4剣の女神
「…えーっと、これってどう反応すれば?」
天馬の登場に俺は少し戸惑っていた。
本人は嫌な笑みをしながら俺を見てくる。
「…あれ、俊介いない…てか寧々も!?」
よく見たらカーテンで作った紐が窓に垂れてる。
いつの間に…
「それで我が弟よ婚約をおめでとう」
「あ、ありがとうございます」
まさか祝福が来るとは…てか、まだ見合いすらしてないからな。
まぁ、多分断られることはそうそう無いということだろう。
「それで貴様婿入りするのだろう」
「そうなる…なりますね」
ここは少しでも取り繕っておかないと面倒そうだと思い丁寧な口調を心がける。
「ならば貴様の持ってる家宝を返してもらおうか」
何言ってんだこいつ
「何言ってんだこいつ」
「俺をこいつ呼ばわりとはいい度胸だな」
「しまった声に出てしまった…嫌だなぁ、聞き間違いですよ」
「どうしてそれで取り繕えると思った!」
チッやっぱりダメか。
まぁいいか。
こっちとしても今世での親父の遺産だから手放す気はそうそう無かったが。
「仕方ない。手を出せ」
天馬は案外すんなりと手を出してくる。
これは形のあるものでは無い。
敢えてそれを形として示すのならカプセルだろう。
「こ、これが家宝…不死」
俺の渡したカプセルをすぐに飲み込んでしまった天馬は自分の体に手を当てて確認していく。
「用事は終わったならさっさと帰ってくれないか?」
「無論そのつもりだ。しかし、やけにあっさりと渡したな」
訝しげに俺を見てくる。
まぁ、たしかにこんな貴重な力簡単に渡す方がおかしい。
更に言うならあまり渡すのに気が乗っていないのは確かだ。
これから先、戦いはより一層苛烈になると思う。
こんな俺の力が不安定の中でその力は俺の唯一の武器だ。
しかし、だからといってここで本条家を敵に回すのは流石にキツい。
故に俺は簡単に渡した。
まぁ、理由はそれだけでは無いが…これに関しては俺もよく分かっていない直感のようなものだから気にしたら負けである。
「そうそう、兄さんは婚約者とか決まったのかい?」
「うっ、未だ決まってない。それと弟…とは言えどもお前と俺とでは違いすぎる兄さんという軽々しいよび方はやめてくれたまえ」
「やだ」
とりあえず、こいつの意見はバッサリ切り捨てる。嫌がるならやらないと。
本能がそうするべきと主張するなら例え他人のフリをしたい相手でも親しくなってみせる。
「そ、そうか。まぁ、いい。ここでの用事は終わった精々婚約者相手に恥をかかないことだ」
「むしろ恥をかくだけで婚約が…」
「おっと天馬様、もうそろそろお戻りにならないとならないのでは?お婆様から仰せつかったこともあるようですし」
俺が軽口を叩こうとすると突然現れた俊介に口を塞がれる。
そして、明らかに慌てた様子で天馬に苦言をする。
「そうだな、時間も無くなってきた。今日はこれにて失礼しよう」
そう言って去って行く天馬。
家から奴が出て行ったのを確認すると俊介は大きなため息を吐いて俺の口から手を離す。
「お前なぁ…」
「いやーだってウザかったんだもん」
「それでもまだ言いようがあるだろう!つーか、昨日の聡明なお前はどこに消えた!」
「え、未だそんな幻想見てたのか?そもそもこれ以上もの考えるのが怠い。この先、婚約者との顔合わせもあるんだぞ、一々気を張り詰めるなんてアホらし」
「だぁー!もう!お前のイメージが色々と消えてくよ!」
「もう、諦めろよ」
「なんでだ!なんで俺がそんな目で見られなきゃいけないの!おかしいよな!おかしいって言ってくれ!」
俊介の言葉が後ろの方で隠れていた寧々に飛火する。
しかし、寧々は逆に首を傾げる。
「いや、私的には昨日の勇馬の方が気持ち悪かったけど。東条家のあなたはいなかったけど親戚の集まりの時こんな感じでテキトーだったし」
「あれ?そんなんだっけ?出て行く前の記憶って殆ど覚えてないからどうだったかすら分からん」
「ほんとマジでテキトーじゃねぇか」
俊介が呆れ始めてる。
まぁ、俺って基本的に考えるの嫌いだったからなぁ。
口より先に行動。
基本的にそれで行動して失敗を繰り返してきたから考えるようになったわけだし。
あれ、そもそもその失敗ってなんだったかな?
「まぁ、いいか。んで婚約者の詳しい情報は?」
「俺はもう知らん会ってから確かめろ」
「拗ねるなってダメだろ子供とは言えでも仕事、しっかりとやらないと」
「お前が言って説得力があるか?」
俺は寧々の方に顔を向けて首を傾げる。
「ダメでしょーちゃんと仕事しないと」
「寧々!お前は楽しんでるだろ!あと昨日のお前の険悪な雰囲気はどこ消えた!」
「「今更そのツッコミ!?」」
「仲良いな!」
実際婚約云々が無ければ俺自身彼女のことが嫌いなわけではない。
むしろ接しやすい部類に入る。
彼女自身己のために動く。
そして、なんだかんだで打算的な奴ではない。
俺が自意識過剰なところはあるかもだが少なくても俺は寧々に好まれていることがわかる。
こーゆ奴に俺は弱い。
信頼に対して何かを返したくなってしまう。
「ま、それでも寧々と婚約とかは無いがな」
「ここまで来てそれを言っちゃうのね」
「やっぱりサイテーだわお前」
「今度は俺がアウェーかよ」
二人にドン引きされた。
まぁ、少しは自覚ある。
ただ彼らとは別のベクトルという意味で…
「とりあえず引きこもってないで出ようか」
「うわぁ露骨に話を逸らしたよ」
「ほんとサイテーよね」
「なぁ、お前達の方が仲良く無いか?」
そんなことを言い合いながら部屋を出る。
俺たちの声だけがやけに響くでかい廊下。
俺達は堂々と真ん中を陣取り言い合う。
その後、朝食を取りそれぞれのやるべきことに動く。
そして、俺は。
「んで、なんで私があなたのお見合いのために服を選ばなきゃ行けないの?」
「知らねぇよ。文句を言うなら俊介に言え」
寧々と一緒に今日のお見合い衣装の選定をしていた。
因みに俊介は今日の場所のセッティングと部屋のメイクをしている。
「多分わざと失敗するような格好にしたら怒られるわよね」
「個人的にはそれもいいんだがそうなるともっと厄介な事になるからやめてくれ」
そんな事になったら自由が消えて行く筈だ。
利用できない上にもう家宝を持ってない俺に価値はない筈だ。
「そう考えると家宝をあいつに渡したのは失敗だったか?」
「テキトーにその場のメリットを考えて渡すのがいけないのよ。大丈夫、失敗しても私が養ってあげるから」
「やめてくれ妙に生々しいイフを出すのは」
正直一番あり得そうな未来で背筋がゾッとする。
一歩どころか半歩間違えればそのルート一直線感が半端ない。
「ふーん、そんなに私とは嫌なんだ」
「うんやだな」
「…」
「どうした?」
寧々が何やら黙り込んでしまう。
流石に言い過ぎただろうか。
正直お見合いも嫌だし。
場合によっては寧々の方に行くのもアリだと思うしもう少し優しくしておくべきだったか…。
いや、と首を振る。
どっちにしたって彼女を傷付ける。
それなら初めから希望なんて持たせちゃダメだ。
「悪いがお前との結婚なんてこの先無い…はずだ」
「…そこまでハッキリ言う」
小さな声だがたしかに聞こえた。
「変な希望なんて持たせる気はない。たしかに嫌いではない。でもな…俺は俺の意思で人生を決めることは出来ないんだわ…そして、これ以上誰かに預けることもな」
もう、俺の人生は俺一人のものではない。
皆帰、雪菜、那奈…俺の人生はあいつらと共にある。
「なんで…なんで私はその中に入れないの」
「…」
「黙らないで!答えてよ!!」
彼女は必至に俺に近づいてくる。
涙を流して必死に俺に好かれようと俺の気を引こうと自分を主張しようとする。
「悪い」
「謝んないでよ!それなら…謝るくらいなら!!
「ふむ、お邪魔かな?」
俺は唐突に聞こえてきた声。
寧々の声を遮った存在に目がいく。
「…なんでお前が」
「久しぶりと言うべきかな勇馬くん」
「そうだな…椿」
そこにいたのは黒髪の少女、椿が扉のところに立っていた。
「にしても中々にお熱い告白のところじゃないか。役得だな」
「お前は男子か!」
「ふふっおっさん臭いとも言う」
俺は気がつけば寧々をそっちの気で椿と話していた。
「なんで…なんで私を見てくれないの!勇馬…勇馬!私はあなたの事を誰よりも…誰よりも!」
背筋が冷える。
寧々の声は明らかに正気の人間が放つそれではない。
「いつから俺はヤンデレラブコメの世界に入ったんだろーな」
「そんなこと言ってる場合かい?」
「じゃないな」
そんなことを話してる間に
「そっかぁ他の女が貴方に言いよるからダメなんだね」
「なんか、今にも人を殺しそうなこと言ってるが大丈夫なのかい?主に私の命が」
「いや、俺の方の心配もしてくれ!」
そんなこと言ってる間に徐々に寧々がこちらに一歩また一歩近づいてくる。
俺はそんな様子に本能的な恐怖を抱き椿に泣き付く。
そんな俺を見て椿はため息を吐いて耳打ちしてくる。
「いいのかい敵である私にそんな無防備で」
彼女の言葉。
やっぱり、刃月達の報告にあった黒髪の少女は椿のことだったか。
「別に椿お前が今の俺をどうにかするつもりはないだろ。なら、目下の危険に対して対処するだけだ」
「馬鹿なのかい君は」
「あぁ、馬鹿だ知ってるだろ?」
「そうだな」
彼女が笑う。
それに対して俺は安心する。
「なんで私を見てくれないの?ねぇ勇馬、もっと私を見てよ他の女とイチャイチャしてないで」
あ、そんなこんなでもう目の前まで…椿もなんだかんだ言って雰囲気に飲まれて震えてるし。
でも、彼女しか今どうにかすることはできない。
「ほら、勇馬一緒に行こ」
そう言って俺の肩を掴む寧々。
その力は強くて今にも引き剥がされそうだ。
そして、諦めようとした次の瞬間。
「何してるのかと思えばこんな事になってるとはな」
俊介の声が聞こえた。
それと共に俺を掴んでいた手は引き剥がされる。
「邪魔しないで!私は勇馬に認めてもらわなきゃいけないの!」
「それならもっと穏便にやってくれ西条のお嬢さん」
公務的なものなのか俊介は寧々に対して少し硬めの言葉を使って制止する。
「貴方も私の邪魔を
パシンッ!
俊介が寧々の頬を叩く。
「落ち着けと言ってるんだよ。焦る気持ちは分かるがそんな歪んだ物を見せても引かれるだけだぞ」
俊介の言葉に寧々はようやく動かなくなる。
そして、下を向いて嗚咽を漏らし始める。
俺としては居た堪れない気持ちなるが今の俺が罪悪感なんて持っていいはずもない。
「二人は予定通りお見合いをしていてくれ。俺はこいつをどうにかするからよ」
俊介はそう言って俺と椿を追い出す。
「…」
廊下に出てから俺達は少し無言になる。
てか、どうしろと…
うーん待てよ薄々思ってたけど…
「椿、お前が俺のお見合い相手か!」
「今気づいたのかい!というかあの言い方は酷くないかい?」
「やっぱり最初から聞いてたか」
「あそこまで虐げればあぁもなるさ」
「分かってる。でも、彼女にとってこれ以上残酷なことはしたくなかった」
俺がそう言うと彼女はため息を吐く。
何故だ?
「君はこれだから常識がないと言われるんだよ。騙すのは悪い?人間騙す方が優しさの時があるのだよ」
椿がとんでもないことを言い出す。
「お、お前なぁ」
「嘘だらけでいいんだ。自分も人も騙して嘘と真実で入り混じってなければ都合のいい納得なんてないものだよ」
納得できた。
しかし、それはいずれ本当の自分が嘘なのか真実なのか分からなくならないか?
「それで自分を見失うと思うだろう。その時は私見つけ出すよ。本当の君の姿を嘘と真実を分離して私だけは本当の君を捉えよう」
そう言って椿は手を差し出す。
「なんて、臭すぎるセリフかな?でも、君が私を利用するのは構わない嘘でも構わない。今一時だけお互いの嘘のために婚約者になってくれないか?」
そう言って彼女は笑う。
自然な笑みでとても綺麗な笑みで。
長い黒髪は風もないのに揺れたような気がする。
「はぁ、分かったよ。全く色気のないお見合いだな」
「もとよりお見合いで色気を求めること自体少ないのではないか?」
「生憎俺はお見合いに詳しくないから基準を知らん」
俺は椿の手を握る。
ふと、懐かしい気分になる。
よくこの手を引いたっけ。
引きこもりなお嬢様だったこいつを。
「ほぉ、廊下で速攻でお見合いが決まったのは嬉しいが、悪いが二人とも今すぐこの家から出てってくれ」
急に部屋から出てきてそんなことを言う俊介。部屋の中では寝てる寧々の姿が見える。
「えーっと突然どうしたんだ?」
「今日ここで私は泊まる予定ではなかったのかい?」
俺たち二人の反応に呑気な奴らだなと俊介はつぶやいて部屋の方を親指を立てて指さす。
「今の暴走状態のあいつのいる家にいたら襲われるぞ」
「…」
…
「随分嬉しそうじゃないか。まぁ、そりゃあ男冥利に尽きる訳だしな」
「絶句してんだよ!つーか、なんで椿は椿で不機嫌なんだよ!」
「そ、それはまぁ一応君の婚約者である訳だしな」
「俺の耳からは騙すとか云々聞こえてきてたんだが」
俺達はふぅと息を吐く。
そして、俊介の言葉を無視して帰る準備を二人でしに行く。
「何つーかやけに似た物同士だな…あれは」
俊介が何か言ってた気がするが聞こえない聞こえない。
そうして俺達は二人でこの家を出るのだった。
**
「さて、充分に離れたな」
椿は家を出てから一時間ほど経ってからようやく口を開く。
「取引の時間だな」
「って、取引って何だよ…」
「簡単に言えば私と君は協力関係にある。私からのお願いは一つ。私の力を記憶を存在をとある時に返して欲しい」
その言葉に俺は首を傾げる。
だが、しかし不思議と何となく分かったような気もする。
もしかすると今までと同じ俊王に
「そして、君のお願いは自由を再び手に入れること」
「よく分かってるな…その為にお前はどうする?」
「そうだな、本条家との戦争いや、革命は私も手伝おう」
俺は考える。
正直、闇はその条件でも簡単に勝てるとは思えない。
だが、彼女はやけに自信満々である。
「悪いが
「まぁ、話を詳しく聞きたまえ」
俺が断ろうとするが彼女はそれを止める。
「私の本当の条件は私がいや、私たちの力を解放後の再封印」
「それがどう関係するんだよ」
「要するに私たち四剣の女神と呼ばれる存在が本当の力を持って戦うと言うことだよ」
「…たち?」
俺の疑問に彼女は笑う。
「そうさっきはカッコつけて取引と言ったが嘘をついた。私は君の協力者だ。そして、君はこれから私含めて四人の少女を誑かして貰わねばならない」
「言い方悪いな!」
「ふふっ、まぁ実際あと一人。その一人の説得のために私は一度、君に返してもらわなければならない」
頭が回らなくなってくる。
いや、実際理解はできてる。
少し異常に思えるくらい彼女の言わんとすることが全部すんなりと入ってくる。
「なら、あとは千那だけか」
「…」
俺がそう言うと椿は黙ってしまう。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。そうだ、千那に私達は勝たなければならない。四剣の女神いや、本来の言葉だと四剣の巫女である私達は」
そうか、あいつに…勝たなければいけないのか…。
「そもそも四剣の女神?巫女?ってなんだ?」
「忘れてるのかい?なら、一つずつ説明していこう」
彼女はそう言って息を吐く。
そして、車の窓を開ける。
「君の俊王の力の基礎を作った物達のことだ。簡単な説明で言うならそうなる。しかし、違う」
「違うのか?あの四つの子剣が力の全てと思ってたんだが」
「まぁ、そう思うのも仕方ない。でも、本当は違う。私達の扱い切れなかった力…器以上に溢れ出てくる力を受け止めるための器であり、私達の絆の証」
そう言って彼女は俺の手を握ってくる。
いきなりのことで少し驚くが彼女の顔を見て落ち着く。
「そして、四剣の女神というものの本当の意味は君の剣となることだ」
「えっと、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ私達は君に使われ戦うのが目的。それが」
四剣の女神もとい四剣の巫女という物だ。
俺は何も言えなくなる。
これは大切なものだ。
彼女は本当に俺の元で生きようとしている。
「なら、なんであっち側に付いた」
「その件は…すまない。私は単純に彼らの真意を知りたかっただけだ。本当の目的を…そして、裏にある物を…」
「まさか、あいつら別の目的があるのか?」
「まだ、断定はできないさ。でも、間違いなく彼らは何かに動かされている。本人達は自分で動いてるつもりでね」
「その裏を知りたいわけか」
「まぁ、私程度じゃ何も見えなかったのだが」
彼女はそう言って微笑む。
そして、車の外の光景を眺める。
「そろそろ着くよ私の別荘にね」
俺もそう言われて窓の外を見る。
その先には一面に広がる海だった。
そして、道のりの先には少し大きな館が見える。
「金持ちか…いや金持ちだったな」
「君の家も金持ちだろう」
**
夏に入りはじめのほんの少しだけジメッとした熱が俺の体を支配する。
よく考えればほぼずっとクーラーの効いた部屋とかにいたし能力で温度調節とか勝手にしてたからこんな感じで熱を感じるのは久しぶりだな。
目の前に広がる蒼い世界を眺めながら俺はそんなことを考える。
照りつける太陽が反射して影のある場所の意味はなく俺は「あっちぃー」とか呟きながらくだらない思考しか茹った頭では考えることができない。
「待たせたな。少々これを着るのに手間取ってな」
そう言って現れるのは水着の姿をした椿だった。
長い黒髪に白い肌、スラっとした手足にスレンダーな肉体。
露出度は少し高めのビキニだが美はあれどそこに色気はなかった。
それは多分、整った細い体とそう変わらない胸のことなのだろ…
ペシっ
「失礼な、まだ中学生。成長期だ」
「なんで、俺の考えがわかった!?」
「いや、胸の方を見ながら納得した表情を見れば分かるさ」
そう言って胸元を隠す椿。
「ま、まぁ私の成長はあまり期待できないのは確かだが…まぁ期待だけは残させてくれ」
そして、視線を外して震えた声でそんなことを言ってた。
なるほどな、今まで望んだ成長をした未来はなかったと見える。
それにしても海か…
「どうせまたあいつらと一緒にいたら楽しかっただろうとか思ってるんだろう?」
「なんでそう考えが読めるんだ」
本当にさっきから俺の想いを見据えるように話しかけてくる。
「さぁてな、それより泳がないかい?」
「よし、競争だな!」
「色気も何もない考えだな君は!!」
え、違うのか?
漫画とかでも泳ぐ=競争と思ってたんだが違うのか…。
「というか、もう少ししっかりと頭を使ってくれ」
そう言って椿は俺の肩を持ち揺らす。
「てか、失礼な!これでも裏では色々と
「考えてないのは見れば分かる」
「なんでわかんだよ!」
仕方ない少しは真面目に考えるか。
「そういえばここって結構広いのに全然人がいないな」
「まぁ、プライベートビーチだからな」
「なるほど金持ちだったからか。それで俺は学校に行かないと行けないんだがそこのところは?」
「大丈夫だ私と同じ学校に通ってもらう。もちろん都立高だとも」
お陰でなんとなく俺の立ち位置はわかった。
要するに完璧に俺は椿の家…
「祖亜家だ」
「そうそう、まぁ、その家完璧に俺は取り込まれるわけだな」
「そういうことだ。因みに言うと私と君は同じ部屋だ。間違いは家公認だ」
「個人的に誰得情報ありがと。んで、この場所は?」
「ツッコミはなしかい?まぁいい。君のいた東京都俊町の中央地区から南に行った場所南地区だ」
「ふーんそんな場所だったのか」
「もしかして自分の住んでる場所の名前を知らなかったのかい…」
「失敬な。俺が仲間と共に住んでたのは東京の聖町だってのは知ってるぞ!」
「聞いた私がバカだったよ」
別に俺は場所を覚えてないわけではない。
聞く気がなくて町とかどうでもよくてって、言い訳はいいか、
「にしても、本条家の管轄地ではあるのか」
「管轄地とはどういう意味だい?」
「今は関係ないと言いたいが自由を手に入れるためにはしとくべきかいや、なんでもない」
俺は口を閉じて顎である場所を指す。
それに椿はチラリと見ると「あぁ」と言って立ち上がる。
「すまないが少々離れる。間違っても勝手にどこかに行かないでくれ」
「行かないから早く対処してこい」
そう促すと彼女は俺の場所から離れる。
その理由はこのビーチに入ってきた集団がいたからだ。
そう言った対処なら本人にさせたほうがややこしいことにならないと踏んで俺は椿に任せる。
「な、なんで君たちがいるんだい?」
「あ、祖亜ちゃん!こんにちは!」
「なんでって前に言ってただろバーベキューをやるってよ」
「…そういえば」
忘れてたと言わんばかりに椿は頭を抱える。
まぁ、本来なら今日はここにくる予定がなかったわけだから、仕方ないこととも言えるだろう。
個人的にはこう言った騒がしい環境は嫌いではない。
そうして彼女が話してると俺と目が合った少女がいた。
「あれ、ツバちゃんあの人誰!?まさか彼氏!」
「いや、ちがっ…違くないが彼は婚約者だ」
「えー婚約者!たしかにカッコいいけど嘘!どっからどう見ても年下くらい」
「まて、君は婚約者という言葉に対して変な偏見を持ってないかい!?」
彼女の声をキッカケにして他の人達も俺に注目始める。
反応は様々で少し居心地の悪い気分になる。
「こんな冴えねー奴が祖亜の婚約者かよ!」
その中でも何人かの男子からの目が痛い。
女子の方からは奇異の目を向けられてどうしろと言うんだか。
「まぁいいか。初めまして祖亜 椿の婚約者になった本条 勇馬と言います」
俺は仕方なく立ち上がり彼らに挨拶をする。一応、今は本条家としているので北条という名字は使わなかった。
反応は様々で
「うん、よろしく」
と心地よく返してくれる者。
「チッ」
舌打ちをして気に食わないオーラを隠そうとしない者。
「う、うん」
返事はするもののどこか微妙そうな表情をする者。
これで一つわかったことがある。
「椿は人気者なんだな」
「当たり前だろ!俺たちの学校では生徒会長をやってて大人達だって頭が上がらないんだぜ!」
「なんであんたが偉そうなのよ!」
どうやらかなり慕われているようだ。
一人の男子生徒が自慢げに言ってて女子に怒られているのを見てて懐かしさを覚えるが今はそれどころではない。
「そういえば学校ってどうなるんだろうな?」
別にどうでもいい事柄だった。
しかし、この戦いが終われば多少なりとも普通の生活という物を送りたい。
その為には学校とは重要なファクターの一つである。
「それの心配はない。君は私の学校に通うことになっている。ただ都立中だから試験などなしで入れる」
「安心してくれその心配はしてない」
「えー、私たちと同じ学校なの!?」
「マジかよまだ小学生かと思ってたぜ!」
「この背で中学生…」
「おいちょっと待て!だれがチビだ!」
チビと言ったやつ覚えたからな。
つーか、全員少なからずチビとか思ってやがったな。
「勇馬くん、君がコンプレックスを持つのも分かる。しかし、私はそんな君でもいいと思っている」
「ありがとよでも、フォローされてもなぜか嬉しくねぇぞ」
「君は君で白状な奴だな」
「否定できねぇな」
俺たちはそう言って笑う。
それを見ていた集団は唖然とした表情をしていた。
「祖亜さんが笑ってる?」
「普段鉄仮面でも付けてるのかってくらいに表情を動かさないのに!?」
それを聞いて俺は椿に冷たい視線を送る。
「ちょっと待ってくれ!別にこれは私が悪いわけではないだろう?」
「いや、もう少し人生楽しめよ」
「…それは…」
彼女は目を逸らす。
ため息が思わず漏れる。
彼女には彼女の何かがある。
それでも彼女の幸せを諦める言い訳にはならない。
だが
「お前がそれでいいのなら俺からは言うことはない」
俺は人のことなんて偉そうに言える人間ではない。
「ありがとう勇馬くん」
だからお礼を言われる立場じゃない。
それでも嬉しく思ってしまうのは俺が単純だからかそれとも…いやなんだっていいか。
「とりあえずどうすんだ?お前の友達だというんだったら追い出すわけには行かないだろう」
「そうだな、悪いが話は後だ。今は私の友を紹介させてくれ」
彼女はそう言って微笑む。
それを見て俺は少しだけほんの少しだけホッとするのだった。
**
電車の音が支配する。
その中にいる一人のフードを被った少女は吊り革に掴まり電車に揺られながらヘッドホンを付けて音楽をずっと聞いていた。
何のこともない平穏で普段通りの人生。
彼女はギターケースを背負っており周りからは奇異の目を向けられる。
(ここ数年…つまらないな)
彼女はそんなことを考えてため息を吐く。
彼女にとって楽しい人生というのは数年前にいた従兄弟の存在と共にいることだった。
しかし、会うことなくなってはや数年。
細かい年数を覚えられるほど暇ではなく、彼女のしてることは本当に目まぐるしく彼女の心を追い詰めていた。
(だからと言って止まるわけにも行かない。私が彼を救うんだ。何もなく迷ってる…お金が有れば彼を守ることができる)
彼女はそう思い何年経つだろうか最低でも三年は思い続けている。
「相変わらずピリピリしてやがるな」
そんな彼女に一人の少年が話しかける。
それは決して目立つ姿をした存在ではなかった。
しかし、この場にいた誰もがその少年に釘付けになる。
その姿、立ち振る舞い。
そう、まさに彼がこの場の主役と言わんばかりに場を支配していた。
「何の用?東条 俊介」
「おいおい、冷たいねぇ。折角勇馬の居場所を教えてやろうと思ったのによ。南条 円華」
円華と呼ばれた少女は口を閉じてじっくりと俊介の様子を見る。
やがて、彼女が何か納得いくとヘッドホンを外して口を開く。
「それで、彼はどこにいるの?」
「そりゃぁ、お前の住処である南地区だよ」
「まさか、彼を利用したの?」
「あぁ、俺たちの目的は簡単だろ?」
「ふざけるな!」
周りの迷惑を考えずに少女は叫ぶ。
周りの乗客が彼女の姿を顔を…それに他の乗客の顔は驚愕に染まる。
「おいあれって…」
「うそ!歌手の円華ちゃん!?」
「あのイケメンと言い合ってるぞ!」
彼女の表情が固まる。
しまったとすぐにフードを被り直す。
「やっぱりお前正体を隠してたのか。今徐々に話題になりつつある人気の若手歌手。六芒 円華」
「あなたには関係ないでしょ」
彼女は目を伏せながらも周りの様子を確認する。
既に携帯をいじり始めている人がおり軽く舌打ちをしたい気分に駆られていた。
「安心しろ、ここで起きたことは誰も他言はさせない。誰も知らないお前という歌手が声を荒げて喧嘩をしそうになったなんてな」
「待って…あなた…何をする気?」
彼女が止める間もなく彼の腕がブレる。
それと共に乗客の意識を刈り取る。
「これでお前のことを誰も覚えちゃいない。目覚めた時には寝過ごしたと慌てながらも夢だと思うだろうさ」
彼の不敵の笑みの中彼女は僅かにホッとする。
それは俊介が乗客に取り返しのつかないことをするのではないかと焦っていたからであり、顛末を見てみれば良しではないにしろまだ、良い方である。
「まぁ、私はもう出る…あなたにこれ以上付き合うつもりはない」
円華がそう言うと丁度電車は停止してドアが開く。
「いいのか?これでお前は勇馬と会うことができない可能性があるんだぞ」
「大丈夫当てはある」
彼女はそれだけ言い残して電車を出るのだった。
一人残った俊介は新しく入ってくる人の中ぽつりと呟く。
「チッ、誰も事の重大さを理解しちゃいねぇ。あれが俺たちの求めてきた『真実』に至ったものだというのによ」
**
千那は南地区のあるビルから勇馬たちの事を眺めていた。
「椿ちゃんが何か企んでるねぇ。まぁ今の僕には関係ないけどさ」
彼女そう言って振り返る。
そこには息を切らして千那に剣を構える華と那奈の姿があった。
「もう、無駄なのにさ何で僕に付き纏うかなぁ」
「それは…千那さんを放っておいたらダメな気がするので」
那奈は千那の問いかけに対して素直に答える。
それに対して千那はため息を吐く。
「私はあなたが理解できない…なんで」
「何でって君たちは本当はわかってるんじゃないの?」
彼女の視線がゾッと冷たくなる。
答えた華は本当は理解している。
しかし、首を振ってその考えを追い出す。
「僕たちの主人は本当に彼なの?」
「あの人だ!少なくとも私は彼を知ってる!」
「それは勘違いじゃないの?僕の知る彼は私達何て興味すらなかった」
華は黙る。
まるで心当たりがあるように唇を噛んで己を騙そうとする。
「何で…何でそんなこと言うの?」
「那奈ちゃんの記憶にはないの?まぁ、過去とかどうでもいいんだけどさ。でも、彼は僕たちを間違いなく見捨てた」
「違う…だって勇馬は…」
那奈は言葉を必至に出そうとする。
しかし、那奈にはなぜか彼女の言葉を否定できない自分がいた。
「まぁ、そんなことは本当にどうだっていいんだけどね。僕はさ今の勇馬が嫌いだ。それだけだよ」
そう言って千那はビルを飛び越えてどこかへ行ってしまう。
「同じ四剣の女神…いや、巫女である私達はどこで道を違えたんだろ」
華はポツリと呟く。
四剣の巫女、それは別に彼女たちにとって本来特別でも何でもないものだった。
しかし、全員が全員同じ存在に一生を捧げる覚悟がある。
それゆえにそんな名乗りを持っていた。
(そう思っていたのは私だけ?)
華だけが焦っていた。
今の現状を嫌がっているのは自分だけなのではという不安にさえ駆られる。
「華…私は分からない彼女の言うことも彼女の背負うものも」
「分かる訳ないじゃん…私達は結局別々の人間なんだから」
華は理解してしまった。
同じものを見てきても結局は分かり合えない。
悔しいけど理解をしてしまった。
認めたくない現実を…
「でも私は…私は見てもらえなくても信じてもらえないくても彼を信じ続ける。だってどんな絶望だってどんなどん底だって彼はどうにかできると思うから」
那奈は何かを言わないように声を押し殺して話す。
それは華としても理解できる。
二人の言葉は理解できる。
でも、決定的に何か足りていなような気がする。
華は胸の内で引っ掛かる何かを認識しながらも黙って考えることしか出来なかった。
**
この夢はきっと俺の記憶ではない。
でも、この光景を俺は知っている。
この苦しみは忘れてはいけないものだ。
「私はいつまでこの木に縛られるのだろうな」
彼女は語る。
黒い髪を風で揺らして枝の上で木の幹をそっと撫でる。
それを聞いている少女は同じように黒髪だが、彼女とは違い巫女風の服を着ておりそれを聞いてため息を吐く。
「私としてもあなたに離れて欲しいのですよ。しかし、人災と言えどあなたがここを大切に思ってるのも事実です。ま、どちらにせよただの陰陽師である私ではあなたをどうすることもできないのが現実です」
「そうか…でも君も充分すごいと思うのだがな」
「従姉妹と比べたらまだまだ」
二人は楽しそうに談笑してる。
そんな光景が崩れ去るなんて誰も思わなかった。
たった一人の存在が人災になることによって二人の運命は掻き乱される。
場面が急に切り替わる。
次に聞こえて来るのは何度も叫び呼ぶ声。
『助けて!助けて!』
『どうか、我々をお救いください』
『誰か…誰か助けてくれないのかよ!神様でも何でもいいお願いだ…何を捨てても賭けても良いだから…だからあいつらを!』
いくつも聞こえて来る救いの声。
とある存在はそれに導かれるように声の元へと行く。
その先に待つ未来は決して良いものでもないのに。
その存在は自分の役目だと言ってその場所へと向かって行ってしまう。
「待ってて今救いを与えてあげるから」
そして、最後に…ある存在は人知を超える力そのものを毛嫌いしてその存在の悉くを滅ぼそうと暴れ回る。
「わたしから全てを奪ったソレが憎い!」
聞こえて来る声の数々は俺の知る記憶のものへと変換されていく。
そして…
「君のおかげで私は生きる意味を知ることができたよ」
「ありがとう…おかげで無駄な争いをする意味が無くなったよ」
「僕の罪を…僕の在り方を教えてくれてありがとう僕はもう傷つけなくて良いんだね」
「っ…ぐすっ…うぅ、もう、ありがとう…あなたのおかげで本当に憎むべきものを知れた…わたしは…」
四人の笑顔が映る。
あぁそうだ。
これが四剣の巫女だ。
彼女達が俺に自信をくれた存在だ。
深い眠りの中、より深い記憶を俺は見ていくのだった。
随分と長く期間が空いてしまい申し訳ありません。
引き続き読んでいる方がそれほどいるとは思えませんが、これからも不定期ながら頑張っていきます。




