの目的を知りたいとおっしゃってましたね?現在、あなた方は2人は組織を裏切る予兆があった為、殺処分の命令を下されました」

「なるほどな、お前は俺達の死神と言ったところか」


馬場は自分を落ち着かせると目を瞑り、言葉を発する。

神宮はそれを気にせずに男だけを見続ける。


「では、そろそろ失礼をさせて

「撃て」


馬場の一言


それは同時だった。


バァッン


乾いた銃声が轟く。

確実に神宮の弾丸が男の足を貫く。


男はバランスを崩して倒れる。


「さて、色々と話してもらおうか」


馬場は冷静にそう言葉を紡ぐ。

決して男を見ることはない。


「やはり、お二人は優秀ですねー。

力や抵抗能力はないが、解決策と冷徹さ、その知恵と頭脳によって様々なことを導ける男、馬場。

逆に直情的で知恵などを使うことは殆どないが、心を殺して感情を抑えありとあらゆる命令を実行する神宮…ヒャッヒャッ…何と素晴らしい!!」


男は突如、体を起き上がらせて手を広げる。


「そして、何と残酷なのでしょう。あなたの一撃は間違いなく通常の人間であれば尋問に問題ない。四肢を打ち抜き、行動を制限して逃げ場を失くす。素晴らしい…やり方だぁ」


男の目は見開かれて狂気が滲み出てくる。

それを目の当たりにしても神宮は怯まない。


その状況を音でしか判断してない馬場は一筋の汗を流していた。


それはこの男狂気が間違いなく馬場に伝わっていたからに他ならない。


「何が言いたいか分からないがこちらの質問に答えてもらおうか、お前の名前は?」

「ヒャッヒャッそれを話すと

「撃て」


バァッン


次は腕を撃ち抜く。

しかし、先程までと違い男は狂気の笑顔が崩れることがない。

撃ち抜かれた足と腕は綺麗に治っており、男は立ち上がる。


「こちらはあの方の奴隷だ。そんな半端な人間と同じ手段で簡単に逝くとでも思いましたかぁ?ざぁんねぇんでぇしたぁねぇ」


男は笑う。


一歩歩く。


「撃て」

バァッン


足を


また歩く


「撃て」

バァッン


腰を


また歩く


「撃て」

バァッン


腹を


また歩く


「殺せ」

バァッン


眉間を



撃ち抜いた。


「ヒャッヒャッ、これで理解して頂けましたか?その程度で殺すことはかなぁいませーん」


神宮の目の前まで来た男は三日月に口を開き笑いながら宣う。


馬場と神宮は下がる。

一歩、また一歩と


だが、男が追うことはない。


「どうやら、こちらあなた方を生かす必要が出ましたねぇ。あなた方はいい人形になってくれそうだそうで我が主がお求めですよ」


男は笑う。

そしてその背後にはもう1人、女がいた。


「あれは…」


馬場がそれに気付き息を呑む。

神宮は背後の男の存在を馬場の視線から悟る。


咄嗟にマガジンを交換して銃を構えて撃つ。


だが、それが届くことはない。


傀儡作成メイクマリオネット


そんな声が聞こえた時。

2人の意識は途絶えるのだった。



**



水の流れる音が大きく聞こえる。


川の土手に立ちながら少年、東条 俊介は川を眺めていた。

その背後には2人の少年が気まずそうに俊介の様子を伺っている。


「どうした、火鎚?そんな気まずそうにして」


俊介の言葉に後ろの少年の1人、火鎚が苦笑いをしていた。


「気まずいに決まってるだろ…急に人員寄越せとか言われて雪矢と2人できたんだから」

「お、おう、てか…どう反応すればいいか分からなくてな…お前の立場は知ってるけど関わってたのは火鎚と勇馬だけだからな」


そう、雪矢からしてみれば別組織のトップと一緒に歩く状態である。

おまけにそれは自身と対等…いや、それ以上の力を持つかもしれない相手、緊張すること自体が通りと言えるのかもしれない。


「意外だな、君達は自身の力に自信がある故に傲慢さを持ってると認識していた。少し改める必要がありそうだ」

「むしろ、それだけの力があるなら俺たちは転生ではなく、未だに死なず、うん百年と生きているさ」


火鎚の言葉に「確かに道理だな」と俊介は肯定する。

元来人間の自身の源は根本を言えば自身の人生の結果に現れる。


そして、何度も転生を繰り返す彼らは何度も失敗を繰り返したと同義と言える。


故に傲慢さはあるものの強者であると言う自負が酷く薄い。


「それでも自分達は間違いなく、化け物であることは理解はしてるつもりだ」

「まあ、幾つか調べさせてもらっているが、陰陽師の時の一件、利差嬢の一件、そして君の炎の剣の一件と言い、常人にはあり得ないことが続いている、君達は本当に何者だい?」


その答えに火鎚は少し悩む。


そして、ポツリと口を開いた。


「さぁな、現状を鑑みると一部の奴らだけが知ってる事実が俺たち自身迷いを生んでいる」


その言葉に意外そうな顔をする俊介。

少し悩み俊介は雪矢のそうに目を向ける。


「俺は…人間じゃない…元々は花であると理解していた」


雪矢は川を見ながら呟く。


でも、と言葉を紡ぐ。


「魂の輪廻は最も古い形を残し続ける」

「それは?」

「この本だ」


火鎚は一冊の分厚い本、『失われた神話』を取り出す。

俊介はその本を手に取り、ページを捲る。


「っっ!!」


だが、その本の内容は俊介には毒だった。

過去に消された世界の物語群。


それは一つや二つではない。


原初だけではなく、幾重にも綴られた失敗が語れている。


そして、そのラストは



『終焉』と呼ばれる化け物に喰われた最後。


「す、すまん…見るだけで吐き気がする」


頭痛、吐き気、腹痛、心臓の痛みなどの不調を俊介の体は訴えていた。


「読めたか?」

「一応な…でも、あまり読みたいとは思えない内容だな…これ」

「「…」」


俊介の言葉に火鎚と雪矢が顔を見合わせる。

そして、先ほどまで彼が開いていたページを見るが2人は首を傾げていた。


「ここにはなんて書かれている?」

「え?えっと…選外教室とか…30人の生徒とか…書かれてて、一人一人の死因が…急にどうしたよそんな驚いた顔して」


雪矢は困惑してる中、火鎚が代わりに説明する。


「やはり…か。確かに読もうとすればお前と同じ症状は俺たちも掛かる。だが、それは読める部分だけの話だ」

「は?」

「俺たちにはお前がページが白紙にしか見えないんだよ」


その言葉に驚いた俊介は本を読む。

吐きそうな状態を抑え込み、一ページ一ページ、文字を認識できるか確認していく。


「一つも…ない…読めないページなんてないぞ」


その言葉に火鎚は寂しそうに俊介を見ていた。


「そうか…俺たちは原初の章の一部とお前が最初に読んだ章の断片しか分からなかった…と言うことはおそらくそう言うことなんだろうな」

「勝手に納得してないで説明してくれよ…」


勝手に理解する火鎚に俊介は頭を抱えるが、その説明を雪矢が行う。


「いや、この本はな基本的に俺たちが関わったことのある事象しか読めないんだ」

「でも、俺は転生とかしたことないはずだが?」

「基本的にと言ったら例外もあると言うことだ。疾風さんにも見せたが、どうやらその例外は…世界から外れる可能性がある存在と言っていた」


その言葉にようやく俊介は理解する。

これを自分が読めたと言うことは自分が何かしらの異常であると言うこと。


「なるほどな…別に特別になりたくないわけじゃないんだがな…実際そうだと言われると複雑だな」


俊介はそうポツリと呟く。

そして、ふと元の話を思い出して口を開く。


「で、この本でもしかして読める部分に覚えがないから、自分達はこの時から存在したと言うことか?」

「正解だ。俺たちが読めるのは3代目の一部の記述のみだ。雪矢も読める部分の差異は多少あるが同じだ」

「3代目…と言うと真実か」


2人は頷く。


真実と呼ばれる存在は本条家にとって絶対的な存在として扱われている。

それは本条家の人間が時折持つ不死性や不老性が真実と呼ばれる存在に由来してるからである。

そして、本条家の始祖は異世界からこの日本に渡り本条家を作ったとか作ってないとかと言う話がある。


故に本条家からしたら本来、3代目真実である可能性がある、勇馬を蔑ろにするのは間違った行動であった。


だが、それと同時に本条家に真実を見分ける術がないのもまた事実。


それ故に


「どんな内容なんだ?」


興味があった。


2人はその内容が予想通りだったのか一枚の紙を俊介に渡す。


そこには


ーー

3代目真実

北条 ◼︎

3代目は真実は北条家出身であり、◼︎歳の頃に◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎を生成し真実となった。

以後3代目真実と呼ばれ、◼︎年後に本条家当主となり、◼︎◼︎国の◼︎町を◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。

◼︎は◼︎◼︎的◼︎◼︎者であり、天才的◼︎◼︎術◼︎であった。

◼︎◼︎◼︎における要素の◼︎◼︎者であり、◼︎◼︎◼︎に於ける◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎を覆した。

また、唯一有した私兵が存在しその存在は要素エレメンツと呼ばれていた。


ーー


「なんだ…これは」


殆どが読むことができない。

2人を見るとそれ以上は全て読めなかったと言って首を振る。


だけど重要な情報は何一つとして無い。

けど…一つ気になることが俊介にはあった…


とある文言が不自然に思えた。


「なぁ、おかしいだろ」

「そうだな…」

「なら、要素以外の奴らって何者なんだ?」

「へ?そっか、そうだな確かに」


予想外の内容に俊介は誤魔化す。


(確かにここはおかしいな)


だが、不思議と俊介には違和感が感じなかった。

まるでその事実を受け入れられるもののように感じた。


それに対して俊介は違和感を持つが…


(いや、当たり前のことだな)


その疑問もすぐに霧散する。


「この件についてはまた追々話すとするか」


その言葉に2人は頷き「今回の目的は?」と火鎚が首を傾げる。


「向こうにライブホールがあるだろ?」

「あーあるな、あれの規模って大きい方なのか?」

「…火鎚、一先ず仕事の話から逸れることはやめよう」

「いや、別に関係ないわけじゃないよ雪矢。それと新人にしては規模がデカいな。まぁ、全ての歌手達を置き去りにして歌姫なんて呼ばれるアイドルの初ライブだから規模としては妥当かもしれないが」

「ほー、なるほどなぁ。んで、その歌姫が関係あると?」


火鎚は話の内容から推測していく。

そんなこと興味のない火鎚や雪矢にとって歌姫云々は初耳であり、知ったことではないと放置する話である。


だが、現在は違う。


今ここで話されることには意味があり、繋がりがない訳がない。


「その通りだ、有り体に言えば歌姫の護衛だ」

「なるほどな経緯は?」

「意外と火鎚はちゃんとしてるな、戸惑ってばかりのそっちとは違って」

「仕方ないだろ、そもそも雪矢達は…」

「基本命令を受けて動くだけとか言うなよ、そんなのただ強いだけで扱いやすい能無しと同じだろうがよ」


その言葉に対して2人は何も言えない。

俊介自身は本来、このようなことを言うつもりは無かった。

しかし、現状を見るに柱となる勇馬がいなくなり、組織としてガタガタになってるように俊介からは見えており、絶対的柱を失った組織の一人一人に考える力が必要であると判断した。


「火鎚の成長は相当目覚ましいが他の人間は結局は柱となる勇馬に頼ってきた。その柱を失ったお前達は組織として続けていく以上、全員に思考能力が求められる。それはわかるな?」

「そりゃぁ、まぁ今まではやるべきことが決まってたからこそ…見失った今、考えることが大事なのはわかる」

「その通りだな…俺達は何かあれば動くと言うスタンスだったしかし、今はもう」


火鎚にとっては新しいリーダーとなりその難しさと必要性を理解していた。


だが、雪矢はそれに対して理解を示す一方で、自身が拠り所とする者が失くしたことを改めて理解する。


その上で、何をするべきか迷ってるように見える。


「まぁ、今すぐにとは言わないさ、ゆっくりやっていけばいいさ」


俊介はそう言うと話を戻す。


「それでお前達に頼みたいのは歌姫の護衛、と言うわけだが、一つ約束してくれ」

「内容による」


火鎚の返事に「そう難しいことではない」と笑うと俊介は言葉を続ける。


「例え何を見たとしても自分の仕事を全うしろ」



**



「ライブのチケットか」


僕こと嗣井 晴臣は当たったライブのチケットを眺めてため息を吐いていた。

これは正直、自分にとってイレギュラーな出来事であるゆえにチケットが手に入ったことは行幸とも言える。


だが、チケットを手に入れるために複数回の抽選を行なっており、現在手元にあるのは3枚。

公式サイトを見れば複数当たり用の取引サイトがあり、その当選した番号を失効して当たってない人用に新たな番号を発行すると言う制度のようだ。


初めはそうしようと考えたが、一つ頭に過ぎるものがあった。


「何をバカ言ってるんだ…そんなことしてなんになる」


その度に僕は頭を振り考えを追い出そうとする。


でもその度に、


そう言えばあの2人、このアイドルの話をしてたとか…2人と話したいとか…


下らない。


でも、まだ信じたいと言う気持ちがある。


和と彩…あの2人とまた…もう一度…


「何言ってんだろ…こうやって何度目だよ…裏切られて後悔して…辛くて…でも…」


結局は自分という人間は変わらないのだろう。

僕は携帯を開いて普段ブロックしてる2人の連絡先を開く。


「二つ返事…か…そんなにも…信頼して…そんなにも不安そうな顔して…」


僕は画面越しでも分かるような嬉しそうな2人が分かる。

というか、隣の家からガタッと大きな音が二つ。

2人の反応であることがわかる。


なんで…


それなのになんで…



「お前達はあんなことをすることを選んだんだよ…教えてくれよ」


僕は涙を流してその日を終えるのだった。



**


「おい、全員見ろ!!!!」


大声がこの防音室に響いて耳がキーンっと、痛くなる。

てか、音を吸収する、この部屋で反響する音ってどんな声してんだ。

と、ツッコミを入れたくなる俺こと紀伊羅 恭平は友人の平八の大声に大きくため息を吐く。


それは俺以外も同じで幼馴染の瑠衣と目が合う。


がすぐに目を逸らされてしまう。

まぁ、いつも通りだ。


幾人はいつも通りに気にした様子もなく練習している。


てか…誰一人平八みてないし。


「で、なんなんだ?」

「反応してくれるのはお前だけだよシンユー」

「誰だそれは?」

「まぁまぁ落ち着けって」

「お前が落ち着けよ」

「で見ろよ!これ!!!」

「話聞いてたか?」


俺はため息を吐き、平八の手元にあるものを見る。

それはこのバンドの人数分チケットに見える。


「それは?」

「今話題の歌姫のチケットだ」

「「「歌姫?」」」

「お前ら3人マジかよ!テレビ見てねぇのか!?」


俺、幾人、瑠衣は首を傾げていると平八にドン引きされた。


「あーはいはいテレビねー金持ちの娯楽でしょ?」

「金持ちじゃなくても見るだろ!てか、恭平はそのレベルの貧乏だったよ畜生!」

「あーそう言えばそんなのあったな家だと家業が忙してくて見てないな」

「毎度思うけど幾人の家は何なんだよ!」

「テレビ?あーはいはい、勝手に電波放ってる集金グループの名前でしょ?」

「なんか一人偏ってる!?」


ゼェゼェと平八が息を切らしている。

もう一人、部屋に入ってくる存在がいた。


「まぁ、最近の人はこんなものであろう?」


祖亜 桜がやれやれとそう言う。


「いやでも、せっかくあんたからこのチケット貰ったのによ、全員反応薄いだろ」

「まだ、売り出し中のアイドルだ、この反応になるのも仕方ない」

「そうか…まぁお前がそれでいいのなら俺はいいんだけどさ」


渋々と言った感じで納得している様子だった。


「…条 祈…いや、叶という名前か…てか…煌…どこかで…聞いても答えてくれないしな…」


何やら、幾人がボソボソと苛立った様子で話してるが俺は聞いてないフリをする。

丁度位置関係的に俺しか聞こえないし、何でもいい。


俺は極力幾人と関わる気はない。


「このチケット明日だけど、急に予定入れられても困るのだが?」

「またまたー、そんなこと言う恭平は行けるでしょ?」

「まぁ、行ける…な」

「俺も特に問題ない、丁度その付近で用事もあるし現地集合でいいのなら問題ない」

「私も大丈夫よ」

「誘ったのは私だ、無論問題ないさ」

「よし、決まり!明日現地集合で集合場所…」


と平八主導の元話は進んでいくのだった。


「まぁ、たまには良いか」


俺はそう、少し楽しそうな幾人を見てつぶやくのだった。


**


ある部屋にて、二人の姉弟と一人の少女がいた。

そして、その弟の携帯が鳴る。


「はい、もしもし」

『もしもし、疾風だ』


その弟はシャルロット、少し前まで勇馬と敵対していた男だった。

そして、その姉はシャーロット。

6賢者の一人であり、最近ではよく勇馬達とすれ違いを起こす不憫な少女であった。

そして、最後の一人はシャルロットの忠実な部下、ヘレネアだった。


「疾風さん、ようやくですか?」

『あぁ、ようやく勇馬を助けるために動いてもらうことになる』


待ち望んでいたことに3人は期待を膨らませる。

そして…


「では、一体何を?」

『お前達には…』


生唾を飲み込む音が聞こえる。

その答えがようやく


『歌姫のライブに行ってもらう』

「「「は?」」」




**


ある屋敷にて鮮血が散った。


屋敷内の大半の人間は物言わぬ骸へと変わり、そこには3人の人間が奥へと歩いていた。


そして、その奥には…


「ひぃぃ!お前達は何なんだ!」


怯えて震える男がいた。


「これが本当に一条の現当主なのか?」


3人の中の一人、黒と赤の入り乱れた髪を持つ男が疑問の声を上げる。


「あぁ、そうだ、お、俺は一条の当主だ」

「へぇ、にしては強そうには見えないな、一条は代々信条の刀と言われていたのによ」


そのまま男は一条の当主を採点するように見る。


「烈、不躾な視線はやめなさい。私達のいた時代とは違います。それに、彼は先代の信条家当主ですよ」


真ん中の銀髪の女性がそれを諌める。


「な、なぜ…」

「そう言えば、名と顔を変えていましたね」

「なるほど、急に襲ってきたのはお前は現当主から刺客だからか!!」


一条の当主は確信を持って叫ぶ。

そして、隠し持っていたナイフを取り出して…


一条の当主の腕が消し飛ぶ。


「うぁぁあ!いだい!何で…なぜ!?」


自分の腕が消し飛び、絶叫する。


まわり、やり過ぎですよ」

「どーせ、殺すんですから変わらないんじゃありませんか?」

「精々、壁に縫う程度にしてください。彼の断罪は私が行います」


女はそう言うと鞘に入ったままの刀を取り出す。


「貴方は本条 響鬼と通じて闇を動かして本条 勇馬の殺害をしようとしましたね」

「そ、それが…何だ?」

「それにおける罪状は二つ。本条家の監視と断罪である立場の信条家が本条家当主と結託したこと」


女は歩き出す。


「ひぃ、そ、それを咎めるものなどいないであろう」

「まぁ、急がないでください。二つ目は真実に通ずるものへの反逆」

「お前にそれを裁く権利があるとでも言うのか」

「士条」


女の言葉に男が声を失う。

目を見開いて、女を見る。


「馬鹿な!それは伝説上の家のはず!天条家と同じだ!信条の監視者であり執行者なんて存在しない筈の家だろう!!」

「廃れたと言え、この家の名がまだ貴方達に伝わってるようで助かりますね。では、そう言うことなので断罪を開始します」


女は男から少し離れたところで止まる。

それは剣を抜いても切れない位置。


だが、彼女にとってそれが間合い。


「ふっ、側近に雑魚しかいないと思ったか!やれ!」


一条が叫ぶと同時に黒い影が五つ現て女を襲おうと向かう。


「永遠を一瞬、一瞬を…永遠に…その道のりは…』


まるで静止画を目撃しているようだった。

一条はそう思ってしまう。


自分を守る筈の黒い影は静止した。

そして、コマが抜け落ちたように女は刀を抜き終えた後だった。


「何をしている!お前達?なんで、なぜ目の前のアマを殺さない!」

「無駄です、よく見なさい」

「は?何でだ、いつ…いつお前は…」


五つの影の首は落ちる。

まるで、切られたことも分からなかったかのように時間差で落ちた首と崩れ落ちる肉体。


「やめろ…俺はまだ…俺はまだ死にたくない」


一条は這うように逃げようと必死に踠いて離れていく。


そんな男に声が届く。


「永遠を…一瞬に、一瞬を…永遠に、無限の時間をも思わせる停滞を」


その言葉と共に一条は止まる。


(動けない…それどころか話すこともできない…あれ?俺は空中に浮いている?違う止まってるんだ…時間が…世界が…)


停滞した世界を認識してる中、声が聞こえる。


「この凍りついた時間…永遠にも近い時間に引き延ばされた世界で反省しなさい。そして、一つ貴方の質問に答えてませんでしたね」


女の足音が少しずつ近づいてくる。


(動け…動け!)

「私は当代の刺客?いいえ、私は私の判断で貴方を断罪しにきました」


女の足音が止まる。


「もう一つ冥土の土産でも持たせましょうか。私の名前は士条 えい

(あぁ、俺は死ぬのか…いつ、いつ来るんだ?)


一条は諦めた思考の中、永の言葉は届かない。


「その一刀は永遠を…一瞬をも切り裂く一刀となる。抜刀『永瞬の時間とき』」


それは一瞬だった。


止まった時間の中でもいつ切られたのか認識はできずに、切られたことを認識できなかった男はその体が崩れる、ほんの少しの時間を永遠に感じ、ほんの瞬間という長い永遠の中で自分の死を待ち。















































死んだ。























終わった後、永は刀を納刀して二人に振り返る。


「今の一刀で屋敷を両断しました。逃げますよ二人とも」

「「…」」


何でもないように言う。

永の足音以外は二人の沈黙が支配する。


そして


「「何やってんだぁぁ!!」」


大きな音があたりに響き渡る。

それは屋敷の倒壊した音だったか、はたまた二人の悲痛の叫びか。


**



信条 静育…いや、信条 幾人は信条家の屋敷である者と対峙していた。


それは


「なぁ、何で俺には何も教えないんだ?」


幾人の疑問に答えるのは


「君が普通の人間だからだよ…静育、いやお前の名前はもう幾人だ」


紀伊羅…否、信条家当主、信条 静域だった。


「俺は無関係じゃない」

「無関係…確かにお前は無関係じゃない。でも、俺はお前に平和に生きてほしい。それを願う兄の心がわからないと言わせない」

「なら、何であんたは信条家当主になった!!」


幾人が叫ぶ。


「いつも…いつも聞いているのにあんたは俺に重要なこと何も話さない!はぐらかしてばかりだろ!」

「勘違いしてないから?幾人、お前は特別だから転生できたわけじゃない。勇馬の庇護があったからお前は転生ができただけの凡人だ」

「それが分からないって言っているんだろ!凡人って何だよ!アンタだって、人間だろ!凡人だろ!」

「そうだ…とは言えないな。そうでありたかった、そうであって欲しかった。そもそもこの信条家の当主の席も元は俺のために用意された場所だ。俺は逃げ続けて覚悟を決められずに過ごしてきたがな」


目を伏せる静域を見て、幾人か歯軋りをする。


「なら、何でアンタは一般人にならなかった!何であんたはここに立っているんだ」

「それが俺の役目だからだ。この席は本条家の真実と同じ、永遠にあり続ける席なんだよ」

「わかんねぇよ!あんた何言ってるのか!あんたが何に悩んで何を知ってるのかわからない」

「…関わるな。もう絶対悪にも…エーテルにも…お前にはもっと普通の生活を送らせてやりたかった。それが俺の最初で最後の願いだったのだから」


そう言って静域は部屋を出ていく。

残された幾人は泣いていた。


無力な自分が悔しくて、一人…仲間外れされたような孤独が彼を蝕んでいくのだった。


そんな幾人の嗚咽をドア越しに聞きながら静域は


「すまない。お前を覚醒させるわけにはいかないんだ…そしたら、本当に信条家の都合に巻き込むことになる」


拳を握りしめる静域に話しかける存在がいた。


「優しいのですね。本当に今も昔も弟重いですね」

「っ誰だ!」


静域は声の方向を見ると見知らぬ3人が立っていた。

それを見た静域は一筋の汗を零す。


「お前達は…」

「私は士条 永。貴方にとっては初めましてですね。信条 静域…いや、『混沌の錬金術師』」

「っっ!益々…お前達…何者だ?」


警戒を強める静域に永は手を振って答える。


「そんな警戒しないでください。まぁ、これから言うことを考えれば警戒するなと言う方が無茶ですね。なぜなら、私達は今、信条家に連なる家の浄化をしているのですから」

「なるほど、今日起きた一条家の屋敷の襲撃はお前たちか」

「理解が早くて助かります。この家に溜まったゴミを私は掃除します。それが気に食わないのでしたら私達を止めて見せてください」


永が宣戦布告をする。

その気迫に静域は一筋の汗を流す。


「信条家当主を置いてそんな勝手を許すとでも?」

「許す許さないもありません。私達は正当な権利を持って他の家を断罪しているのですから」

「俺に勝てるとでも?」

「そうですね…一つ先ほど答え忘れた質問がありましたね。私達は信条の監視者であると同時に私達は『上位要素アークエレメンツ』です」


その言葉に静域は目を見開く。

そして、笑う。


「なるほど、ようやく全てが繋がったお前たちを知る限り俺は四人思い付く、なのにいた筈のあと3人を俺は思い出せない。もしそれが本当なら不可能だな、止めるのは」

「安心てください、私も貴方も錆抜き期間は必要でしょう。ですので動き出すのはもう少し後です。是非、私達の対策をしていってください」


それだけ言うと永は消える。

残された静域はその場で腰を下ろして呟く。


「ほら、嫌だろ?お前に見せたくないものはこんなんばっかりなんだよ」


一方、去った3人は


「あちらが騒がしいですね。烈、行っていいですよ。私たちがやるべきことは断罪だけではありません」

「へいへい、行ってきますよ」


永の言葉に烈は去っていく。


「廻は何をしてるのですか?貴方も行きなさい。私達がいない穴を埋めてもらうためにも」

「りょーかいでーでも、ほら、こっちって難しいところあるじゃん?そこのところをさー」

「いいから行きなさい」

「はーい」


廻も去っていく。


「では、私も行きますか」


そうして3人はそれぞれの方向に行き消えていくのだった。

まるで影のように。



**


桜が咲く。

秋のこの季節のその様子は狂っているという一言で片付けられてしまう。


その中心には桜色の髪をした少女、那奈がいた。


「…」


その少女はある一点を見つめていた。


その先にあるのは一人の少年の姿だった。


「あの、…勇馬…?」

「己の名を知る予測はしていた」

「あのーもう少し普通に喋って欲しいのですが…」

「失礼、世界樹の見守りびとよ。俺の名をやはり知っていたのか」


本来、那奈と勇馬は深い関係があった。

しかし、その深い関係を作るための俊王が奪われた勇馬には記憶がなく那奈という存在は自身の記憶の手掛かりとして見ていた。


「なんか、その話し方は初めて会った時みたいです」

「それは君たちで言うところの原初の話かい?それとも、もっと昔の本当の始まりの神話の話かい?」

「ご想像で保管してください。勇馬…様?ゆーくん?勇馬…君…あれ、転生のたびに呼び方が変わってたせいでどれで言っても違和感がありますね」

「事前情報の通り、君は結構真面目で天然だね」

「よく言われます。それと、私から離れてください。こう見えて暴走してますから」


那奈は強い口調で言うが


「はて、俺の近くにいれば安定すると予測して寄ったのだが」

「…た、確かに…まぁ、安定はしてますけど、ほら確実性…が…うん」

「ならばこれでどうであろうか?」

「へ?」


勇馬は那奈を優しく抱きしめる。

髪を優しく撫でながら子をあやすように優しく体を密着させる。


「えっ!えっ…えぇ、へっ?あ、幸せ…じゃなくて!な!な!何で!?」

「確実性がないと言ったのは君であろう?それなら確実性を持たせるために密着したまでだ」

(いや、むしろ興奮…じゃなくてドキドキ…じゃなくて襲いた…ふむ、コレは最高なのでは?感触が味わえて撫でるというオプション付き、コレを最高と言わずして何というのでしょう…コレは天国…極楽…あーいい匂…い?)

「ん?どうした」


何やら幸せそうに顔がゆるゆるになっていた那奈が急に真顔になり勇馬は疑問に思う。

そして、那奈はジッと勇馬を見て口を開く。


「他の女の匂いがします」

「いや、それはするだろう」

「いえ、コレは日常生活で付くような匂いじゃないですね、雪菜とか紗雪とか他の巫女達みたいな卑しい女と同等の…」

「それは君も入ってるのでは?」


勇馬のツッコミを軽くスルーして那奈は頬擦りをする。


「後で清めをしましょう」

「しないよ」

「…それでどのような要件で?」


ちょっと不満そうながらも那奈は本題へと促す。

その様子に勇馬は何も反応せずに話し始める。


「龍脈の上を歩く君が丁度良くてね。歌姫が明日覚醒する」

「なるほど、私の暴走を終わらせる為…ですか…というか、本当に色々と抜け落ちてるんですね」

「と言うと?」

「普段なら、そんな不満そうな顔をしながら言うなよとか言いながら呆れながら話す筈ですよ」

「なるほど、なら、過去の俺のことでも教えてもらいながらでも目的地に行くか」

「えぇ、良いですよ。どうやら他の理由もありそうですから」

「さて、何のことか」


そうして、那奈は勇馬の腕を取り歩き始める。


「わざわざ密着する必要は?」

「私の安定の為です」

「そうだね、俺からやったことだった」


二人はある方向を目指しながら歩いて向かうのだった。

ただ、勇馬は少し…感じていた。


(やはりそうか、己の感情は…)


自身の原点を…

良いところではあるのですが、また雪菜側に話を移ります。

さて、次に何が起きるのか、そして彼らの言う覚醒とは何か…


面白いと思って頂けたなら幸いです。

もし、続きが読みたいと思っていただけるのでしたら評価の方よろしくお願いします。

励みとして頑張らせていただきます。

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