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始まりの胎動

物事には始まりが必ず存在している。


それが、一つなんて少ないものではなくありとあらゆるものの上にそれが成り立つ。





……



観測。


星間のズレが大きく正確な情報の入手は困難。


幾重の干渉を観測。



可能存在


真実


超越者



守護者


……



禁忌



以上五つの存在の干渉または異常行動が原因と推測。



観測


星は伝承を示す星が大きくずれを生じている。


中でも神に連なる星は全体の二割。


影響幅より起源の異なる限定的神、守護者が原因と推測。


英雄に連なる星は全体の七割。


現状超越者に連なる起源、神と並びし星の影響はなく影響幅は想定を超えている。


禁忌が原因と推測。


また、真実の影響、自然の星を観測、残った一割。


エラー。


想定以上の影響を観測。


現世界に現存真実、2名の干渉を推測。


戦争の系列する星より初代、存在を系列とする星より5代目の現存を確認。



救、絆、間に系列する星の亡失を確認。


警戒対象


禁忌の星より


傀儡


狙撃


幻刀


理破壊


再生




拡散


収束


武神


結合


の系列のズレを確認。


要警戒。



守護者の星より


魔女の亡失確認


代弁


戦争


自然


の異常が発生。



……


嘘をついた。




いや、嘘ではない。



ただ、こうして忘れることによって…みなくていい物を見ようとしてなかった。



しかし、嘘をついて観測なんてするから知らないでいいはずのものを知ってしまう…いや、思い出してしまう。


そして、また嘘をつく。


「何が見えたの?」

「何も、ただこの未来を推測してるだけだよ」



本当は彼女の気持ちを理解してる。


そして、考えないようにしてきた。


彼女と出会った日


五つの星を観測した。


いや、急に現れた。


それが1番のズレの原因だ。


だから、嘘をつく…いや、嘘ではない。


初めから



「さて、今日はもう寝るといいよ」



初めは



俺に感情は無かったのだから。



こうして俺は都合の悪い記憶を逸らして、また感情を失う。





観測


正体不明


推測




現存神


破壊


機械


全能


三柱



正体不明の四柱目と推測




そういえば忘れてたな…


俺をいや、神使を作ったのは正体不明の神だったな。


**



疾風という男は常に先を見据えて動いていた。


しかし、現在


「くっそ、何にも上手く行かない」


全ての未来が潰されていた。


「疾風さん…」

「…加藤か」


加藤はそんな様子の疾風を見て声をかける。


「あの、一体…」


だが、今の疾風の様子を見て言葉が消えてしまう。


くっきりと隈ができた目元、明らかに疲れ切って少しやつれたその姿に息を呑む。


「加藤、未来の変え方って知ってるか?」


急にされた質問に加藤は慌てた様子もなく少し考え答えを出す。


「自分の過去視から行う未来予測などで未来を知ることでしょうか?」

「そうだ、そもそも未来を知らなければ変えることなどできない。後にも先にも干渉力が高い存在を除いて完全な未来視が可能なのは俺しかいなかった」

「えーっと完全な未来視?」


内容を理解するのに何度も加藤は反芻し疑問を取り出す。


「あくまでもお前のできることは過程的未来を覗くことだ」

「…過程的…」

「すまん、少し話を飛ばしすぎたな。過程的未来っていうのは既定的未来への繋ぎだ」

「既定的があるということは確定した未来があるということですか?」

「そうだ、ただそれは一つではない。幾重にも折り重なって過程に応じて分岐し、通るための未来だ」


加藤は考える。

複雑な話についていけないわけではない。


だが、もしその話が本当なら…


「疾風さん、俺は貴方と歩くことは」

「できないな」

「俺は貴方達みたいな、強い力を手に入れて貴方達を追いかけて、隣に歩くことは」


そう、


彼はなんとなく分かっていたのだ。


自分は特別な人間ではないことを。


それは今確信になってしまう。


「疾風さん…そうなんですね?」


きっといつかこの人達の見ている世界を見ることができる。

そう思っていた。


だが、加藤のその希望は


「そうだ。お前は転生することも命を長らえることもできない。病気寿命、外的ダメージ、それらの要素でお前は簡単に死ぬ」

「……そう、ですか」


砕かれた。


気がつけば、加藤の頬には涙が伝っていた。


しかし


「だが、それは確定じゃない」

「え?」


疾風はようやく笑った。


「そうか、そうだったなぁ。全部めちゃくちゃにされたならそれを利用してやればいいのか」


彼は気づいた。


「今この世界は化け物達の手によって既定未来をめちゃくちゃにされてるってことは決まった未来が今存在しない」

「は、疾風さん?」


急に興奮し出した様子に加藤はわずかに引くが、疾風は笑っていた。


「なぁ、加藤…今から組織の全員に聞いてくれ。今の人生、家族友人…ありとあらゆる関わりを捨てられるものだけが残れと」

「…それは」

「これより、絶対悪は全員を最低でも数100年生きれる存在に変える」


疾風はそう言って笑う。

その表情はどこか寂しそうに、どこか悲しそうに。


だからだろうか、加藤は口を開いていた。


「疾風さん、賭けますか?」

「何をだ?」

「これからみんなが選択するものです」


加藤には確信があった。


なぜなら


「この組織はあんたを信頼し、そして、死んでもあなたの力になりたいと願った人間が集まった組織です。答えは決まってます。俺は今の人生の例え自分の家族が早く死に辛い思いしてもここで力になるという選択だけは後悔しないです」



**



俺、紀伊羅 恭平は学校が終わり、とある部室の前でため息をついていた。


「おいおいそんなところでぼーっとしてないで入れよ」


気がつけば同じように部室に来ていた平八が俺にそんなことを言う。


「お前はお叱り終わったのか?」

「…先生にこってり絞られた」


こいつはいつものように教室でバカやってるせいで放課後に職員室に呼び出さられてお叱りをいつも受けている。


「てか、部員でもない俺が入っていいのか?」

「何言ってんだよ、部員は俺しかいないからヘーキだよ」


平八はそう言って部室を開ける。

部室にはギターやベース、キーボードなどの軽音に必要な楽器が所狭しと並べられている。


「お前が入部する前の先輩達が置いていったもの多すぎないか?」

「ま、だから先生方も俺一人だけの軽音部を潰したくないんだろ?」


そう言って自分のドラムのところに座る平八。


俺がなんでこんなところに来てるかと言うと、平八に文化祭で一緒に演奏してくれと頼まれたからだ。


「にしても、多少触れたことはあるけどよ。文化祭まであと一月だろ、間に合うと思ってるのか?」

「まぁ、形にはなるとは思ってる」


こう言った時の平八の予想は確かなものではある。

しかし


「俺以外のメンバーは?」

「…」

「おい、忘れてたみたいな感じで目を逸らすな。お前はいつも爪が甘いんだよ」


そう言って俺はギターを持って練習をしようとする。


「あとでしっかり人数揃えろよ」


俺はそう言って練習に没頭する。

そうしている間に平八は慌てて部室を出て行った様子を確認している。


そうして、30分ほど経過しただろうか?


昔からなんでもそつなくこなせると言われてきた俺はその通り、ギターをある程度弾けるようになっていた。


でも、やはり…


「進行が二つあるのか…」


そう、この曲は二つのメロディがあり、それぞれ最終的に合わせることで成り立つ曲だ。


多分、あいつが連れてくる相手は…


ガラガラ


と、扉が開く音がする。


そこに目を向けると息を切らしながらドアを開けた友人がいた。


「連れてきたぜとびっきりの助っ人を3人」


そうして連れてきたのは予想通りであり、それ以上の人だった。


「よ、よう…」


すごい気まずそうな顔をして挨拶をする男。


幾人。


「相変わらず不景気そうな顔してるわね。全く…」


いつものように悪態をついてくる幼馴染、瑠衣。


ここまではいい。


だが、それ以上に最後の一人が問題だった。


「中々に個性的な面子だね。初めまして私は祖亜 桜。ブローという名前を聞けばここにきた理由がわかるかな?」



その名前に俺は驚き、声を失った。

ブロー…その名前は現在存在する、二大歌手の一人であり、唯一無二のアイドル。


そして、元より祖亜 桜がブローであるという噂もあり、彼女自身厳格な人間だということもあり、色々な要素が混ざり合い信じるしかなかった。


だからこそ…


「なんで、こんな学生の祭りに…しかも、たかが学生のバンドに来たんだ?」


純粋な疑問だった。


それを言った瞬間。


幾人が呆れた様子でため息を吐き、瑠衣からの視線が鋭くなった気がする。


「最もとは言えないけどそんな疑問も確かにあるね」


しかし、彼女はなんでもないように答えていく。


「第一に私もたまには学生らしく学校行事に参加したいんだよ」


でも、どこか寂しそうでそして、泣き出しそうな彼女の表情にどこか俺は違和感を感じていた。 


「なんか、あったのか?」


だから、思わず聞いてしまった。


「気づかれちゃったか。私の妹が行方不明になってね…手がかりもないし、少しリラックスをしたいだけだよ」


そう言う彼女に納得する。

だが、なんだろうか違和感はずっと存在する。


「まぁ、手伝ってくれるなら歓迎するぜ。て事ですまんが二人にはそれぞれこの楽譜をやってもらう」


そう言って、平八は幾人と祖亜に楽譜を渡す。

よく見てみるとそれは俺の渡された楽譜とは全然違うものだった。


いや、正確には二つを掛け合わせるように作られたこの曲の二曲目を幾人はもらっていた。


そして、俺が一切知らない曲を祖亜に渡していた。


「ほぉ、面白いことを考えるね。しかしこれはかなり練習が必要だね」

「…はぁ、なるほどなぁお前が食えないやつだと言うことだけはわかった」


祖亜と幾人がそれぞれ反応する。


「でも、私が言うのもどうかと思うけど、私が脇役でいいのかい?」

「学校の祭りだ。主役は普段と違う方がいいだろう?」

「なるほど、確かに言えてるね。で、君はどうなんだい?静育…いや、今は幾人だったかな?」


祖亜の質問に幾人は大きくため息を吐く。

そして、普段より少し鋭い目で祖亜を睨んでいた。


「なぜ、その名前を知っている?」

「妹の婚約者が世話になった人について調べてないわけがないだろう」

「なるほどなぁ、ならあんたはこんなところで学生らしくしていていいのか?」

「私は二人には縛られて欲しくはないからね」


二人が何やら意味深なやり取りをしているが気にしないで練習の方をしよう。


そうして練習を始めると後ろから肩を叩かれる。


「相変わらずあんたは空気を読まないわね」


瑠衣いつも通り俺に悪態を吐く。


「残り一月で、仕上げなきゃ行けないだろ?なら、たった1秒も無駄にはできないよ」

「そ、ほんと勝手な人間」

「別にいいだろ」


俺はそうしては周りの人間を気にせずに練習に没頭していく。


そうして


「もうこんな時間か」


気がつけば日も沈み、部室には平八が一人残ってるだけだった。


「平八、お前は練習しないのか?」

「ん?いや、平気さ。それより歌詞の方は覚えたか?」

「まぁ、なんとなくな」

「ならいいさ」


気がつけば彼は俺の鞄を俺に渡してきており、帰ろうかと俺に笑いかける。


こいつは本当に不思議なやつだと俺は思うを


俺たちは学校を出て帰路に着く。


そんな時だった。


前から人が歩いてきていた。


相手は男であり、年齢的には同じ…いや、20代だろうか?

雰囲気がやけに締まっており、見た目より年齢が高く見える。


色素が抜けたような白髪で、瞳は真っ赤だった。


髪は不揃いに伸びており、ただそれを目にするだけであれば浮浪者にも見える。

しかし、そう見せない為なのか皮のコートを着ており、不揃いの髪には似合わないほどに服装だけはキッチリとしていた。


「そこの学生さん、ちょっといいかな?」


そんな男に俺たちは声をかけられた。

声は口調に似合わず…いや、見た目に沿っており、粗野でどこか暴力的に聞こえた。

だが、口調そのものと表情は穏やかいや、真顔であり、本能的に恐怖を感じていた。


「何のようですか?」


俺の心境を知ってか知らずかは分からない、でも、平八は率先して彼の前に出て話を聞く。


「実はこのパンフレットの学校を探しているんだ」


そういって見せてきたのはある高校の紹介パンフレットだった。

そのパンフレットに俺は見覚えがあった。


いや、正確には違う。


そのパンフレットの内容は


「それだったらあっち側ですね、てか、俺たちそこの生徒ですよ?」


そう、俺たちの高校だ。

その言葉に少し驚いた様子で男は目を見開く。


そして


「そうか、ありがとうね。そうだ、一月後に文化祭がやるんだったっけ?」

「えぇ、そうですけど」

「頑張ってね」


そういって男は去っていく。


「何だったんだ今の人…」


俺の言葉に平八は肩をすくめる。


「仕方ないさ世の中広い。いろんな人がいる」


そういって平八はいまだに学校の方に消えた男の方を見ている俺を置いて先に歩いていく。


「ってちょっと待てよ」



**



「やはりそうか…くくく、かなり面白いなこの場所は」


先ほど恭平達に道を聞いた男は学校の校門前に立つと笑い出す。


「それであんたは何者だ?」


そんな男の後ろに静育が立っていた。

男の首に槍を突きつけ警戒をしている。


「おいおい、そんなチンケな棒なんて突きつけてよ物騒だねー信条 静育よー」

「…」

「おいおい、だまんまりはやめてくれよー物騒なもん突きつけられて俺はこえぇんだわ少しでも気を紛らわせろよ」


とても楽しそうにそしてバカにしたように男は言葉を紡いでいく。

その言葉のどれもが薄っぺらであり静育の精神を揺さぶる。


「黙れ、今すぐに黙らなければ…」

「何が出来るんだ?」


その瞬間、静育は宙にいた。


認識できたのはそれだけであり、原因は簡単だった。


槍を持って投げられた。


だが、静育はそれを認識することができなかった。


校舎の方に投げられた静育は碌な受け身も取れずに地面に叩きつけられる。


「チッ…」

「なぁ、どうするんだよ?」

「お前を拘束する」


静育は動き出す。

槍を振るう。


男に向けて放たれる突き。


男はそれを難なく避ける…避けたはずだった。


だが、避けたはずの体は無数の突きを受けたように刺される感覚が男に走る。


男はその感触が感じた瞬間に一歩後ろに下がる。


「なるほど、受けた瞬間は必中級の理不尽な概念かと思えたが違うみたいだな」

「そんな一撃で理解できるものかよ」


槍が光る。

そして、その光は大きくなる。

静育はその槍を大きく旗のように振るう。


そして、突きが放たれる。


それは確実に距離感の合わない空振りだった。


しかし、男は感じ取っていた。


自分に槍が刺さろうとしていることを。


故に


「なるほどなぁ、根本は空間ってところか」


全てを理解した。


ガァン


男は静育の目の前に出る。

その速さは静育が槍を空振りし終えるより速く。


そして、的確に静育の槍を弾く。


それと共に男の槍が来る感覚が消える。


「おもしれぇな。その力、空間全体に同じ現象が起きるようにする必中の槍ってやつか」


男は笑いながら、静育の攻撃を言い当てる。


彼の感じた槍の迫る感覚は一つだけではなかった。

槍が振るわれる瞬間に彼は無数の槍に囲まれて迫られる感覚に襲われていた。


故に彼はそこから能力に当たりをつけていく。


「霊格系、中でも空間掌握の類か。珍しいねぇ〜」


男は流暢に喋り続ける。


反対静育は内心で少し焦るが、そこを表に出さずに構え直す。


「おいおい、もう少し話してくれよ。それで、あんたの能力の条件は何だよ?」


男は笑う。


通常、人間の持つ力は明確な物が存在する。


神のように空間を完全に掌握する力は人間にはない。


そして、超越者のように法則やルールに干渉して現象を起こすような干渉能力は人間にない。


ならばそこにはルールが存在する。


霊格と呼ばれる力は人間そのものの立ち位置を表している。


考え方は人により変わっていくが


霊、天、神


と格を分ける物が多く、そして専門的に霊格いや、格を扱うものはその力の立ち位置をこう分ける。


塵、霞、雫、姿かたち、鬼、霊、魔、からだ、天、星、河、ながれ、外、神


と、霊格の力を分けている。


その力の根本は支配と干渉。


静育が行うことは空間の支配と干渉であり、持つ立ち位置が霊格…要するに霊である彼はそれ以上の存在に干渉する力はない。


しかし、ルールがあればその干渉は成立する。


故に男はルールを探る。


「お前は霊格、俺は魔格、まぁ一口に霊格、魔格と言っても相性や量があるからな、絶対的にその格が崩れない三つの霊天神が俺は好きなんだが、そこで分けて仕舞えば俺もあんたも霊格と言ったところだな」


腹を探るように話し続ける男を無視して静育は槍を振るう。

それを見て男は槍を直接防ぐ。


「あんたほどの使い手なら、影響のある範囲を操作することは可能だ、故に簡単にその癖を見抜かせるわけがないよな」


振るわれ続ける槍。

その槍捌きにより、男の速さを抑え込み、男に傷を与えようと無数の刺突と薙ぎ払いが繰り返される。


だが、その繰り返しが仇となっていくことを静育は知っている。


「そうだな、その槍から放たれる光は目印かと思ったがそんなに眩しく光る必要はないな、あんたは栄光と考えるなら大事な物だと考えられるわけだ」


一つ一つ、要素を分解していく男に静育はわずかな焦りが顔に現れ始める。


静育には不安があった。


この男は自分にとって厄介な相手になるのではないか?


「解明完了だ」


その言葉が聞こえる。


静育はそれと共に能力を切り純粋な槍の技能に移る。


「流石だねぇ、能力を使い続けるのは危険と踏んで純粋な戦技に移行か。練度も高く、自分の持つ能力とは全く違う力を扱うことができる六色七斬流は俺の天敵とも言える」


嬉しそうに呟く男は静育の攻撃を、常識はずれの力を全て避けていた。


静育は冷静に男の動きを読み少しずつ行動を変えていく。

しかし、パターンやうごきの推測以前に



男の戦闘スタイルが完成していた。



「静育という男は強かった。でも、それ以前に底が浅い」


男の反撃が始まる。


お喋りな男はまだ言葉を続けていく。


動きを完全に読み切り静育の懐に入り込み掌底、他にも蹴りや殴りを交えて静育を追い詰めていく。


「はぁはぁ…本当に何者だお前?」

「かはは、笑えるな俺が何者かなんてどうでもいい話で、そして俺は強いやつに興味がある」


静育は弾き飛ばされるように後退し余裕を持って構える。


「そもそもの話、あんたは歴史や経緯が浅すぎる…いや、英雄全体に言えることか。結局は人には抗えぬ力に対抗するために生まれた、思いの結晶にしか過ぎない偽物達」


その言葉に静育の動きは一瞬止まる。


「お前、その言葉の意味わかっているのか?」

「ようやく感情を出したな!感情の人形!」


光が差す。


それは男を照らす。


「てぇな」


それと共にの腹が貫かれたように穴が開く。

しかし、それはすぐに治り、残ったのは穴が空いた服。


「この栄光の光の元、お前を討伐する」

「いいねぇ偽モン」


男は知っている。


いや、正確には導き出している。


静育の放つ光の正体。


故に男は余裕を持っている。


そして、


「なら、俺も少し力を見せてやるよ。俺の予測を超えろよ偽モン!」


踏み込まれる。

それと共に静育は槍を掲げる。

光が再び差す。


「洒落せぇ!」


光が折れる。


その光は決して男を照らすことはない。


「終わりだぜ」


男は拳を振るい、静育の顔面に向かっていく。


だが、それは



ピロン


と一つ音によって遮られる。


「チッ時間か…せっかく楽しくなってきたのによ」


寸止めで収まる拳。


それを引っ込めると男は静育を見る。


「どうして止めた?時間切れでも俺を殺すことは手間ではないはずだ」


圧倒的な実力の差。

それを静育は気付いていた。

ただ戦闘センスがあるとか、強い力を持っているとか、そんな類のものではなく男は正真正銘の化け物だと静育は認識しており、決して勝てない存在であることを悟っていた。


「クハハ!確かに手間じゃないな。だが、俺の目的はお前らに弱さを気づかせることにある」

「何を言っているんだ?」

「戦争っていうのは対等じゃないと成立しない。殲滅や侵略じゃない。俺たちの目的は戦争だからな」

「…それは何と戦うことを想定している?」

「そんなの人に聞くんじゃねぇよ。戦争ってのは他所に教わって敵を作るのか?戦う相手はお前達が決めるんだよ」


そう言って当初と同じように歩いて去っていく男。

校門を出ようとした時、彼は立ち止まり。


「そうだこの学校は中々に狂ってるから気をつけた方がいいぜ」


そう言っていなくなるのだった。


「…狂っている?」


静育と様々な疑問を残して。




そして、男はまた別の場所にて彼は通信機材を使用して連絡をしていた。



「あぁ間違いない」

『そうか、やはりあそこにも黒い影の残滓が残っているのか』

「確か破滅だったか?奴の誘導場所には丁度いいだろう?」

『今のところはその方針で大丈夫だ。こちらも生命、分離、存在についての情報は集めた』

「あれ、覇王ってのは?」

『あれは今隔離された世界にいる』

「なるほどねー、そこに行くには?」

『鍵が必要だ。あの女のことだ外と中それぞれ一つずつ鍵を用意してるはずだ』

「了解、それについては俺が調査する」

『任せたがあまり戦いにかまけるなよ。我々は戦争を起こすことが目的であり小競り合いをしたいわけではない』

「わりぃわりぃ、にしても皮肉なものだな。あいつらはお前達のいう戦争に参加したことあるんだろ?俺相手にいいようにやられるなんてな」

『言ってやるな。世界の変革と共に俺もだいぶ力を削がれたんだ。お前相手に楽しませることができたあの男を称賛すべきであろう』

「へいへい、んで、初代さんは今何してんだ?」

『あいつなら今、災厄の種を埋めているところだ』

「容赦ないねぇ」

『これで世界が滅ぶなら所詮その程度だったということだ』

「確かにそうかもな」

『こっちはもう少し詰めるからお前は戦争の火種を作るなり、鍵を探すなり頼んだぞ』

「了解だ」


それと共に通信が切れる。

静かになった部屋の中、男は外を見る。


平和で静かな夜。


聞こえてくる音は道路を走る車の音だけであり、平和であることを物語っている。



しかし


「やらなきゃいけないんだよ。俺はこの平和を打ち砕いてでも戦争を起こす」



****



歌が聞こえる。

それと同時に大きな歓声などが響き渡る。


歌うのは4人の少年少女。


円華、俊介、天馬、寧々の4人はバンドを組んでから3度目のライブでありどんどんと歓声が大きくなってきていた。


人気が元々あった円華の煽りもあり、より大きな人気を呼び止まることの知らない新星バンドとも呼ばれている。


「みんな!今日は『フォーストゥルー』結成から3度目のライブ!もっともっと盛り上げていくよ!主にここにいる俊介が!」

「なんで俺だよ!?」

「そうですねー私たちの中で1番騒がしいので」

「それ褒めてないよな寧々!!」

「まだ弄れるだけいいじゃないか俊介」

「お前は方向性がおかしいな!」

「よし、いい感じに舞台がヒートアップしたし次はみんなを盛り上げちゃおっか!」

「お前から振っておいて扱い雑だな円華!」

「新曲!詩神ししん

「無視かよ」


小粋なのか、果たしていつも通りなのかトークを挟んだ後、4人の表情は真剣なものと変わる。


そんな会場の隅っこに勇馬はいた。


彼は現在、この後にある祈のライブを見にきており4人については一切注目はしていなかった。


しかし


俊介が声を少しだけ詰まらせる。


ただそれだけのことが起きた。

すぐに歌を正常な状態に戻してライブは進行していくが。

通常ならまだ舞台での歌に慣れていないから起きた事故と言えるだろう。


だが、俊介の視線の先には



勇馬が写っていた。


(あいつあんな目を今してんのか)


感情の宿っていない。

勇馬の目を見て少しだけ俊介は複雑な思いを抱く。


実際、今の勇馬には感情と呼べるものが殆ど存在していない。


しかし、あくまでそれは感情を引き起こさせるものがなく無機質になっているだけであり、本当の意味で感情を失っているわけではない。


だが、もしも感情を引き起こすものが全くと言ってもないのであれば?


そこからは感情を観測されることない。


ただ、思考の合理化が行われた機械と違いなんてありはしない。


それを引き出すもの…



俊介はそれが知りたかった。


そうしてる間に円華達の出番が終わり、新ユニットの紹介となる。


祈はその紹介になると共に俊介達とは入れ替えで出てくる。


初めての舞台で祈は息を呑む。


彼女はセンターとなりユニットの中でも1番最初に話し多くの言葉を発さなくてはいけない。


初めての経験で彼女は心臓の鼓動が大きくなり息も荒くなる。


「は、初めまして私はこのユニット『This song』のセンターを勤めていますかなです!」


彼女は舞台用に染めた空色の髪であり、名前はアイドル名の叶と名乗る。


「俺はギンだよろしく頼むぜ!」


叶のすぐ右の男が自己紹介をする。

名前のように銀色がモチーフなのか銀髪であり、衣服には銀色で少し目立っていた。


「僕はりゅう、よろしく」


銀とは反対の左側にいる男は流と名乗り、少し背は低く、赤い髪少年だった。


「私はセイよ」


1番右端の星は金髪ツインテールの少女であり少し気が強そうな見た目である。


「ウチはユメってんだーよろしく〜」


少し喋り方に癖のあるエメラルド色の髪色をした少女が挨拶をする。


そこからしばらくトークをした後、叶が切り出す。


「こんないきなりの大舞台で緊張してますけど私たちみんなここでみんなの心を掴むために楽しく歌わせていただきます!みんな準備はいい?」

「もちろん」


4人が返事をすると共に叶はマイクの前に立つ。


そこで全員が違和感を覚える。

マイクが一つしかないのだ。


「中々にいやらしいことするねぇ」


裏で円華が呟く。


「いくら気にいらないからって同じ事務所でこんな嫌がらせするもんなのか?」

「甘いねぇ俊介は。あいつらは自分が生き残ればいいんだから気にいらない相手は蹴落とすための踏み台だよ」

「怖いわね」

「本条家もこれくらいドロドロしてるだろ」

「「「確かに」」」


天馬の一言には全員同意するのだった。


だが、


叶は何も言わずに前に立つ。

いやむしろ、マイクを使いませんと言っていた。


誰もが目を剥く。


そんなことをしたら声が盛り上がった会場に声が届くはずがない。


だが、叶は二曲やることを伝え最初の曲はマイクを要らないと言っていた。


「んじゃセンターらしく最初は私の独壇場!心の星!!」


叶が口を開く。


その歌は決して落ち着いたものではない。


しかし、誰もが一瞬聞き惚れる。


その声はでかい会場全体に浸透し、声を届かせる。


「すげえな」

「ホントにすごいよね」


裏にいた俊介と円華がポツリと呟いていた。


「この声は反則だよね。どんな状況でも彼女はの声は通り誰もが聞き惚れる。あんな声を持ってる人間にパフォマーであるわたしたちが勝てないよ」


円華は皮肉めいてそんなことを呟いていた。

その声は人々の心を揺さぶり、凄まじい熱気となる。


だが、大きな歓声に負けず彼女の声は会場全体を包み込んでいた。


「やっぱり一瞬とは言えでも、キッカケにはなるのか?」

「どうかしたのか俊介」

「いや、俺じゃできないことができて悔しいだけだよ」

「変なやつ」


天馬はそう言うと叶の声に聞き惚れていた。

反対に俊介は悔しそうに拳を握りしめていた。


歌が終わり、その後は熱をそのままに本来のユニット曲を終えこうして叶…いや北条 祈のデビューが終えるのだった。


いつものアパート、勇馬と祈は2人で向かい合っていた。


「勇馬君、私の歌聴いてくれる?」

「もう、歌なら今日聴いただろう?」


勇馬はいつものように無機質に応える。

それに対して祈は首を横に振る。


「ううん、あなたの為にあなたの感情を動かす為に歌いたいの」

「なら、好きにするといいさ」


彼女の目的、それは人々の心を動かすアイドルや歌手になること。

そして、その目的の中で勇馬という少年の心を再び芽生えさせることを目的としていた。


「〜♪〜♪」


歌を紡ぐ。

その声はどこまでも遠くに響くようで1人のために歌われたった1人の耳にしか届かない音。


それでも勇馬の表情は無機質なまま。


それを見てもなお彼女は歌い続ける。


歌は佳境へと入り、より強く美しい歌声が響く。


(やっぱり…まだ私じゃ…)


彼女がそう思った時だった。


僅かに勇馬が優しい表情を見せた気がした。


(え?)


だが一瞬のことであり、気のせいかと思えてしまう。

しかし、間違いなく勇馬の表情が一瞬だけ動いた。


だが、歌が終えた時にもう一度、その顔を見ることはできなかった。


「はぁはぁ、やっぱりまだ…」


彼女はダメかと項垂れ呟く。

だが


「いや、素晴らしかったよ。僅かにだが何かが動いた」

「何か…って」

「分かれば明言している。ただ、間違いなく君は特別だ」


たった一言。

その言葉は祈に響く。


「私が…特別?いや、きっとそうなのかもしれない。でも、まだ君を夢中にできてない。また、次、聴いてくれる?」

「君が望むのなら」


そうして、祈と勇馬の夜が終えていく。


ただこの日、祈はとある存在に目をつけられることを知らずに。


「みーつけた」



**



「歌姫の暗殺?」


月葉は電話越しに告げられたことに頭を抱えた。


「ウチは一般人は殺さないと言ったよね?」

『一般人?あーそうでしたね。あなたにお渡しした資料だけでしたら、普通の人間ですね』

「はぁ?何が言いたいのかわかんないんだけど、ちゃんと説明してくれる?ウチにも分かるように」

『分かるようにと言っても難しいですが、彼女はほぼ死体ですね』

「は?」

『死人なんですよ。身体はほぼ死んでいます』

「いやいやいや、ならどうしてアイドルなんてやってんのさ。死んでんでしょ?動けないでしょ?」

『それはあくまでも常識範囲の話でしょう?そもそも彼女は現在禁忌候補となっております』

「だから、禁忌って何よ?」

『知らない方がいいと思いますよ?アレら人の理から外れた存在とだけ認識しておけば今はいいでしょう』

「…わかった。それで吸血鬼の存在を認めるんですよね?」

『それは君次第だ。摂理を求めるあの方はこの世界の摂理の範囲でさえいれば吸血鬼の生存を認めるだろう』

「それだけわかればいいよ」


月葉はそう言って電話を切る。

そして、今回暗殺対象となった人物の情報を見る。


「北条 祈…円が推薦したアイドル…」


月葉は彼女を知っている。

今回の祈のライブは生放送されており、月葉はそれを見ていた。


故に色々と考えることや思うことはある。


しかし


「もし本当に危険な存在なら」


月葉はいつものようにヘッドホンを取り出して着ける。

そして、夜空を眺め呟く。


「私の手で殺す」


**


「世界は常に変化していく。それは良いことでもあり悪いことでもある」


ポツリと呟く存在がいた。

ただ、暗闇に近い隔絶した空間でその存在は仮面を着けてもう一ついる存在に目を向ける。


「執行者、君が動くことはまだない。この世界の秩序は揺るぎ始めてはいるがまだ、その時ではない」


存在はもう一つの存在、執行者に忠告をする。


「だからと言って我々が人災を放置する理由がないことは分かっているはずだ観察者」

「…確かに、我々が恐れているのは終焉である以上、その元となり得る魔人や人災は放置はできないのは分かるがね」


執行者の言葉に仮面を被った存在、観察者は同意するが、


「我々はまず見極める必要性がある。過去に我々管理者が封じた存在、力の英雄をさまざまな組織がどう動かすかを」

「だが、かの四災が暴れている現状をどうするつもりだ?」

「安心したまえ、まだ我々の出る幕ではない。今はまだ待ち続けよう真実の英雄と呼ばれた男の選択、奇跡の英雄、勇気の英雄達の戦争をな」


観察者は笑う。

彼は何か待ち遠しく待つように胸の疼きを感じながら笑い続ける。


「好きにしろ。だが、影については手を出させてもらうぞ」

「そちらについてはこちらも観測できていない。好きにするといい」


そうして二つの存在は離れていく。


「まぁ、英雄の偽物である君が真の英雄達、禁忌に勝てるとは思えないがね」


もう届かないほどに離れた頃に観察者は呟くのだった。

明けましておめでとうございます。

去年は私にとって様々な変化のある年ではありましたが、今後も不定期ながらかんばっていきます。

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