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勇馬拉致られる

疾風との戦いから早数日。


どうやら、結構気絶していたらしくて気がつけば休みの日だった。

エネルギー切れの影響で高熱も出てたそうで周りからはかなり心配されていたらしい。


そして、現在。


「あれ?本が無い」


『失われた神話』について書かれた本が無いのだ。

さらにその本を解読した紙も一緒に…。


あそこには人災…いや、正確には原初の頃に俺と関係した人災…人について書かれていた。


要するに火鎚の炎について分かると思ったのだ。


あの時、あの場所…疾風と戦う時には不思議と火鎚の能力…あの炎を知っていたような気がするが今はあの時分かっていたことも理解できなくなっている。


「それで見つかった?」

「いや、無い。悪いな雪菜こんな日に頼んじまって」

「別にいいよ。それよりも」


雪菜は俺の体に触れると溜息を吐く。


「やっぱり無理矢理封印が解かれてる。これは…鏡姉さんと会ったのね」

「あぁ、元気そうだったぞ」

「そっか」


雪菜にとってあの姉二人は同い年ではあるもののしばらく会ってない存在である。


「会いたいのか?」

「うーん、会いたく無いと言えば嘘になるけど今はいいかな。あの姉二人は多分…私の知らない何かを見てると思うし」

「そうか…」


この前の光景。


あれは明らかに今の俺たちの理解を超えた戦いだった。


光の翼


概念の封印


領域の拡張


様々な不可能を目にした。


そして、俺はその一端を行使していたという自覚はある。

しかし、今になってみると使い方が全く分からず、あの二人はその力を自在に操っているように思えた。


「にしても見つからねぇな」

「うーん、どうも無さそうだけど」


雪菜の言葉に俺は頷かないものの納得せざる負えなかった。

現在、俺の部屋にある箪笥などはを全部ひっくり返しており中身を一つ一つ精査している。


それにも関わらずあの本が見つからないというのはやはり無いのだろう。


「後で他の人に聞いてみよ。私はそろそろ見たいドラマがあるから部屋に戻るね」

「あーありがとな雪菜」

「うん、大丈夫。暇だったし」


そう言って雪菜は部屋を出て行く。

俺も起きたら休みだったわけだし体を動かさないとなぁ。


誰か誘って外でも出るかな



**



とは言ったものの…


「何でまた…」


現在、駅の方まで遊びに来ておりそれについて来たのは那奈だけだった。


「久々に出かけるねユウくん」


那奈はそういえばと話しかけてくる。

それはいい。


そこではなく…


その格好だった。


それが周りを注目を集めており俺は頭を抱える。


「どうしたの?そんなに辛そうな顔して」

「いや、何でお前巫女服なんだよ」

「…あー、まぁつい癖で?」

「どういう癖だ」


やってしまったと彼女は笑うが俺としては同行者が目立ち過ぎて落ちつかなくて移動がし辛い。


「着替えたほうがいい?」


心配そうにそう言う那奈に俺は首を振る。

まぁ、最近彼女も前の一件でドタバタしてるらしくて巫女として神社に赴いては仕事をしてるらしい。


休みの日もあまり家にはおらず神社の方におり学校以外では常に巫女服を着てる為、それに慣れてしまっているのだろう。


「まぁ、いいよ。俺としても強制はする気はない」

「ならよかった」


俺たちはそうやって町を歩いてるのだがふと違和感を感じる。


「普段を知らないけどなんか人少なくないか?」

「この前黒服の人達が町中走り回ってたから警戒してるのかな?」


この前の疾風との一件は被害はなかったもののかなりの大ごとになっているみたいで新聞で抗争でもあったのかと囁かれている。


しかし、もう数日前…いやまだとも言えるが1日で終結してるため取り上げられてるのは1日だけであり、そこまで警戒するものではない気もする。


「抗争とか起きたなら普通親とかが外出制限するからね」

「そうなのか?」


それならいいのだが…


何か別のことを忘れてる気がする。


周りを見てみるが歩いてる人はまばらであり駅と考えると落ち着かない。

前に来た時は人が多くて目の前も見えないほどだったのに今は人が少なくて歩いてる道が初めてのことに感じる。


「ユウくんあの服屋とか…」


那奈は気にしてないようで声を上げながら指差して先に進む。

と思ったのだが彼女が止まる。


「急に止まってどうした?」

「いやごめんやっぱりおかしい。この雰囲気…向こうでも感じた」


俺はなんのことか一瞬考える。


そして、思い出す。


敵だらけだった陰陽師のとの戦い。


この場合、敵だらけという状況が一致するだろう。

周りを見るが無関係な人間は多分いない。

さっきからバレないようにチラチラと俺たちの方を観察している。


そして、俺たちが気がついたことに気がつくと全員が一斉に立ち止まり俺たちの方に向く。


何十人という人間の視線に当てられて僅かに体が震える。

今いる誰もが無機質な目をしており恐怖さえ感じる。


そして、その中に一人が口を開く。


「北条 勇馬…いえ、今は本条 勇馬様と呼ぶべきでしょう」


声に覇気は無く淡々としており抑揚がない。

聞いてるだけで気分が悪くなるような話し方である。


「これより私達に着いてきてもらいます」

「なんで、そんなめんどーな」

「それが本条家現当主響鬼様の言葉と言ってもですか?」

「…俺はあの家ともう関係ない筈だ」

「いえ、まだあなたは響鬼様の孫という

「ふざけるな!物として扱って出てっから放置してきたのに今更保護者面してんじゃねぇ!」

「ゆ、勇馬…」


俺がこれまでにないほどに感情を出してるせいか那奈は驚いた様子で俺を見る。

それでも、今の俺は周りの目なんて気にするなんてできない。


「あのババァに伝えな…俺はあんたの道具じゃねぇって」

「いえ、その必要はないかと」


俺は立ち去ろうとした瞬間、怖気が走る。

咄嗟に振り向く。


俺と話していた相手が小刀を取り出して振りかぶってきている。

先程まで分かりづらかった相手の実力がその殺気によって分かってくる。


エネルギー総量自体は多くない。


しかし、よく練り込まれたエネルギーを使うに値する回路。

外からわからない凝縮された密度のある肉体。


間違いなく普通じゃない。


今まで同じ境遇やシャルロットなど以外に同レベルの存在を見たことなかった。


しかし目の前にいる存在は間違いなく俺達に届き得る力を持っている。


至る可能性ではない。


今ここで戦えば間違いなく俺かこいつかどっちかが死ぬ。

それだけに実力差が無い。


何よりも前回の一件、疾風との戦いの時に治ったと思われた技法や固有能力と言ったエネルギーを利用した際に体が傷つく症状は治ってないと思われる。


そして、それが何を意味してるのかと言うと。


目に見える。

相手の動きが把握できる。

別に遅くはない。


しかし、だからと言って普通と言ったら速い。


だが、見える相手の一挙一動が。


それでも体が追いつかない。

体が動かない。


目の前に迫ってくる刃。


内心俺は失敗したと連呼し続ける。


普段なら避けられる距離。


しかし、今の俺には避けられない距離。


故に覚悟を決める。


歯を食いしばる。


それと共に起きる激痛は圧倒的に高い認識能力によって何倍にも長く続いてるように感じる。

今すぐにやめたい。


すぐに楽になりたい。


それでもここでやられる訳には…


「いかない!」


その瞬間、すんなりと動けた。


別に固有能力を使ったわけでもない。


ただ、有り余るエネルギーを僅かに強化に回しただけなのにまるで今までが効率が悪かったと言わんばかりに肉体の性能が大きく引き上げられる。


「っな!」

「あれ、」


故に俺はいつの間にか約50メートル先まで動いていた。


いつの間にこんなに離れたんだ。


「っっ!」


能力を使った瞬間と同じ激痛が走る。


しかし、さっきと違うのは血が滲み出てくる。


「ゆ、ゆう君!大丈夫?」


すぐに駆けつけてくれる那奈。

それと同時に敵も…いや、奴らは動き出す。


100人はいる人数が一斉に動き出す。


那奈は戦おうとするが俺はそれを止めろと手で制する。


今、ボロボロなのに何してんだと自分を叱責する思いもある。

しかし、今の俺たちにはこいつらを倒せはしない。


例え那奈が全力で戦ったとしても


この戦いは勝てても…


俺達は負けを見ることになる。


「ゆう君!でも…」

「大丈夫…簡単な話だから」


俺はもう一度ゆっくり深呼吸をする様に能力を使おうとする。


再び走る激痛と先ほどと同じように血が沸騰するかのように吹き出す。


しかし、それとは引き換えに自然と動く。


次の瞬間には目の前には先程話しかけてきた存在しか立っていなかった。


「っがぁ!」


それと同時に来る痛み。

俺は耐えきれずに声を上げる。


「ば、馬鹿な」

「おかしいか?」


相手の声に俺はわざわざ反応する。


「おかしいだろうなお前達の調べなら俺は今は無力な人間だもんな…たしかに今いくら能力を使おうとしても普段の100分の1にも満たないエネルギーしか出ない。だが、その気になれば多少でも強引に…」


意識が薄くなる。

視界がブレる。

先程まで認識していた対象が消える。


しまった!


くそっ、血が足りなくなってきてやがる。


どこだどこに…


その瞬間不思議と分かった。


目で追った訳でもなく第六感とかある訳でもない。

自然と踏み出す足が危険から遠ざけてくれる。


ブォン!


と風を切る音が僅かに掠める。


「っぶね」


僅かに声が出る。

俺は少しでもある意識を全力で使い今の状況の把握に努める。


相手は俺の後ろから攻撃してきており、それを見た那奈が臨戦態勢になっている。


「馬鹿やろー!手を出すな!那奈!」

「で、でも…」


俺は那奈を睨みつける。


気づいてくれ。


本当なら今説明したい。

しかし、相手がそれを許してくれない。


意識が遠のく中でも那奈を見ていても警戒は怠っていない。

一挙一動一挙一動を見逃さない。


それでも避けきれない。


体が傷付く。


歯を食いしばる。


俺の意思とは反対に心と体が折れようとしていることが分かる。

ダメだと分かっている。


ここで俺が俺達が逃げなきゃいけないことは。


それにはここで折れる訳にはいかないと言うことも。


それでも勝ち目ない戦いと今まで以上の苦境に本来存在した自分の弱い部分が見え始めている。


僅かにそれを隠せているのはここに那奈が…




守りたい存在がいるから


「どうやら、考え方を変える必要がありそうですね」


相手はそんなこと言って俺とは別の方向に行く。


見逃された?


いや違う。


俺は気付いた時には走り始めていた。

お願いだ逃げてくれ!


俺を置いていってくれ。


お前が走れば逃げ切れる。

俺はともかくお前なら間違いなく。


「…え?」


那奈もかなり実力と危機管理能力はあり気づく。

しかし、相手が悪すぎる。


もう、手遅れのタイミングだ。


手を伸ばしても届かない。


いくら走っても届かない。


さっきみたいに自然に力が使えるような感覚はない。



「また…なのか?」




何が『また』なのだろう。


分からない。


分からない分からない。



でもハッキリと分かること。


大切なものが一つ失われる。

多分、大丈夫。


大丈夫だ。


しかし、それでもそれでも…本当の死ではなくてもこれも一つ生の…喪失だ。


例え転生するとしても…例え特殊な環境の存在だとしても…間違いなく一つの死なのだ。


嘘つき。


何故かその言葉埋め尽くされる。


しかし、その言葉の意味を俺は知らない。

ただひたすらひたすらにゆっくりに感じる世界で手を伸ばし続ける。


救えない。


助けれない。












嫌だ。


「お願いだ…お前しかいない」


時間がない。


不可能だ。



誰かもわからない。



でも間違いなく俺は誰かに頼ろうとしていた。


そして、次の瞬間は…俺の望んでいたであろう展開ではなかった。


しかし、厳しい現実という訳でもなかった。


相手の前には気がつけば巨大な2メートル近くの大剣が刺さっていた。


それによって相手の動きは止まる。


そして、現れたのは長い銀髪と小さい体躯を持つ少女だった。


「華…」

「ん、大丈夫二人とも」


華はそう言うと相手の方に向き直る。


「華!戦うな!」

「ん、分かってる。この人は…厄介」


俺の言葉を理解したのか華は大剣に触れて消す。


「でも、私の友と大切な人を傷つけた罰は受けてもらう」


その瞬間、認識できなかった。

いや、違う。


見えなかったとかじゃない。


まるで途中を切り取ったかのように気がつけば彼女は拳を握っていた。


相手はそれを理解できない。


だが、しかしその異常性を出したのは構える時だけ。


要するに相手からすれば認識さえできればなんとかなると言うことだ。


故に防がれる。


だが、その防ぎも無駄に終わる。


「流星火焔撃」


炎が辺りを支配する。


これは火鎚と似たように見える。

しかし、違う。


これは膨張だ。


火鎚のような燃やすこと炎に特化したのに対して華の力は破壊に特化したと言っても過言ではない。


その膨張したエネルギーを相手にぶつける。


全てが吹き飛ぶ。



まるで嵐でも訪れたかのようにアスファルトを抉り相手を吹き飛ばす。


俺は過去に何度か彼女の技の模倣はしたことはある。

しかし、俺はその本質。


膨張と破壊だけはどうしても模倣しきれていなかった。


その上に彼女の技は熱量も大抵の相手なら消し炭になるだろう。


しかし、それはまともな相手ならの話。


「やはり、情報がない相手だと多少遅れは取りますね」


涼しげな表情で相手は俺たちの前に再び立ちはだかる。

逃げようにも先程からどんどんと援軍が来てるようで穴がない。


「いい加減…諦めて大人しく着いてきてください」

「…」


俺は何も言わない。


こいつらに勝てる見込みは…



現在疾風は別のことで動けない。


雪菜達だけでは戦力が不足している。


「分かっているのでしょう。勇馬様いえ、あなた方はもうすでに敗北していると言う事実に」

「…」

「ゆう君!あんなのハッタリだよ!」

「勇馬、惑わされちゃ…」

「いや、いい。多分そう言うことなんだろうな」


俺は僅かに笑う。


なるほどようやく繋がってきた。

今日はやけに全員静かだなと思ったらそう言うことか。


「悪いな俺の不手際の結果に付き合わせちまって」


今この戦力に勝つことは俺達にはできない。

そして、その戦力の大半がここに来てるわけではない。


人数が少し少ないと思えばこう言うことだ。


ホント、自分の察しの悪さが嫌になる。

考えれば分かることだろ。


俺がブラついている間に雪菜達の方でも襲撃があったのだろう。

そして、俺が危ないと分かって華がこっちに来た。


「受け入れるよ…負けを認める」


俺はそう言った。


間違いなくはっきりと。


負けを認めた。


「賢明な判断です」

「ゆ、ゆう君!」

「勇馬!まだ…」


俺は二人の声を無視して歩き始める。


「ダメ!今の本条家を知ってるの!?分かってるの!?そこに戻れば!まともなものなんてない!特に今なんの力も無いゆう君が行けば…」

「…そう…あそこはあの場所は」

「そう…だな。でも大丈夫だそんな裏なんて見ることはないからさ」


そう、俺が呼ばれた理由は当主とかそんな話では無い。


親が残した遺産。


そして、俺の利用法。


奴らの目的はそれだ。


多分、ひょっとしたら思い出す前のあの日からこうなることは分かっていたのかもな…。


俺はそう言ってあいつらに着いて行く。




**




何の面白味もなく景色が流れて行く。


特に不自由もなくむしろ快適と呼べるような状況で俺は座っていた。


多少の揺れは落ち着きを取り戻させてくれて俺は振り返る。


軽く別れを告げて俺は連行されてる訳だがやけに高そうな車に乗せられて快適に運ばれて行っている。


まるで偉い人にでもなったような快適さに多少の感動はある。


「やけに簡単に引きましたね」

「そりゃぁ勝ち目がない戦いなんてできないからな」


目の前に座る女の人。

先程まで俺達と戦った代表の人が偶に話しかけてくる。


「そうですか。私の知る限りだとかなり交戦的だと思っていたのですが…」

「それも間違いではない。実際考えるより動けだからな」


そんなに利口な人間ではない俺は動いてから考えてしまう。

その結果、今の状況と言えるのだろうが…


「んで、今どこに向かっているんだ?本家ではないと思うが…」

「そうですね。その答えを言う前にまず貴方の知ることを全て話してください。本条家のことで」

「…分かったよ。どうやら、ここは逃げ場なしの尋問部屋みたいだからな」


車の中…逃げようと思えばできる。

しかし、俺がここで出ればその先に待つのは彼女達と俺達の戦争だ。


それだけは避けなければならない。


「まず、基本的なことだと俺の元いた家…北条は本条家の分家の一つ。そして、分家は北条以外に西条、南条、東条の三つがある」

「はい、また西条は当主権利が現在薄く、北条、南条の家が今当主権利が高いと言うのも分かっているでしょう」

「…まぁ、北条で生まれれば嫌でも知ることだからな」


そう、俺の言えば別に貧乏とかではなく、金持ちだった。

しかし、親父達は駆け落ちの末の結婚だった故に一般的な暮らしで止まっていたが…


「本条家はその時の子供に継承することも多いが条件次第では他の家を当主とすることが多い。その条件の一つとしてこれだな」


俺の手には何もない。

しかし、相手は簡単に理解してくれる。


「はい、当主の条件の一つ彼らが残した最大の遺産。貴方の肉体が持つ不死性です」

「昔の俺はそれを理解してなかった…親父が事故に遭った時…俺はたしかに親父と一緒にいた」


あの頃は俺の中にまだ固有能力は無く無意識で使っていたとしてもほぼほぼ確定で死んでいたはずだ。


だが、その不死性は多分俺の力ではない。


「さて、聞きたいことは聞けました。それでは降りましょうか」


その言葉と共に怖気が走る。

これは…かなり非常識だな。


強制的に特定の場所に引っ張る。

これは空間などを超えており、言ってしまえば転移能力の行使を行ったのだ。


多分、事前準備などがあり行っているのだろうがそれでも転移なんてものを実現するのはそれだけ難しいものであり驚くべきことである。


俺は降りて行く女性を見て一つ聞きたいことを思い出す。


「一つ聞くが…あんたらが本条家の『闇』と呼ばれるものか?」


何故だかこの車から出たら聞けないような気がした。

多分、この車から降りれば彼女はここからいなくなるだろう。

なら、今しかない。


「よく調べてますね。答えは簡潔です。はい…と」


それと共に彼女は消えた。

いや、正確にはどこかへ向かって行ってしまった。


俺はそれに続いて車から降りて行く。


その先に広がる光景は普通に生きていればまず見ることなんてないだろう。


綺麗な噴水がある広場。


憩いの場として使うであろう池の中心にある孤島へと続く橋。


神殿と見紛うような和風の大きな建物へと長く長い道のり。


その過程に和と洋が混ざり合った世界が続いて行く。


気がつけば俺の後ろにあるはずの車は無く前へ進むことを余儀なくされた。

いや、別に帰ると言う選択肢がないわけではない。


「ただ、その選択は賢明とは言い難いのが残念だな」


嫌な気分になりながらも俺は前へ進む。

別にここに来るのが初めてというわけではない。


だから案内が来ないのだろう。


そうして、俺の知る限りの道を少しずつ進んでいくと屋敷が見える。

これと言って大きいとも言えないが決して小さいとも言えない。


「相変わらず悪趣味な家だ」


俺はそう言って家の門を叩く。


すると、間を置かずに門が開き一人の執事の少年が出てくる。


「お帰りなさいませ勇馬様」

「何やってんだお前」

「?」


俺の言葉に不思議そうな表情で首を傾げる。


「誤魔化すなよ。東条家の一人息子が名前を変えて近づいてきていた事でさえ驚いていたのに次は執事の真似事か?」

「…」


執事の少年は黙って俺の目を見る。

多分ハッタリとかではないかと見てるのだろう。


「いつからお気付きに?」

「最初から…と見栄を張りたいが実際、この前お前が影武者に授業を受けさせた時だよ東条 俊介いや、この場合は井吹 俊介と呼んだ方が良いか?」

「そうか俺の監視はバレてたか」


彼は俺の言葉に対してやけに嬉しそうに返してくる。

そもそもあの日感じた嘘のなさというのは彼が本当の伊吹 俊介だったからだ。

しかし、多分気付かせるようにわざと名前の漢字まで変えてやがったのはちょっとイラッときたがな。


お陰で調べる時、中々ヒットしなくて四苦八苦した覚えがある。


「それで響鬼のババァは?」

「あの人にババァとか言うのはお前だけだよ。あの人なら来てないよ。俺に世話を任せると命じるだけでどっか行っちまったよ」

「っち、前回と同じか」


昔も俺を預かった時も召使いとかに任せて本家の方に引きこもっていた。


「まぁ、いい。それで俺は何を望まれてここに連れてこられたんだ?概ね予想はついてるが」

「当然、見合いだろ」

「やっぱりか」


ため息を吐いてしまう。

予想通りの答えに俺はうんざりする。


「どことだ?政治家か?成金か?それとも外国か?石油王か?」

「残念ながら由緒正しい家みたいだね」

「これまた、手の回しづらいところを」


仮にも絶対悪という巨大組織に俺は所属してる為上手くすれば難を逃れられるとは思ったが厳しいところが来てしまった。


由緒正しい家は簡単な脅しや金は通じ辛い。


要するに何かない限り俺はお見合いいや、婿入りさせられるわけだ。


「もし、俺が当主になればお流れになる?」

「まぁ、なるだろうな。でも、それをするなら西条、東条、南条のどこかの家と婚約しないと無理だぞ」

「一応、北条家の長男だが…」

「そうでもしないと現当主候補は落とせないってことだ」


たしかに直近では4家がしっかりと本条家としての機能を果たしてない。

故に4家をうまく繋ぎ止める架け橋にでもならない限り当主は現当主候補が一番真っ当か。


「そこでビックニュースだ。西条家のお嬢様が今ここに来てるぞ」

「要らん情報ありがとさん。こちとらこのめんどーな家の当主はごめんだ」


そう言って俺は家の奥へと入っていこうとするが


「めんどーとか以前に私はその当主に近い立場というものになりたいのよね勇馬君」

「…うわっ」

「って人の顔見るなりうわって何なの!訴えるわよ!」


俺の前に立ちはだかる少女がいた。

一応、親戚とかの付き合いでたまに会う少女、西条 寧々である。

正直、南条の従妹の方が印象が良すぎてうっかり本音が出た。


こういうところはまだまだ子供ということか…いつまで経っても治る気はしないがな。


「まぁ、いいや。それなら現在の当主候補に行け。喜んで嫁として貰ってくれるぞ」

「嫌よ。私はあんな人間の屑とは添い遂げたくなのよ。それに私は貴方ならこの腐り切った家をどうにかしてくれると思うのよ」

「ご期待に添えず悪いな。俺はどうにかする気もなければお前と添い遂げる気もない」

「そう、まぁいいわ。ただ、ちょっとムカつくけど」


最近じゃ曖昧になってきている前世とかの記憶を思い出す前の自分の記憶の中では彼女はたしかによく求婚されったっけなぁ。


「そうだ、一つ聞いていいかしら?」

「なんだ?」

「どうしてあの日、私たちの前から去ったの」


その疑問に俺は答えることはできない。

彼女達にとっては何も変わらない北条 勇馬なのだろう。


しかし、今の俺は俺という勇馬という別の存在なのだ。


故に過去の自分の行動は知っていても自分の思いなんて分からない。


「悪いがそれに答える事はできない。ただ、この家にいるのは嫌だっただけなのかもしれない」


俺はそう言って先に行く。

止める声が聞こえるが俺はそれを無視して歩いていく。


「そうだ、あいつら大丈夫かな。最後に頼んだ事ちゃんと伝わってるかな」


あとは火鎚に任せたって…


**



「あの男はいつも何でこう自分勝手なんだ!つーか、華は?」

「えーっと、追いかけるって言ってどっか行っちゃった」


火鎚は頭を抱えていた。

戦力の要となる華はいないし目の前にいる那奈も彼女が作った分身…要するに端末でしかない。


「それで俺に任せるってどういう事だ?」

「えーっとうーん、なんか人災関連でとか言ってたかな?」

「んな、曖昧な」

「てことで私の方も…」

「ちょっと待て!ってもう端末を切りやがった」


火鎚は一人、部屋で悩む。


正直この状況で頼りになるのはジャックや静育、疾風なのだが、彼らは彼らで忙しそうである。


まぁ、静育はなんか文化祭準備とかで引き止められて最近帰れてないし、疾風は前回の一件から何故か俺達から一歩引いている。


となるとジャックなのだが…


「もしもし、ジャック」

「おー、火鎚かぁ悪いな今日も帰れそうに無い」

「理由は」

「この町に設置された端末が多すぎる」


と言った感じで怪しいところを一通り調査している。


「すまないな、それで進展はあったのか?」

「ふむ、今回俺たちに仕掛けてきた闇って奴らはこの端末を利用してるっぽいな。そして、その中で何か別のが混ざってる」

「分かった。引き続き頼む。それで鈴利は?」

「あの人は未だに探してるみたいだ」

「過去の遺物か」


過去の遺物。


それは勇馬が所持してる失われた神話って名前の本と同じで出自不明だが、この世界外で起きた出来事やこの世界が生まれる前の記録が残ってるもの。


彼女がそれを探す理由は知らないが彼女曰く、「原初は私達の最初、でも話が上手すぎるのよ。ひょっとしたらもっと昔があったんじゃないの?」だそうだ。


あくまで過去は過去。


たしかに火鎚達は前世という括りから繋がってるがそれが信頼に繋がってるだけであり今とは関係ないと火鎚はは個人的には思っている。


「まぁ、なんでもいい。何かあれば連絡をくれ」


そう言って火鎚は電話を切る。


「全く、残されたものこれだけでどうしろと」


ため息を吐いて机にしまってある資料を取り出す。

それは勇馬が個人的に集めていた資料の集まりだった。


(雪菜に聞いても知らないという資料もあるって事は個人でやっていたな)


そこにある内容のほぼ全ては本条家についてだった。


本条家の裏について書かれている。


南条家は分家が本当の姿であり、人体実験などを繰り返しキメラなどを作ってるのが何度も確認されている。


西条家は最も当主への関心が高く上の方では本条家と裏でかなり協力してる。


東条家はバランスを保つ形となるが外の家との関わりが深く、この家は単体なら危険はないが裏の顔があまり分かっていない。


北条家、かの家は最も残虐であり反逆者を殺す事は厭わないのが多い。

しかし、あくまでそれは本当に隠れた裏であり一世代に一人現れるらしい。


などと書かれており火鎚は頭を抱える。


「これは他の奴らに見せられる資料じゃないな」


火鎚はそう言って窓の外を見る。

庭を見れば戦闘跡が残っており、自然と力が入る。


「勝てなかった」


火鎚は強くなった自信はあった。しかし、闇と呼ばれた存在はそれだけに強かった。

俺たちを研究し尽くした動きと圧倒的な力。


(正直、俺たちの前世から引き継いだ力という不正じみたものが無ければ確実に全滅していた)


絶望するような気持ちを火鎚は押し殺して再び資料に目を落とす。


「…なんだこれ…噂の域を出ないようなものまであるのか」


『本条家は不死の一家!?』

『本条家に潜む影!真っ黒な二つの人影の正体は幽霊か!?』

『本条家は世界を暗躍する噂の真実に迫る!!』


みたいなゴシップ記事まである。


「火のないところに煙は立たないか。帰ってこいよ。お前はあいつの…」


火鎚は言葉に詰まる。

だが、すぐに笑って言い直す。


「お前がいないとつまらないんだ。帰ってきてくれよ」



**



俺は部屋で寝ようとしたら、俊介が気がつけば部屋にいた。


「よっ、これからの予定について話に来た」

「従わないから帰っていいぞ」

「そうはいかん」


俺は正直面倒に思う。

第一、何で俺がこんな目に…と、不平不満を言える立場ではない。


「どうせ明日に婚約者となるのがこの家に来る。そして、多少顔合わせ含めてしばらくここに滞在した後、俺を連れて家に戻るとかじゃないのか?」

「…つまらん正解だ」

「一体何を求めてんだ」

「戸惑う姿」

「目を輝かせて言うな」


正直、こいつのノリはほんの少し安心する。

不思議と家にいる気分を感じるからだ。


「従者としてお前を連れて行くのは?」

「別にいいがその場合はお目付役と呼ばないか?」

「どちらでもいい」


彼は俺に対して疑いの目を向ける。

まぁ、当然かここまで前向きに考えるのは信じられないだろうし。


「正直に言うが勇馬。お前がもし敵対するのなら容赦なく闇はお前を殺しにくる。そして、俺もだ」

「忠告されなくても分かってる」


だから、こーゆーめんどーな釘の刺し方もしてくる。

まぁ、多分こいつも俺をどうにかするのは嫌なんだろうな。


「それで寧々はいつまでここにいるつもりだ?」

「そりゃぁ、お前が連れてかれるまでだが?」

「要するにあのお嬢さんは俺を本気で籠絡する気かよ」

「よかったな婚約者、求婚者とモテモテだな!」

「楽しんでるだろ」

「もち」


イラっとするがまぁいい。

正直、今の俺がどうすることもできないし。

どうしたところでなる様にしかならない。


「もう、俺は寝る。明日から疲れそうだからな」

「そっか、じゃおやすみ」


そう言って俊介は出ていき、俺は眠るのだった。



**



「おいおい、何だよこれ…」


夜のとある家で一人の男が呟く。

別にここは男の自宅であり、初めて入るわけでもない。


なのに男は絶句していた。


「言った通りだが?」


もう一人男の声がする。

その男は壁をすり抜けて男の元へと来ていた。


「本当に貴様はこの家を変えるつもりなのか」

「あぁ、本当だとも。でなければわざわざあんたの元に戻ってきて宣戦布告なんてしないよ」


男は一筋の汗を流す。その言葉の真意を理解したからに他ならない。


「だが、今俺を殺したところで何も変わらないぞ」

「何いってんだ?お前は当主だ殺す価値はある。まぁ家族の心配しないあたり表の家とそっくりだな」


男はその言葉に怯む。


「なんてな、あんたには生きてもらわないと困る。正式に俺を当主にしてもらうためにもな」

「待て」


そう言って去って行く存在。それを男は引き止める。


「しん…いや、紀伊羅 静域よ。静育の方は元気か?」


その時、初めて恐怖の感情がなく純粋な思いで見つめていた。


「心配するくらいなら捨てるなよ俺たちを」


そ言って静域は先ほどと同じように壁を抜けて去って行くのだった。


「全く、脅さなくてもお前を候補に入れてたよ。例えどこの誰であってもお前は間違いなく俺の息子なんだからな」


そんな風に笑う彼に恐怖心は無く自然な表情で笑っていた。


「変えられるものなら変えてみろ。ありとあらゆる苦難がこの先に待ち受けているぞ。息子よ」


やけに楽しそうに立ち上がって仕事に取り掛かる男だったが、疾風に荒らされた部屋を後改めて見て軽く嘆いたのはまた別の話。



**



「お嬢様!正当後継者としてあまり勝手に出歩かれては…」

「別にいいであろう。私は別にやましいことしてないのだからな。なら、私のお目付役としてついて行くかい?」


一人の少女はとある名家の一人として堂々とした様子で家を出ようとしていた。

それを止めようと一人の老執事が後方から話していた。


「そういう問題ではありません、あなたはこの家の…」

「分かってるさ。というか姉がいるのだから私に何かあっても問題ないだろう?」

「ですから、あなたは」

「あー、うるさい。全く分かっていると言ってるだろう。姉は正当公家者としての条件を満たせていない」


彼女はというか祖亜そあ 椿は家を出ると共にうんざりした様子でそう言って大きなため息を溢す。

その様子を見て執事も諦めたようで渋々と後ろからついて行く。


「お疲れでしたらお車を

「それはいい」


椿は呆れたように歩いて行く。

向かう先は孤児の集められている場所。


「あ、椿ねーちゃんだ」


そう言って椿の元に子供が集まってくる。


「あー、もう一気に集まってこない。私はあくまで代理だ。あまり気をかけるつもりはない」


椿はそう言って孤児達の家に入っていく。

中にはもうその家の主人はおらず、子供達が何人も占拠した子供の王国だった。


しかし、教育が良かったのかそこまで汚れたりしておらず椿はほっとため息を吐く。


(気を掛けるつもりはないとおっしゃっておりましたが毎日こうも通い詰めて何を言ってらっしゃるのだか)

「従者が余計なことを考える必要はないだろう?」

「っっ!」


執事は椿に考えを読まれて完全に黙って何も考えないようにする。

彼は知っていた。

彼女が人の心情を悟ることができることを。しかし、わかっていても彼は彼女のその力を侮っていた。


「そもそも、君は私が出歩くこと自体嫌なのだろう。まぁ君の純粋の心配などで気にかけてくれてるからこそ私は君を信用してる多少の不粋な考えくらいは見逃すがあまり気を削ぐのは控えてくれ」

「申し訳ありません」

「謝罪はいらない。掃除などをいつものように任せる」


彼女はそう言って笑うと台所の方へと行ってしまう。少しすると包丁の音や水の音が聞こえてくる。


執事の男は言われた通りに掃除を始めるのだった。



そうして、子供達の世話が終わり夜の10時頃。


「ふぅ、今日もこれで終わりと」

「お疲れ様です。お嬢様」

「あなたの方が疲れているだろう?私は別に料理作って寝かしつけただけ」


彼女は気取らずそう言う。


「お嬢様、報告が遅れましたが縁談が届いております」

「またか…次はいつだ?」

「明日でございます」

「…そうまでして私の婚約者を決めたいのかあの親父は」

「言葉遣いが乱れております。しかし、今回の家は世界でも影響力の強い家。どうしても推し進めたいのでしょう」

「どこの家だそんな作り話のようなのは」

「本条家」


静寂が訪れる。

彼女はそれを聞いてため息を吐く。


「そうか、なら行かないとな。あの家は面倒だからな」


彼女はそう言って立ち上がる。


「お嬢様それでは

「別にお見合いを成立させるわけではないさ。それとお前はここで待っていろ。しばらく来れそうにないからな」


椿はそう言って家を出て行くのだった。

一人置いてかれた執事は一人小さな声で「わかりました」と言いその部屋から動くことはないのだった。



**勇馬side



朝になり俺はボヤけた景色をボーッと眺めていた。


「おはよう。意外と朝には弱いのね」


この声は寧々か。

声の方向からしてドアの方。


「朝っぱらから男の部屋に来るもんじゃねぇよ」

「へぇ、それは来たら何かするんだ」

「…はぁ、しねぇよ」

「それは私に魅力がないってこと?」

「別にないわけではないだろ」


実際彼女は可愛い。

でも、俺自身彼女に興味を抱いていない。


路頭の石ころみたいに感じてさえいる。


まぁ、言い方が悪いのだけどな。


「お二人さん仲良いね!俺は邪魔か?」

「そうだな、窓からこんにちはしなければ邪魔じゃないはずだぞ俊介」

「ありゃ、手厳しい」

「てか、ここ三階よねどうやって窓から」

「「そんなの普通だろ?」」

「あれ、私が変なの!ねぇ、私普通のこと言ったよね!?」


寧々の反応に俺と俊介は顔を見合わせて首を傾げる。


「あー、分かったわ。私はアウェーなのね」


なんか、諦めたようだけどまぁいいか。

こんなやり取りで俺は少し目が覚めてきてベッドから降りる。


「…あれ、誰かこっちに来てるけどもうお見合いするのか?」

「ん?まだの筈だが」

「それなら私は帰らないといけないのだけど」


なら、別の人間か。

てか、今勝手に家に上がって来ているしうちの家の関係者か?


そう思ってのんびりと3人で話してるとその者は俺の部屋まで来ていた。


「久しいな!俺の弟よ」


そう言ってドアを開け放ったのは本条家次期当主とされる男。


本条 天馬


だった。

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