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第一幕終幕

俺こと本条 勇馬は目を覚ます。

そこはよく知る天井。


椿の部屋だった。


「俺たちは負けたのか」


周囲を見れば、俊介、華、椿、那奈が横たわっていた。

その姿は衰弱しており、傷だらけだった。


俺はすぐ近くで眠る椿と華に触れる。


息は安定しており、今にも死ぬと言うわけではなさそうで安堵の息を吐く。


「起きてしまったんだね」


声が聞こえる。

その声は俺のよく知る声であり、姿形を確認しなくても誰か分かる。


「千那、どういうことだ?」

「さぁ、僕もどういう気持ちを持って君に言ったのか分からないよ。色々と思うことだらけでね」


彼女の視線はどこか寂しそうに俺を見ていた。


「人を助けるってむずかしよね。みんな言ってることと真逆だし、本当の願いってのは誰もが心どこかで刺さってる小さなものなんだよ」

「何が言いたいんだ?」

「何がって…願いを失った時、人は願いを知る」


彼女はそう言って笑う。


千那は俺とよく賭け事をしていた。

くだらない賭けばかりだが、きっと、それが願いの一つだったのかもしれない。


しかし、それがどんな意味を持ってるかなんて俺に分かるわけがない。


「今は夜か?気絶する前も夜だったが…どれくらい時間が経った?」

「僕からは何も言いたいくないかな」


彼女は目を瞑り、答えようとしない。


「千那、お前の目的はなんだ?」

「それを僕に聞くのかい?まぁ、いいけどさ」


千那は大きく伸びをしてカーテンを開く。

俺は入ってくる光に目を細める。


「この光景を容認してる…終焉の始まり?そんなものじゃないよ。終焉の阻止?違うね」


ようやく、目が慣れてきてその光景を見る。


俺はそれに息を呑んだ。


黒く染まった太陽に似たエネルギーの塊が周囲にあるエネルギーを黒く染め上げて渦を巻きながら吸収していた。


今は朝なのか、はたまた夜なのかわからないほどに暗くも明るい世界が生み出されていた。


「この光景を僕は知っている。終焉が生まれる?いや、違うね。侵食だよ。終焉が生まれるための土台を作ってるんだよ」

「そ、それなら…」

「そうだよね。勇馬は止めに行くべきと言うよね。でもね、僕は知っている。今は終焉が生まれない。そして、この騒動はこの町一つの犠牲で終われる」

「まさか、この街を犠牲にするって言ってるのか!?」


俺の非難に千那は複雑そうな笑みを俺に浮かべる。

その苦しい笑顔は崩れることはなく、彼女は頷く。


「正解、この戦争は君が介入すれば戦火が拡大する可能性が高い」

「そんなことでお前は…」

「そんなくだらないものが理由なわけがない!!」


唐突に叫ぶ千那は俺を掴んで真剣な様子で俺をじっと見つめる。


「君は自分が特別だと思ってない?」

「そ、それは…」

「世界はそんなにやわじゃない!君が一人介入しなくても世界は上手く回る。君がいなくてもそれなりの結末になるんだよ!」


何かが零れ落ちる。

それは千那の涙なのか…それとも俺の涙なのか分からない。


でも分かることがある。


「あぁ、これが願いだったのかもしれない」


結局、俺は皆んなの『勇馬』、それだけを持っていた。

でも、心のどこかで『勇馬』としてではなく、別の『ユウマ』みたいな、本当の自分を欲しかったのかもしれない。



みんなと同じように



「一個人が欲しかったんだ」


誰かに必要だと言われて動くのとは違う。

自分がそう言う存在だからそうするのが最善とかそんなことを俺は考えたくなかったのだと思う。


「あはは…ホント、お前は俺を見てる」

「もう、要らないんだよ。君がいなくても火鎚が代わりにリーダーを務めている。君がいなくてもあなたの仲間は自分たちで解決する力がある」


俺は呆然とする。

何もかも失ったような気分だった。


そうか、俺がいなくてもいいのか。


そっか…



より良い未来を俺は求めていた。




誰も守れない自分が嫌になっていた時もあった。


でも、そうじゃないのか…


「だから、もう戦わないで」


抱きしめられる。

暖かい感触が俺を包み込む。


落ち着く。



そして…


一つの記憶が引っかかる。



『君の最後のチャンスだ』


誰かに言われた言葉。

俺はそれに対して何と答えたかは記憶がない。

しかし、その後の言葉は覚えている…いや、分かる。


『君は取捨選択してる。それが後悔になっている。なら、思うようにすればいいさ。どうせ後悔するのだから、最低限後悔のない生き方が君には似合うさ』


そうか


「後悔のない選択」


これ果たして後悔のない選択か?


記憶の片隅には大切な人を助けてと言って死ぬ少女の姿。


その少女を俺は知っている。


立場的に見殺しにするしかない存在。


しかし、それが本当に正解か?


「千那、決めたよ」

「…勇馬…行くんだね」


立ち上がる俺に対して寂しそうに見上げる千那。


「何も言わなくても分かるんだな」

「分かるよ。でも、僕はそれを止めたい」

「悪いが、ここからは好きする」

「僕の方も水を差すけど、これ以上、君が苦しむ選択はさせないよ」



千那も立ち上がり、俺の前に立ち塞がる。


互いに構える。


今の俺に千那に勝つ術はない。

はずだった。


しかし、不思議と力が溢れてきているような気がする。

感覚的にはエネルギーは枯渇してるはずなのに不思議な気分だった。


「今度は容赦しないよ」

「俺も今回ばかりは負けられない」


踏み込む。

千那の動きを考えろ。


スピードもパワーなんて基礎的な部分から圧倒的に負けている。

第一、千那なんて化け物相手に勝てる未来が簡単に見えるわけがない。


互いにぶつかる。


その瞬間…


「右往左往して、1週間!ようやく辿り着いたぁ〜!!」


ドアがバンっと開かれる。

互いに寸止めでとまる。


「ゆ、雪菜!?」

「あ、勇馬…ただ今、あなたの助けになるために来たよ!」


そう言って目一杯に手を広げる雪菜。


「いや、空気を読め!千那からも…ってどうした?」


俺が千那の方に目を向けると彼女は目を見開いて涙を零していた。


「ど、どうした…」

「んーんー、てか何も…ないけど…ただ、僕は…君に負けたんだな」

「は?」


互いに硬直していた拳の先を見る。

彼女の顔の目の前にある俺の拳と俺を捉えきれていない千那の拳。


「続けていれば…」

「いや、僕はこの一撃で決めるつもりだった。それなのに続ければなんてたらればは要らないよ」


千那は肩をすくめてそう言うと拗ねたように顔を逸らす。

そして、



雪菜はその様子を見て引き攣った笑みを浮かべていた。


「あれ、私ってもしかしてKY?」

「「そうだよ」」


「二人からのジト目!?」


雪菜がしまったと盛大に引き攣った顔をしている。

そんな中で、千那はさらに


「そもそも1週間ってどう言うことかな?あの場所からここまで歩いても半日かからないよね?1週間もどこで道に迷ってたのかな?僕はそれが知りたいな」

「え、えーっと」


思いっきり目を泳がせる雪菜に千那が迫る。

そして、


「相変わらず君は方向音痴だね。さて、僕は君の意向に従うよ勇馬」

「私もあなたの為にここに来た」


千那と雪菜が手を差し出す。

俺がそれを取ろうとすると、


「おっと、俺たちのことと忘れちゃ困るぜ」


窓が開き、四人が窓から入ってくる。


「…空」

「あぁ、空だよリーダー」

「私を忘れないでよ」

「悠乃まで」

「私たちもいるよー!」

「…私たちも貴方に従う」

「鏡と雪音も…」


みんながいる。

何故だろう、どこかパズルのピースが嵌まったような感覚がある。


「君は一人じゃない。僕たちが君を助ける。だから、君は君のしたいことをして」


千那が手を差し出す。

俺は改めてその手を取る。


「ありがとう」


全員が俺の前を歩く。

背中がみえる…いや、みんなが待っている。


俺は走り出してみんなを追い抜く。


「さぁ、行こう!」


みんなはその背中を追いかけてくれる。



その時の俺たちは知らなかった。


その日、俺と言う人間が…



「…な、なんだこれ?」


胸から生える刃のようなものに俺は混乱する。

いや、違う、何もかもがわからなくなっている。


そもそも、おかしい話だ。







俺が仲間だなんて




**



「戦争は終わった。しかし、これは…やってくれたな」


疾風は暗い部屋の中でそう呟く。

彼の視線は虚空に向いており、何を考えているのかその場に居合わせた者には分からない。


「なぁ、俺はどうなる?」

「あぁ、君か。すまない君のことを忘れていたよ」


部屋の隅っこで座っている存在に疾風は目を向ける。



それは今回の戦争で敵の大将として立っていたシャルロットという男だった。


だが、普段の自信に満ちた様子は無く、酷く感情が沈んでいるのが見て取れる。


「盛大に奴に利用された君をお咎めなしとする訳にはいかないのだがな…君のお姉さんがそれを良しとしていない」


疾風の後ろに立つ少女がいる。

彼女は『六賢者』の一人にして勇馬達と散々すれ違いを起こし続けた少女シャーロットだった。


「えぇ、私の弟に何かするのならば例え貴方でも容赦はしません」

「だそうだ」


疾風はそう言うとため息を吐き。

再び、口を開く。


「これ以上、3代目真実に負担を掛けるわけにはいかない。あくまでもこれは王同士の戦争だ。そして、君はどちらの勢力にも属していない。まぁ、シャーロットは向こう側だがな」

「私は六賢者であると同時に勇馬の庇護下にあります。故に私は手を出しません」

「なるほど、たしかに今回、あいつに勇馬がやられた訳だ。それならお前自身味方する理由も無いわけか」


一人納得する疾風は大きくため息を吐くと一つのことを決めた。


「なら、二人に任せることは一つだ」


二人は後に語る。


その時の疾風の笑顔は潜在的な恐怖心を煽るものだったと。



**


滝の音がよく聞こえる、崖の上で雪虎が座禅をしていた。



「なぁ、これっていつまで続くんだ?」


雪虎は座禅を止め、近くで本を読んでいた明日美に問いかける。

彼は本を読みながら川の上に座っていた。


「体感では一年ほどは経ってるのだが?」


その問いかけに明日美はようやく反応する。


「言っただろ、ここは時間の流れが不安定だと、まぁ実際に一年は経ってるが、長くても外では1ヶ月程度だろう」

「長くてもっと言ってもなぁ1ヶ月も経ってるわけだろ?」

「実際1週間かもしれないな」

「雑かよ」


テキトーに返事をする明日美に雪虎は呆れるが、彼の言うこともあながち間違いでは無い。


実際、彼らの修行期間は一年なんて、短い月日では無く、五年の時間は経過している。

しかし、時間の進みが今二人がいる場所は緩やかであり、その比率は日は時間ごとに変化しているが最低でも50倍以上の速度で世界が進んでいる。


「この座禅の理由が分からないみたいな顔をしてるな」

「いや、うーんそうだな…意図を今図り兼ねてるな」


その言葉に明日美は口元に指を当てる。


「まぁ、意図は存在するが、意味などは無いな」

「どう言うことだ?」


明日美は水の上で跳躍して、崖の上、雪虎のいる場所に来ると、同じように座禅を行う。


「っっ!」


それだけで雪虎、半歩後ろに下がる。

それは意味のない行動では無く、彼自身の本能がそうさせたものだった。


「なぜ、」



明日美は片目を開いてしっかりと雪虎を見る。


「逃げる?」


ゴクリ


大きく雪虎は息を呑む。

背筋がゾッとするような感覚が走り、雪虎はその場で崩れ落ちる。


「はぁ…はぁはぁはぁ」


呼吸が僅かしかできずに雪虎はまるで平伏するように頭を下げる。


「座禅はあくまでも、その人間の集中力を高めるためにあるだけだ。形に意味はない」


明日美はそう言うが雪虎にはそれが言葉なのかさえ理解が及ばなくなる。


「俺のように周囲の存在ごと圧迫する…それもできるが、君はどのように力を使うかは俺には決められない」


明日美がそう言うと立ち上がる。

それに気づく、雪虎は立ちあがろうとするが、体が動くことはない。


汗が滝のように流れ、体は硬直したかのように雪虎の思うように動かない。


そんな雪虎を見て明日美は


「勇馬の助けになる存在だ。この程度でヘタれるなよ」


そう小さく呟くのだった。



**



シャルロットとの戦いが終わり火鎚達には再び日常が訪れていた。

しかし、それはどこか物足りない空虚なものだった。


「勇馬の死亡か…生きているか転生はするのだろうが…」


確実とは言えない。


火鎚はそんなことを考えながらももう一つの問題に目を向ける。



「皆帰の失踪…か」


そう、勇馬達以外にもいなくなった人間がいた。


それが皆帰だった。


彼はシャルロットとの戦争の時に主力級の戦力をほぼ一人で抑え込んだりと大健闘だったのだが、気がつけば彼の消息が消えていた。


「死んだ…とは考えにくい。あいつは確かエレメンツとは似つかわしくないが実力はおそらく俺たちより上だ」


火鎚の考えでは皆帰と言う男の実力は自分より遥かに上だと思っていた。

そんな、彼に対して火鎚は一つの不安要素が存在していた。


「あの男…第三勢力の参戦…」


あの日起きた戦いで唯一不可解だった存在。

火鎚が最後に見た光景。


「槍と剣を携えた男…いや」




**


薄暗い廃ビルの中を歩く男、ライトは一つの部屋で立ち止まり部屋に入る。

古ぼけた一室、廃ビルとは思えないほどに壁も天井もあり、まるで今でも何かに使われているかのような部屋。


その中は一本の剣が飾られているだけだった。



「それが世界を変える鍵なのか?」


ライトは問いかける。

それは、この部屋にいるはずの存在に向けて。


ライトの問いかけに答えるように部屋の影が形を成す。


「この部屋にはあまり来るなと言ったはずだがライト?」

「あんたの革命。その核を知りたいんだよ」


ライトは剣に目を向ける。


その剣はなんの変哲もないような剣に見える。


しかし…


「ほら、目覚めた」


キーン


と耳鳴りが起きる。

ライトは思わず耳を塞ぐ…が


「しまったな」


ライトの体は動かなくなる。


「まさか、俊王単体がこんな力を持ってとはな」


皮肉を込めて呟くライト。

今、彼の体は鎖によって拘束されており指一本すらも拘束の対象となっている。


「お前には話した方がいいか」

「いやいや、拘束されてる状態で、話しておくか、とか言われても俺としてはこの拘束を解きたくて仕方ないのだが?」

「安心しろ、あの剣はあくまでも封印だけだ。その程度の拘束なら後でどうとでもなる」

「あー無視か、了解した大人しく聞かせてもらおうか」


ライトは諦めの息を吐くと脱力させて黒い影の話を聞く。


「あの剣は俊王ではない」

「は?おいおい待てよ、勇馬の魂から取り出した剣なんだろ?それは…」

「俊王に本来、実体など無い」

「あー頭が混乱してきたからもっと簡単にお願いするわ。こちとら暴力isジャスティスみたいな環境で生きてきたからさ」


ライトのいいように影は何か言いたそうにライトを見つめる。

ライトはそれに対して作り笑いをして返事をする。


実際、ライトの生きた環境は彼の言う通りだが影の言う言葉を理解できないと言う人間では無い。


むしろの彼の言う内容が彼の理解してない部分いや、『知らない』ことを『知ってる』前提で話されるが故に理解できていない。


「言ってしまえばアレは勇馬という人間の経験や全てを吸収して管理する器だ」

「要するに、あそこに勇馬の記憶があると?」

「その通りだ」

「管理ということはソレだけでは無いんだろ?」


ライトの言葉に影は頷く。


その肯定にライトは意外そうな様子で影を見る。


「そのソレが吉と出るか凶と出るかは…」


その影が崩れていく。


そして、消えた後に扉がゆっくりと開かれライトはゆっくりとその先にいる人に視線が向く。


「神のみぞいや、その剣のみが知ると言ったところだろう」


振るわれる鎌が鎖を切り裂く。

そして、解放されたライトはゆっくりと口を開く。


「久しぶりだなブレイス王」

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