魔法少女と覇者の王2
「それでカノはそれでいいの?」
私は不機嫌さを隠さないようにカノに問いを投げかけていた。
「は、はい…私のような弱い人がいても迷惑ですし」
カノは申し訳なさそうにカフェの向かいの席でお茶を飲んでいた。
だが、私が聞きたいことはそこではなかった。
「言い方を変える…あなたの目的は?」
「私の…目的ですか?」
「魔法少女は目的の為に契約している、そう代代に教えてもらったのだけど?」
「そ、そうです。基本的には外へ行くことが対価となってます」
やはり違和感がある。
彼女の目的が違う気がする。
「ねぇ、私に話したことが本当なら一月後にあなたはこの街から出るってことで間違いない?」
「はい。その際に雪菜さんも一緒に出ることになっています」
「そう」
私はそれだけ言うと大きくため息を吐く。
「あなたは本当にそれでいいのカノ」
「…何が…ですか?」
「本当にここに出ることでいいの?」
「いいも何も私は弱いですし、魔法少女としての最低限の役目を果たしました」
「そう、なら私から言えることはない」
私はそう言ってお金をテーブルに置いてお店を出る。
…私は何を怒っているのだろうか。
でも、無性にムカついた。
『雪菜は弱いんだから』
耳の奥に響く音がある。
『何があっても私達が守る』
どこかイラついた。
それはきっと遠い遠い昔の自分を思い出してしまうからだと思う。
**
原初の頃…
私は三子の末で生まれ、優秀な子として育った。
いろんな才能や色んなことに私は優れていた私は姉である2人より優秀だと信じて疑わなかった。
でも、それは違うことは分かっていた。
だから少しでもその優越感が欲しかった。
あの日までは…
私の家は巨大樹管理を命じられており、その大地巫女として私は継いでいた。
「こ、こんばんは!雪菜様!」
「様付けはいいよ。那奈」
私と少し似たような顔つきを持つ少女、那奈は私の従姉妹であり、私がこの地を継いでからいつも手伝ってくれる子である。
そして…
「やぁ、相変わらずのようだね君達は」
木の上から見下ろしてくる黒髪の少女がいた。
「世界樹の守護者様もこんばんはです!」
「おやおや、那奈は相変わらず緊張しーだね。雪菜は相変わらずお辞儀だけかい?」
「いえ、世界樹の守護者様からお言葉を賜るとは思わず聞き入っておりました」
「揶揄っているだろ?」
「いえ、そんなことは」
「私はいつも君達には名前で言うようにお願いしているはずだけど?」
「そんな私如きが滅相もない」
こうやって私は世界樹の守護者、椿であそ…コミュニケーションを取る毎日を送っていた。
姉2人はと言うと、この頃から発現した強力な力によって親の家業を正式に継いでいた。
私は…と言うと、なんの力もなく、那奈が本来継ぐはずだった。この地を継ぐことになっていた。
この時の私は無力だった。
いつだって、姉2人の口癖は『私達が守る』の一言であり、元々優秀だった私はただの凡人でしかなかった。
その頃の私はコレでいいと思っていた。
コレでうまく回っていると思っていた。
この後、起きる災厄に私は何も出来ずに私は無力を嘆くことになる。
そんな未来も知らずに
**
嫌なものを思い出す。
でも、それが私にとっての原点。
「おや、やはり来たか」
「来たよ…貴方に色々と聞きたいことがあるの」
「鍵についてかい?」
「それはある程度予想はついてる。貴方の持つ裏口の鍵も含めて」
暗い部屋の中で代代はいつものように飄々とした様子で私を見ていた。
いや、多分、ずっと話してきたけど私とこの女の間には大きな溝がある。
大き過ぎて彼女の向いてる方すら分からないほどに。
「まぁ、鍵については君の予想通りだと思うよ。私の持つ鍵は裏口であり、開けるにはとてもリスクが伴うもの…反対に正式な鍵は一切のリスクを背負うことはない」
「私が出ていくことは本当にリスクが無いと言えるの?」
「…」
だから、一つ私は疑問をぶつけることにした。
彼女の心のうちを知るために。
「よく分かったね…私の痛い部分を」
普段の飄々とした彼女の表情が変わる。
「私はね。君がこの世界を救うと考えている…いや、違うか…この世界を壊してしまうと危惧しているんだ」
「どう言うこと?私が…壊す?」
「私はね、この無意味な世界を終わらせたいと考えているんだ。彼女達魔法少女達とは違ってね」
「待って!貴方がこの力を授けたんじゃ無いの?その魔法少女の力を…」
「あぁ、そうだよ私が彼女達に渡した」
そう言って笑う彼女はどこか不気味さがあった。
私には何も理解ができない。
「なら、なんで魔法少女がいまだに…」
「そうだね魔法少女が居なくれば直ぐにでもこの世界は消えてしまう」
とぼけたような表情で平然とした顔でそう言う彼女には何か理解できない狂気があるようにさえ感じる。
「だからだよ。私は願いを捨てられない。例え下らなく無駄なものだとしても私はそれを取りこぼせない」
彼女は自分のために用意された椅子に座る。
「私を理解できないと言うことは君は勇馬を理解してないと言うことだ」
「なんでここで勇馬が出てくるの?」
「彼が私の理解者であり、私もまた彼の理解者であると言うことだよ」
その言葉に私は何も言えなくなる。
勇馬考えや行動原理は誰も理解できない。
私達はどこかで
そう言い聞かせてきた。
だが、もし、彼女の言うことが嘘なら…
でもそれは…同時に真実も混在してることに…
何故?
なんで逆の意味を考えたのにそれを真実捉えた?
「あぁ、そっかようやく分かった。私が貴方を怖く思った訳が」
「へぇ、ご丁寧に怯えててくれたのかい?」
「貴方、本当に人間?」
「人間だよ。私がそう信じる限り人間だ。そして、彼がそう信じる限り私は人間だ」
やっぱりそうだ。
似ている。
そして、彼女の顔は嘘によって固められている。
勇馬と同じように。
だからこそ
「貴方が求めているのは何か気になる」
私は興味を持った。
「怯えないではなく、好奇心が勝ったのか」
「それは…貴方の望みが多分勇馬と似てるかと思ったからであって貴方に対する好奇心じゃ無い」
「今日の君は不機嫌だね。なら、教えてあげるよ。私が望むもの…それは共存だよ」
「共存?」
「いずれ分かる。だからこそ私はここが邪魔だと思ってる訳だしね」
それ以降、彼女は特に私に対して何か言うことはなかった。
**
次の日、私は学校を休み、部屋で考え事をしていた。
代代はここが邪魔だと言っていた。それと同時に願いを捨てられないとも言っていた。
彼女の態度は徹頭徹尾、無関係の人間のそれだった。
だが、きっと彼女は無関心では無いように思える。
それが何故か…
多分、何かに対して義理立ているようなそんな気がする。
「私にはここに来た意味があるはず」
黒い影は私をここに誘導した。
ならば…
そうか
「ここにいるんだ…いや、そもそもなんでコレを忘れてた?」
私は黒い影を忘れていた。
そもそもあれは何か?
姿形ははっきりとは思い出せない。
いや、少しだけ…覚えがある。
魔女帽の女?
私は立ち上がる。
汗が垂れる。
記憶が刺激されると共に、虚無感に包まれる。
「頭が痛い…いや、忘れちゃいけない」
コレは忘れてはいけない問題だ。
だって…
私はそれを知ってるはずだから。
**
「まーた、私に文句を言いに来たのかい?」
ーー
音がない空間で代代は呟く。
現在学校もあり、子供がいない孤児院には代代1人のみだった。
後ろに潜む黒い影を除いて。
「残骸が一丁前に話すねぇ。君が心配しなくても共存の一歩は彼が握っているよ」
ーー
「そんなこと言うなよ。私は君のことが好きだよ。それに彼が何故出てくるのは君が理解してない訳ないだろう?」
ーー
「原善が最大の敵と定める存在が共存の1番の対象なのだから」
ーー
「そんなことを言ってはいけないよ。何億いや、何兆、どれだけかな…それだけの時間が経っても彼は失ったものへの見向き方が分からないのだから」
ーー
「何も彼に限った話じゃない。私も…君も…そして彼も…失うことを恐れ続けて臆病になっている」
ーー
「そうだ、最初の質問にはまだ答えてなかったね」
ーー
「簡単だよ。こんな偽物を続けても意味がない…人類は知るべきなんだよ。人在らず者達を、その為にここは格好の場所だと考えている」
ーー
「ここにいる人が死に定義されるかは分からない。でも、死人がいつまで経っても生にしがみ付くのもまた良くないのではないかな?ー
ーー
「君ならそう言うだろうね。人あっても人でなくても関係ないと」
ーー
「そうだね。私もそれは理解してるよ。でも、それと同時に正しさについて教わったよね?」
ーー
「君はその人形を保護した結果、世界がどうなるか…知ってるよね?」
ーー
「あーごめんごめん、人形呼びは謝るよ。でも、君は1番目を逸らしちゃいけない」
ーー
「世界が共存を目指すなら見届けなくてはいけない。鬼も霊にも、人間にもなれない姿の成れの果てを」
ーー
影は強張る。
その一言が影にとって痛い言葉だったのか。
影はゆっくりと踵を返していく。
ーー
「行ってきな…多分これが君と私の最後の時間だろうね。願わくば次は本物の君とちゃんと話したいよ」
ーー
この会話が最後に影は部屋を去っていく。
1人残った代代はどこか寂しそうに机の上に乗っていたコップを上から持ち上げてゆっくりと振る。
「減らず口…かぁ、残された時間が少ないことを教えたかっただけなのになぁ」
自嘲の笑みを代代はコップにあった水を一気に飲み干す。
「まぁ、でも減らず口も叩きたくなるかもねぇ。君はあの日々を経験して仮にも目的が同じな同士なのだから」
**
私は弱い魔法少女だ。
なんで、魔法少女になりたいのか…私にはそれがない。
ただ、生まれた時
そう刻まれたような気がした。
気がつけば代代さんの力で魔法少女となっていて一年…
一年経っている。
先輩方はみんな三年以上も活動している。
その中で自分の強みを見つけて戦えている。
私たちより前は殆どが戦死してる。
それが怖くない。
そうは思わない。
でも、何かがずっと引っかかって私は漫然と魔法少女を続けていた。
胸が痛いようなちょっと寂しいようなそんな感覚を抱えて。
前を見る。
先生がいつものように授業をしている。
それを見ているだけで頭がぼーっとしてる。
「カノさんこの英文を訳してください」
「…え、はい…」
ぼーっと指されている中で私はそれが理解できなかった。
けれど…いつものように起きる感覚がある。
ーそれを守るのは私の役目です「わかりません!」
それが起きた瞬間に私は答える。
先生が残念そうな顔をした後、別の人に聞く。
「それを守るのは私の役目です」
「はい、正解です。カノさん後で追加で課題を用意しておきますね」
「わ、わかりました」
生まれた時から私には知らない記憶がある。
曖昧で、思い出すのも突発的で、こう言った時や初めて人と会う時、記憶が再生される。
それは今や未来の記憶ではない。
古びた記憶。
「すいません、先生。調子が悪いので保健室行ってきていいですか?」
「そうですね、普段より疲れてそうですので行って来ていいですよ」
「ありがとうございます」
教室を出る。
私は弱い魔法少女だ。
情けない魔法少女だ。
弱いと言うことにヘラヘラして、人に頼り切りで…
鏡を見る。
「自分でも何をしたいのか分からない!」
そこに映る自分は自信無さげでヘラヘラと笑っている。
「何が目的なの!?何を求めてるの!?何をさせたいの!?ねぇ聞いてるでしょ!いつもみたいに答えなさいよ!」
私は聞く。
私に勝手に流れてくる記憶に。
けれど何も来ない。
その時、何か惹かれる感覚があった。
「行かないと」
私は自然と歩き出す。
ゆっくり…ゆっくりと踏みしめていく。
そして、
「何やってるの!!」
目の前にはイオがいた。
「何って…私は…」
「あんた死ぬ気!?ふらふらと迷宮に入ったと思ったら変身もせずに奥まで行って!何してんのよ!」
「…めい…きゅう?」
私は周囲を見るとそこは迷宮だった。
「あれ、さっきまで私…学校に…いたはずじゃ…」
「あー!もう、話になんない!!
「…イオ、とりあえず落ち着いて」
アイはイオを諌めて私を見てくる。
「なんのためにここに来たの?」
「分かりません」
「そ、なら貴方は死にたいの?」
私はその質問に即答できなかった。
死にたい?
死にたく…
「死ねない」
勝手に口が開く。
「死ねないの…私は…私にはやるべきことがある!」
「それが迷宮に入った理由?」
「そんなの知らない!私は…私は?」
何を言ってるんだ?
私は…私に一体何をさせたいんだ。
私は弱い。
私は情け無い。
そんな私に…
「私に何を求めているんだ!」
「え?」
「待て!」
後ろから声が聞こえてくる。
そんなことお構いなしで私は走り去る。
誰もいない場所…私だけの場所。
孤児院で私の為にある部屋。
「ひっく…えぐっ…なんで、何を私に求めているんだ!答えろよ!いつものように!いつも私に教えるように!何を私にさせたい!弱い私にはもう時間がない!」
そうだ時間がない。
あと一月で私の追放が行われる。
それでも答えは返ってこない。
ただ一つ…
「強く…なりたかった」
私の望みが漏れ出た。
ずっとバカにされてきた。
1人じゃ何もできなくて、頼ることも出来なくて、無能だと最弱だと揶揄され。
そんな私に何を託すつもりなんだ。
私できることなんてたかが知れてる。
でも、私の中にあるものは私が迷宮から離れることを許さない。
「変われると思った。彼女に会って私は成長できると思った。でも」
違った。
私自身が変わろうとせず。
強くなれる訳がなかった。
「悔しい…悔しい…違う…辛い」
生きていることが息苦しい。
少し考えるだけで心が苦しい。
ー死ねない
声が聞こえる。
「…お前は!」
「私に何を求めている!私に何をさせたい!なんで私が死ぬことを拒む!こんな弱い私をこれ以上生かして何がしたい!笑い物にしたいのか?私を貶めたいのか?私に恥を掻き続ける人生を送れと?私はもう嫌だ!もう嫌なんだ!私はもうこれ以上生きてるのが無理なんだ」
私から漏れたとは思えないような言葉の数々。
漏れ出る言葉の度に私の心は壊れていく。
だんだんと、どうでも良くなってくる。
それでも
「…死ね…死ね…死にたく…いや、死ねない…ふざけるな…ふざけるな…私はもう…」
地面でうつ伏せとなり私はただ、意識だけがあり暗闇の中で呟き続ける。
そんな時だった。
光が見えた気がした。
「こんなところで何をしてるの?」
声が聞こえる。
でも、どうでもいいや。
私は目を瞑る。
「カノ」
呼ばれる。
聞こえないふりをする。
「何があったか知らないけど、カノ…私はね。貴方に可能性を見出してるの。たった一月、貴方を見てただけの感想だけどね」
そんなの気のせいだよ。
私にそんな可能性なんて見出せない。
「カノ、私は貴方には目的があると思ってる」
そんなの無いよ。
私には何にも無い。
外に出る勇気もなければ、戦い続ける思いもない。
「私には目的がある。ついさっき見つけたものだけどね」
それがどうしたのだろうか?
「私はこの街の真実を知りたい」
この街の真実…そんなものに一体なんの意味があるのだろうか?
どれだけの意味があるのだろうか?
「カノ…私に」
もういいよ。
私はもう…
「力を貸して」
トクンッ
心臓が跳ねた気がした。
「どうして」
私は私自身に問いかけていた。
「どうしてって、カノは確かに弱い。でも、君は人の役に立ちたいと思ってる!違うの?だから君は死ねないし未練たらたらで今いるんじゃないの?」
「…」
声が出なかった。
息を呑む。
そうだ…そうだった。
嬉しかったんだ。
楽しかったんだ。
何にもない私がいていいんだって。
私が必要なんだって。
私の居場所にしていいんだって。
親友だって背中を守ってくれって言われたあの日が…
魔法少女になって初めて迷宮を閉じたあの日が…
あれ…おかしいな…
「なんだろう…これ…知らない記憶が…でも、グスッ懐かしくて、切なくて、大切だと思えるんだ…おかしいよね…だって、こんな私が誰かに背中を預けてもらえる訳がない。こんな私が1人で迷宮に勝てる訳がない。でも、懐かしいんだ。嬉しかったんだ。楽しかったんだ。誰かに…もう一度必要とされる雪菜さんの言葉が嬉しくて…嬉しくて…」
涙が零れ落ちていく。
涙が一杯で…でもどうしようもないほどの感情が一杯で…私は体が起き上がる。
座り込んだ私は溢れてくる涙を必至に拭続ける。
「いいんだよ。私は君を必要としてる。私と一緒に戦おうカノ」
「でも、…私弱いよ?」
「なら、戦い方を教えてあげる」
「たくさん迷惑かけるよ」
「いいよ、そんな君だから私は必要としたんだから」
いいんだ、そうなんだ。
あーそうだ…そうだった。
あの子も元々はそうだった。
私が弱いから私が弱かったからあの子が背負い込んでしまった。
あーなんで、私は忘れていたんだろう。
「強く…なるよ」
「うん、強くなろう」
「みんなを…雪菜さんも…代代さんも…イオもアイもアオイも…そしてミオも…みんな…守れるくらいに強く」
私はその後、新しい日が登るまで泣き続けた。
強くなるとそう誓って。




