コンビの敗北
千那と椿は息を呑んでいた。
目の前にいる存在は不死の存在本条 天馬と勇馬達の宿敵であるシャルロットがいた。
「この先に何があるか気になるね」
「大方、密かに集めてきたエネルギーを利用するための空間になってるのだろう」
二人は小声で話す。
決して油断してる訳ではない。
逆に彼女らは極度に緊張してしまいほぐすためにも意識を逸らすしかなかった。
「この二人の相手は君には荷が重い。俺に任せろ」
「いいぜ、互いに協力しないと互いの願いは叶えられないからな」
シャルロットと天馬もまたそんな会話を交わしてシャルロットが前に出る。
その手には武器は握られておらず素手で二人に向かって歩いていく。
それと同時に椿が動く。
二本の黒い剣を振るい切っ先がシャルロットに迫る。
黒いエネルギーがシャルロットを守るように動き出す。
しかし、そのエネルギーをすり抜けるように剣は通り過ぎる。
それにいち早く反応したシャロットは半歩下がり二本の剣を避ける。
しかし、それは不可能で終わった。
振り抜くと共にシャルロットの体に傷ができる。
それは振るわれた方向ではなく全く別の方向にへと切られていた。
「何が…」
「その能力はあくまでエネルギーいや、物理的な力を持つものを弾くだけにしか過ぎない。君のその攻撃は見飽きたよ」
椿はそう言って二本の剣による剣舞を始める。
その振るわれる舞は決して防がれることなく変幻自在に動き思うような傷を生み出す。
「くっ、なるほどさすがは剥離の能力者。地雷だけではなく衝撃の位置を操ることも出来るわけか」
「なっ?」
そこに椿はおらずシャルロットと千那の二人だけとなっていた。
「さて、これで君とのタイマンだ」
「なーに言ってるのかな?僕は君と戦わないよ。てか、戦う必要ないし」
「降ってくれるのかな?」
シャルロットの言葉に彼女はため息を吐く。
あまりにも的外れの言葉に声も出ない。
何度か首を振ると千那は天井に指を指してこう言った。
「一番火ぃ付けちゃダメな子に火…付けたね。同情するよ。この先の戦いに」
「何を言って
スドンッ
と天井を崩す音が聞こえる。
二人の視線がそこに落ちた者に向かれる。
そこにあるのは大凡人間とは思えない姿の存在だった。
ツノの生えたような頭に首から腰にかけて出てきている翼の骨格。腕にあるのは枝のように体から生えては戻る何か。足は完全に鋭利なものへと変わり最低限の肉を支えるだけのものへと変わっていた。
そして、それは動き出す。
「さてと、僕も準備するかな」
一人千那だけは呑気にそんなことを宣うのだった。
少し時は遡り椿が飛ばされた時。
気がつけば椿は空に投げ出されていた。
屋内にいたにも関わらず彼女は外へと吹き飛ばされ、それに気づいた彼女は
「あそこから反撃かよ」
口調が戻っていた。
そう、彼女の普段の口調はお嬢様としてリーダーとして堅く口調だった。
しかし、本来の彼女は一番理性的から離れた性格をしていた。
あくまで理性的の仮面をかぶってるが故に本来の性格を出しても理性的でいられるようになった。
今の彼女は違う。
「黒羽…絶対切断者」
黒い枝のような翼の骨格が椿の背中から、剣から生えてくる。
そして、跳んだ。
一時的に動きというものを切断して空気を足場として蹴れるように変える。
そして、彼女は天井を突き抜けて降り立った。
彼女は剣を構える。
そして、動き出す。
シャルロットの懐に入り込んだ椿は剣を振るう。
黒いエネルギーがそれを阻もうとするが、
切り裂く。
「私に見えるものが効くかよ」
切り裂かれた黒いエネルギーは使った本人に牙を剥く。
彼女の持つ力、剥離その実態は万物を引き離すことにあった。
ありとあらゆるエネルギーは外に出ると共に所有者から離れる。
故に行き過ぎたエネルギーは身を滅ぼす。
それがこの世の真理。
しかし、エネルギーをうまく活用すれば人間はどこまでも丈夫になる。
エネルギーを外に出した際の身体強化は離れてるように見えて実際体に纏うことによって自身のエネルギーであり続けていた。
故に
そのエネルギーの所有権を椿は引き剥がす。
「君は霊格というのを知ってるかな?」
その言葉と共に椿が引き剥がしたエネルギーの所有権を奪う。
霊格、そのエネルギーはその領域の支配を表す力、椿はその力を相手の力を奪うために使った。
無防備となるシャルロットの体に剣が入る。
「っく!」
シャルロットの体が切り裂かれる。
しかし、すぐにその傷が塞がりシャルロットは反撃に入る。
「黒き剣」
椿の翼の骨格一つ一つが剣のような形となり反撃を全て防ぐ。
「黒罠」
黒い傷痕が空間に残る。
その傷が震え無数に傷痕が空間中に分裂する。
普段ある、見えない衝撃の地雷と違い明らかに誰からも視認できた。
故にシャルロットは警戒した。
見えるものの中にある見えないものは見逃す。
それをシャルロットは知っていた。
見えない衝撃の地雷に注意していた。
間違った考えではない。
しかし、
目に見える傷痕は鎖となりシャルロットを拘束する。
動けないシャロットに椿は近づく。
剣が振るわれる。
それを避ける術はシャルロットにはない。
そのはずをだった。
「お前達の推測に一つの違いもない…しかし」
全てが捻じ曲がる。
正確には椿の位置が変わっていた。
そして、気がつけばシャルロットの拘束も解かれて動き出していた。
「そう言う時の見えない地雷さ」
しかし椿も焦ることはない。
見えない衝撃がシャルロットを襲う。
それと同時に放たれる黒い枝のような翼にシャルロットは何もしない。
いや、違う。
剣をしまい、何かを掴むように宙を掴む。
そして、引っ張った。
椿は気がつけばシャルロットのすぐ近くにいた。
そして、シャルロットは最も安全圏である懐に入り込む。
それを予想だにしていなかった椿は一歩後ずさる。
それが失敗だった。
いや、それそのものは失敗ではなかった。
しかし、一歩。
その中途半端な一歩が確かな隙を生んでしまった。
そして、触れる。
その瞬間、空間側歪み椿は膝を着く。
「カハっ…」
椿の口からは血が溢れ出てくる。
この場で何が起きたかわかった人間は一人。
シャルロットだけ。
「なんだよ…それすげぇじゃないか!」
天馬が興奮するようにそう叫ぶ。
後ろで待機していた彼はシャルロットに駆け寄り余裕そうな笑みを浮かべる。
「これで俺たちの目的を達成しできる」
「そうだな、君の目的は本条家を表舞台で知らぬものはいない世の中を作るだったかな?」
「そうだ、不老不死の人間だぞ!この世でいっちばん偉いんだ!」
「そうか、不老いや、これは違うな」
「?」
「君が気にすることではない。さて、千那よ。椿がやられたがまだやる気かな?」
シャルロットは一人立つ千那に問いかける。
そして、当の千那はというと
「ん?あー椿ちゃん負けちゃった」
寝ていた。
「んー、どうしよっかなぁ僕としては今の君に勝てるビジョンがないし」
「それはどうかな?君ほどの力があれば手傷くらいは…
「ないね」
断言する。
千那は今のシャルロットの状態を理解している。
先程まで勝てる見込みのあった勝負に今勝ち目を感じていない。
「君、いろんな街で仕掛けていた祭壇のエネルギーをここに集めてるでしょ?」
「な、何故それを」
「天馬、君は少し落ち着きたまえ。ここまで来ればバレてるのも当然だ」
「なら、君はそのエネルギーを自身に取り入れてることもバレてると分かってるわけか」
沈黙。
それが答えだった。
「おかしかったんだよ。後ろから来るならともかく部外者である、そしてあまり腰を上げない君がここにいることがね」
「何が言いたい?」
「さぁ?一つ分かるのは今の君の総エネルギー量には僕たち4人を合わせても勝てないという点かな」
故に
千那は動き出す。
それに合わせて引っ張るようにシャルロットは手を動かす。
しかし、
ゴンっと鈍い音と共にシャルロットの顎に膝が入る。
「引っ張られるなら抗わずってね」
空間を歪ませて近くまで引き寄せた千那の速攻の反撃にシャルロットの動きが止まる。
それを見た天馬が千那に襲いかかるが…
「『一挙重斬』基礎『払い』」
剣を止めたかと思うと勢いよく振られる。
その剣は何重にも重なり天馬の体の半分を吹き飛ばす。
「今のうちに椿ちゃん安全な場所に避難させていただくね」
そう言って千那は椿を担ぎ去っていく。
「見逃されたか…」
「…何言ってんだよ…」
「君は油断しすぎだ。彼女は先ほどの椿とは違い別格だ。そんなことよりも来たぞ」
シャルロットの見据える先。
向かってくる人影が二つ。
天馬も気付き警戒する。
一歩一歩歩いて近づいてくる相手の顔が徐々に鮮明にハッキリと見えてくる。
それに対してシャルロットは笑う。
「勝てるとでも思ったか?少年」
「な、なんでお前裏切ったのか」
2人それぞれの反応をする。
その先にいるのは…
「信じていいんだな」
「あぁ、今はお前の親友だ。勇馬」
勇馬と俊介だった。
**
時間は少し戻り勇馬と俊介の体力やエネルギーがそこを尽きようとした時に戻る。
互いに足元がふらつき目の前が霞み、息も絶え絶えの中で踏み込む。
「「うぉぉぉ!」」
力を振り絞るかのように叫ぶ二人の力は決して弱々しいものではなく衝撃だけで周りが崩れる。
地面がひび割れ大きな力同士が衝撃で破裂する。
互いにその勢いに耐えられずに吹き飛ばされる。
「ぐっ…はぁ、はぁ俊介!」
立ち上がり、剣を構える勇馬。
その足は震えており、とてもではないが戦える状況とはいえない。
「たく、最悪だ。こんなじゃダメだな」
だが、俊介は違った。
己を叱責して立ち上がることはない。
それを見た勇馬は気が緩むことはなかった。
そして、勇馬自身が驚くような思考だった。
(殺さないと…みんなを守る為に)
その考えに至るとともに勇馬は首を振り思考をリセットする。
(助けないとこのままじゃダメだ)
(なにを?)
勇馬は自分の思考に混乱する。
それを見ていた俊介は笑う。
上体を起こして言葉を紡ぐ。
「やっぱりお前は向いてねぇよ。経験から他者を殺そうとしてるのに…矛盾が生じてる。そして」
俊介が立ち上がる。
「それがお前の弱点だ」
切り裂かれる。
俊介の手刀はまるで切れ味のいいナイフのように入り、勇馬首を切り落とした。
「もし俺にも来世があるなら…次はちゃんとお前の親友でいたいな」
彼は何も見ない。
勇馬の死体も何も…。
ピロリローピロー
音楽が鳴る。
その音楽は最近、俊介がよく聞く音楽であり、それは気がつけば瓦礫の中に落としていた俊介のスマホから鳴っていた。
「いつの間に…」
そう言って彼はスマホを取り電話に出る。
『ようやく出たか、十条!』
「はい、十条です。それでそっちは決まったんですか?」
『あぁ、なんの問題もなくな。それよりずっと連絡していたのにも関わらずなぜ電話に出なかった?』
「え?それってどれくらい前ですか?」
『2時間前だ』
「え?」
2時間前…それはまだ就任式が始まる前の出来事だった。
そもそもスマホ自体、簡単に落ちるような場所に彼は入れていない。
「…要件というのはもしかして2時間前に俺に与えられた命令が取り消された…ことですか?」
『知っていたのか?』
「いえ、ただの予想です。それでは」
そう言って電話を切る俊介は唇を噛み、拳を思いっきり握りしめていた。
「やりやがったな!本条 響鬼ぃぃぃ!」
力が噴出し、辺りを吹き飛ばす。
しかし、どこを探っても本条 響鬼の姿はなく俊介は怒りの矛先を変える。
「すまないな…親友。殺した俺が言うことじゃないがお前のしようとしたことを俺は…」
「何、勝手に話を進めてるんだ」
「え?」
俊介の言葉を遮る言葉が聞こえる。
その声に耳を疑う彼だが、そのすぐ後にそれが現実であることを示すものが目の前にある。
「俊介…お前は…もう俺の邪魔をしないんだな?」
「いや、なんで…」
「…疑問は最もだが先に答えてくれ」
「…あぁ、お前を殺す理由も何も無くなった。俺はお前の親友として今…」
「ようやく手を貸せる」
まるで望んでいたのように彼は笑う。
勇馬はそれ見てどこかホッとしたような表情で話し始める。
「なら、こっちも答えようか。どうして生きてるか…」
勇馬のその答えは…
「分からない。ただ…」
「答えは一つになった。無理して切り捨てることなんてしなくていいんだ昔の俺も今の俺も、そして、怯えて何かを殺すことなんて意味がないんだ。どうせなら俺は…」
勇馬の中にいくつもの記憶が蘇っては過ぎ去っていく。
そして、拳を握りしめて祈るように胸に手を当てる。
「やりたいように理想を不可能だって求めてやる。個人を救えず世界しか救えないのなら、個人を救うことで世界も救ってやる」
「逃げる事はもうやめだ。最後の最後まで足掻いてやるよ。その思いが俺の助かった理由だ」
「…」
無音。
俊介はしばし考えた後、口を開く。
「意味が分からない。だが…」
「そっちの方がお前らしいよ。だからお前の理想を俺にも追わせてくれ」
拳を突き出す。俊介に勇馬は驚くがすぐにそれに応え、そして二人は歩き出す。
本条 天馬のいる場所に…
**
そして、時間は戻り勇馬達はシャルロットと対峙していた。
「久しぶりだな。前は何年前だったかな?」
「対峙したのは数ヶ月前だ」
「そうか、その月日君と言う存在がいかに危険か知ることになったよ」
「それはどーも。奇遇にもこっちもあんたを倒すのに骨が折れると思ってたところだ」
四人は向かい合い息を呑む。
「勇馬あの男は?話してたが?」
「シャルロット…この戦いの黒幕?と言うのかな」
「なるほど」
勇馬と俊介は小さな声で話し終えてると二人は臨戦体制に入る。
「話し合いは終えたか。天馬は後ろに下がりたまえ」
「え、は、はい」
「舐められてる?」
「いや、順当だ」
俊介が眉を顰めるが勇馬は正しいと断じて動き出す。
二人は同時に踏み込む。
しかしシャルロットは空間を掴み完全に間合いを変える。
急に目の前の景色が変わった二人は足を止めてしまう。
それが隙となり二人は殴られる。
二人はギリギリでバランスをたもつが足が明らかにふらついており、体力がかなり消耗していた。
「どうかしたのかね?まさか先程まで二人して潰しあってたので戦えませんと言うつもりかい?」
「誰がそんな言うかよ。妄想野郎!」
勇馬のその啖呵とともに俊介が踏み込む。
勇馬もまた同時に動き出すが、目の前にとうとつに現れるシャルロットにバランスを崩されて地面に叩きつけられる。
「キタキタキタ!!」
俊介の動きが速くなる。
はずだった。
「な、なんで」
「当たり前だ。どんな力もエネルギーによって齎されるもの。ガス欠は当然君のようなイレギュラーな力でも存在するのだよ」
そのまま殴り飛ばされる俊介。
「俊介!」
勇馬はそれを受け止める。
しかし、その直後再びシャルロットら空間を引っ張る。
(なんだこれ…勝てるわけがねぇ)
俊介は自身の敗北を見る。
その時だった。
何本もの剣…いや、剣だけではない。弓、槍、刀と4種の武器が宙に存在していた。
「『多武複具』」
勇馬が槍を持つ。
引っ張られる力を利用してシャルロットに槍を突く。
咄嗟のことに避けるシャルロットの動きを勇馬見る。
槍から手を離して近くに存在している武器を手に取り、懐に入り込む。
それをよしとしないシャルロットの反撃を勇馬はいなす。そして、すぐに槍に再び持ち替えて振るう。
「っく!」
そのまま続くフルアングルアタックによりシャルロットは一歩退く。
勇馬自体の速度はそこまでではない。
しかし、まるでどう落ちてくるのかどう弾かれるのか全て読んでるかのように勇馬はノーモーションノータイムで武器を持ち替えて攻撃を繰り返す。
「確かに中々の攻撃だ…しかし」
勇馬の攻撃に合わせてシャルロットが自身の剣を手に取り振るう。
それは空間を超えて勇馬の手元に入ろうとしていた弓を弾く。
「君のお得意の限界突破がない限り半人前だな」
「っ!」
その言葉に勇馬は言葉を失う。
あの一瞬使えた限界突破。
それは俊介との戦いの終盤では使えなくなり、彼自身の戦闘力が大幅に減少していた。
それを補うための『多武複具』であり、それで補えない戦いにおいて勇馬は現在できることが無かった。
しかし、それでも
「それがどうしたよ」
彼の心は折れない。
剣を取り、構える。
本当は勝ち目なんてない。
エネルギーは俊介戦で使い切り、もう何かをする余裕なんて本来はない。
だが、彼に諦めというものがなかった。
しかし
「なんで、こんなことしてんだろな」
俊介の心は折れていた。
それもそのはず、彼は今まで自身の力に絶対的な信頼を置いており、そして、その力はほぼ無限に使うことができた。
しかし、それはあくまで彼自身が限界に至ったことがあるわけではなく、今まで全力を出してなかったからこその無力感だった。
限界まで引き出したその力は枯渇して、その力の強さだけの時間使えなくなる。
勇馬が力を使い切った際に一週間ほどエネルギー枯渇状態が続く理由はそこにある。
特殊な能力を持つ人間であればあるほどその力を引き出すための土台となるエネルギーは多い。
その土台分のエネルギーを補充するまでエネルギーが回復することはない。
その際、支えであるはずの基本的なエネルギーを失った。
いつだっていざという時の頼りになるはずの力を失った。
「なんで、なんで勇馬は戦えるんだよ」
目の前に映るのはボロボロの勇馬の姿。
ほぼ死に体になりながらも立ち上がっている。
その体には先程まで自分と対峙していた時のような力強さはなく、どこからどう見ても限界だった。
だが、それでも食い下がって何度も立ち上がる勇馬。
それを見ている俊介は…
「俺は…力だけなのかよ」
無力感に苛まれる。
ただ特別な力を振り翳してるだけの存在。
その力が強力すぎたが故に俊介の支えそのものになってしまっていた。
勇馬は現在、複数種類の武器を使って少しでも傷を与えようと動くが勇馬の戦いにシャルロットを傷つける決定打が無い。
シャルロットは空間を掴み、勇馬を引き寄せて殴る。
そして、剣を取り出して切る。
それを勇馬は防ごうとするが自力の力が違う。
エネルギーが無い勇馬だが、一般人より強い超人レベルではある。
それでもエネルギーの差は大きい。
技法、魔法、固有能力、霊格、様々な力を持つ人間はそれを使うためのエネルギーを微量ながらも常に放出しており、それにより知覚や身体能力を引き上げている。
現在、勇馬のエネルギーは自分の基礎となるエネルギーの土台がなく時間を掛けて戦っても再び力を使うことはできない。
そのはずだった。
シャルロットの攻撃を抑えきれずにただ、防ぐで手一杯だった勇馬の動きが変わる。
攻撃を全て、流し切る。
「っっ!」
その予想外の事態にシャルロットの動きは少しだけ鈍る。
それを見て勇馬は丁度落ちてくる槍を手に取る。
「シッ!」
槍を振るう。
その力、先程までの無力な存在の力では無い。
確かな一撃。
「クソッ!何が起きてやがる!」
後ろから見ていた天馬ですら理解できてないかった。
明らかに勇馬の動きが変わっている。
「なるほど、力を捨てたか勇馬」
「違うな」
再び空間を引っ張るシャルロットの動きを読む勇馬。
攻撃に合わせて相殺を行う。
「初めから俺に土台となるものはないんだよ。だから…」
勇馬が深呼吸をする。
その隙をシャルロットが許すわけがない。
しかし
「霊格による知覚!?」
「丸見えだ!」
先程までの無力な存在とは違う。
確かな脅威として勇馬が存在していた。
「俊介!」
勇馬は呼びかける。
その言葉に彼は反応をしない。
「俺一人じゃ勝てない!お前の力を貸してくれ!何の力も無い?違う!その無力感は力を持つものだけの特権だ!」
勇馬の攻撃が空間のズレで失敗する。
手に持つ筈だった剣を置いてけぼりにしてシャルロットに吸い寄せられる。
代わりにあるのは弓。
それを手に持ち、盾の代わりとする。
立ち上がる瞬間には引き寄せられて勇馬は一方的な戦いを強いられる。
「お願いだ!親友を信じてくれ!そして、お前を信じさせてくれ!」
勇馬は吹き飛ばされてもシャルロットから離れることはできない。
ゼロ距離で延々と攻撃を受け続ける。
「…俺に何ができるんだよ」
俊介はようやく反応する。
それに対して勇馬は笑う。
「まだ、笑う余裕があるのか」
黒いエネルギーが勇馬に飛ぶ。
勇馬はそれを防げない。
「エネルギーが足りない」
勇馬は迷いなく、左手を犠牲にする。
(生き残れば再生はできる。でも、死ねば次の人生?そんな覚悟で望む気はない!今の死力を尽くして足掻いて、その上で死ぬ!)
勇馬は内心、そう考えて己を奮い立たせる。
「出来るだろ。言ったろ俺を信じろって」
勇馬は…
ドォォォォン!!
黒いエネルギーの塊が勇馬に直撃する。
その破壊力は尋常ではなく、周囲を揺らした。
「流石に遊び過ぎたな」
シャルロットはそう言う。
そして、奥へと戻ろうとした時。
「待ちやがれ!俺は…負けてねぇぞ!」
俊介が立ち上がる。
「あいつが死んだ後で今更何を?」
「死んでねぇよ。勇馬なら生きてるだろ!」
黒いエネルギーによって崩れた場所の土埃が晴れていく。
そして、
「よく、信じてくれた親友!」
勇馬が土埃から出てくる。
「死に損ないが!」
「それはどうかな!」
加速する勇馬にシャルロットは反応が遅れる。
「馬鹿な!?さっきまで死に掛けていた人間がなぜ!?」
「ハハッ、なんだよ勇馬。まるでその力…」
シャルロットは目を見開き、空間を引きつける。
それに対して勇馬は防御姿勢を取らない。
切られる。
血が噴き出す。
しかし、勇馬はそれを気にした様子もなくシャルロットを殴る。
その力は先程までの貧弱なものではない。
「ガァっ!!」
体がくの字に曲がり飛ばされるシャルロット。
反対に勇馬の体は再生していく。
「俺の力じゃねぇか」
そう、倒れれば倒れるほど、傷付けば付くほどに勇馬の力は増大していった。
(だが、おかしい。土台なんて無かったはずだ。どうやって奴はその力を使うだけの土台を…まさか)
シャルロットは見た。
その力の在り方をシャルロットは知っている。
「何故!?何故お前が王達と同じ力を有している!!」
シャルロットは自分の持てる全力を出す。
「空間を捻じ曲げ反発力を前に砕け散れ」
黒いエネルギー群が勇馬に迫る。
逃げ道などない。
しかし、勇馬は前に進む。
右腕を犠牲にして、左腕を犠牲にして、破裂する。
しかし、すぐにより強靭に腕が再生する。
二度
三度
四度
…
何度も腕で受け続けてそれは来た。
弾く。
黒いエネルギーは勇馬体を破壊することはなく地面に落ちて爆発する。
「俺が…負ける?」
シャルロットは目の前にまで迫ってくる勇馬から逃れることはできない。
強靭な肉体へと変貌を遂げた勇馬を止める術はもう無い。
…
通常なら
音を超えた存在がいた。
全てを貫く弾丸を放つものがいた。
無限の人形を操るものがいた。
圧倒的な破壊を持つものがいた。
研ぎ澄まされた剣技を持つものがいた。
全てを捉える守護者がいた。
霊格によって化け物と化した存在がいた。
それを勇馬は捉える。
強化された一撃は防がれる。
そして、放たれた弾丸を勇馬は一つ一つ避ける。
だが、それでは終わらない。
迫り来る存在達の攻撃を勇馬は対処し切れない。
「俊王!親友!」
「おう!」
俊介が身を乗り出す。
(今ならいける。体が軽い)
攻撃を全部受け切る。
そして、強化され俊介は動き出す。
状況依然として勇馬たちが乗っていた。
しかし、一つ勇馬は焦っていた。
(もうそろそろ、時間切れか)
この力には制限時間が存在していた。
いや、正確には勇馬の一時的に手にした莫大な力が消えようとしていた。
「俊介…引くぞ」
「…親友、分かった」
故に撤退を余儀なくされた。
しかし
「私から逃げられるとでも?」
音速を超えて動く少女、ヘレネアは逃げようとする勇馬達を追いかける。
だが、
「スピードに拘るお前から逃げれるなんて思ってない」
「俺はサッパリだがよ…勇馬が言うなら」
俊介が走りながらもヘレネアに攻撃を仕掛ける。
しかし、今の俊介にはヘレネアに対抗するだけのスピードは出せない。
故に彼女は俊介の攻撃を避けて無防備な彼の体に剣を…
「わかりやすいんだよ!ただ速いだけってのはな!!」
勇馬が割り込みヘレネアを顔面から殴り倒す。
体重の乗った一撃にヘレネアは倒れる。
その隙に二人は走る。
しかし、
ドォォォォン!!
どデカい発砲音が響く。
二人は身を低くして、弾丸を避けるが連発される。
その発砲は1発1発が正確であり二人は避けるのに専念せざる負えない。
そして、
「時間切れかよ」
二人は同時にバランスを崩す。
いや、違う先程までのエネルギーが完全に枯渇して体が動かなくなる。
「終わりだな」
シャルロットが二人の近くまで歩む。
だが、二人して闘志は消えていない。
意識が薄れながらも立ちあがろうともがく。
だが、それも長くは持たなかった。
二人の意識は完全に途絶えて気絶する。
「さて、手こずらされたがこれで…終わりだ」
シャルロットは黒いエネルギーを放出して巨大な黒い塊を作り出す。
「ブラックホール」
そのエネルギーの塊が放たれる。
「悪いがそれは出来ない相談じゃないか?」
色彩豊かな炎がブラックホールを押しと止める。
「僕を忘れちゃ困るね」
千那がシャルロットの後ろに立つ。
「貴様!」
「おっと流石はライト君。動きが早い」
千那に攻撃を仕掛けたライトだが、千那は余裕の様子でかわして勇馬と俊介を抱えて下がる。
千那の向かう先には…
「絶対悪諸君がまさか勢揃いとは」
火鎚を初めてとする勇馬の仲間がいた。
「さて、ここからが本番だ。シャルロット!」
火鎚は代表して剣をシャルロットに向かって突きつけてそう宣言するのだった。




