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疾風の領域

**勇馬side


「今日も付き合ってもらって悪いな。まだ、病み上がりみたいなものなのに」


俺はいつもの日課のように平日の学校をサボって疾風が所持している訓練場で火鎚と模擬戦をしていた。


「別に良いさ。俺も永炎を使いこなすに手間取ってたしな」

「やっぱり火鎚はすげぇよ。俺はまだまだだ」


火鎚は次のステップに行ってる中俺は未だに少し昔の場所を足踏みしている。


「いや、そうでも無いだろ?お前だってエネルギー総量は変わってなさそうだが、質というか纏い方が前より良くなってないか?」

「そうか?たしかに前と比べると限界突破使用時の自傷は小さくなったけど誤差の範囲だと思うんだがな」


自嘲気味にそう言って確認するがやはり自分が変わったところはそうそう無いように見える。

そうしてると、ふと時計が目に映る。


位置的にもこの部屋の時計は結構目につく位置であり、おそらく訓練などで人が集まるときに時間管理をしやすくするためだろう。


「そろそろ学校に戻るか、昼休みにもなるしよ」

「もう、そんな時間か。今日は六限目に英語があるからサボったら後が怖そうだな」

「たしかにジャックは普段は優しいけど時折めんどーなほど小うるさいからなぁ」


そうして、俺と火鎚は軽く体を伸ばしていざ帰ろうとした。


「ゴボッゴボッ…すまない火鎚…最近どうも咽せるなぁ」

「いいよ、少しくらい待って…おい勇馬」

「うん?どうした」


俺はティッシュを取り出しながら火鎚を見るが驚いた表情で俺の手に指を差していた。

なんか俺の手に付いてるのか?


チラリと見る。


赤い何かが映る。


「…」


とりあえずティッシュで拭き取る。


「んで、どうしたんだ?」

「おい、今吐血してたことを自然と無かったことにするなよ」


やはり今のは世に言う吐血と言うやつか。


「うーん、でも吐血する理由が思いつかないな」

「ストレスは…無さそうだなぁ」

「おい、そこ!すぐ否定するなよ!俺だって…俺だってな…俺…俺だ…」

「おい、そこで詰まるなよ!てか、ホントにガチ目にストレスフリーかお前は!」

「そうみたい?」


俺が肯定すると何故かとても呆れられるようなため息を吐かれる。


解せない。


「となると一度、静域の方に診断に行った方が…」

「静域ならいないぞ」


火鎚が提案しようとした時、疾風が話を遮ってくる。

どうやら、ずっと前から見ていたようだ。


「あの人…いつもどこで何してるのだろうか?」

「勇馬疑問は分かるが…今回は判明している」

「珍しいな静域動向を把握できるなんてな。俺的には放浪癖が凄い医者としか思えなかったから意外だ」

「火鎚の中の静域についてよくわかった。まぁ、俺の中でも同じ認識だが、あいつ今、あいつのいるべき本来の家に行っている」

「「家?」」


俺と火鎚が首を捻る。

あの人って捨て子じゃないの?

てか、家って?どゆこと?


などと俺たちの疑問が尽きないことを疾風は分かってるのか分かってないのか俺達のセリフを無視しつつ話を進める。


「今回の件…要するに刃月が光を克服できた一件で一先ず自分のことをやってくるそうだ」

「刃月の一件?光の克服?そういえば今日の朝から刃月を見かけてないな」

「あー、昨日の夜に刃月と俺がバッタリ出くわしてな…」


そうして火鎚に説明される。

どうやら、家の光が大丈夫になったようだ。


多少は弱いままだが一般的のレベルにまで克服したようで日傘さえ忘れなければ普通に陽の下で活動ができることを確認したらしい。


「まぁ、その刃月関係を一通り終わらせてつい1時間前ほどに家関係をどうにかしてくると言ってどっか行った」

「なるほど、よく分からんな」

「…勇馬。まぁ、いいか。あれ?それってさっきまで刃月もここにいたのか?」

「もう学校に行ってるがいたぞ。お前達と違ってサボらない辺り偉いよなぁ」


俺と火鎚は目を逸らす。

下手な口笛を吹きながら。


「まぁ、一応俺も診断はできるが…というかお前の症状については何となく分かるぞ」

「ほ、ホントか!?疾風」

「あぁ、ただ治すにはちょっとこの薬を飲んでくれ」


そう言って渡される明らかにやばそうな刺激臭を放つ透明な液体だったを


え?これって飲んで平気なのか?


まぁ、良薬は口にがしとも言ったはずだし…


一応、確認しよか。


最近なとなく使えるようになった目を使う。

僅かにものの情報を見ることや人の波長などと言った物を認識できるのだがいまいち成功率が高くない。


だが、今回は一発で成功。


「なぁ、疾風…これ俺達でも軽く死ねる毒じゃね?」

「そうだが?どうかしたのか」

「いやいやいや…おかしいよな?な?」

「てか、俺たちって結構毒物に耐性はあるはずだけど…効く毒なんて存在してたんだ…」


火鎚は火鎚でそっちに注目するか…。


まぁ、たしかに俺たちの肉体というのは基本的に漏れ出す技法などのエネルギーによって強化されており、大抵のものなら消化や分解が可能だし溶けることも早々無い。


しかし


「これ飲んだら死ぬやつだろ」

「早く飲め!」

「冗談じゃ無いのか!?」

「もちろん、冗談な訳ないだろ?」

「お断りさせて戴きます!」


そう言って俺はダッシュで逃げ出す。この場から一刻も早く離れないと殺される。


とりあえず、学校は予測されそう。


でも、一度鞄とか取っておかないと後々大変なことになりそうだ。


とりあえず、街に出て俺は学校に向かって走るのだった。



**


「逃したか」

「疾風、何で今回こんな危険物を?」


勇馬がいなくなった中。火鎚は転がった薬を拾いつつ質問を投げつけていた。


「このままじゃあいつは多分死ぬ」

「それってこれ飲んだら同じじゃねーの?」

「大丈夫だ。今のあいつならギリギリで保って臨死体験を味わうくらいだ」

「そっか…」


思った以上に軽い返事に若干、戸惑う疾風。

しかし、すぐに平静に戻る。


(実際、頭という点に於いてはこいつが一番良いんだよな。おそらく…俺の目的も)


「ダメだわ終着点だけが見えねぇや」

「分かってなかったかぁ〜」


多少のすれ違いも有りながらも疾風はこうして火鎚を味方に引き込むのだった。

そして、自身の持つ手駒を持ってして勇馬の追跡が始まったのは言うまでもない。



**勇馬



ヤベェ、ノリで学校まで走ってるけど鞄取ったらどうしよう。


何も考えてねぇ、逃げ方も分からない。


要約するとノープラン!


「とりあえず疾風のことだ。健斗とか斉藤さんとか加藤さんとか動員してくるに違いない」


この読みは合ってるはずだ。

あいつはいつもそうだ。


人を使うのがやけに上手い。


それに一体何度困らされたか。


「うん?」


ふと、視線を感じる。

チラッ、と視線の先を見るがそこには誰もいない。


もう既に追跡部隊を出してるとは考えづらい。


ここまで僅か3分。


いや、カップ麺作れるし可能性は…ないな。


まぁ、誰もいないし何も感じないし気のせいかなぁ多分。


そうして俺は学校にたどり着くのだった。



**


北条 勇馬の後ろを着いて行く存在がいた。

彼は勇馬が気付いたことを悟るとすぐに場所を移し別方向から状況を追っていた。


「学校に行ってるのか…早すぎるな。普段なら昼休みに入ってからなのに…やばいな」


彼は今の状況に対してとても焦っていた。

彼にとって勇馬が『今』学校に着くことは望ましくないのだ。

僅かな懸念があるがどうする事もできない状態にモヤモヤするのだった。



**



「よし!教室着いた!」


そう叫んで教室のドアを開ける。


「ほ、北条君…だ、大遅刻ですよ」

「いや、今はそんな事どうだっていいんです!」


俺はそう言って席に行く。


「よぉ、勇馬。珍しいな四限に来るなんてよ」

「えーっとだれ?」


隣の席の男子に唐突に話しかけられて俺は首を傾げる。

あれ、どこかでいや、昔見たことあるような…。

でも、焦ってる?なんで?


「伊吹だよ…伊吹 俊介!」

「伊吹…井吹?井吹…伊吹…あー、俊介か!」

「そうそれ」


あれ?なんか、教室の雰囲気がちょっと違う?

いや、別のことか?

なんだ?

うーん、嘘臭さがない?


いや、問題ねぇじゃねぇか!


「って、そんな事してる場合じゃ無かった!もう来始めてやがる!先生!すいません今日は午後全部サボると伝えといてください!」

「え、北条君!?」


俺はそう言って鞄を持って持ってきていた土足を取り出しながら窓から飛び降りて逃げるのだった。



**



「分かった。学校の包囲網は抜けられたんだな。大丈夫だ。こっちには追跡においてはトップクラスの秘密兵器がいる」


疾風は部下の報告を聞きながらニヤリと笑みを作る。

彼の中では勇馬は包囲網を敷いた程度で捕まえられる存在だと思っておらず完全に本気で考えていた。


いや、彼の統率力の全てを使いミリカル王の剣まで使って勇馬を捕まえようとしてさえいた。


そう、これは本気の鬼ごっこである。


「佐藤、そっちはどうだ?」

「加藤です。まぁ、完璧に追跡できてますよ。自分の進化した『過去予測タイムプレディクト』って発音合ってます?」

「英語圏はあまりいなかったから知らん」


この前の戦いにより加藤の能力は飛躍的に向上しており過去から未来を推測する能力へと昇華していた。

それだけではなく、その場所を把握していればどこからでも追跡可能というお手軽度も上がっており現在指揮に回っていた。


故に勇馬の行動の全てを先取りできる状態となっているのである。


しかし、この能力にも欠点がある。


あくまで過去数分前からと言う間が存在現在に近い位置を見るのが難しいのである。

最新情報から得た予測ではなく少し遅れたところからの予測のため絶対当たると言う保証はない。


「実際に見て触れれば手っ取り早いんですけどね」

「そこは仕方ない。高精度の予測があるだけ有利が取れてる」

「誤差…そこが敗因にならないといいんですけどね」


加藤のことばに疾風はよくよく考える。


(そもそもデメリット自体早々無い。勇馬の逃げると思われる行動範囲は全部加藤を連れてったことがある。失敗があるとすれば…)

「あ、あの…」


急に考え込み喋らなくなった疾風が気になり加藤は話しかける。


「大丈夫そうですか?」

「分からない。時間が勝負だ。いざとなれば加藤…お前を実地に出す」



**勇馬



おかしい。

どこかおかしい。


さっきから先回りされる。

道なりに沿えばその可能性は充分ある。


故に常識外の道を選んだり(家の屋根伝い)してるにも関わらずその先に必ず疾風の送った人がいる。


「未来予知系の能力」


行き着くのはやはりそこ。

しかし、未来予知というのはまず一個人で使える代物では無い。

まず、一個人でどうにか使うなら精度は酷くてその未来に行き着く可能性はほぼない。


未来予知というのは言ってしまえば究極の情報処理能力。


過去の経緯、現在の状態、人間一人一人の思考。


その三つを世界単位で完璧に把握することによって初めて絶対的な未来を予知することが出来る。


そこから自分がどう動くかによって変わる未来もあれば変わらない未来もある。


しかし、誰だかが言っていたな。


限られた範囲を絶対では無い予知をするなら特定の情報を知るだけで十分だと。


「いたぞ!総員!囲え!」

「やべっ!気配が全然無かった」

「大人しくお縄につけ!」

「俺は犯罪者か!?」


俺は逃げるための経路を考える。

そして、俺の仮説が正しいか考える。


万能そうに思えるのが能力だが、そこに不可は存在する。

例えば未来予知による阻止などは不可能とされている。


しかし、現在は実際にそれが起きている。


走りながら考えても分からん。

頭をフルに使ってもなんとなくしか…。


結局なんで先回りされてんだよ!


「次は向こうだ!」

「分かった」


声が聞こえた。

その時、俺の記憶が思いっきり刺激される。


「…そうだ。そうか!そうだったのか!」


そりゃぁ先回りされる訳だ。


相手は別に確立された未来を見てる訳じゃ無い。


そうだ。



**回想


いつだったかは覚えていない。


しかし、間違いなくあったと思われる記憶。


昔、俺の知り合いに能力についてやけに研究している男がいた。

彼はよく研究室に篭っており俺はそれの様子を定期的に見に行っていた。


そこで俺は未来予知について聞いていた。


「完全な未来予知…ですか」

「そう、それ。それって出来るのか?」

「できますよ」

「…やっぱり無理かぁ…え?今なんて」

「だから、できますよ」


俺はそれを聞いて色々と考える。

そして…


「いや、無理じゃねぇのか?それって要するに過去や現在どころか世界そのものを知る必要がある訳だし…個人では…」

「そうですね…普通ならそうです。故に個人での完全な未来予知は不可能とされていますね。表では」

「表…ってことはなんかあったのか?」

「そこは気にしない方がいいですね。まぁ、ただ簡単なのだと…今から10秒後に何か行動してください」

「い、いきなりだな…」


うーん、行動か…極力分かりやすいものにした方がいいな。

よし、一発ビビらせるためにねこだましを…


そして、動く。


しかし、動くことはなく俺は腕を押さえられて動けなくなる。


「まぁ、こんな感じですね。それで、何をしようとしたんですか?」

「え?いや、未来を見たんじゃ無いのか?」

「はい、見ましたよ。見たのは貴方の腕を押さえる未来を」


正直こいつが何言ってるかよく分からない。

いや、なんとなくは分かる。

でも何か疑問を感じざるおえないこの感じはなんだ?


「では、答えを言いましょう。自分が見たのは変えることのできない絶対的未来。そこに最終的に行き着くためのもの」

「えーっと、どゆこと?」

「要するに自分は未来を見たと言う証拠として、君がするものを押さえなくてはならない。そして、もし未来を見た自分の行動を予知した結果。手を押さえる。それが最終的な自分の解となり君が手を動かすことを事前に知ったわけです」


なるほど…要するに未来を見ることによって俺達の未来は絞られてしまうわけか。


「うん?てことは未来を見る意味ってなくないか?」

「はい、ですから未来予知系は必ず確定できない抜け道がいくつも用意されるんです。じゃないと未来を変えられませんからね」

「なるほどね〜だから表では完璧な未来予知は不可能な訳か」

「まぁ、他にも不確定要素の介入などなどから読めて一年が限界なんですけどね」



**



未来予知は言ってしまえば未来を計算するのと同じだ。

僅かな報告などで得る情報から俺の位置と移動方法を予測する。


そして、そこには必ず介入するための穴を用意している筈だ。


それは過去に誰か思い出せん奴との会話で分かったことだ。


ならば


「俺が通りそうにない道…」


裏路地


塀伝い


逆走


そうやって道を開拓していく。

森の中は…うーんっと予測される。


とりあえず普段の俺なら逃げない方に逃げない手段に変える。



**



疾風は報告を聞いていて深いため息を吐く。


「加藤、どうやら弱点を見つけられたみたいだ。現地で直接追跡をしろ」

「了解しました」


疾風の命令に対して迅速に動く加藤。

その様子を見ながら疾風は悩んでいた。


(対策が思った以上に早かったな。結構、アホ頭な3代目真実なら…いや、勇馬なら後一歩まで行けたと思うのだが…)

「疾風〜私たちも参加するけど何したらいい?」


考え込む疾風の思考を遮る声があった。

それは聖十院 鏡と雪音が協力すると言う話だった。


「お前たち、今やること…分かってるだろ?」

「「うん」」

「なら、何故協力する」

「面白そうだからあと…雪音が」

「一番勇馬の生存率が高いのが貴方の考えだから」

「と、言うから」

「はぁ〜全く…そう言うことか」


疾風は大きくため息を吐いて体をだらっと深く椅子に腰掛ける。


「なら、二人は火鎚と動け。追い詰めるのに丁度人数が足りなかったところだ」


そう言って疾風も席を立つのだった。



**勇馬side


どうやら、考えは当たっていたみたいだな…いや、それでも結構危ないな。


何度か後一本道が違えば待ち伏せエリアに来ていると言うケースが多かった。

まだ、完璧に未来予知の予測内から外れていない証拠。


しかし、待てよ。


ふと、俺は足を止める。


「疾風がそんな穴だらけの作戦を実行した?」


あいつが?そんなことを?

あり得ない。


いや、でも…なら、何でこの作戦を…。


「いや、考えてみれば簡単か…」


冷静になって考えてみる。

そして、辿り着いた答えは一番あり得ない物だった。


「あいつはいつだって俺の予想を超えてきやがるからな」


多分、今も俺はあいつの手のひらの上で転がされている身だろう。

それでもこの戦いは勝つ。



**



そして、俺はしばらく走り続けて気がつけばとある場所で俺は立っていた。


「ここは…この前利差が暴れた倉庫」


本当に意識したわけでも何でもない。

逃げようとした結果俺はここに辿り着いていた。



いや、辿り着かされた。


そう、薄々分かっていた。


「あんたは加藤さんの予測能力を利用した」


俺はポツリと呟く。

そして、その先に見える存在を見据える。


「疾風、あんたの本質はとんでもない強い力を集めることじゃない。人を利用し予測いや、未来を掌握し得る力がある」


俺は高らかに宣言する。

そして、その先にいる存在に対して笑う。


「やはり、覚えてはいないのか…勇馬…いや、ユウマ」


しかし、帰ってきた言葉は予想外のものだった。


「何の話をしてるんだ?覚えてない?」

「まぁ、ミリカル王の剣の原点なんて俺でも知らないところだが。…まぁ、どうだっていいか」


その瞬間、目の前から疾風が消える。

咄嗟に前に出る。


掠める音。


それは俺の後ろから聞こえてくる。

疾風の位置は後ろ。


いや、正確には右後方。

振り向く暇はない。


そんな暇があるなら次の一撃を避けることを考える。

しかし、それを許さないものがあった。


僅かにあった余力で視覚的に確認していたもの…


鎖、白い翼に似た光、七色の炎。


「限界突破…コネクト7!」


咄嗟に出力を上げる。

脳の70%を起動された状態にはなるが急激な変化に固まった肉体や脳の処理は間に合わない。

それでも僅かに上がった出力によって俺はその場を大きく離れる。


そして、俺のいた場所には鎖で囲われ、周りは光の衝撃波によって崩れ去る。炎によって焦げた匂いが充満していく。


「今のを…避けるか」


疾風の言葉が嫌でもわかる。

完璧に俺は後手に回った。

もし、少しでも余力がなければ鏡の鎖や雪音の翼、火鎚の炎に気づけなかった。


そして、もし俺が限界突破という力がなければここでやられていた。


「だが、忘れちゃいないか?俺の得意分野ってのを…そして、疾風…いや、あんたは誰だ?」


それと共に形勢は変わる。


ただ、一手。


鏡、雪音、火鎚の3人は気がつけば疾風の周りに立ちそれぞれの武器を突きつけていた。


「何の真似だ?お前達は俺に協力してくれんじゃなかったのか?いや、お前の得意分野か」


そう言って疾風は俺をジロリと見る。

まるで心の奥底まで覗かれている気分に至る。


しかし、この状況下は圧倒的に俺の方が有利。


「お前は確かに俺の本質を言った。だから、代わりに俺もお前の本質を言おうユウマ」

「そりゃぁ、どうも」

「それは有りとあらゆる逸れ者を味方にできることだ」


俺は確かにと首をすくめる。

しかし、俺の知りたいことはそこではない。


「んで、さっきの問いかけを答えてくれるかい?疾風の姿をした何かさん」

「俺が別人だと?」

「その答え合わせは3人がしてくれんじゃないか?だから、3人が敵に回ってるわけだからな」


そう、こいつは別人…いや、違う。

実際俺自身何故か違うとしか思えない。

けど、3人が疾風の味方のフリをした時点で確信に変わった。


「そうか、雑に裏切ってくれた3人の意見か」

「たった一回しか、攻撃せずにそのまま裏切れば雑だな」

「おいおい、勇馬。これ以上俺たちが攻撃してれば確実に負けてたぞ」

「まぁ、そこは置いといてそう言う火鎚は何で違うと思う?」

「あー、矛盾してるからだな。勇馬の今の状態を治すと言うなら別の手段があった筈だ。細かいことは分からないがやり方が分かり易すぎるんだよ」


そう、矛盾の一つ。


もし、あの薬が治すのに必要なら…疾風ならもっと別の手段を持って飲ませていた。


「私は…追い詰め方が少し短絡的だと思った」


雪音の言う通りだ。

追い詰め方は確かに疾風らしさはあったが…穴だらけなのだ。


「最後の私は何となくだね」

「一番理由になってねぇな。しかし、そりゃぁ失敗したな。だが、残念だな」


疾風はそう言って笑う。

それと共にゾッとする感覚に襲われる。


黒い何かを見た。


そう、それは燈や刃月が呑まれた闇…いや、虚無。


「そう言うことか…」

「間違いなく俺はお前達の言う疾風だよ」


ようやく疑問が解消された。


その虚無は人の精神を汚染する。

そして、あの日あの街を支配していた虚無はどこに行ったのか…。


そう、それは疾風にすべて収束されている。


「さぁ、願いを叶えよ…すべての元凶3代目真実を殺す力をミリカル王の剣!」


大きな力の本流が辺りを支配する。

俺はそれを見た瞬間…世界が一変していた。



**



まるで宮殿の中のような大理石でできた大きなホールが気がつけばそこに存在していた。

そして、その奥の玉座に疾風は座っていた。


勇馬はその中心で呆然としていた。


そして、ぽつりとつぶやく。


領域テリトリー…そうか、それが本質か」


勇馬はそれを言い終えると笑う。

まるで全てが馬鹿馬鹿しくなったように…。


「おい、勇馬この状況下で何笑ってんだよ!」

「そう、ここで疾風をどうにかしないと多分やばい」

「なんか、分かんないけどあの黒いのとても危険だと思うんだけど!?」


火鎚、雪音、鏡が笑い出した勇馬を立ち上がるように促すが勇馬は腹を抱えたまま起きあがろうとしない。


「お前達…本当にあれに勝つって言ってるのか?」

「何かおかしいのかよ」

「当たり前だろ…だってよ」



勇馬はポツリと呟くものは絶望的なもの。


「今実質3対1000なんだぞ」


「「「は?」」」


三人は混乱した。

勇馬をよく見れば諦めたような顔を浮かべて笑っている。


だが、3人は違った。


「それで勇馬はそのまま諦めるのか?」

「まさか、どんな絶望からも生きてきた人がこんなところで諦めるわけないよね」

「なるほど、疾風の建てた組織の構成員は大体1000人。でも、私達がここで止まれる?」


「あんまり買い被るなよ。何でここで逆に諦めねぇんだよ。この世界そのものが敵だぞ。今は何の気まぐれか攻撃してこないだけ…いや、いけるか」


3人の言葉によって勇馬は気づく。


勝ち筋に。


「ありがとよ3人とも…ようやく冷静になれた」

「そうか、なら教えてくれ」

「私の知識には領域というのは無い」

「だからさ、私達に指示をリーダー」

「だから買い被るなよ」


勇馬は再び立ち上がる。

目の前の空間そのものが敵。

勇馬はそれに諦めを抱いていた。

だが、勇馬は気が付いた。この状況下で勝つ手段に。

しかし、それは賭けに近いもの。

勇馬はそんな作戦を3人に教える。


成功率…いや、勝てる可能性は未だ未知数。

しかし、100%の完敗ではない。


たった、それだけで勇馬は賭けるに至った。


その作戦に


「作戦会議は終わりかな?別にもう少し待っても良かったんだよ。どうせ終わりだから」


疾風のその言葉と共に鎧の騎士が五つ出てくる。


一つは二本の刀を持ち


一つは錆びついたような刃のつぶれた剣を持ち


一つは紋様がいくつも刻まれた小刀を持ち


一つは巨大な大剣を背負い


最後はいくつもの形を成した武器を持つ。


「3人とも…あれは頼む」


勇馬はそれを見ても動じず歩き始める。

しかし、その瞬間、二本の刀の元に勇馬の身体移動する。

それは正に瞬間移動といわんばかりに勇馬は気が付けば二本の刀を持つ騎士の前にいた。


そして、すでに騎士は刀を振りかぶっており勇馬は無手で歩いているだけ。


「…」


勇馬は何の反応も示さない。

ただ、彼の右腕に何か紋様が刻まれ始めている以外は


刀が振り下ろされる瞬間、騎士が消える。

そして、気が付けば勇馬の死角を取り刀は振り下ろされる。


その光景を3人は見てることしかできなかった。


あっという間に行われた瞬間移動…いや、空間跳躍の連続によって勇馬は斬られる。

そんな光景をただ見ると思っていた。


しかし、違っていた。


斬られたのは…



騎士の方だった。


「何故か分からないけど…今、とても気分が良いんだ」


そう言った勇馬の右腕…いや、背中には右翼の黒い翼、左翼の白い翼が生えていた。

右腕には黒い紋様が刻まれている。


その両腕に持つのは先ほどまで騎士の持っていた二刀の刀。


騎士は倒れ伏せる。


役目が終えたように動かなくなると共に消えていく。


「おいおい、あれ本当に勇馬…なのか?」

「いや、勇馬以外誰に見えるの?」

「火鎚何を言ってるの?」

「おかしいのは俺だけなのか?」


火鎚は一人疑問に思っていた。


あれは本当に人間なのか?


自分と同じ人災の類とも思えず何か歯車が合わない気さえしていた。


そう、それだけ今の勇馬は異質に映っていた。


「ゴホッゴホッ…やべぇ…ちっ、なんか気分は良いけど…何でだ?」


反対に勇馬は血を吐いていた。

そもそもの話勇馬はずっと疑問に思っていた。


何故、あの黒い何かは自分を目の敵にするのか。


そして、もう一つ。

何故、疾風はこんな簡単に黒いのに犯されているのか。


何か矛盾だらけに感じていた。


「まぁ、馬鹿な俺がそんなことを考える必要もないか」


その一言共に勇馬は鎖を出して自身と疾風を隔離する。


「とりあえず、その黒いのが何か分からないがどうにかするしかない」


無計画ながらも彼は目の前にいる強大な敵に勝ちを確信して足を踏み出す。

いや、


(この戦いいや、喧嘩は負けられない)



**


一方、残った3人は。


「何があったかは分からない…いや、違うな」


火鎚は自分の体を確かめてある違和感に気がつく。

それは雪音と鏡も同じで敵の前で堂々と軽い運動を行っていた。


しかし、そんな彼らを他所に4つの騎士は3人に向かってきている。


だが、それは叶わない。


七色の炎が噴出される。

爆炎が辺りを支配する。


火柱が辺りから上がり、足の踏み場を無くしていく。


それでも4つの騎士は動きを止めない。

炎で鎧を溶かしながらも突っ込んでいく。


火鎚は炎を制御で動けず、一つの騎士が火鎚に剣を振るう。


「しまっ、」


彼が気づいた時には遅い…はずだった。



しかし、それは止められる。

鎖によって剣が縛られており、これ以上剣が動くことはなくなっていた。


気が付けば、辺りに鎖が張り巡らせておりその中心にて、鏡は鎖に吊られていた。


騎士達はその鎖に捕まり、身動きができずにいた。



しかし、それでも動けた騎士は二ついた。


刃がない錆びた剣を持った騎士は剣からエネルギーを放出して擬似的な刃を作り出し鎖を断ち切る。

小刀を持った騎士は紋様を光らせてその光によって他の騎士の拘束まで破壊していく。


「ダメだよ…私の鎖はそんなものじゃ解けない『生ける柱』」


その瞬間、鏡を縛る鎖は強くなる。

それと共に騎士達に纏わりつく鎖の性質が変わる。


鎖は真っ直ぐに確実に身動きが取れなくなる程にまで縛り付け、その強さは鎧を締め上げて潰し始める程にまでなる。


そして、その鎖は火鎚の作り上げた炎の柱の中心へと誘う。


「ナイス、これで私の一撃をぶちかませる」


雪音はここで表情が動く。


その手には目が潰れる程の光が握られていた。


その光は大地から吸収するかのように周りが輝き、彼女の手に集まっていく。


「一点凝縮!霊脈砲!」


そして、一筋の閃光が騎士達に迫る…


否…騎士達を照らす光が表れる。


辺りが一瞬にして消失する光はほんの1秒に満たない時間だったのかもしれない。

しかし、それは何秒、何分、何時間にも及び行われたように強烈なものだった。


そして、雪音は一息つくと自分の手を見る。


「やっぱり火傷もしてない…」


そして、鎖の先を見る。

それに釣られてなのか自然と鏡も見る。


勇馬と疾風の戦いを。



**勇馬side



「ゲホッ…ゴホッゴホッ!」


血が沢山出てくる。

別に特別ダメージを受けたわけではない。

それでも体が限界と言わんばかりに何度も悲鳴を上げてくる。


そして、当の疾風は悠々と剣を地面に突き刺してるだけ。

それだけで地面を陥没させたり地面から槍を生やしたり雷を落としたり、火を出したりと様々なことをしてくる。


それを避けるだけで俺の体は限界が来ていた。


「わからねぇ…何でだ!」


俺は問いかける。

疾風の行動に疑問をずっと覚えていた。


「いるんだろ!お前はそこに!いるなら返事をしろ!こんなものにやられる訳ねぇだろ!」


返事はない。

しかし、俺の予想が正しければ…いや、それしか勝ち目がない。


だから何度だって問いかける。


「疾風!お前は…とんでもねぇ化け物だよ…原初でもそうだ…あんたはとんでもない英雄だよ!嫉妬しちまうくらいに!」


そうだ、彼の強みは自身の国民や部下が多ければ多いほど大きな力を振えた。


だから、彼は奇跡を引き起こせる。


だからこそ、彼の能力は決して良いものばかりではない。


そこに悪感情と言った負のものだって含まれる。

それすらも糧にしている。



そして、それは虚無ですら同じだ。


あの日誰もがが手放したいと願った…それは全て疾風に向かっていった。


その結果耐性のあった疾風は何の影響もないように思えたが耐えきれなくなると共に一気に爆発した。


結果今の状態とも言える。



しかし




「お前が…俺の最大の敵がこんなので倒れる訳ないだろ?」









「うるせぇよ」




そう、彼の意識はずっと起きていた。



だからこそ今の俺の体は調子がいい。


彼のミリカル王の剣の領域の本質は軍団の強化や軍団の作成。

だが、その軍団の強化に俺達が入っていたのだ。


故にそこが唯一の穴。


「わかんねぇのかよ!未だに肉体の方はお前の排除に動いてる。この程度の手助けが手一杯なんだよ!」

「あぁ!分かってるよ。でも、それでもだからこそこの世界はこの領域テリトリーは完成してないんだろ」

「…それがどうした…だからと言ってこれ以上勝ち目を増やすことは出来ないぞ…」

「いや、違うんだ…お前の力を切れ…いや、意識を失っとけ!」

「何を…いや、いつから分かった?」

「恥ずかしながらさっきあいつらに怒られた時だよ」


その瞬間、風が強く吹く。


そして、気が付けば俺の意識はゆっくりと沈んでいく。



**



血が落ちていく。


勇馬の胸には剣が貫かれている。


一瞬にして疾風は勇馬の後ろに回り剣を突き刺していた。

それを見ていたのは3人。


隔離していた鎖が消えていく。


それと共に7つの炎が雨となって降り注ぐ。また光の光線がいくつも放たれていく。

鎖が疾風を閉じ込める。


それらは収束され疾風の一点へと向かう。


しかし、それは壊れていく。



光は途中で本当にただの光へと変わっていき、炎は全て鎮火されていく。

鎖はねじれ曲がり解けていく。


「この世界で俺に勝とうと?」

「いや、時間稼ぎだよ」

「そうだね。この程度で彼が死ぬとは思えないし」

「そもそも、殺しても死なない人間と呼ばれてる」


それを聞いて疾風は勇馬を見る。


息は確かに無い。


「だが、確かに不安要素は消しておくべきか」


そう言って剣を動かそうとする。

しかし、それは止められる。


何重にも巻きついた鎖が疾風の剣を動かさせない。


「流石にそれは容認できないものなんだよ」

「なるほど、この鎖は拘束ではなく封印。それも人柱として自分を使うとは」

「まぁ、目には目を歯には歯をってね」


鏡の剣もまた鎖が巻きついており動かせない状況にある。

しかし、疾風はミリカル王の剣を消すとすぐに別の場所に出して剣を振るう。


「だから私の封印はそんなんじゃダメだって」


と、鏡は剣を手放す。


すると、疾風の剣もまた消える。


それと共に辺りの宮殿の光景が一変していく。

元の廃倉庫の形を取り戻していく。



そして、疾風の領域は消える。



筈だった。






ー奇跡を引き起こせ…神域テリトリー展開



3人の体に冷や汗が流れる。

それと共に叫び声が聞こえてくる。


「火鎚!鏡!雪音!勇馬を連れて逃げろ!」


光の奔流が疾風の手に集まっていく。

それは天から延々と流れてきており、その光はどんどんと疾風を中心に大きくなっていく。


そして、作り出されたのは宮殿なんかではなかった。



「…戦場」


火鎚がポツリと呟く。


辺りは荒廃した土地であり、幾つもの残骸が燃えながら崩れていた。

そして、疾風のいる方を見る。


「旗…これじゃまるで戦争を今からするみたいだね」

「鏡…違う…これは本当に戦争のど真ん中」


疾風のいる場所には大きく高くそびえ立つ旗。

その下に何千いや、何万…いや、億の軍勢が控えていた。


しかし、そこに統一性はなく、小銃を持つ兵士もいれば、剣を持つ騎士もいる。刀を持つ侍もいる。

弓を持つ狩人だっている。


砲撃を準備するものだっている。


火を放とうとするものもいる。


水を多量に流そうとするものもだっている。



そう、ここは


「敵からしてみれば地獄じゃねぇか」


火鎚の言葉が引き金になる。


撃発音が聞こえる。


弾丸が火鎚の頬を掠める。


普通なら火鎚の体にとって弾丸は多少痛いだけの存在だった。

しかし、この弾丸は違う。


疾風によって強化された弾丸は火鎚の肌を傷つけるどころか貫通できるレベルにまで強力なものになっている。


そのレベルにまでなってくると何らかの手段を持って弾丸を防ぐのは効果的では無い。

弾くのだってリスクが大きくなってくる。


そして、どんどんと撃発音が連続して聞こえてくる。最初の静けさは何だったのかと言わんばかりに延々と聞こえてくる。


「火鎚、雪音!私の後ろに!」


鏡が叫ぶ。

火鎚は考える余裕も無く鏡の後ろへ。


雪音は予め知っていたように勇馬引きずって後ろへと着く。


「これよりこの空間を封印する!」


鏡の言葉と共に弾丸が弾かれていく。


鏡の行ったことは簡単だ。

自分達のいる空間を封印によって隔離したのだ。


それによって飛んでくる弾丸や水、炎などと言ったものは全て防ぐことができる。



しかし


「一度封印を施せば補助は要らないけど…流石にここまで弾丸を当てられちゃうとすぐ封印は解けそうだね」


そう、封印だって完璧では無い。

エネルギーを外から蓄える仕組みを持った障壁であり、根本的にはただの壁なのだ。


そして、エネルギーを吸い上げる機能は雪音が付与してるが、疾風の作り出した神域により、普段より効率が格段に落ちている。


結果、これは本当に時間稼ぎにしかならない。


「鏡…次に封印できるのは?」

「うーんっと…多分もう無理かな」

「分かった…火鎚…あなたの七色の炎なら防げる?」

「無理だ。ミサイルとかそう言ったものがバンバン飛んでくる中で防ぎ切るどころか一発で限界だ」


雪音はそれもそうかと呟いて舌打ちをする。


「さっきと違って疾風からの強化はない…なら、二人とも私が全力でやる」


雪音は覚悟を決めた表情へと変わる。

それが一体何なのか分からない火鎚は疑問に思うが鏡は震えていた。


「それじゃ、私は封印から出るね」


そう言って雪音は封印から出る。


本来封印は外と内を隔離されているが雪音はそれに隙間を作り出る。


そして、外に出た雪音に多量の弾丸が飛んでくる。


「状況、戦場…目的、殲滅…これより開始するは無差別破壊」


雪音がそう言うと白い光が大地から溢れ出てくる。

それは雪音の背中へと集まっていき、まるで光で構成された翼のように付いていた。


そして、その翼は砕け散る。


レイン


光の雨が降り注ぐ。

それら一つ一つが膨大な熱を持っており、地面を溶かし溶岩と変えていく。

流れてくる水は見る見る蒸発していく。

急激に蒸発していき、膨大に膨れ上がる気体は一気に弾け爆発する。

しかし、それでも雪音は気にせずに光の雨を降らせていく。


大地が崩れていく。


幾重にも続く爆発は大地を穿ち、疾風の軍団が崩れていく。


しかし、ずっと上手くいくものでは無かった。


一人の騎士が光の中で雪音の方に来た。


それは先程勇馬と戦った二刀の騎士であり空間跳躍によって雪音の背後を取った。


「ボム」


雪音は咄嗟に翼を切り離して騎士の攻撃を避ける。

そして、その翼は膨大なエネルギーが籠っている。

それが制御を失い散り散りへとなる。


それは液体から気体へ急激に変わることによる水蒸気爆発と同じもの。


爆発が起きる。


雪音はすぐに大地からエネルギーを吸い出して再び雨を降らせる。


だが、それでも警戒は解かなかった。



何故なら、騎士もまた空間跳躍によって爆発から難を逃れたからである。


しかし、この状況は雪音にとってあまり良く無い。


殲滅によって行ったことだが、長期戦となれば大地からエネルギーを吸い上げるための下地が無くなり、自分の仕掛けた火の海によって敗北するのが見えている。


「万事休す。と言ったところ…それでも少しは足掻く!」


彼女は歯を食いしばり諦めると言う気持ちを消す。


「だってそうでしょ?勇馬…あなたは最近じゃ自信を無くしてるみたいだけど」



彼女は最後の力を振り絞り光の翼をより大きくする。



「あなたは世界を救う存在なんだから」



光の雨が止む。


そして、彼女は破壊の化身となる。



**



虚無。


何もなく、真っ暗で自分の姿だけがはっきりとした何もない空間で俺は一人立っていた。


それでもハッキリとここが何処か分かる。


いや、分からされている。



一冊の本が気がつけば俺の目の前に置かれている。


俺はそれに対して何の疑問を持たない。


そして、分かることは一つ。


この中にあるはずだ。


この状況を打破するための情報が…


俺は本を開く。


一眼見る。


それだけだった。


「っっ!」


激しい頭痛に襲われる。

そこに書いてあることは何もない。

それでも、なぜか読める。

頭痛によって集中もできずに記憶にも残らない。


それでも読めている。


真っ白な本をゆっくりゆっくりと読み進めていく。

理解なんて求めない。


ただ、口にすればいい。


「〜〜」


声が出ない。

考える力がどんどんと消えていく。


「はぁ、はぁ…〜〜」


息は上がるのに相変わらず声が出ることはない。


読める読めないじゃない。


読まないといけない。

そこにある俺の知らなきゃいけない本当の情報を知るために…絶対に。


「…この本は…稀代の天才…とされた本条ほんじょう 茉理まつり…が残す…記録…である」


ようやく声が出る…しかし、理解できない情報がそれと共に頭の中で空中分解されていく。


「一代目…真実…ーーーー、二代目真実…西条 ひかり…三代目真実…北条…勇馬」


段々と謎が解けていくような感覚に落ちていく。


「人類進化…一段階目……」


段々と理解ができなくなってくる。

何も分からない話へと変わっていく。

それどころか、記憶にすら残っていかない。


そんな内容が延々と続いていく中で一つ気になるものを見つけた。


「3神使、2神…神使とは大いなる力であり、人間の感情を集め強大な力を扱うことができる存在である」


神使…何かわからない。

しかし、どことなく疾風の能力に似てる気がする。

しかし、本当にそれなのか?


いや、そもそもこの内容は真実を語ってるのか?


何かいや、何処か嘘が混じってるような気さえする。


「真実の瞳。真実と名乗る者たちが持つ世界定義の記録を見る力。その力は別の力に変換される可能性もあり、後天的には失われることもある」


何か辻褄があった気がした。



不思議とこの内容だけは信じられた。


ここに嘘はない。


なら、今の俺の瞳…いや片目には多分それが宿っている。


「何にもわからない。でも、これだけは分かる」


俺はそう言って思いっきり息を吸い込む。


「ここは退けない戦いだ」


だが一つ問題点がある。

自身の力の出所だ。


正直、現状俺の主に使う能力は不安定なのである。


限界突破や超速再生。


これらは確かに単純ゆえに強力だが、現状何か持て余してる気さえしてくる。


そして、少しだけ今、しっくりきたものが存在していた。


「はは、これじゃまるで自分の能力が無いみたいだな」


俺は自嘲の笑みを溢す。


そして、歩き出す。


出口はないのかもしれない。


ひょっとしたら夢ではなく死後の世界なのかもしれない。


それでも俺は前へ歩く。


出られることを信じて



**



火鎚は現状見てることしかできなかった。

強くなったと思っていた…



役に立てるようになったと思っていた。


(それなのに!)


目の前の現状は違った。


鏡は封印の維持をずっと続けており、雪音は現在、周囲に圧倒的な破壊をもたらしながらも空間移動を繰り返す騎士と戦っていた。


火鎚は手を伸ばす。


届かない。



そう思える。


どんなに願ってもあそこに自分が立つ様子を思い描けない。


レベルが違った。


自分の知る領域と今行われている領域がまるっきり違った。


「何で…そんなに違うんだよ」


そんな言葉が漏れる。


それを聞いていたのは一人。


「君だって強いよ…いや、羨ましいよ。平凡であることを許されてるから」


鏡から漏れた言葉、嘲笑なんてものではない。

ましてや皮肉でも何でもない。


彼女からの本心だった。


「だからさ…火鎚…一つくだらない質問を聞いていい?」

「え?」


急なことに火鎚は戸惑う。

しかし彼女は話を続ける。


「君は北条 勇馬…いや、ユウマを信じて命を賭して守れる?」

「…」


当然だという言葉を火鎚は出そうとするが出てこない。

言えないのだ。


(なんだ…この言い知れぬ言ってはいけないという感覚は……言ってしまえば…俺は)


裏切って良いのか?



火鎚そんなことを考えてしまった。

一体…何に対する裏切りかは分からない。


彼は必至に声を絞り出そうとするが出てこない。


「あ…嫌だ」


気がつけば彼の瞳からは涙が溢れていた。


「悪い…俺には…俺には!無理だ!」


彼もなぜかはわからない。

それでも、何故かそんな気がした。


「やっぱりか…だから…さ」


火鎚はその瞬間怖気が走る。

彼はそれを逃げる術はなくその怖気に包まれる。


「君はこの戦いをしない方がいいかもしれない」


気がつけば火鎚は鏡の手によって封印されていた。

必至に封印空間の中から火鎚はこじ開けようとするが彼女が本気で作った封印がそう簡単に壊れるわけがない。


彼女からは認識はできても火鎚の行動が外に漏れることはなく気にすることをしない。


「もう、起きれるんでしょ?勇馬」


鏡の呼びかけに返事はない。

ただ、確かに周りのエネルギーが大きく動いた。


「そっか、なら私の力を使って…」


鏡のその一言共にエネルギーの奔流は大きくなり始めて勇馬の方へと向かっていく。


そして、その力は勇馬の中へと入っていき…


「ようやく目が覚めた」


彼が起き上がったのだ。



**勇馬side



「ようやく目が覚めた」


思わずそう呟いてしまう。

それくらいに無理矢理に起きようとしても起きれなかったのだ。


「おはよう勇馬」

「おはよう鏡…いつものテンションはどうしたんだ?」

「さぁ、シリアスに投げ捨てられちゃったかな?」

「それなら仕方ない」


俺はそう笑って立ち上がる。

不思議とさっき刺された箇所は塞がってる。

そして、エネルギーが溢れている。


「なぁ、鏡は俺を信じてるか?」

「うん!間違いなく信じてるよ…たまに間違えることも不思議と正義感があることも全部信じてる」

「余計なこともあるが…そっか」


俺はそう言って手を掲げる。


「なら、やれる…分かんないけど勝てる気がする」

「私は勝利の女神だからね!」

「お前は元人柱だろ」

「過去の傷を抉るのは良くないと思いまーす!」


俺は自然と笑う。

今絶望的な光景が広がっていても不思議とどうにかなる気がする。


俺を信じてくれる人が今一人でもいるのだから。


だから、この戦いは


「勝つぞ!俺の最大の敵!ミリカル王ハヤテに!」

「おー!」


俺と鏡はそう言って士気を高めていると


「私もその輪…入る…正直キツイ」


そんなことを言って騎士に追われながら飛んでこっちに来る雪音の姿があった。


「二人はあの騎士を任せる…俺は大将を今度こそ討ち取る」


「「分かった!」」


双子いや、三子か…まあ、だからこそどことなく似ている二人は翼と鎖を携えて戦いに赴く。


あの騎士はさっき戦った相手か…空間転移…テレポート能力を使ってくる相手。


そして、日本の刀を上手く使って戦うタイプ。


正直あの二人がタイマン張ってみたら負けるだろう。


でも…二人なら話は別だ。


「つーか、やけに俺の方に来るな」


騎士は俺を見た途端に二人の方ではなく俺の方に向かってくる。

正直、さっきのような全能感はない。


あの騎士相手は普通に戦えばまず勝てない。


そんな相手に一度臨死体験をしたこの体で戦うなんて真平だ。


だから、俺は単純に歩き出す。


「っっ!」


鏡が息を呑む声が聞こえる。


「これは無?」


雪音が呟く。

多分、周りからは俺が普通に歩いてるように見える。

いや、実際そうだろう。


決して消えてるとかそんなのではない。


しかし、


すれ違う。



騎士は俺を見失う。


いや、正確には違う。

騎士は俺を脅威として見なくなったのだ。


脅威ないものを一々気にする存在がいるか?

もしいたとしたらならそれは余程警戒心が強いのだろう。


しかし、それでも気にする存在がいる。


破裂音が延々と響き渡る。


僅かに止まった雪音の殲滅戦。


それによって空いた時間。


軍勢が再び銃を発砲し始める。


「…封印」


俺はその一言をポツリと呟き自分の腕を縛り付ける。

そして、その腕を盾として歩き始める。


封印によって強固な壁に守られた腕は何の痛みも感じずに少しずつ距離を縮めていく。


…しかし、思った以上にエネルギー消耗するな。


肉体的には無事でも技法も固有能力も使えなければ意味はない。


仕方ない。


この戦いは俺の戦いだが、力を借りるとしよう。


「…信じなくてもいい…だけど俺は信じてるぞ!火鎚!」



**



声が聞こえる。


俺を信じると彼は言った。


俺だって信じてるぞ。


でも、素直に俺はあいつの言葉を受け取ることができなかった。

あいつの元へ駆けつけることができない。

封印された状態で


どうしろと言うんだ?


俺は何でこんなにも勇馬を…あいつを信じることができてないんだ?


最初は違ったはずだ間違いなくあいつを信頼していた。


一体…どこから?


(その答えを知りたいか?)


剣から永炎の声が聞こえてくる。


「今更知って何になるんだよ…もし、俺の考えてることが確かなら…俺はどう生きろと言うんだよ」

(そうだな…お前の生きた方を私はもう補償はできない。しかし、間違いなく一つ言おう。元は私とお前は一つだった…それは今確信へと変わっている)


一つ?


それが一体俺の疑心にどう関わるんだよ。


いや、そもそもあんな化け物の戦い場でどう勝つんだよ。

そもそも俺なんかいなくてもこの戦いはもう、決まってるんだろ…。


(それはどうかな?今の様子を見てみるといい)


俺は改めて様子を見る。


勇馬はどこか余力を残そうとしていて調子良く動けておらず雑兵に囲まれていずれ数に押し潰されそうになっている。


雪音と鏡は漏れ出てきた雑兵に邪魔されて騎士の空間転移に対処できてないように思える。


(では、先程の答えを言おう…)


俺はそれを聞く。


それはとても単純明快な話だった。

しかし、俺の中では笑えない。


笑えない…


…笑えない。


「ハハッ、あはっははは!」


笑えないはずなのに何故か笑えてくる。

あぁ、そうか…何にも変わりはしない。


俺はあいつを信じてる…


(それだけは変わらないか…なら、どうする?)


どうする…か。


「命なんて賭けるつもりはない。勝つぞ全員で生き残って」


覚悟は決まった。

なら、目の前の障害をぶっ壊すだけだ。


炎が溢れ出る。


「紅き炎は、覚悟の証。蒼き炎は、抱く理想の証。超越(壊れろ)…炎の眷属」


**勇馬side



俺は笑う。


「ようやくか…遅れすぎだぞ火鎚」


彼を信じていた。

彼なら永炎いや、彼の持つ本当の炎が出ると分かっていた。

ずっと昔に見たことのある多才多彩な炎を…。


炎が空を支配する。


鏡の封印は完全破られ、大地が融解していく。


そして、俺の先にある軍勢が炎に巻かれていく。

俺は先にいる存在を見据える。


「これも予測していたことか?それとも予測外か?疾風」


気がつけば目の前に疾風が立っている。純粋な戦闘力は負けていると見ていい。


あくまでも俺は半端な力しかない。


だが


「お前もそうだろう?お前の中で俺に勝つ未来を見ている。それと同時に俺もお前に真実に勝つ未来を予測している」

「本当、他者を見る力に長けているな」

「しかし、それは叶わない…勇馬。お前は所詮他者の協力なしでは実力はほぼ無いと見ていい」

「さぁて、それは戦って見てからのお楽しみだぞ!疾風!」


俺は動き出す。

それと同時に光を見た。


全てを惹きつけるような圧倒的な光。


これは表現するなら第二の太陽。


それが放たれる。


大地を削り

空を揺らし


圧倒的な破壊が全てを壊しながら俺へと向かっていく。


「光を…」


俺は剣を掲げる。

受け止めるように…


「封印する!」


その瞬間目の前が真っ暗になる。

しかし、それと共に先程まであった第二の太陽の熱量が感じられなくなる。


「この鎖…鏡と同じタイプの封印…人柱か」

「今更気付いたところでおせぇ!」


俺は剣を持って走り出す。

見えない…たしかに見えない。


しかし、見える。


彼が完璧にこの世界を構築した。


それは俺の居場所などを完璧に把握してるのだろう。


なら、簡単だ。


こちらがその世界を利用すれば良い。


それは決して楽なことではない。

そもそも他者の能力の介入自体難しいものであり、同調などを行わない限りその他者の能力の使用や掌握ができない。


一番の難関は同調であり、人間の持ついや、存在そのものが持つエネルギーの質はそれぞれ別物であり全く同じものに変えるには己の存在を変えるまたは…存在そのものを希薄にしなくてはならない。


金属同士がぶつかり合う音がする。


間違いなく、疾風に届いている。

俺のやってることに間違いはない。


しかし…


「っぺ!ゴホッゴホッ…まだまだ!」

「そうか…そうかそうか!お前は俺の力の一部を取り入れてるのか…いや、違う!お前自身は誰だ」


笑えねぇな…


何にも答えられる訳がない。

他者の力で今はたしかに拒絶反応を起こしてボロボロになってるけど…最近、体がボロボロだった理由は違った。


自身の肉体が自身のエネルギーと拒絶反応を起こしていたんだ。


だから、一度体から作り替えた。


そして、それに気づいたのは冷静な疾風であって今狂ってる疾風ではない。


「さぁ、北条 勇馬だよ…」


それ共に光の封印を解く。

その瞬間、封印された光は霧散されて巨大な爆発を引き起こす。


圧倒的な破壊。


それは当然だろう。

疾風の込めたエネルギーはそんじょそこらのものではない。


これで本人も無傷では…


「こんなもので倒せるとでも?」

「思ってねぇよ!」


突如光の隙間から出てくる疾風相手に俺は応戦する。

速度、パワー共に圧倒的、技量ですら勝ててるかすら怪しい中で…どう勝てば良いか模索する。


いや、模索してる暇なんて無い。


「武力を封じる」


鎖で疾風を縛るが、それは一瞬にして破られる。


曖昧すぎる封印内容ゆえに簡単に破られてしまう。

考えろ…俺にはあるはずだこれに対抗する手段が、疾風の力を利用するだけじゃ勝てない。

主導権を奪うんだ。


この空間そのものが疾風という化け物を作り出している。


なら…


あるはずだ。


勝つ手段が…


**



鏡と雪音は現在2刀の騎士を相手にしていた。


空間跳躍によって敵の居場所を把握しきれず圧倒的速度とパワーによって二人は苦戦を強いられていた。


「まず厄介な点は速さと移動」

「それを封じる必要が出ると…しかし、足を封印したところでこれじゃぁ」

「うん…だから…この空間を狭く封印して」

「分かった」


鏡が雪音指示に従い動く。


鎖が辺りを舞い、そして地面を貫き空間を封印する。


そんなことはお構いなしに騎士は空間を飛び封印空間から出て地面を蹴り速度を付けて行く。

その速度は音なんてものすら置き去りにして人の目ではもはや感知すらできない領域へと近づいていく。


そして、次の瞬間…


騎士は封印空間へと入り二人を攻撃しようとする。


「掛かった」


その瞬間、雪音が呟く。


そして、封印空間は輝く。


それは翼だった。

光線だった。

圧倒的な熱量を持っていた。


破壊そのものが狭い狭い封印空間で充満しており、騎士が入った瞬間、溶けていく。


すぐに騎士は転移する。


はずだった。


「空間隔離…この四方空間を完全封印して区域として我が肉を生贄として指定する」


鏡の無慈悲な声。

彼女は自身縛る鎖によって光から守っており、雪音は自身の放つ光故に自分の力自体で相殺を行っている。


この中で唯一何の防御ができてないのが騎士だけだった。


光によって騎士の体が融解していく。


それを悟った騎士はトップスピードとなり、刀を振るう。

それは雪音の首を狙う。


その状況で雪音が避ける術はない。


「っっ!」


迫りくる恐怖に対して雪音は歯を食いしばる。

そして、ゆっくりと悟ろうとした時だった。


騎士の存在が消えていた。


それは決して倒した訳ではないと彼女たちは理解している。

故に何故そうなったのか考える。


そして、その答えはすぐに出た。



**火鎚



炎が辺りを照らす。


俺はそれをじっと見つめてため息を吐く。


その瞬間、枝分かれでしていき炎は敵軍の悉くを燃やし尽くしていく。

しかし、そんな中でも厄介な相手はいる。


炎の中から弾丸を放つもの、燃えながらも突撃してくるもの…。


そう言った相手から受けた攻撃によって少しずつ傷が増えてきていた。

あっちで激しくやってるのとは違って消耗戦であり、一発一発が必殺なんて化け物染みた戦いなんかではない。


「でも、簡単に倒れると思うなよ!俺がここの支配者だ!」


指を鳴らす。

今の俺には炎が自在に操れる。


熱によってあたりが歪む。

そして、その熱によって地面が融解し敵の肉体を崩していく。

いや、相手は肉なんて持っていない。


ただ能力によって作られたハリボテである。


こんな状況でも穴はある。


なんてたってこれは俺の知る戦場ではない。


相手の任意によって作られた相手にとって有利な戦場。


だから…


槍が胸から生える。


「っっ!ぐぅ!ってな」


肉体そのものを炎へと俺は変換して後ろから槍を刺してきた相手を燃やし尽くす。


先程からこんな感じに敵が突然現れたり生き残って突っ込んできたりする。

しかし、たしかに俺の中で傷として残るが炎と同一化とした己の肉体に意味はなく。


物理的な破壊のほとんどを無力化している。



しかし、ここにきて相性の悪い敵が目の前に現れる。


「騎士?さっきの二刀流とは違う…でかい大剣を持ってるな」


俺は考える。

これは先ほど見た相手だ。


特に厄介だった印象はないが…何故か今怖気が走る。


騎士は大剣をぶん回す。


たったそれだけだった。


しかし、たったそれだけのことで俺の炎が掻き消される。


「ちっ、厄介な相手だ」


俺はそうぼやきながら炎を操る。いや、違う。


炎そのものを己に纏わせる。

そして、指を鳴らす。


その瞬間には俺は別の位置にいた。


騎士の後ろを取り、剣を振るう。

しかし、すぐに気が付いた騎士は大剣を振り回す。


たったそれだけのことがとんでもない力となり吹き飛ばされる。

それを抑えるために再び炎を身に纏わせて移動する。


これは炎を伝った移動方法であり、自身と炎を同化して炎が繋がってる場所まで一瞬で移動することができる。


『火鎚…まだだ…まだ壊れることができる』

「分かってるよ」


俺の中でまだ炎というものを自身というものを認識し切れてない。


己は炎と同一。


しかし、それならもっと突き詰めなければならない。

己の力の限界を…。


「なぁ、永炎…もっと先が見える気がするんだ」

『あぁ、そうだな…わかるはずだ…その先が』

「なら、分かるよな」


俺は一息つく。


そして




炎が収束する。



『効率的にいかないとな』


永炎が火鎚が…俺の境が消える。


それは一瞬のことだったのかもしれない。


しかし、たったそれだけのことで全てを理解したような全能感が溢れてくる。


手をゆっくり掲げる。


その瞬間、辺りは一気に熱気に溢れかえり、照りつけるような光が無いにもかかわらず日光に燃やされるような感覚が駆け抜ける。


辺りの固形が液体…いや、それを通り越して一気に空気へと昇華する。


急激に膨れ上がった空気によって巨大な爆発が引き起こされる。


まだ、それは序の口に過ぎない。


炎の柱が出現し、空からは炎の雨が降り注ぐ。

それに当たったものは体が燃え、焼き尽くすまで延々と燃え続ける。


この空間は最早火の海と言っても過言ではなかった。

燃え盛る火炎の中で騎士は現れる。


炎を掻き消して大剣を振るってくる。


それに対して炎は荒れ狂う。


「あぁ、そうだよな…許せねぇよなお前達は」


炎が生き物のように動き始める。

そして、炎は大剣を止めようと収束する。


その色は青。


ガァアァアァ!


と、音を立てて炎が掻き分けられていくが、剣は途中で止まる。


「あめぇんだよ!出直してこい!」


金色の炎が貫く。

その速さは尋常ではなく熱線となり鎧を貫く。


たった1発の熱線は戦場を戦況を変えていた。


ガランッ


そんな音とともに先程まで動いて大剣を振り回していた騎士はバラバラになり消えていく。


「さぁ、行くぞお前ら」


その言葉とともに炎が集まる

火柱として天を貫く炎も天を覆う炎も大地を穿つ炎も全てが言葉を聞いて集まる。


そして、炎の色が変わっていく。


その色は緑…いや、翡翠。


扇状に広がっていき攻めてくる軍勢の全てを薙ぎ倒していく。


その炎は風のように隙間隙間へと入っていき広がっていく。


しかし、そんなもので終わるわけがなかった。


知る限りに分かるのは3つ。


大きな反応がある。


それは恐らく残った騎士だろう。


月を模したような紋様を刻んだ刀を持つ小さい騎士。


古びた鎧に赤く錆び切った剣を握る騎士。


中でも一番、目立つ華飾が多く無手にほぼ近く柄だけを握る騎士。


どれもが何か身震いさせるような雰囲気を纏っていた。

さっき見た時はそこまで強そうには見えなかった。


いや、違う。


さっきの大剣の騎士も二刀の騎士もそうだ。


この空間になってから本当の力を引き出されているんだ。




故に強い。



「…」


息を呑む。


それだけあの騎士達の迫力があった。


そして、彼らは動き出す。


「っっ!」


次の瞬間、目の前が真っ暗に染まる。


夜になった。


それを引き起こしたのは月の文様の刀を持つ騎士。


その存在がこの戦場を夜に変えた。


しかし、範囲はデカく無い。


勇馬や鏡達に影響はない。


それだけで終わりな訳がない。


月が現れる。


その月から光を受け取るように刀が光出す。

そして、騎士達が動き出す。


月の光を受け渡すように他の騎士に光を受け渡される。

その瞬間、錆びついた剣が真の刃を剥く。


刀身から出てくる光は剣の形を成しそれが本物の剣と言わんばかりに振われる。


青い炎が自身を守る…はずだった。


炎は紙のように切り裂かれて刃が迫りくる。


咄嗟に退く。


しかし、逃がす気は無いようで光の刃が伸びて迫りくる。


時間は無い。


金色の炎が自身に纏う。


「電光石火」


次の瞬間、自分の視界が切り替わる。

全速力の動き…一瞬…ほんの一瞬だけ世界の持つ物理的な限界へと至った。


しかし、その速度の維持はできない。


僅か1cm。


その距離に置いて無敵の力を発揮する。


触れる瞬間に行われる瞬間的な動き。


それによって光の刃を砕く。


だが、それで終わりなら恐怖なんて覚えるはずがない。

光の刃を砕かれた別の騎士。


柄しか無いはずの騎士が今…一番恐ろしく思えた。


まず見えたのは剣の刃。


それを青い炎が防ぐ。


しかし、それでは終われない。


防げたことすら何故か分からない。


そう、何か一番底が知れない存在に思えたからだ。


その瞬間、青い炎を貫く何かがあった。


先程と同じ電光石火は使えない。


あれは何度も何度も使える代物では無い。

インターバルが存在しており、一時間ほどに一回。


感覚的にそのレベルである。


故に



力には力を



凝縮された炎の光を放つ。

一本の線を引き周囲を溶かす。


それによって青い炎を貫いたものを砕く。


そして、目に写るのは拳銃を構えた騎士の姿。


ここで遠距離系だと分かるのなら詰めるのが正解だと思える。

しかし、どうにも何か間違ってる気がする。


そもそも柄とこの銃の関連性が薄過ぎる。


そこまで行き着いたところで答えを見た。


拳銃は形を変え鞭となり迫ってくる。


僅かに詰めることを考えていた自身の体はその鞭を避ける手段はない。

自動的に対応してくれる青い炎は貫かれている。


この状況でできることは…


「ギリギリ!!」


思わず叫ぶ。

何故なら自身の持つ炎の量が本当にギリギリというところで足りたのだ。

翡翠の炎が鞭の軌道を逸らしていく。


そして、距離を取る。


もちろん騎士は追いかけてくる。


しかし、そこで自身に余裕ができる。


戦場にある炎を熱をかき集めいく。


「銀火」


ポツリとつぶやいた一言と共に炎が辺りに広がっていく。

夜だった世界を明るく染めていく。


夜に見える世界を書き換えていく。


銀色の炎が辺りを覆う。


「さぁ、どっちが先に燃え尽きるかの勝負だ!」


叫ぶ。


自身を鼓舞するため。


この領域にいる存在は敵味方関係なく全員焼かれていく。

それは自身も同じこと。


肌から銀色の炎が燃えだしており、焼けていく。


この空間において自身は唯人と変わらない。


しかし、銀色以外の炎だったら多少なりとも扱える。

そして、なによりもこの空間内では火傷以外の傷は癒えるが炎に蝕まれる。

だが燃えるということはこの空間において絶対的なダメージへとなる。


その代わり自身を炎と化すことはほぼ自殺行為に近くなる。

普段の肉体であるよりも炎になることにより銀火によって食われる可能性がある。


しかし、それでもこんな勝負に出た。


この戦いは勝てる。


銀色の炎によって互いに蝕まれる中で騎士達は動く。

切先が掠める。


それだけで自身の体が銀色の炎によって蝕まれる。


仕返しに翡翠の炎をぶつける。


僅かに燃える。


それだけなら本来ダメージにもならないだろう。


この空間でなければ。


あっという間に炎は騎士達に張り付き銀色の炎と変色して騎士の全身を燃やし始める。

圧倒的な熱量によって騎士達の鎧は融解し始める。


しかし、それでも騎士達は諦めない。


金色の炎が放たれるだけの隙には騎士には無い。


三つの騎士がそれぞれの戦い方で攻めてくる。


月の文様の刀を持つ騎士は純粋な剣技で追い詰めてくる。

掠める攻撃に銀色の炎が纏わり付いてくる。


錆びついた剣を扱う騎士はここぞというときに大きな攻撃を放ってくる。

避けることは出来てもダメージは大きい。銀色の炎が腕全体に回ってきている。


柄だけ持つ騎士は鞭によって牽制してきており、距離を取ることなどを難しくしてくる。


翡翠の炎によってギリギリ痛み分けに持って行けているがかなり危険な状態である。

放って置いても炎によって自身か騎士達が倒れる。






だからといって



ここで退くの違う。


「痛み分けで終われる訳ないよな」


自身は語りかける。

それと共に己の中にあった炎が溢れ出す。


纏えばそれが銀色に変色するがそんなのは関係ない。

痛かろうが辛かろうが、これを擦り付ける。





その為には…



真っ赤な炎が辺りを支配する。


そして、自身はつぶやく。

その言葉は自身にもわからない。


最早言語だったのかすらわからない。


でも、間違いなく。


それは強大なものへと変える。


大地を砕く。


それは炎が大地に叩きつけられたことによって起きたこと。


錆びついた騎士の体はその余波に巻き込まれて歪み潰される。

それと共に炎が修復するが銀色の炎が騎士の体の一欠片も残さずに燃やし尽くす。


続いて


大地を穿つ。


しかし、それには金色のような力強さはない。

それでも別の強さがあった。

高い貫通力に柔軟な軌道によって柄しか持たない騎士を貫く。


それにより銀色の炎は全身に回っていき欠片も残さず燃やしていく。


そして、最後の騎士。


自身は最後の炎を放とうとする。


しかし、体が動かない。


息が止まったかのように呼吸すら難しい。


おかしい、まだ銀色の炎に耐えられる。


そう思うが…その時に気付いた。


万能感が消えていく。

気がつけば無くなっていた剣が目の前に現れる。


そう、自身…俺が火鎚へ戻っていく。


そして、永炎の声が聞こえてくる。


『残念ながら時間切れだ』


嘘だろ。


まだ…あと少しなんだ!


届くはずなんだ!


まだ達してない。


必至に手を伸ばす。

先程までの力の使い方なら分かる。

銀火は消えていない。


ならやることは変わらないだろう!



「ゴホッゴホッ…何だこれ…」


口から血が出ててくる。

意味わからない。


何で…能力を使おうとするだけでこうなった?


炎を出そうとすれば全身から激痛が走る。


『当然だ。これは本来肉体が別の頃のお前の力だ。今の肉体のお前には扱えるものではない』


だが、さっきは…


『それはいっときとは言えでも肉体の枷を捨て魂そのものが優位に立っていた』


それなら今まで通りで…


「っっ!」


『言ったはずだ…今肉体と魂で扱える力が違うが故に拒絶反応を起こすと』


なら、今の俺は…




無力。





「それで終われるか!」


騎士は迫ってきている。

そして、なによりも銀色の炎は俺を蝕んでいる。


このままにしておけば優位も下手くそもない。


待つのは死だけだ。


今の俺にできること…


銀火により作られた空間の境界に立つ。

この境界から出れば銀火によって作られた制約は消える。

しかし、それには銀火の中に飛び込まなければならない。


『何をしようとしてる?死ぬ気か!』

「んな訳ねぇだろ。ここで俺が使える唯一の炎といえば…」


銀火の中に手を突っ込む。


『馬鹿者!銀火はお前が扱えない火が故にこのような炎でしか体現できなかったのだ!使えるわけがなかろう』

「そうだな!永炎と俺の力を持ってもこの火は使えねぇよ!でもなぁ…この体ならどうだ」


銀火が身体中に燃え移る。


しかし、不思議と熱くはない。


たしかに蝕まれる感覚はある。


それでも死ぬほどじゃない。


炎が俺の意思で動いてくれる。


剣に銀色の炎が移っていく。


騎士が迫りくる。

俺はそれに合わせて剣を振るう。


それは今までの炎とは何か違った。


空気を切る音も熱量も変わりはしない。


それなのに…


鎧を簡単に切り裂けた。

まるで物質を溶かすことを特化したかのように軽い感触だった。


「いっけぇえぇえぇえー!!!」


力をふり絞り剣に銀火を集中させる。


最後の一撃。


それが決まれば勝てる。



しかし、来てしまった。


急激に体の力が抜けていく。


銀火は俺の体のエネルギーも炎も奪っていったのだ。

それによって、動けなくなる。


気がつけば体に纏う銀火は消えており、目の前には剣を振りかぶる騎士がいる。


「…な、なんで…何でこんな時に!!」


忘れていた。

分かっていなかった。


銀火の本領は物質を溶かす熱量なんかではない。

エネルギーを宿す者のエネルギーを燃やすことだ。


だから、ただのエネルギーの塊でしかない騎士達に効いた。


だが、それでも…


「ここは負けたが勝利だけは貰っていくぞ」


エネルギーが枯渇した俺に銀火を扱える力は残ってない。

しかし、それなのに銀火は常に展開されている。


それの意味することは…


銀火は俺の支配下にない。


そして、この火が燃え続ける為の燃料がエネルギーそのもの…技法や魔法、超能力、固有能力といった力を使う為のエネルギーである。


それを豊富に持っている騎士は銀火の火種にしか過ぎない。


飛び火していく銀火は騎士へ纏わり付いていく。


この力の本領はたしかに決戦能力であり本来の俺なら扱うことは出来なくても自由に消すことは出来た。


そして、この空間における俺の敗北は燃料切れ以外無い。

それなら、この空間の存在価値は変わってくる。


「生きてはいないから言っても無駄だが教えてやるよ」


立ち上がる。


領域テリトリーって言うのはこうやって使うんだよ」


銀火の領域が騎士を中心に収束していく。

そして、残ったのは俺だけだった。


しかし、忘れていた。


この領域の…本質を


エネルギーを枯渇した中で目の前に広がっていたのは幾億の軍。


結局はこうなるのかよ…



折角…あの領域に追いつけたと思ったのに。


なのに…弱いまま。


濃密な死を予期した。


全ての軍勢は火鎚へと向かってくる。


ただ一人。


俺を殺す為に…もう、何の力もない俺を殺す為に。


「クッソ…結局、勝利は貰えなかったか」

『いいや、そうでもないぞ』



その瞬間、幾億の軍が消える。

いや、それは…その理由はすぐに分かった。



**勇馬side



俺は一息吐いていた。


彼に勝つ手段が思いつかない。


彼の力の何かを封印するにしてもそれをするだけのエネルギーが足りない。

そして、なによりも何を封印するかである。


この領域を封印したところですぐに封印は解かれる。


曖昧すぎるのだこの空間そのものが…


故に手を出せない。


そしてなによりも彼の力が俺の推測通り神使だと言うのなら…


一先ずこの領域テリトリーが展開してる時点で勝ち目はない。

だが、だからと言って長期戦は不可能だ。


この空間を維持する為のエネルギーはたしかにバカにはできない。

しかし、それはあくまでたった一人の個として扱った場合だ。


疾風の能力は人々の希望などを糧とするものだ。


これの持つエネルギー量は半端なはずはない。


さっきはそれを利用したがどうやら…これじゃないみたいだ。



正直、今の疾風のスピードに着いていくのはキツイ。

ただでさえ肉体が自身の能力に押し潰されそうな中で俺の出せる最高速度より速い。


剣を振るい打ち合う。

しかし、それも一瞬のこと…


圧倒的な力と速さの差によって受け流し切れずに体制を崩す。

だが…


限界突破コネクト10


身体中の血液が沸騰するような感覚に襲われる。


それは体を無理に動かしたから起きた反動とは違う。

身体中が拒絶反応を起こして血管の一部がはち切れる。


しかし、それを超速再生が再生させる。


はずだった。


「ぐっ!」


避けるには避けれた。

だが、避けた方が受けるダメージが大きかったのではと勘違いするほどの痛みが襲ってくる。


「やっぱり、この二つはもう使えないと見ていいな」


そう言って俺は改めて構える。

視界がぐらつく。


さっきからダメージを負って治してを繰り返していたからか頭も回らなくなってきている。


何か考えないと…勝つ見込みを


「勇馬…今何故笑う」

「え?」


わからなかった。

笑ってるつもりなんて無い。

今だってそうだ。


しかし、その言葉にどこか納得もいった。


「そういえばいつか覚えてないがお前とこんな喧嘩したな」

「これが喧嘩だと?」

「あぁ、喧嘩だ」


真っ直ぐ見据えて答える。


複雑なものなんていらない。


そうじゃ無いか。


これは喧嘩だ。


「だから…この喧嘩は俺の勝ちで終わらせてもらうぞ前回は負けちまったからな」


いつの話かは分からない。

それでも間違いなく俺はこいつとの喧嘩に負けた。



だから…



だから…










「壊れろ…絆と信頼の剣『俊王の剣』!!!」


剣を掲げる。

何も起きない。

いいや、それでいい。


それが正解だ。


「…何をするかと思えば何も起きないでは無いか」


それ共に疾風の姿が消える。


「いいや、起こしたさ」

「なら、そこで証明して見せろ!!」


目の前に現れる疾風に剣を振るう。

しかし、それは煙のように消える。


だが、それは分かっていた。


彼が今俺の後ろにいることも分かっている。


そして、彼は俺に容赦なく剣を振るう。


それを俺は歯を食いしばり受ける。


横腹まで逸らし最低限の傷で済ます。


「捕まえた…封印する『ミリカル王の剣』を!」


その瞬間、俊王と疾風のミリカル王の剣が封印される。

それと共に疾風の作り出した領域が崩れていく。


「俺の勝ちだ」

「いいや、まだだ」


疾風から放たれた膨大なエネルギーによって俺は吹き飛ばされる。


一体…どこからそんな力が…。


「そもそもが俺の力をこの剣と領域テリトリーに全て注ぐわけないだろう。しっかりとヘソクリはある」

「予測の範囲内ってことかよ」

「そうだな。お前なら領域を封印すると思っていた。そして、その代償はお前の力の全てのはずだ」


俺は黙る。


正解だ。

俺に残った力はない。

そう、彼の言う通りなら俺に勝ち目はない。





本当に彼の言う通りのだけで終わるのなら。



**


鏡、雪音、火鎚の3人は領域が消えて勇馬の方を見ていた。


現状3人にできることなんてものはなく、3人が3人力を出し切り何も出来ずにいた。


そこにそれぞれ悔しさはある。



しかし、この状況で彼が負けるなんて少しも思っていなかった。


勇馬は現在疾風の猛攻を受けようとしている。


それなのに彼は笑みを溢している。


それは気に触れたとかではない。

余裕でもない。


「言っただろ今度こそこの喧嘩は貰うって」


ただ、この互に全力を出し合える環境を楽しんでいるのだ。

そして、勇馬の体にはおかしなものが存在していた。


光の線が勇馬の身体中に走っている。


「あれは…」


雪音はそれが何か気付く。

よく見れば勇馬の光の線は地面にまで伸びており、まるで木の根のように光を吸い出してるように見える。


放射バースト


勇馬の冷たい声。

疾風のエネルギーの塊を相殺する。


いや、それどころかただ放射しただけの光は余力を残して弾かれていく。

勇馬はそのまま拳を握りしめて走り出す。


勢いよく背中から光を放出して推進力を得る。


それによってすぐに疾風との距離を詰める。

拳を振るう。

それに対処するように巨大なエネルギー纏って疾風は対抗してくる。


圧倒的な差。


しかし、それを崩すものがあった。

光に込められた熱はエネルギー差を覆して疾風に一撃を届かせる。


3人は笑う。


間違ってなかった。




彼が負けるわけなんてない


と。



「さてと、終わりにしようか」


その言葉が疾風から呟かれる。

それに警戒したのは3人。

しかし勇馬は警戒してない。


そして、最後の一撃を勇馬は振るう。


疾風はそれを避けようとする。

しかし、なぜかその行動の最中で止まる。


勇馬はそれを見て笑う。


「おせぇよ…馬鹿ーー」


轟音が響き渡る。

黒い何かが弾き出されていく。


そして、勇馬の言葉が最後まで聞こえることは誰一人としてなかった。



**疾風side



勇馬が力尽きたようで倒れ込んでくる。

俺はそれを受け止めると微笑んでしまう。


先程まで聞こえてきた殺せという意思はなく。


単純に保護しなければという意思しかない。


「…疾風…俺の力…どうなってんだ?」

「大丈夫だ。目を覚ませば答えを出せるようになる」

「そっか…」


そう言って勇馬は気を失う。


「まぁ、出せるかどうかはお前次第だがな。その体でよく勝てたものだ」


そう言って微笑むと鏡達の方を見る。


「さてと、3人には勇馬を頼んだ」

「え、うん!任された!」

「…ん…りょ、了解」

「…」


鏡と雪音は承諾してくれたものの火鎚は思い詰めたように何も言わない。

それは彼の知った真実が原因だろう。


だが、これは個人的な事情により一生自分の中に留めて貰いたい。


「さてと今回は俺から招いたと言ってもよくもやってくれたな」


疾風はじっと見てる場所には何もない。

しかし、疾風には見えている。



黒い黒い…いや、何にもないはずの虚無が。


『認識してるというのか…』

「(別に驚くことではないさ)」


俺は目の前の虚無が喋る言語を聴いて同じ言語で喋る。

それに対して虚無は言葉を失う。


「疾風…そこに何かいるのか?」

「気にすんな。火鎚先に帰ってろ」


火鎚達にそう言って俺は虚無に近づく。


『だが、何をしようがお前如きが…』


そう言って逃げようとする虚無だが俺の姿を見て言葉を失って止まる。


俺の見る限りでは虚無に形はない。

しかし、意思そのものは存在している。


『…な、なんだ…何なんだよ!お前!』

「あー、何に驚いてるのかと思ったら」


考え事は後にするか…

そもそもこいつ自体は人間が作った端末だ。存在そのものに意味はあれど価値はない。


『あり得ないあり得ないその力!そして…あれほど読めた感情が読めない!』

「まぁ、どうでもいいか…届けよ!奇跡と希望の剣『ミリカル王の剣』」


激流のようなエネルギーが剣を作り出す。


「(あり得ないもクソもない。あんたは俺の感情を読み喰らっていたようだが、残念だったな元より俺に感情は無いんだ)」

『ふざけるな!感情の無い人間など…』


その瞬間に放つ斬撃は虚無の全てを刈り取る。

どうやら、しっかりと俺に寄生させることによって弱体化働いていたようだ。


「ま、悪かったな…俺はあんたの思った人間では無い。しかし」


俺はそう呟きながら後ろを向き倉庫の出口に向かっていく。


「間違いなく俺は俺のことを人間だと信じている」


俺はそう言うと共に佐藤達が迎えの車を用意してくれていた。


「どうやら上手くいったって感じですね」

「そうだな、まぁ後はあいつら次第だ。強くするのも弱くするのも勇馬と火鎚次第って話だ」

「また、意地悪して」

「意地悪じゃねぇよ」


佐藤は何か勘違いしている。

俺はあいつらのリーダーでもあいつらのメンバーでも無い。

そして、なによりも…


「俺はここの佐藤達のリーダーで…あの二人はそれぞれリーダーなんだから当然だろう」


俺がそう言うと納得したのか佐藤は顔つきを変えて車の方に向かっていく。


「あ、あとリーダーなら俺の苗字は加藤だといい加減覚えてください」

「…悪りぃな。帰るぞ加藤」

「はい!」


車に乗ると眠気が一気に襲ってくる。


「ま、今回の喧嘩は俺の負けだ弟」


そう言って俺は眠るのだった。

中々に遅くなりました。


これからもこんな感じに期間が開くと思いますが頑張っていきたいと思います。

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