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事後確認

 疾風は現在、かったるそうに仕事を進めていた。

 その主な仕事というのは王国で起きた事件の事後処理である。


「あーったく、何つーか国名が何でこうも長ったらしいんだ?えー何何…ロクリド アーマサイト テルズ ガ ミリカル ブレイス エネルジア アトモンス グルジアム アールシュ王国。もはやネタかよ」


 書類に国名が正式名称で書かれてるのをずっと見ていたせいかやけに長い国名に頭がパンクしている様子だった。


「全く、勇馬も勇馬だ!突然どっか行ったかと思ったら変なメールの件について押し付けやがって…」


 愚痴は次第にその場にいない存在などにまで飛び火していた。

 別段勇馬に対して何か悪感情を抱いてるわけではない疾風だが、僅かに存在する不満などは存在しており、今この場において日々の愚痴をただ、ぐだぐだと詰め合わせて、自棄で仕事を進めている様子だった。


 そんな様子に水差すようにやけに明るいトーンで話しかける存在がいた。


「あーあー、結構大切な資料じゃないの?私、知ーらない」

「聖十院姉達か…何の用だ?」


 聖十院 鏡である。

 後ろには鏡の影に隠れるように雪音も付いてきていた。


「何の用だ?って何よ。あなたがロクリド…えーっと、とりあえずアールシュ王国の調査資料や活動報告を紙にまとめろって言ったんでしょ?持ってきたわよ」

「と、言ってるけど鏡は面倒な活動報告の執筆は私に任せて他二人のを取りに行ってただけ」

「だ、だからこうして私が全員分まとめて持って行ってじゃない」


 鏡はそう言って活動報告などの資料を机に置く。

 疾風はそういえば頼んでたと若干の後悔をしながらも目に通していく。


「まぁ、正直正式な書類としてはダメだがとりあえず俺用だからどうでも良いか」

「普段なら小言がうるさいのに今日はやけに投げやりね」

「正直小言はとても言いたいが…それをする元気が今の俺にはない」


 そう言って疾風は再び机に齧り付くように書類仕事に入る。


 と思われた。


 ふとして、あることを思い出す。


「そうだ、刃月の口での報告に妙なのが…それと燈の方も何やら疑問が残るな」

「あ、いつものに戻った」

「ほんと、唐突ね。何がこの男ののやる気になるか分かったものじゃないね」


 そんな皮肉めいた言葉も集中に入った疾風にはもう既に聞こえぬものであり、一心不乱に燈と刃月の書類を眺めていた。


「なるほどな…これは勇馬が持っているとされている転生の輪に対して再認識する必要性があるな」

「え?何何!勇馬がなんだって!?」

「姉さんは逆にわかりやすい気もする…まぁ、そういう私も分かりやすく聞きたがってるけど」


 どこか温度差はあるものの二人の意見は概ね一致しており耳を傾けていた。


「不確定でまだ裏が取れてない情報だからあまり開示する気はない、と言っても無理矢理に書類を見出しそうだからなぁ」

「強行するよ。喧嘩上等だよ。殴られる覚悟しておけ、てことで聞かせろ」

「姉さん…それちょっぴりヤクザちっく、でも私もそればりに交戦モード入るけど?」

「うわー、今まで結構な勇馬信者は見てきたが間違いなくお前達は別格だ」


 二人の気迫に押されて渋々と疾風は語り出す。


「まず、燈の報告にあったのは現状の世界の様子だ」

「世界の様子って…現在の世界情勢なんて長年眠ってた燈が知ってるの?」

「勿論、そんな世界情勢とかなんてスケールではない。まぁ、言うなれば一つの宇宙ってレベルだな」

「あー世界っていうのはこの宇宙全体を指すのね」

「と言ってもそれは本質的な意味であり、客観的にみるならば現状の複数連なる世界群のことを世界と呼んでいるとか何とか書いてあるがな」

「はぁ?意味分かんない!」


 疾風の言葉に鏡は理解を諦めるように近くにあったソファーに寝そべる。

 しかし、そんな中で一人理解するものがいた。


「つまり、宇宙というのは一つではなく星々のように幾つも存在する。そして、宇宙を星々と見立てた際、その宇宙(星)達を入れるより大きな大宇宙、それを世界と呼んでいるということ?」

「その通りだ雪音…というか、今の言葉の並びでよく分かったな」


 疾風の称賛の言葉に雪音はドヤ顔を決めて胸を張る。ただし胸は三つ子の姉である鏡よりないが、そして、妹の雪菜ほど小さくもなくいかにも中途半端感じではあるが…。


「そして、えぇっと、何故それを世界と呼ぶかとかは誤解覚悟の言い方にはなるが元より世界は一つだったと書かれているがその辺りは多分気にしなくて良いだろう」

「えぇ、なんかやけに重要そうなのに良いんだぁ…」

「どうせ干渉できない世界の話だ。それに触れること自体バカバカしい。それなら今関係ある情報を考える方が建設的だ」

「まぁ、多分言葉のそのままの意味なんだろうけど捉え方によっては今ある宇宙が一つの宇宙として収まっていたように聞こえる」


 サッパリと理解をしようとしない疾風をよそに雪音が考察を繰り広げていくがそんなことを気にせずに疾風は話を続けていく。


「んで、話を戻すと世界というのは本来生まれた生命が死ぬ…いや、正確に言うなら魂が死ぬと共にその魂を分解し別のと結合することによって新たな生命を生む」

「えーっと…うーん…と…雪音噛み砕いて分かりやすくして」

「少し違うと思うけど、例えば幾つかの大破した機械があったとして、元は同じ種類と言えでも別々の機械だった同じく大破した機械などで正常な部分を繋げていくことにより最終的に完璧な状態な機会に直すって感じかな?」

「まぁ!俺も概ねそんな印象だ。多分意味は違う気がするがな…。それで、話は戻すが今世界にその過程はなく、魂はそのまま輪廻へと還、生まれ変わる要するに転生という過程となる」


 そこで、寝息が聞こえてくることに疾風と雪音は気がつく。

 どうやら、理解の許容量を超えたせいで鏡が眠ったようだった。


「まぁ、今のを噛み砕くと分解して結合という修復作業を無くしてそのまま再利用してるって感じ?」

「雪音の見解はおそらく正解だ。というより、俺も完璧には理解していない。しかし、この情報というのはとても重要なものと言える」

「要するに私達が転生の輪だと思っていた力は存在していない可能性が浮上してるということ?」

「または、その力の本質は転生ではなく輪廻の過程での記憶の保持である可能性の浮上。何にしてもこれに関しては今の俺たちに理解できるものではないということだ」


 疾風がそう締め括るが雪音はまだ考える素振りを見せていた。

 それを知ってか知らずか疾風は刃月の資料を捲りつつ次の話へと話題を転換していく。


「正直言えば今回俺は刃月と零に関しては助けられないと踏んで見捨てていた」

「そうなの?…でも、二人は…」

「そう、燈と同じ症状に掛かっていて命を助けるのはほぼ不可能に近い状態だった」


 ひたすらに黒い何か…


 それを纏っていた3人を救うことは疾風にはできると思っていなかった。

 そして、彼が助けると選択したのは燈だった。


 しかし、二人は助かった。


「強大な存在の介入。赤と黒の髪が入り乱れた女。それが刃月と零を救った」

「敵が味方か…と言ったところ?」

「そうだな、敵か味方は知らんが俺から見たら怪しい奴ということは間違いない」


 疾風は自分の持つ情報網を駆使して調べたがそんな女の情報は一切なかった。


「そして、もう一つ。会ったことあるはずがないその女を刃月は知っている気がしていたそうだ」

「それは何時の話?」

「うわっ、姉さんが起きてる」


 唐突に目を覚まして話に入ってくる鏡に雪音は驚く。鏡は「私が起きてちゃ悪い?」と言いつつ疾風への質問を続ける。


「それでそれは何時の記憶?現在いま?滅んだ場所?それとも…私達が持つことのない記憶?」

「ん?どういうことだ?」

「さっきからあなた達が話してることを合算した結果として言うけど…これって私たちの言う原初…滅びを迎えた世界より前の世界って存在するんじゃない?」

「なるほどな」


 疾風は考えるが首を横に振る。


「例え存在したとしても古い記憶は人間の魂の都合上、消えるらしい。もし、あったとしてもそんな昔の話ではない筈だ」

「そう、難しいことは私には分からないけど…とりあえず私たちのすることは過去の精算。そして、今を精一杯生きることで合ってるよね?」


 鏡の言葉に疾風と雪音は目を見開く。

 そして、二人して僅かに笑みを漏らす。


「そうだな、過去ばっかり見てても馬鹿馬鹿しいな。一瞬一瞬ですらブレっブレの人間なんて沢山いるのに過去だのどーだの言い続けるのはアホらしいな」

「まぁ、それでも私達がしてしまったことや因縁くらいには決着付けないとね」

「そうそう、私たちのしたいことはそんな難しいことじゃないでしょ!余計なものを入り混じらせるから複雑になるの」


 あたかも簡単なことのように語る鏡。


 しかし、それは正解なのかもしれない。


 結局は勇馬が元々掲げている目標というのは1日1日大切に生きていくことである。

 それは誰一人として欠けることは許されず、そしていずれ来るかもしれない死に対して後悔がないように。


 しかし、この時は誰も知らない。


 その理想はすでに破綻していることには



 **



 刃月は勇馬と比べ一週間ほど遅れて帰ってきていた。

 部屋に戻り、彼は考えていた。


 あの時、見た夢を…



 **刃月side



 あれは違和感だらけだった。


 結局は夢の話。


 しかし、それはどこか無視できないものだった。



 場所は暗い路地裏のような場所。

 遠い向こう側は夜にも関わらずネオン街か何かなのかとても明るかった。

 そんな路地裏で俺は3代目真実を追い詰めていた。


「おいおい、この大和国俊町で物騒なことはやめてくれよ」


 彼はそう言って俺…俺達を嗜める。


 しかし、俺達は牙を剥く。


 月光の照らされる空間で俺は剣を取り出して3代目真実に剣を振るう。

 彼は危なげな様子で剣戟を避けていく。


「かかった!」


 俺は剣を鞘に収める。

 それは斬撃の合図。


 斬っていた空気が引き裂かれていきその空気に接している彼もまた切られる…筈だった。


 その代わりにパリンッとガラスか何かが割れるような音が聞こえる。


 そして、見てみると彼は無傷そのもの。


「中々に避けにくい良い攻撃だった。でも、もう少しびっくり箱みたいなものがあっても良いんじゃないか?」


 彼は俺の力をそう評価してニヤリと口を開く。


 しかし、攻撃を仕掛け始めたのは俺だけではないはずだ。

 周りを見ると他の仲間も俺と同じような表情をしていた。


 そう、仲間の炎が、水が、風が、雷が、氷がありとあらゆる要素が同時に砕かれたのだ。

 その上で俺たちに同時に話しかけていた。


 よく見れば口の動きはただ「あ」と発音してるだけである。

 なのに、俺たちは明確にそれが言葉として通じた。


「知ってるか?エネルギー同士がぶつかる際に相殺されることがある。それは互いにその力が殺し合って結果的に打ち消されることを指す」


 そこから彼は「ならば」と続ける。


「防ぎ切るという行為は無駄の塊とは思わないか?要素エレメンツ諸君」


 彼はそう言って笑う。

 俺たちは寒気を覚える。


 それは彼の笑いからか


 それとも自分たちの正体が既に気付かれていたからか


 いや、それはきっと両方だろう。


 そして、彼はこう言い放つ。


「どうだ?俺と一緒に来てみないか?」

「俺たちは敵だぞ」


 リーダー的な存在だった炎の要素が反論する。


「そんなものどうだって良いんだよ。真実は基本的に側近をつくるものだが、俺はまだ最高の仲間に出会えてなくてよ。どうだ?お前達なら信用できると思う」

「そんな根拠どこにあると言うんだ!」

「あるよ」


 彼はそう言って笑う。


「だって、お前達は俺を殺す為にこんな場所を選んだじゃないか。別に嫌なら嫌と言ってくれ。でも、神を殺すとか宣って人の命を徐ろにする奴らにお前達がいて欲しくない」


 彼はそう言ってこの場から去ろうとする。


「逃すと思ってるの!」


 風の弓が放たれる。先程のは連携のためのもの…今放たれたものは確実に殺すための力。

 それは周りへの配慮はなく暴風が辺りに吹き荒れる。

 それは壁を抉り、地面を抉り彼に迫る。


 この場の誰もが思った。


 これで終わった。


 それはそうだろう。

 彼が俺たちの攻撃を防いだ手段は分かっている。

 それはエネルギーを圧縮して作った障壁である。


 しかも、その障壁は砕けているのは音から確認している。


 故に彼に勝ち目ない…その筈だった。


「全く人の話を聞かない人がいて困る」


 そう言ってただ彼は障壁を作るだけ。

 たったそれだけだった。


 そして、ぶつかった瞬間、案の定衝撃が割れる音が響き渡る。

 しかし、結果は予想とは違う形となっていた。


「言っただろう。防ぐなら効率よくと」


 彼は平然として立っていて未だにそんなことを言っていたのだった。



 **



 刃月は目を覚ます。

 気が付けば眠っていたようでまた同じ夢を見ていた。


 外を見てみれば夜である。


 刃月の体は極端に光に弱く夜という空間に於いても油断ならないのである。

 彼は外を見たのちすぐに遮光カーテンを閉め切り電気も付けずに乱れていた体に巻き付いている布を整える。


 これでも完全に光を遮れる訳ではなく後は自身の能力などで光を通さないようにしている。

 それだと目は見えないように思えるが彼の目は光だけで認知してる訳ではなく超音波のように物体の位置を把握しそれを脳で処理して目で見てるような結果を得ている。


 そのため世界は白黒であり色というものを殆ど見たことがないのである。


「何時、何処の誰になっても呪いのようにこれは纏わりつく」


 自身の体質に皮肉を漏らしながらも彼はシャワーを浴びにいく。


「この時間なら共用シャワーの方がいいな。あっちの方が光が無い」


 彼はそう言って共用の風呂の方へと歩いていく。



 そうして、彼がシャワーを浴びていると突然電気が付く。


 咄嗟のことで刃月は光を遮ることができなかった。

 そして、その場で電気をつけた男はと言うと…


「え?刃月…お前…」


 火鎚は戸惑っていた。

 夜眠れなくて一風呂浴びたろーと言うノリで入ったら光がダメな刃月がいるのである。


 そして、刃月もまた戸惑っていた。


「痛く…ない?」


 そう、彼は光を浴びても一切焼けるような痛みがないのだった。

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