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始まりの1日

私は北条 祈。

アイドルを目指す13歳。


とは言っても今は


「朝ごはんができましたよ〜」


語りかける。

しかし、返事はない。


私は呼びかけた相手を見る。


昨日の夜から一切動かず彼は窓の外を見ていた。


「…」


彼はジッと空を見て何かをしている。

何をしてるか分からないけど聞いた限りだと、天体を観測してエフェクト……じゃなくて…えーっとバタフライエフェクトという現象を観測してるって言っていた。


「何が見えるんですか?朝には天体は見えませんけど…」


私は近づき問いかけると見開かれた彼の瞳が私に向く。


「…朝は星が見えない。しかし、周囲が明るくてその光が消されているだけであり、処理を変えれば朝も昼も夜も晴れも雨も曇りも雪も雷も関係ない。天体というのは微弱に見えてとても強い力を持っている」


と、無機質な声で話す彼は北条勇馬。私の弟と言うことになっている。

そして、私は今、昨日も聞いた訳の分からない話を聞くことになる。

昨日も聞いていたことを忘れてたよ〜。


あ、そうだったご飯。


「朝ご飯、今日こそ食べてもらいますからね」

「何度も言うように俺には食事は必要ない」

「でも、私が一人で食べるのは寂しいんです」

「…ならば、共にしよう」


やった!

彼と暮らし始めて1週間、ようやく彼をここから動かすことに成功する。


「徐ろに二人分並べようとしないでいい」

「ダメ、一緒に食べるんでしょ?」

「君が望むなら」

「…」


私は彼の言葉に対して、喉に何かが引っかかる。

何故か分からないけど、失敗したと思えた。


「ごめん、無理させちゃった?」


私の言葉に勇馬は傾げる。


「無理などないさ。俺に可能なことをしてるだけさ」


相変わらず無機質な声。

私は何だか気まずい気分で二人で食事を取ることになった。


そうして、ご飯が食べ終えて私は外に出る準備をする。


「それじゃ今日はオーディションの日だから私は出るね」

「いってらっしゃい。それが最適解でいいのかな?」

「うん!ありがとう、行ってきます!」


でも、何でか彼が呼びかけてくれるだけで嬉しくなって私は気分良く家を出る。




**



とある、大きなオフィスの事務所にギターの音が鳴り響く。

その音は大きく、そして激しく鳴らされていた。


子気味よく鳴るその音に誰もが心を奪われてオフィスで働く人の仕事が止まる。


そうして段々とギターの音は盛り上がりに入っていき、速度が上がっていく。


その時、


ピィン


音が外れる。


盛大な外れ方にオフィスの中の人間全員がピクリと体を震わせる。


「あっちゃぁ、ここで失敗しちゃうのかぁ」


一人の少女の声が小さく響く。

その声は誰の耳には届いていないがその本人は独り言につもりで言っており聞かせるつもりはない。


彼女はフードを目深に被っており、ギターを構えていた。

それらの情報から誰もがギターを弾いていたのが彼女だと認識できる。


「こらっ、またこんなところでギター弾いて!」

「あ、マネさんおはようございます」


そんな彼女を叱責する男性がいた。

彼は彼女を怒るが彼女はそれに同じた様子もない。


「はぁ、というかお前が新曲作成中とは言えでも人前でミスするなんて珍しいな。円華」

「まぁ、最近色々とあったのでちょっとスランプ気味です…かね?」


円華と呼ばれた少女、彼女は13歳にして天才的な歌手として現在名を馳せていた。


しかし、そんな彼女も今は少し伸び悩んでいた。


(勇馬が死んだ…か)


そんな報告を聞いた時彼女は嘘だと思った。

しかし、本当に目撃情報がなく今の彼女の心情はかなり不安定なものとなっていた。


「それで今日はどうしたんだ?」

「いえ、特にはただ、私と歌える人がいればいいのですけど…」

「君の歌唱力とパフォーマンスについて行ける人は早々いないね」

「そうですか、そういえば今日は面接の日でしたっけ?」


彼女が話を変えるとマネージャーはそうだと頷く。

それを聞いた円華は手を出す。


「なんだ、その手は?」

「私に良い子がいないか見させて」

「はぁ、普段なら怒るところだが最近、ウチは低迷している。君にとっていい子がいれば教えてくれ」

「ありがと、マネ」

「いい加減、その呼び方やめないかい?」

「嫌でーす」


円華は渡された資料を見る。

そこには何十件という歌手、アイドルと言った存在になりたいという少年少女、いや、老若男女、人種、経歴、移籍を問わずいろんな人間が応募していた。


「へぇ、実際に会って話した方が早いけど…まぁ、私的には……は?」

「どうかしたのかい?」

「いやいやいやこれは…偶然…たしかに少ない名前ではない…でも、あり得ないでしょ?」


彼女が見ていた資料に書かれていた名前には『北条 祈』と書かれていた。


「なんで、ここで北条の名前が…」



**



俺こと、紀伊羅 恭平は緊張した面持ちでトイレから出る。

別に告白とかではない。


数日、俺の従兄弟である紀伊羅 幾人いや、信条 幾人は俺を避けるようにしていた。

だが、それも今日まで


「おい、どこに行く?」


いつものように昼休み、周りから逃げるように教室から出て逃げ出す途中の幾人を俺は止める。


トイレで授業の最後を抜け出して、回り込んだ俺は正面から幾人を見据えていた。


「…久しぶり…と言えばいいか恭平」

「そうだな、すごく久しぶりだ。お前が行方不明になってからお前の家も俺の家も崩壊した」

「…」


俺の言葉に目を逸らすだけで何も言わない幾人。

俺はそれに対してイラつく。


「テメェが被害者面すんなよ。お前達のせいで家はめちゃくちゃだ」

「…俺がいなくても起きていた」

「その態度がムカつくんだよ!」


ドォン!


襟首を掴み俺は幾人を壁に叩きつける。

思った以上に大きな音が鳴り、周りが俺たちを注目する。


俺は幾人に対して睨みつける。


が、幾人は平然としていた。


イラつく。

こいつの行動一つ一つ、あの時俺たちがどれだけ苦しい思いをしたと思ってんだ…。


「今は裕福そうじゃないか…なんで態々過去を掘り返す」

「…お前は一々、イラつかせる。当然のことを何故疑問で返す?お前は何様だ?よく俺にその言葉を言えたな?あの日あの時お前達二人が逃げたからその責任は俺たちに来た!」


殺したいほどこの男が俺は憎かった。

だが、殺してしまえばようやく落ち着いてきた家族にまた不幸が降りかかる。


だから…


「それは今やることか?」


拳を振り上げた俺に幾人が呟く。


「俺に指図…」


拳を振るおうとした腕が止められる。


見るとそこには俺を止める先公の姿があった。


「邪魔すんなよ先公。俺はこいつを1発殴らないといけない。こいつには自分の罪の重さを理解させなきゃいけないんだよ」

「むしろ今のを聞いて何故止めると?何があったにせよ、君の暴力を止めるのは教師として、ではなく人として当然の行為だ」


先公の言葉は本気だ。

今、ここでこれ以上の問題にしない為の処置の為の言葉。


なら、


「チッ!」


俺は掴んだ手を離して、腕の力を抜く。

それだけで先公もこれ以上俺が何かする事はないと判断したのか俺の腕を放してくれる。


「おいおいどうしたんだよ恭平!」


そんな状況を読めてないのかはたまた態とか平八が呑気に俺に話しかけてくる。


「急に怒っちまってよお前らしくねぇよ。いつものように人を見下すようにつまらなくしてろっての」

「励ましの言葉としては0点だな」

「ひでぇ奴」

「だが、気は楽になった。今の俺より下の人間を見てるようでな」

「相も変わらず、クズ発言っと」


そんな馬鹿話をしながら何事も無かったかのように歩いていく幾人を横目に見て小さく舌打ちをするのだった。



**



僕の隣の席のやつは恐ろしい。


僕こと嗣井 晴臣はそう思う。


横目で隣を確認すると爽やかな表情でクラスメイトと談笑する一人の少年がいた。


「へぇ、そこの店ってそんな美味しいのか」

「ユージスも一緒に行こうぜ」

「すまない、家の事情で時間が少なくてな、今度一人で行ってみるよ」

「ユージス君。昨日の掃除当番変わってくれてありがとね。今日の掃除当番は任せて」

「ありがとな、また変わってほしい時があったら言ってくれ」


和かに笑い、人に好印象を与えるその男が俺には不気味に見える。

何故、と聞かれると一つ言えることがある。



感情が動いてるように見えないのだ。


偶に僕のことを殺すのではと思うような無機質な目で見てくる。

それが怖くて怖くて仕方ない。


僕はこの感覚を知っている。


故に


僕はこいつが怖い。


「そうだ、ユージス君って黒い影の噂って知ってる?」

「黒い…影?」

「うん、最近全国的に見られてる都市伝説なんだけど、実は…この学校でその目撃例が多いんだって!!」

「へぇ、そうなのか?いつ頃…なんだ?」

「えーっと、確か隣のクラスに祖亜さんの婚約者が転校してきた辺りから発生して…あー祖亜さんって言っても分からないか」


そう言って笑う女子生徒。

そういえば確かに黒い影を僕も目撃したことがある。

あれは夏休みの前だから確かにあの女子が言ってることも間違いではないかもしれない。


「祖亜って、あのお金持ちの?」

「うん、彼女ね実は一月前に行方不明になっちゃってね。その前に婚約者が死んだって話もあって後追いしたのではとか色々と言われてるんだよね」


そういえば、祖亜の婚約者って数日だけ登校してから死んだって話だったか…そこから夏休みに入ったから意外と噂は広まって長くはないのか。


ん?


なんか、ユージスに見られてるような気がする。

チラリと彼を見ると目が合う。


目が合い彼は僕に対して笑いかける。


その様子に僕は寒気を感じる。


「嗣井君?でいいのかな?」

「僕になんか用ですか?」


そのまま話しかけてくる。

周りが意外そうに見てくる。

正直、気まずいからやめて欲しいのだけど。


「やっぱり、君は在り方は違うけど俺と似ているな」

「…人気者に言われてどう答えろと?」


肩をすくませて言う俺にユージスは笑う。

その嘘くさい不気味な笑い方を見て誰も疑問に思わない。


僕からしたら嘘だと分かるほどにまで目が笑っていない。


「いずれ分かるよ」


彼はそう言うと再びクラスの人達と談笑を始める。

そんな様子を見てか二人ほど僕に近づいてくる。


あやかず僕に何か用?」

「いや、なんかすごく不機嫌そうだったから」

「どうしたんだよ、ユージスに嫉妬か?」


最初に僕の機嫌を心配したのは幼馴染の少女、彩。

僕としては近づいてほしくない女子No. 1なのだがまぁ、今は別にいい。


そして、もう一人は僕の親友だった、男、和。

女子でNo. 1の彩なら男子の近付いてほしくない人間No. 1は和だ。


「そんなものじゃないよ。ただ、よくまぁあんな心にもないことをポンポン口に出るなと…」

「心にもない?ユージス君のこと?」

「嫉妬にしちゃ言い過ぎだな。何かあったのか?」

「いや、個人的にあいつに対して…いや、何でもない」


今言ったところで何も意味がない。

僕にとって、あの男、ユージスは最も警戒すべき相手だと言うのは変わらないのだから。



**



俺こと、東条 俊介…ならぬ伊吹 俊介は学校授業が終わり机に突っ伏していた。


「現国は催眠術…」


隣には華城 火鎚という男がそんなことをぼやいていた。


「お前達はみんな成績良いから聞く必要あるのか?」

「現国は解釈不一致がままある」


なるほどねー、現国とかの読解の類は時代によった解釈が少なからず存在するってことか。


「それに数学とかの万国共通はともかく、修学率100%ではない環境もたくさんあったから歴史等は結構キツイ」

「その時代で生きると言ってもその時代の流れを追えるわけではないということか?」

「そういうことだ」


彼らは転生というもので数千年下手をすれば数億年単位で生きているみたいで文明が生まれる前はさらに別の世界で生きていたみたいだ。


とは言ってもあくまでもその別の世界というのは補備的なものであり、人間として生まれてるかは怪しいとか。


そんな別世界で生まれたであろう人間の例として出されてるのが前の戦いの時の敵だった存在、シャルロットらしいが、よく分からん。


「てか、そんなんで組織運営は大丈夫なのか?」

「うるせぇ、同い年の同格の組織のリーダーに言われると情けねぇ。あと、生きた年数なら普通に勝ってるはずなのに…」


彼の目の下には大きなクマがあり、どうやら新しい組織『エーテル』の基盤がまだ上手くできていないようだ。

身内組織とはいえでも、組織として大々的に存在を出す以上、身内以外も入れていく必要は出てくるわけだ。


そう考えると『闇』は完全身内で隠しきってる故に余計な運営方針とかは無かったのがやりやすかったな。


まぁ、1番の問題は組織運営をカリスマや天才達に任せ続けてずっと頼り切っていた彼らも悪いと言えるか。


「さてと、火鎚、一緒に帰ろう」

「いいけど、お前は大丈夫なのか?」

「別命がない限りはこっちは自由なんだよ」

「なるほど、因みに聞くが四災についてお前は何か聞いてるか?」

「急に話が飛ぶな、四災か…」


四災とは、勇馬の死亡によって発生した四人の少女の暴走。

正確には彼とその剣で封じ込めていた彼女達の大き過ぎる感情の爆発と言えばいいだろうか。


こちらも疾風という男の又聞き故に理解はしていない。


「あれは対処しかねる。現状の被害と言えば爆破テロと思われるほどの破壊くらいだ…ほんと、死にかけたがな」

「手、出したのかよ」

「襲ってきたんだ」

「なるほど」


それだけで納得するということはこいつは襲ってきた理由を知ってる可能性があるのか。


「てか、お前が聞いてくるってことは、これらの情報はお前から情報が入らないのか。こっちは接触するしかないのか」

「疾風さんが勇馬の親友であるお前を無碍にはしないだろうし情報提供はしてくれると思うぞ。俺は今のところ組織運営をやれと言われて調べることができないがな」

「絶対悪に借りを作るのは勇気がいるんだよ」

「そうなのか?」


正直、あの組織には関わりたくないのが本心だ。

なぜなら、あの組織は身内以外は死ねと言わんばかりに扱いが雑になっている傾向がある。


「そうだ、近々桜と紅…と言っても分からんか」


火鎚が思い直して止めてくれる。

正直、分からなかったので助かる。


「桜…んーもしかして四災の狂い咲きの方か」

「そ、紅葉に季節にピンクを出してくるやつ」

「お前、紅葉好きなのか?」

「いや」


なら、何故話題に出した。


確かに今は秋で紅葉が落ちている。


が、そこで何故…てか、


「紅はテロか」

「そ、あいつらが接触する可能性があるから疾風が接触した際に穏便に済むように誘導作戦を…」



ドォン!


火鎚が話している途中、唐突に近くの八階建てのショッピングモールの上の方が爆発する。


俺と火鎚はすぐに状況把握のために上を向いて確認する。


「何も…見えないか」


爆発の際に発生だ黒い煙が上がってる以外に特出する部分はない。

精々分かるのは6階で爆発したことくらいか?


「紅だ」


火鎚の呟き。

俺はそれに反応して走り出す。


それに続いて火鎚も走ってくれる。


「おかしい、紅を反応させないように監視は最低限の筈だ」

「てことは反応する何かがあったということか?」

「一先ず原因究明より、周囲の逃げ遅れた人間の保護が優先だ!」


慣れているのか火鎚はすぐに俺にすべきことを教えてくれる。

そうだな、そもそも戦う必要はない。


刺激するよりも先に人避けが先だ。


俺らが6階に着く。


今もまだ、爆発音が聞こえる。


炎が辺りを占めている。


6階より上の天井は抉られ、天井がとても高い。


「着いたはいいが…煙で何も見えねぇな」

「あっちに人がいる」

「火鎚がいなかったら何もできないなこの状況」


俺たちは走って人がいる場所に向かう。


そして、そこにたどり着くといたのは一人の少年だった。

どこか見たことあるような見た目をしているが、何かは分からない。


その少年は黒髪で黒目、見た目は至って普通に見えるが纏う雰囲気は明らかに異質だった。


「大丈夫か?」


俺は問いかける。

火鎚の方はすぐに別に人がいないか探しに行っている。


だから俺が今心配すべきは目の前の少年。


「…」


返事はない。

少年は俺を一瞥すると立ち上がり、俺がいるのとは逆を向く。


「離れた方がいいよ」


口が開かれる。

それは声という音だったのか、はたまた直接脳に入った言葉なのかそう言った錯覚するほどに彼の声は小さいのに聞こえてくる。


俺が一歩下がる。


キィィィィン


大気が爆発するほどに震わせ、熱と共に何かが来る。


それは巨大な剣だった。


いや、違う。


巨大な剣を振るう一人の少女だった。


「紅」


呟く。


その瞬間、少年に剣が接触する。

しかし、その一撃が少年に届くことはない。


絶妙な間合い。


剣が少年の足下に落ちる。


「早く逃げた方がいい。こちらが勝つことは不可能。そして、君は間違いなく彼女の敵だ」


少年は俺を見る。

その目は邪魔なゴミを見るようなもの。


俺は息を呑む。


そして、落ち込んだ。


だが、あの日と比べればマシだ。

何の力も持たない無力な存在へと変わってしまったあの時、それと比べれば何倍もマシだ。


「名前を教えてくれ、余裕がないのは分かっている。でも、またお前と会う気がする」

「…ふむ」


少年は常に紅の攻撃を避け続ける。

そこに底があるのかは分からない。


しかし、今のところ考えながらでもその一撃を避け続けることができる。


だからだろうか


「君の気を引く名もある。しかし、それでは面白くない。故に数ある名の一つからこう名乗ろう」


禁忌喰い


と、余裕そうに彼は答えるのだった。




**



「んんっ」



ウチこと月葉は目を覚ます。

どうやら、寝ていたようだけど、ここは…そっか、山中に丁度いい廃屋があるからそこで値段だった。


てか、ウチも相当疲れてるみたい。


「とりま、今日も同胞狩りでもしますかね」


ウチはそう言って伸びると、空が目に映る。


「あー、もう夕方か。夜と言っても差し支えは無い辺り、だるぅ」


気分が落ちる。

寝たのは昨日の日の出。


故にかれこれ12時間寝てることになってしまう。


吸血鬼的健康生活と言っても今の世の中、朝も夜も変わらない。

てか、夜だと基本働く場所ないし。


そもそも、吸血鬼が太陽がダメって時代はもう古臭い昔の産物と言っても過言ではなくなったしねぇ。


そう言った存在は余程古いものに囚われた存在くらいだし、そもそも吸血鬼の弱点というのは過去に吸血鬼を恐れた人が妄想し、その妄想が力を持った類のもの。

ま、それもあって吸血鬼って、そういう存在ってだけで強力なポテンシャルがあるのだけど。


でもまぁ、


「ミツゲダゾ!ハンダー!!オドウトノガダキ!!」

「あーホントうるさ、ウチの寝起きに襲ってくるとか変態かよ、てか」


ウチはいつものように短剣とヘッドホンを手に取る。

そして、動き出す…いや、もう動き終えた後だった。


「血生化してもこの程度ってマ?」


唐突に現れた化け物は切り刻まれて死んでいた。

あくまでも、吸血鬼という存在はポテンシャルがあるってだけで、それを引き出さないとこんな馬鹿みたいに血生化頼りの雑魚に成り果てる訳よ。


「ウチもそんな強い存在では無いと思うんだけどね」


話に聞いたことのある吸血鬼のお姫様ってのはうちよりもすごいらしいし。


「…」


そんなことを考えていると何か不思議なものを感じた。

そして、辺りを見るとそこは別世界になっていた。


「桜…確かにここは桜の名所だけど…」


今は秋。


ってちょい待ち、なにこれ異常気象ってやつ?いや、そもそも異常気象でもいきなり桜なんて咲かないっしょ?


てか…なんか近づいて来てる?


ウチは目を凝らして人がいるであろう方向を注視する。


そこにいたのは巫女服を着て桜色の髪をした少女だった。

明らかにウチより年下。


多分中学生くらいかな?


でも、異様な雰囲気が彼女にはある。


少女はウチに気付いたらしくジッと見てくる。


「邪魔ね」


声が聞こえた。

それは彼女が発したのか分からないってか、ゾクっとした。


ウチは本能的にヤバさを感じて逃げようとするが、ウチの足は止まった。


「何これ?」


思わず声に出てしまう。


それは


地面から這い出てくる人や獣だった。


ゴクリ


ウチの息を呑む音がやけに大きく聞こえる。

いやいや、無いでしょ。


明らかにこれは…


「死者蘇生」


呟く。

その直後、這い出てきた者達が襲いかかる。


ウチは短剣とヘッドホンを持ち動く。


ガキっ


「かった」


短剣が刺さらずにウチは逃げ出すために走る。

てか、あの人…最早人とは思えないレベルに固い。

おまけに速さもウチに迫るほどだしマジで意味不。


ウチは死ぬかもなと覚悟をする。


その時


「やめなさい。邪魔とは言ったけど彼女では無いわ」


その言葉に不思議と引き込まれる。

ウチは気がつけば彼女をじっと見つめていた。


「申し訳ありません。私はある物を探して旅をしています」


そうか、ウチはこの声に引き込まれているんだ。

心が震える。

目が離せない。


いつまでも聞いていたいと思う。


「あんたは…」

「私は…那奈と言います」

「ウチは月葉」

「月葉…さんですか。貴方から千那さんの気配がします」

「千那って辻斬りの」

「はい、どうやら会ったようですし伝言を頼みます」

「え、あ、まぁ、次会えたら」

「ありがとうございます。では、歌姫の覚醒を私は促します…とだけ」


そう言って彼女はウチの目の前から消える。

まるで幽霊のように何も残さずに彼女はその場から消えていた。


ただ一つ。


「桜がキレー」


ウチは季節外れの桜を見て現実逃避をするのだった。

というか、非常識で生きてきたけどこんな非常識な存在に二度遭遇するとかマジ勘弁してほしい。


まぁ、とりあえずいい加減、落ち着くかなぁ。


「とりま、さっきから覗いてる奴、何?」


ウチはさっきから感じる自然の方に語りかける。

実際にいるという確信があるわけでは無い。


けど、なんとなくいるような気がしていた。


「こんばんは、すまないね。君達を観察させてもらったよ」


予想通り、覗いていた存在が出てくる。

それはウチより若い、少年だった。


中性的な見た目で男か女かの判別はしずらいけど振る舞いがどことなく、男性とわかるようにしてるように見える。


「別にいいけど、それでアンタは?」

「私?私は…リグレ。とでも呼んでくれれば嬉しい月葉さん」

「さっきの会話は聞いていたわけね」


彼の様子は淡々としたものであり、身振り手振りで感情を表しているように見える。


偏った見方にはなるが感情表現が苦手のように思える。


「月葉さん、君の目的はなんだい?」

「いきなり何だし、何で見ず知らずのアンタにそんなこと教えなきゃいけないよ?」

「それもそうだ、ならば私の発言の意味でもいえば言いかい?」

「内容による、とだけ」

「なら答えよう」


リグレはそう言ってウチに近づく。

その動作にウチは反応できずに彼はウチのすぐ近くまで迫っていた。


「キミが今最も中立の立場にあるからだ。今後次第ではキミはそのうち死ぬことになってしまうから」

「なに、アンタはウチに死んで欲しくなくて目的を聞いてるとかそう言うわけ?」

「ふむ、死んで欲しくない…そこまで感情的なものでは無いさ。ただ、キミが死ねば今まで保ってきた吸血鬼達の均衡が崩れることになる」


その言葉にウチは僅かながらも理解をできてしまった。

今、吸血鬼には二つの派閥が存在している。


そして、その派閥の均衡役として元々いたのがウチの家だった。


そう、本来ウチがいなければ吸血鬼同士で戦争が起きて、今頃どっかしらの街が血に沈んでいたに違いない。


「なるほど、なら答えるよ。ウチは改革派の敵になる。かと言って王族派に着くつもりもない」

「なるほど、仇を取ると…キミらしく無い答えだ。また、聞くよ」


そう言ってリグレが去ろうとする。

しかし、そんな彼をウチは


「待って!」

「…なんだい?」

「アンタは…」


初めて会った時からこの男には違和感があった。

なんと言えばいいかいまだに分からないでも。


でも、一つだけ分かることがある。


「なんで、アンタは心を殺してるの?」

「…」


沈黙が支配する。

ウチは間違えたのかと後から後悔が押し寄せてくる。

しかし、不思議と自信があった。


彼が…感情を殺してる。


何故かと言われれば悩む。

けど、敢えて言うならあの日出会った、千那という少女と同じだった。


「何も知らない。それなのに見抜いたのはキミで三人目だ」

「てことは…本当に」

「ただ、正確には殺しているわけでは無い」

「って、ちょっ…」


ウチは手を伸ばす。

しかし、その時には


「行っちゃったし」


気がつけばリグレの姿はなくウチは一人になって空を見る。


「ほんと、桜がキレー」


結局は現実逃避を実行するしか無いのだった。



**



着信音、


それが途切れ通話が開始される。


「もしもし、お前が連絡してくるなんて珍しいな円華」

「うん、ちょっと俊介に聞きたいことがあってね」

「勇馬の居場所なら知らないぞ」

「いや、そういう話じゃなくて…って、生きてるの!?」

「…余計なことを言った。本題を話せ」

「…後で聞くから。えーっと、北条 祈っていう女の子って存在する?」

「なるほど、北条か…まぁ、こちらと関係ない人間もいるが…そう名乗れるやつは何人か心当たりあるが…」

「13歳で、多分地毛が青色の子」

「…それは本当か?」

「うん」

「そんな人間、この世のどこにもいない。それは俺がここ数年間調べていたから知っている」

「…いない…」

「が、一つ心当たりがある」

「ほんと!?」

「あぁ、少し前調べてな…最近、偽造戸籍があってな、北条 勇馬の双子の姉としてその件の情報と同じものがある」



**


「ただいま〜」


私こと北条 祈が家に帰っても返事はない。

しかし、なぜかいい匂いが漂ってきていた。


私はそれが気になってリビングに行くとそこには作りたての料理があった。


「これって勇馬君が?」

「その通りだ。君が遅くに帰ってくるようだから用意しておいた」

「ありがとう、って勇馬君の分はないの?」

「…何度も言うように」

「それでも一緒に食べよ」

「問答は無駄と判断。一緒に食べるとする」


彼はそう言って私の前に座る。

朝からのことだけど、私はそれがたまらなく嬉しくて今日の疲れなんて吹っ飛んでしまう気分になれる。


でも、


「やっぱり感情はないんだね」

「…」


彼は何も言ってくれない。

私も少しだけ気まずくなり、話を変えていく。


「なんか、オーディションにすぐ合格を貰えて今日から練習することになったんだ」

「大変そうだね」

「そう、本当に大変でアイドルってこんな大変なんだと改めて実感したよ」


私が少しの愚痴を言ってご飯を食べ終える。

そうすると彼は再びいつもの定位置に戻って空を眺める。


「そういえば寝てるところ見たことないけど」

「睡眠は必要としてない」

「そっか、できれば寝て欲しいんだけどこれ以上、我儘言えないよね。おやすみ」



私はそう言って自分の部屋に戻っていくのだった。


そうして私の新しい日々が終わるのだった。

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