二の太刀
私こと北条 祈は今日も歌や踊りの練習をしていた。
「おいおい大丈夫か?ほとんど休憩なしで今日もやってるけど…」
そんな私に心配して話しかけてくれる仲間が4人いた。
まず今話しかけてきた男は銀杏と名乗っておりステージでは銀という名でスター的な立ち位置の男だ。
「大丈夫です。私は疲れないので」
「疲れてないからと言って休憩を疎かにすると倒れちゃうよ!」
次に注意したのは丈流と名乗ってる少年であり、ステージでは流という名前で愛嬌のある男を演じている。
「そういう意味ではないのですが…」
「いいから素直に休みなさい」
「あ、はい…すいません」
「怒ってるわけじゃないわよ。ただあんたが心配なだけで…」
そう言って私を休むように叱ってくれる少女は煌と名乗っており、少し言い方がキツイが優しい人だ。ステージでは星という名前でつんでれ?というので人気を集めている。
なんか本人はそれに対して不満そうで不本意そうだけど、人気があるのは凄いことだと思う。
「煌ちゃんの言う通りにおとなしくしましょねー、ほらここにお弁当があるよー」
「あ、ありがとうございます。でも、お弁当に関しては遠慮させていただきます」
「あら、警戒されてる〜?」
私に食事などを勧めてくれる少女は空夢
と名乗っており、ステージでは夢という名で独特な話と癒しを持っており一定の人気がある。
「いえ、警戒してるわけではなく、夕ご飯は弟と食べると決めているんです」
「弟さん?」
「へぇ、弟がいるのか」
「どんな子なの?」
「私も聞きたいわ」
「面白いものではないですよ」
私にとって話しても面白いとは思えなく断ろうとするが4人の圧が強く渋々と話すことにした。
「昔の私とそっくりなんですよ…とは言っても少し前のことですけどね」
「へぇ、やっぱり姉弟なだけ合って似てるのね」
「違うんですよ。弟と言っても義理ですし、それに互いに親はいないんですよ」
「「「「…」」」」
「あ、気にしないでください。別に私自身特に気にしてませんし、付き合いが悪いことが原因で友達はできませんでしたけど、私としては今こうしてアイドルになれたことが嬉しいので」
実際、私はクラスでは浮いていた。
孤児院組は基本的に結束が固くて私が入る暇なんてなく、親のいる子と比べて家のことで私は常に時間がなかった。
「兎に角、弟は迷っているんです。感情を殺して、感情を捨てて、今すべきことも分からずに迷ってる…私にはそう見えるんですよね」
「てことは祈ちゃんにもそういう時期があったのかしら〜?」
「恥ずかしながら。だから、そんな私を救ってくれた歌と踊りを彼に届けたいんです。もう迷って欲しくなくて」
軽く私が勇馬に感じていた感情を漏らす。
話し過ぎてしまったかもしれない。
でも、真剣にみんな聞いてくれたからつい話してしまった。
「届くといいわね」
「俺たちも協力するぜ!弟さんに届けるんだろ?」
「僕も頑張って練習するよ!」
そうして今日の練習も終わり、私達はそれぞれの帰路につくことになった。
夜道をいつものように歩いていると見慣れるものが視界に映り込みそこを意味もなく注視していた。
金髪に肩ぐらいまで伸びた髪。
特徴的な燃えるような瞳は輝いて見える。
その瞳はじっと私を見てるような気がする。
彼女は一つため息をすると私に向かって歩いてくる。
その手にはヘッドホンがあり自分の耳に当てようとしている。
不思議な人だなと私は見ていた。
そして、その人とすれ違う。
それとともに知っている感覚が身体に走る。
熱い感覚、頭が真っ白になるような感覚。
「ごめん」
ただそれだけ聞こえたと思うと気がつけば周囲には誰もいない。
いや、私はその場で倒れていた。
そのため、私の見ることができる範囲はとても狭く本当にその場に誰もいなかったか分からない。
ただ、冷静な判断を失わせるだけ私のトラウマを刺激し…
私の意識は簡単に反転していく。
***
ウチこと月葉は息を呑む。
そして、自分の手に握られた短刀と…
目の前で倒れている少女を何度も確認する。
「まだ…生きてる?」
目の前にいる少女は数が少ない出演ながらも大勢の人気を得た歌姫と呼ばれるアイドル叶…いや、北条 祈だった。
ウチは彼女を刺し殺した。
一瞬のうちに首、腹部の臓器と二箇所刺し確実に殺しに行った。
だけど
ウチの付けた傷は無く、ただ彼女は倒れているだけだった。
「ホントに…そうだったのか…」
そうでないことを望んでいた。
そして、今この瞬間はそうであることを望んでいた。
ウチはそれだけ腐っていると自分で怒ることも疲れていた。
「ごめん、でも、君が人間じゃないなら遅かれ早かれ、こうなってたからできるだけ苦しまないことを祈るよ」
ウチは彼女の首に短剣を突き付ける。
ウチの力じゃそのまま刺し入れても無駄に苦しめるだけ。
なら、
短剣を大きく振りかぶり…
ウチはそれを振り下ろす。
だが、それは彼女の首には届かなかった。
短剣は弾かれ、ウチは呆然と衝撃の走った腕を見ていた。
「…誰?」
「もう忘れたのかい?」
目の前にいるのは前にリグレと名乗った男だった。
「あんたは何をしたいの?」
「何をしたい?人を殺すものを止めるのに何か意味は必要かな?」
「彼女は人間じゃない…人の形をした化け物だよ」
ウチは反論する。
しかし、リグレは笑う。
「君とは見ている角度が違う。君は何を持って人間を定義付ける」
「…そんなの」
ウチはそれに対して口籠る。
ウチは…いや、ウチらは人間じゃない。
そして、人間じゃない…いや、イレギュラーな生命はいずれ淘汰される。
でも、ウチは
「君は人間だろう?」
「…違う…ウチは吸血鬼だ」
「それこそ人種の違いではないか?血を飲むことに意味があるだけ」
「違う!」
ウチは強く否定する。
ウチが…アンタがそれを決められるものじゃない。
「アンタは知らない!あの化け物を…あの化け物が定義した存在以外は生きる価値なんてない!」
「それは人間なのかい?」
「分かんない…分かんないよ…だってアレは…」
ウチは思い出す。
あの恐ろしい光景を。
ウチの両親はあの男に殺された。
「君はそれが言う人間を人間としての定義として認めているのかい?」
「うるさい!」
ウチは耳を塞ぐ。
うるさい…うるさいうるさいうるさい!
お前に何がわかる。
お前に何ができる。
恐ろしかった。
怖かった。
殺されるんじないかと息が詰まりそうだった。
目の前でアレがウチを見るだけで心臓が跳ねて足がすくんで涙が溢れて…
親を殺された憤りなんて忘れて、ただただひたすらに逆らってはいけないと言う感情だけが湧き続ける。
そんな無力で情けないウチの気持ちなんて
「分かるわけがない!お前なんかにウチの恐怖なんて!」
叫ぶ
ただただ叫ぶ。
疑問に思ってはいけないを
従っていれば吸血鬼が生き残る道が開ける。
ウチがたとえ死んでもアレの魔の手は他の吸血鬼へと行かない。
「そうか、ごめんな。何も分かんない」
「お前は…お前はどれだけウチを舐めれば気が済むんだ!」
襟首を掴み、壁に叩きつける。
「吸血鬼の秩序?そんなのウチにはもうどうでもいいんだよ!ウチが欲しいのは吸血鬼の生存権だ!ウチはこれ以上、ウチの知り合いを殺させない!だからウチは同族を殺す!ウチと同じ化け物だと言い聞かせて人を殺す!もう後戻りなんて出来ない!ウチの手はもう幾十、幾百の同族やそれに類する者の死体で汚れている!なのになんで今更お前みたい、お前たちみたいなお人好しが現れる!?やめてよ、ウチに希望を持たせないでよ!アンタが何をしてくれるよ!アンタがウチを救ってくれるの?アンタがウチら吸血鬼を守ってくれるの?アンタが彼女を守るならウチも守ってよ!ウチもウチらも生きたい…だよ。でも、ウチは…ウチもう、もう多くの…多くの同類を殺してきた。ウチに救われる価値がないのなら!この手が何かを握るような権利を持ってないと言うのなら、ウチはそんなものは要らない!でも、ウチの同族を救う、一つの手を差し伸べてよ!誰でも良い…あの化け物に勝つことのできる存在が…誰でも良いんだよ!ウチはただ守りたかった…ウチが汚れてウチがそんな価値がないと言うのなら守ってよ。ウチの代わりに吸血鬼というどうしようもない欠陥種族を…」
全てをウチは吐露していた。
ありとあらゆる感情がごちゃ混ぜになって、自分でも何を言ってるかわからない。
泣き続けて今もなお声にならない声を上げ続ける。
周りに誰か通るかもしれない道の中だと言うことも忘れてウチは…子供のように泣きじゃくる。
「辛かったな大変だったな…よく頑張った」
ウチの頭に手が置かれる。
「なら、君は死にたいのかい?」
「嫌だよぉ…死にたくない。ウチはまだ生きたい。もっともっといろんなことを経験してもっと一杯生きたい」
「なら、戦おう」
「無理だよ」
アレに勝てるわけがない。
ウチ1人でアレに勝てるわけが
「無理じゃない君は1人じゃない。君とともに戦おう」
「なんで…なんでそこまでしてくれるの?」
「さぁ、でも、きっとこの体がこの心がこの魂がきっとそうしていたからだ」
「え?」
彼は立ち上がりウチに手を差し伸べる。
「幾十、幾百、幾千と持つ名の一つがリグレ…リレグレスであり、君にそう名乗った。そして、君の名は?」
「ウチは月葉…」
「そうか、なら我が名いや、我が身に刻まれた名はリレグレスであってリレグレスになきもの…勇馬だ」
「どういうこと?」
「そう呼ばれた時期もありその名も正しくあるということだ」
無機質な言葉だった。
そこでウチは理解してしまった。
あぁ、この人も何かを失いたくないんだ。
きっと彼はソレを理解できない。
感情を殺すことでソレを理解できないようにしてる。
だからウチは
「ねぇ、もう一度聞く」
「何をだい?」
「どうして感情を殺すの?」
「…」
しばしの沈黙。
そして、彼は天仰ぐ。
「失ったものばかりだ。記憶も何もかも。今の自分は果たして本当に自分なのかも分からない。でも確かに過去の自分を奥底から感じれる。だから殺し続ける。ソレが埋もれないように。ソレを理解するその日まで」
あぁ、なんだろう。
ウチはこんな気持ちになったのは初めてだった。
こんなに人の奥底に触れてみたいと思ったことはない。
「ならウチも手伝うよ。アンタの奥底を知ることができるその日まで」
「…そうかい、ありがとうな」
その日、ウチはその手を洗う。
決して落ちない汚れでもウチは…
…
……
………
**
「理解しました。しかし何故ここに住まわせる必要があるのですか?」
「…ふむ、これに関してはそっちの方が合理的だと結論が出たからだが?」
「何言っても無駄だと言うことが私には分かりました」
目の前の少女、ウチが刺してしまった少女、北条 祈が頭を抱えながら話していた。
ウチは隅の方でやり取りを見ていた。
本当に会話はできるけど考え方が無機質なんだなぁウチは勇馬についてどうでも良いことを考えながらも2人の様子を見て話に入る隙を窺っていた。
その理由は…
「ごめん、自分を殺そうとした相手なんて嫌だよね。謝罪だけは受け取ってほしい」
ウチはそう言って頭を下げる。
謝罪をするためにウチは話す機会を窺っていた。
ウチは何言われても仕方ないことをした。
だから、何言われてもウチは覚悟を…
「そんなことはどうでも良いです」
「は?いやいや、ウチはアンタを…」
「そもそも私は一度死んだ身です」
「えっと、死んだって?」
何やら彼女は訳が分からないことを言い出す。
「そのままの意味です。確かトラックに盛大に轢かれて死んだはずです。ですので今更死んでもソレが定めです」
「いやいや、だらと言って殺されて良い理由にはならないでしょ」
「そうですか?私はもう目的は終わってます。後は彼の心を引き出すことですが、アイドルになり私の声を届けると言う目的が終わってる今、いつ死んでも良いんです」
「いやいや、まだ新米でしょ、武道館とかそう言った目標は…」
彼女は首を傾げていた。
なんか、「ブドウカン?」とか言いながら目を回している。
ソレを見てウチは絶句する。
「もしかしてアイドルがどう言うものか分かってない?」
「えーっと、歌って踊って他人に笑顔になってもらうための職業ですよね?」
「そ、そうだけど…舞台に立ってより多くのファンの前に立って有名になって大舞台に立つとか…」
「ソレに何か意味があるんですか?私は確かに多くを感動させたいです。でも、1人でも私と同じように心を打たれれば私の目的は達します」
ウチはその言葉に鳥肌がたった。
だって彼女の言葉は嘘や偽りで固めたものじゃない。
純粋にズレてるのだ。
確かにそう言った人間は一定数いる。
だが、ソレとは明らかに違うものがあった。
彼女は自分が感動したと言ったが、そんなもの彼女にとって些細なものなんだ。
ただ、自分とは違う誰かのためしか見ていない。
良くも悪くも彼女は自分の身なんて考えていないのだ。
「ウチも相当だと思ったけどここにいる、ウチ含めた全員…」
狂ってる。
ウチは純粋にそうとしか思えなかった。
ソレが偶然?
いや、そんなの偶然じゃない。
ソレが意識してか、それとも…何か別の意図がウチらを手繰り寄せているように見えて仕方ない。
**俊介side
「よっ、久しぶりだな火鎚」
「よぉ、暫く学校休んでまで組織編成が終わったよ」
俺はやつれて隈だらけの火鎚に挨拶すると向かいの席に座る。
現在は学校の教室であり、周囲は休み時間ということもあり殆どの生徒は外に出ている。
「そういえば相模先生について何か知ってるか?」
「俺に聞いても分かるかよ…」
火鎚はうんざりしたように答える。
あーこれは気付いてないやつだな。
「あの人は元こちら側の人間だ」
「は?」
「出所などは不明だが丁度、四年前だったか三年前に突如現れた2人の化け物が裏世界にいたんだよ」
「それが相模先生と?」
「知らなかったのか本当に」
「聞いたことすらなかったな」
まぁ、元々絶対悪自体は終焉への対抗がメインだから小事はあまり干渉しない組織だった。
「てか、2人いたならもう1人は…」
「死んだよ、手を下したのは俺の親父だ」
「…何があったんだよ」
「…本条家にとっては邪魔であり、確認しなければならない事項があったみたいでな。これに関しては結構な機密になっていて親父しか知らない案件だな」
「なら、聞けよ…」
「俺が闇の長になる際に殺したよ」
呆気なく言う俺に火鎚は微妙そうな表情をしていた。
「ウチの組織はそう言うもんだと思ってくれ」
「色々とあることだけは分かったよ」
理解はしてなさそうだが、まぁウチが特殊なのは間違いなくそうであるので反論する気は俺にはなかった。
「まぁ、そのことからおそらく本条 響鬼が関係してることがわかるが、目的が不明瞭すぎる。そもそも片方殺して相模先生を生かした理由もわからない」
「まぁ、確かにそうだな。敵対関係にある上に闇まで出したのなら普通なら2人とも殺すのが打倒だと思うが…」
「それがそうでもないんだよな。2人は傭兵をしていたみたいで、特に敵対はしてないし本条家とは一切関わることはなかった」
「なら、益々訳がわからないな」
「だからこそ、相模先生に聞きたかったのだがな」
俺たちと同じあの事件以来偶然かはたまた何か関係しているのか相模先生は来ていない。
事実確認なんていちいちする余裕なんてないなんてことはよくある話であり、この機会を逃せば俺の周囲はとても忙しくなることだろう。
バンドだけでは無く、影や四災の調査に乗り出すように上から命令があり、今まで以上に忙しくなることが確定していた。
「そうだ、お前のエーテルとこっちの闇の方で連携を取れるようにした方がいいかもな」
「あ、あぁ。全員の意識統一と今後の方針も決まったから問題はないが」
「方針も決まったのか」
「あぁ、絶対悪は終焉への抑止力ではあるゆえに12組織に求められるのは事前の防止であり、その中でも俺たちエーテルはイレギュラーの排除だ」
その言葉に俺は考える。
イレギュラー
何を意味するのかは理解できた気がする。
しかし具体的なものを言えと言われても何か言語化できないでいる。
それでも
「なら、丁度いいな」
俺はそう言ってのける。
「良いのか?今回の目的は本条 響鬼の排除、四災の対処、裏で動く何かを突き止めることだ」
「当たり前だろあのババァは俺たち闇の敵だ。それに闇は秩序と安寧の為の組織だ」
俺がそう言って笑うと火鎚は少し悩むと頷く。
「それなら頼む」
「あぁ、よろしく頼む」
俺はそう言って火鎚と握手をする。
「何してるのかな?」
「私たちも話に混ぜて」
「俺も混ぜろよ。折角目的が決まったんだからよ」
そうしてると紗雪、利差、雪夜と3人が話に入り込んでくる。
エーテルとしての結束はこう言った互いに互いを理解してその上で共同しているからこそなし得ている。
それが強さなんだろう。
俺は一つだけあえて言わなかったことがある。
それを知った時、この組織…エーテルの人間たちはどんな顔をするのだろうか?
怒るのだろうか?
悲しむのだろうか?
それとも…
馬鹿みたいに意固地になるのだろうか?
「どうした?」
「なんでもない。ただ、仲良いなお前ら」
「当たり前だろ。それだけが俺たちの武器なんだから」
きっと彼らは俺には眩しい。
いや、違うか。
結局、俺は怯えている。
そんなことを自覚しつつも俺は笑いかける。
「良い武器だな」
**
「こちら加藤…現在、生命が破滅との接触を確認しました」
そんな通信をしながら、加藤は息を潜めて様子を眺めていた。
視線の先には花や実を咲かせ、彩り豊かな世界のど真ん中に歩く桜色の髪をした少女、那奈が歩いており、その先には燃え、崩れていく森が広がっており、その中心には紅い髪を持つ小柄な少女、華がいた。
「こんばんは」
那奈の挨拶に華は返事もせずに睨み返すだけ。
しばらくの無言の中で那奈はゆっくりとした所作でその場で座し華を眺めていた。
「ねぇ、あなたはどうやってこの感情を抑えてるの?」
口を開いた華の第一声がこれだった。
その言葉の意味を知っている那奈は何も言わずに首を横に振る。
「そ、あなたでも制御できないのね」
「そうね。よくよく考えてみれば可笑しい話よね」
那奈はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「考えれば今までの暴走はあり得る話だったゆえに私達の暴走もまたその一つだと思ってたの」
これまでの利差、火鎚の暴走を思い返せばこの四災の暴走も同じ形のものだと思える。
しかし、これには確実にあり得ないものが含んでいた。
それは
「そもそも、器がない」
華が答えを持ってくる。
その答えは通常であればあり得ない話。
しかし、四災…いや、特定の存在にとってはあり得る話。
そもそも技法値、魔力、霊力、などと呼ばれるエネルギーには特定の法則が存在する。
技法と魔力は根本は同じ力であり、違いはその扱い方のみである。
その力の根源は魂が持つエネルギーを抽出し扱うものである。
そして、霊力…霊格と呼ばれる力は魂そのものの強さと大きさであり、根本が魂にある。
全てのエネルギーは以上の通り、魂が関係しているが、その力を留めるために肉体が器となる。
その器が溢れればエネルギーの制御が効かなくなり、魂と肉体が自壊する。
逆にその器内であれば魂を安定させることができる。
だが、それにも例外となる存在がある。
先の通り、器とは根本を言えば肉体の強さとも言えるが、器があるのは何も肉体だけではない。
あくまでも、魂…精神が不安定でありそれだけでは生命として自我を持ち存在できないが故に肉体という器が必要となる。
しかし魂にもまた器がある。
そしてその魂の器は特定の条件やありとあらゆる要因などが交わることにより器の許容を超えることが可能となる。
彼女たち2人、いや少なくとも華、那奈、千那そして椿は強力な魂によってその器の許容はなく、暴走することがあり得ないことだった。
「なら、何かの作用があると考えるのが自然…ですね」
「大丈夫?一回吐き出そ」
苦しそうに考える那奈を見て華はそう提案する。
「一度でも力を使えば理性が消えます。互いに生きてることを祈るというのでしたら吐き出しますよ」
「ん、それでいい」
那奈の条件を飲むと2人は目の色を変える。
周囲が破壊される。
「予想通り、戦闘が開始されました」
加藤が報告する中、その様子を加藤が観測することはできなかった。
それは彼自身瞳に映るものがただの光の球体でしかないからだ。
「あれが領域…ですか、疾風さんの領域内には入ったことがありますが外からは初めてですね」
領域の根本は霊格による方面の力により空間を支配し捻じ曲げることにある。
例え、今ある領域のような直径5メートルにも満たない小規模なものだったとしても中での規模は展開したものに応じてどこまでも広くなる。
そして、外の人間が入ることや干渉することもまた展開した者の意思や強さに応じて変わる。
干渉や破壊をするなら展開者と互角以上の力が必要となる。
中に入るのなら展開者の合意または、展開者と互角以上の力となる。
ただ干渉などは得手不得手など色々な要因があるため、絶対的なものではない。
そして、中を覗き見ることもまた同じような条件が必要となる。
「疾風さん、できますか?」
『問題ない』
加藤から大きなエネルギーの奔流が発生する。
その力は凄まじいものであり、その力を加藤は領域へとつなげる。
「観測を開始します」
加藤はそう言うと目を瞑る。
彼の暗闇であるはず視界には領域内の光景が映し出されていた。
そこは無限に広がり永遠に続くとも言えるような桜の群生している光景だった。
その桜、一種類だけでは無く様々な桜が咲き誇っていた。
その中心に…
いや、まるで中心であるように居座る少女が1人。
桜色の髪、装飾が多く華やかな着物に身を包んだ那奈がここにいた。
彼女は木刀を一本、持っておりその足元には弓がある。
一方、紅の髪、防御力が無いような紅い布を纏った幼い少女、華。
彼女の腰には脇差と思われる一本の刀があり、右腕には鎖が巻き付いており、その先に繋がる巨大な大剣の上で座っていた。
2人が動き出す。
大剣がけん玉やヨーヨーのように振り回される。
それだけで無作為に破壊を撒き散らす。
それを振り回す当の本人である華は定期的に大剣を足場にして空中で大剣を振り回し続ける。
那奈はそれに対して最小限の動きで避けていく。
しかし、見た目よりも…いや見た目通り破壊力は凄まじく一撃一撃がクレーターを作るレベルであり、その衝撃だけで那奈は吹き飛ばされる。
炎と雷、風を利用した純粋な破壊者である華は周囲を焼き焦がし、炎を撒き散らし、雷を発生させ辺りを地獄の様相へと変えていく。
だが、その程度で那奈が手詰まりになるわけがなかった。
とてつもない速度で放たれる破壊の嵐の中、那奈は体勢を立て直すと平然と立っていた。
「お互いに小手調べから打ち合う方がいいですね」
那奈そう言ってニコリと微笑む。
瞬間、木刀を地面に突き刺す。
「命を宿れ、流脈は姿と変わり龍と化せ」
光の塊が地面から這い出す。
それは一つや二つなんて少ない数ではない十、二十、いや百、千を超える巨大な龍を模したエネルギーの塊が暴れ始める。
互いに破壊し抑え込み拮抗し始める。
「ふふ」
「あは」
那奈と華が笑う。
その目はとっくに正気など失っている。
自身の全力を振るい互角となる相手、それを認識した2人は自身の置かれた状況…暴走状態の本質が姿を見せる。
「流星終焉!!」
「星の守護者!!」
華が大剣を握る。荒れ狂う暴力が一点に集まりそれが放たれる。
落ちるように落下していく華はとても遅かった。
それが危険と理解した那奈は龍を一つに収束し、1匹の巨大な龍を形作る。
それは華を飲み込む。
だが、|華(流星)は飲み込まれると共に破裂した。
音が消える、それは何の音も無かった。
いや違う。
まず、観測していた加藤は目を焼かれた。
そして、次に耳を壊される。
疾風の能力によって再生が施されるがそれを観測するたびに加藤の五感を破壊し尽くす。
その一撃は領域を破壊し領域のあった場所を不毛の大地へと変えた。
観測を許すことすら出来ない究極の一撃、それを那奈は防ぎ切っていた。
だが、その一撃は互いの本気、互いに観測する余裕が無く尚且つ、傷だらけだった。
しかし、
不毛の大地へと変わった場所は元のように緑が出来、桜を咲かせた。
それと同時に那奈の傷は塞がっていく。
腕が取れていようと、目が潰れていようと、耳が削がれていようとその傷はまるで無かったかのように元通りになっていた。
その様子は何も那奈だけのものでは無かった。
先ほどまでに無かったオーラのようなエネルギーの塊が華には纏わりついており、それを吸収することで半身が焼け落ちていても再生される。
精霊の顕化と破壊の顕化である2人にとっては肉体的傷などに意味はなく、互いに精神が無事であればいくらでもリトライ可能。
2人はいまだに笑みを絶やさずに構える。
『加藤引け』
そんな中で加藤はその指示を聞いた。
「な、何故…」
『ここから先は2人の本気だ。観測してるだけで死ぬことになる』
「そんな…いえ、その可能性は充分にありますね。では、撤退します」
こうして観測者である加藤は撤退をするのだった。
**
廊下を駆ける音が響き渡る。
目まぐるしく変わっていく景色の中、影を追いかけていく。
それが唯一残された選択。
僕こと嗣井 晴臣は現在、廊下を走り続けていた。
夜の学校という状況の中、俺はそれを見つけた。
影を…
「待って!」
だが、一向に追いつく気がしない。
ひたすら影を追い続けていたが、気がつけば見失っていた。
息を整えながら辺りを見渡す。
気がつけば中庭に出ていたようで静かな夜の月光が差し込んでいた。
その先には
「っっ!」
見覚えのある存在がいた。
青い髪の少女。
儚いような存在感であり、よくあるクノイチみたいな姿ではあるが、戒めのようにベルトが様々なところを締め上げていた。
「あなたは救いを求める?」
声を掛けられる。
その少女の表情はどこか悲しそうで辛そうなものだった。
僕は…
その言葉を知っている。
「…」
僕は恐怖で動けない。
声も出せない。
ただその次に起こることを受け入れる準備をするだけ。
僕はここで死ぬ。
沈黙が支配して、結果が現れる。
「残念だよ」
あぁ、また僕は殺されるんだ。
彼女に
突風が巻き起こる。
それは僕の知っている結末。
のはずだった。
「生き…てる?」
目を開く。
そこには黒い影がいた。
『ーーーー!!』
音にならないが黒い影が叫ぶ。
それと共に少女の剣を弾く。
弾かれた後に体勢をすぐに立て直した少女は笑う。
「へぇ、君が出張るんだ。なら、ボクの二の太刀を出すしかないね」
僕はこの日、理不尽を見た。
それは…自分の常識が壊れていき、変わっていくものだった。
**
同刻、ライトは本条家での事件以降に発生した巨大樹の近くまで来ていた。
「あれには手掛かりがあるとは言うが…」
彼は俊王の解析のためにこの巨大樹を調べろと言われている。
だが、彼はそれ以上動くことはできなかった。
その理由は簡単であり明白。
巨大樹の前に立つ少女がいたからだ。
翡翠とも呼べる緑色の髪、コートのような白と黒が入り乱れた衣装に身を包んだ少女、椿がジッとライトを遠目から見ている。
だが、不意に視線を逸らす。
それに対してライトは疑問に思う。
「ここから立ち去りたまえ。であれば君たちに危害は加えない」
よく通る声で警告する彼女にライトは汗を頬から垂らす。
だが、ここで簡単に引けるほどライトの立場は盤石ではない。
故に
前に出る。
それと同時に三つの存在が同じように前に出てきていた。
「やぁ、久しいね原善を大切にする君よ」
1人はとても幼い少年だった。
彼はもう1人の存在に手を振っていた。
「ふん、貴様は相変わらず引っ掻き回して何がしたい」
返事をしたのはとても大人びた男であり、少年を睨んでいた。
そして、最後は
「ヒッヒッ、中々に個性的なメンツが揃ってるねぇ」
本条 響鬼だった。
そうして、賑やかになろうとした時だった。
威圧感が辺を支配する。
その根本は椿から放たれたものであり、ライトはそれだけで呼吸が難しくなる。
しかし、他3人は違った。
「さて、こうして前に出たと言うことは」
それでも平然とした顔で椿は口を開く。
一歩一歩と前へ歩みを進めていく。
「死ぬ覚悟はできたようだね」
瞬間、ライトは飛び退く。
咄嗟の判断。
それが正解だと認識できたのは一重に僅かに斬られた首が証明していた。
他の3人は堂々と斬られている。
しかし、3人ともまるで何事もなかったように傷跡がない。
「警戒してるのは俺だけかよ」
ポツリとライトは呟く。
だが、それでもライトは退くことはない。
「ヒッヒッヒっ、乱暴じゃのう。ワシは協力を頼みたいだけじゃよ。その分離と…二の太刀の力を借りたいだけじゃ」
***
「ボクは少しお喋りでね、一つ教えてあげるよ。私達4人にはそれぞれ、二の太刀が存在する」
青い髪の少女、千那は黒い影と晴臣を目の前に楽しそうに呟く。
「ボクの根本的な力が取り出すものであれば二の太刀は与えるものとなる」
微笑む、取り出すのはいつものように自身の剣である『心の幻想』。
「役割が反理する力が二の太刀であるのならボクの剣はボクに役割を与えられて何者にでもなれる」
**
「結合の力をワシの目的のために使って欲しいだけじゃよ」
響鬼の言葉に誰もが止まる。
その言葉に違和感を覚えたのは1人もいない。
彼らの中で彼女たち4人には二の太刀が存在することがハッキリと分かっていたから。
しかし、そこに否と答えるものがいた。
「残念だけど私はそんな二の太刀を持った覚えはないのだが?」
椿は一本だった剣を2本に分ける。
「私の太刀はこの2本である」
その剣は全く同じ見た目であり、僅かに欠けている場所や色合いが違う、黒い2本の剣。
「私の力は分離であり、分岐である。様々な枝分かれ、分岐をを行った先、まさしく私の守るべきもの、この剣や力に名をつけるなら黒羽では無く、世界樹の枝と呼ぶであろう」
椿が動き出す。
ライトは盾を前に出し、耐える準備をする。
「ヒッヒッヒ、やはり無理矢理でも、言うことを聞かせるしかないのう」
「その前に俺はこの女を殺す」
響鬼と男は構える。
だが、
少年だけは何もしてなかった。
「いやー俺はそこに世界樹があり護る存在がいることを確認すればそれでいいし、引きますよ」
少年だけはその場から離れていく。
「では、そちらの3人は死ぬ覚悟ができていると」
「舐めるんじゃないよ。いくら長い時間生きていても、力が完全に磨耗した存在に負ける気がしないねぇ」
響鬼は挑発する。
その言葉が挑発であることを理解してかはたまたま興味がないのか椿は何も言わずに動き出す。
それと同時に男、響鬼、ライトは動き出す。
3人が見たのは翼のような木の枝ような巨大な枝分かれした黒い物体だった。
**
「なるほどねーボクの力を完全に防ぎ切るとはねぇ」
千那は学校の中庭でポツリと呟く。
目の前にいる黒い影には一切のダメージが入ってるようには見えていない。
強力な力を持つ千那の一撃は黒い影の後ろに一度も行かずに、晴臣を殺すことは叶わなかった。
「なんだよ…これ」
1人、この状況について行けてない晴臣は思わずそんな声が漏れていた。
「んーボクの力的に君をどうにかすることは簡単だ…それは分かってるよね?」
黒い影に千那は話しかける。
声は届かない。
ただ、人の形だと言うことが僅かにわかる程度の黒い影は首肯してるのかも認識するのは困難だった。
しかし、千那にとっては間違いなく首肯と分かった。
「なら、なぜボクと戦うんだい?君にはこうなってでもここにいるための事情があるはずだよ。それを放棄してでも何故?」
ドンっ
と胸を叩く音が聞こえる。
「そ、君みたいのがいるから…ボクみたいな存在が惨めなんだよ」
千那が顔を一瞬伏せる。
しかし、すぐに笑顔で前を見る。
「少し落ち着いたよ。それじゃ、またボクに遭遇しないように気をつけてね」
千那はそう言って去っていく。
「ま、待って」
晴臣は手を伸ばす。
しかし、腰が抜けたままで動けない。
気がつけば黒い影もなく、中庭に取り残された晴臣は
「本当になんなんだよ…これは…でも…それでも」
1人、泣き崩れていた。
その真意は彼の奥底のみにしまわれたまま。
**
「コレで資料は全部か?」
俺こと俊介はこれまでの闇に出されてきた命令書や活動記録などを調べていた。
「はい、先代のみの任務も一応ここに」
俺はそれを聞いて安心すると一つ一つ資料を見る暇もなく、パラパラと目を通していく。
「あった」
そして、見つけたのはとある共通項を持った情報達だった。
「少なくともまだ前の内容があるはずだ」
俺はそう考えて、資料を更に広げていく。
興味深い内容がいくつも目に入るが、関係ない書類は除外していく。
「全部で50件近くあるのか…」
その資料を見てため息を吐く。
だが、その内容は目を疑うものだった。
「封印の地から出てきた人間か」
封印の地、それは本条家に伝わる場所であり、この時代に本条家が産まれたきっかけとなる場所。
約1700年前に初代当主とされている天条と呼ばれる存在が鬼に侵食された存在を封印したと言われる地。
だが、いくつかおかしな話がある。
そもそも封印の地は人がいないはずだ。
不毛の地となった場所で行われたはずだが…
まぁ、伝承のどれだけが事実かは定かではない。
当時、そこまで文明的なものではなく真実味が…いや、一つ可能性があった。
封印の地と共に本条家は移り住んだと言う話もあった。
とは言ってもどこまで真実かは分からない。
「この一件の根本は封印の地への鍵を手に入れることか」
鍵となるのは外に出てきた人間であり、5人の持つ鍵の欠片があれば鍵を手にすることができることまでは分かっているが、殺すタイミングなどにも最新の注意が必要があるようで、早く殺し過ぎると溶けたみたいに存在ごと消えるようだ。
かと言って遅過ぎれば鍵の欠片は消えて無くなってしまう。
細心の注意を払ってようやく5つの鍵の欠片が集まったところで封印の地からでた人間の殺害を辞めたようだ。
「なるほど…こんな報告書まであるとはな。だが、一つ疑問があるな」
なら何故、響鬼のババァは封印の地に足を踏み入れてない。
もしかして、鍵の欠片だけじゃ意味がないのか?
となれば、やることは決まった。
「総員、これより俺の学校にいる教師の1人、相模を捜索し、必要に応じて護衛しろ」
そう闇の面々に命じる。
「さぁ、お前の思い通りにはいかせないぞ…響鬼」




