荒廃都市での戦い 5日目〜6日目1
「んんっ…」
刃月が目を覚ますとそこはコンテナの中だった。
起き上がり、周りを見回してみると隣の簡易ベッドには深く眠った勇馬の姿が見える。
そして、もう一度辺りを見回してから刃月は口を開く。
「…生きてるのか」
「まぁ、九死に一生って感じだけどね」
刃月の言葉に反応があり声の方へと向くとそこに椎名がいた。
「何故…お前が…」
「何故とは心外ね。ここまで運んだのは私なのよ。まぁ、起きたし他の人を呼ぶわ」
「…助かった…感謝はする」
「素直じゃない人」
椎名は刃月の反応にため息を吐いて他の人たちを呼びに行く。
「素直とかと言うよりお前は…一応敵だろ」
小さな声で呟く刃月の言葉を誰も聞くことはなかった。
刃月自身何か分からぬ立場でありなんとも言えない。元仲間でもあった椎名にどう接したらいいか悩んでいるのだった。
「刃月さん、起きたんですか」
悩んでる間に人が入ってきており、彼の目の前にいるのは健斗だった。
「あぁ、まだ体は痛むが…俺がどれだけ寝ていたか分かるか?」
「大体1日です。もう、夜も暗い時間ですけどね」
「1日…無駄した訳か」
健斗はその刃月の言葉を否定する。
「いえ、俺達は貴方達二人に頼りすぎました。その分、今休んでもらわないと困ります」
「そうも言えない…後2日しかない…そんな中で解決の糸口も何も見えてない…この状況で1日は大き過ぎる」
その言葉に健斗は言葉を詰まらせる。
健斗だって刃月が寝てる間に何もしてなかったわけではない。しかし、それでも今日一日で進展は無かった。
この5日間何一つ進展もなく、一週間が過ぎようとしているのだ。
刃月達は一週間…その制約の下動いている。
その期間…それに意味が無いとは言えないことなのだ。
「俺達はこの状況に抵抗できる数少ない存在と言える…」
「は、はい…俺も勇馬さんのおかげで…」
「だが、それもいつまで持つ?」
「え?」
刃月は薄々感づいていた。この環境が日を追うにつれて悪化していることに…
おそらく、これを予測していたからこそ一週間と言う制約が存在している刃月はそう考えていた。
「そ、そんな…まさか…」
「まさかと言うが本当にないと言えるか?」
そのことを聞いた健斗は嘘だと断じたかった。
しかし、否定材料などどこに用意はされておらずただ、違うと思うことしか許されていなかった。
そして、それは…
「あー、刃月が健斗を虐めてる!いっけないんだぁ〜」
「でも、言ってることは事実、本当にそうなってる」
のんびりとした様子で入ってきた鏡と雪音によって肯定される。
「やはり…そうだったのか」
「…うん、私も気になってて…今日入り口を見つけて分かったの」
「私は雪音に言われるまで気がつかなかったけど入り口からどんどんと溢れ出てきてるってことは観測したよ」
「それは…狂化の原因か?」
雪音と鏡は頷く。
それをみた刃月は悩む。
狂化の元となる場所を見つけて進展できたことが嬉しい反面その奥には何があるか分かっていないと言うのが不安を増大させていた。
「考えても仕方ない…作戦は立てた全員が帰ってきたら話そう」
刃月がそう言うと誰からも反論は存在していなかった。
**
次の日となり、刃月達は暗い暗雲の中進んでいた。
勇馬は未だ目覚めずコンテナ内で寝かせたままほぼ全員が作戦のために動き出していた。
「いいか、一人も欠けるなよ…いざと言う時は健斗、斎藤、加藤の三人が引き付けてくれ。空、悠乃、雪音、鏡の四人は絶対に奥まで行け」
刃月は今出た七人と行動を共にしており、他の祓魔師達は入り口までの道を開くための囮をお願いしていた。
「作戦の概要はわかってるけども…なんで私と空が?」
「お前達はその場所に行けば分かる…まぁ、必要かはその時によるが」
そう言いながら鏡と雪音の案内の元、入り口までたどり着く。
「まさか、こんなところにハッチがあるとはな…」
「瓦礫が…あって…気づかなかった」
「雪音が見つけたのに何故に他人事…」
そんな軽口を叩きながらハッチを開けて一人ずつゆっくりとハッチに入っていく。
「っぅ…」
「健斗…まさか…っぅ…自分もか…」
突然蹲る健斗に駆け寄る加藤だが、限界が来たのか加藤もまた蹲る。それと一緒に斎藤も壁に肘を着き、苦しそうにしていた。
「流石に三人にはまだ…三人とも…地上を掃討を頼む」
「…いえ…でも…」
「その調子でついて来られる方が迷惑だ。それに足止め役は俺がいるから大丈夫だ」
刃月がそう言うと…三人は一言謝ってからゆっくりハッチから出る。
そして、残った五人は互いに見合わせてからゆっくりと進み始める。
中は入り組んでいる上に地上より狂化の原因となったものが濃く正確な位置が掴めずにいた。
そんなことをしてると…
「ちょっと…失礼」
そう言って背後から来る存在があった。
全員は咄嗟に反応する。
鏡は鎖を出して相手を捕らえようと
雪音は翼を出して裂こうと
空は咄嗟に出した剣で貫こうと
悠乃は拳を握りしめて振るう
刃月はそれを見て敢えて何もしない
衝撃が埃を舞わせる。そして、声の主はどうやら難を逃れたようで人影がわずかに見える。
「流石にこれは酷くない?」
埃が晴れるとそこにいたのは椎名だった。
彼女は昨日は疲れていたようで刃月と話した後は先に眠っており作戦を聞いていなかったのだ。
それもあって刃月もそのまま作戦内容は言っていなかった。
「私は気がつけば団体行動をしてる中でテキトーに着いてきたのだけど合ってる?」
「そもそも、お前の目的はなんだ?」
「黙ってても仕方ないか…私の目的はここにある資料を全て処分すること」
意外なことで思わず刃月は黙ってしまう。
「となると、利害は一致してる訳か」
「そう、だからこその協力関係…まぁ、ここから私は別行動するつもりだったけど」
その様子を知った鏡は代わりに椎名の話を聞く。
「それならそれでいいんじゃない?邪魔される訳でもないんだしさ」
「あ、あぁ、そうだな…好きにしてくれ」
刃月も問題ないと思い頷くと椎名は一人でどこかに行ってしまった。
それを見送った刃月達は一つ一つ部屋を見て回ることになるのだった。
「ここは…資料室か?椎名より早く見つけるとはな」
「そうだね…まぁ、ここの資料を見れば対処法が分かるかもしれない」
そう言って刃月と鏡は資料を見る。
他三人はというと…
「この内容…理解できるか?悠乃」
「無理…パンクする…雪音ならいける?」
「私は…………無理っぽい…」
なんて、戦力外状態だった。
「どうやら、いろんな実験に手を出してたみたいだぞ」
「とは言ってもこの研究施設では主に三つのことをやってたみたいだね」
「一つは今回の件…えーと、進化実験…これだな。鏡そっちは他にあったか?」
「いや、一つ見つけたけど何故か黒く塗りつぶされたのばかりで読めない…それと、もう一つの資料が見つからない」
鏡が見つけた資料に書かれたのは『ーーー真実クローン実験』だった。
しかし、殆どが黒く塗りつぶされておりまともに読むことは出来そうになかった。
「とりあえず、今回の作戦でどう…」
資料を読んで安堵しようとしたその時…
どうしようもない怖気にその場にいた全員が襲われた。
「な、なんだ…これは」
刃月は探ろうとしても分からず息を荒くする。
「これは敵か?なら、やべぇぞ」
空がそう呟くが悠乃が首を振る。
「やばいなんてレベルじゃない。危険じゃない?」
「違う…これは…人間の気配…でも、どこか冷たい…」
雪音は膝から崩れ落ち、体を震わせて呟く。
「感知が苦手な私でも引っかかるとなると相当だね」
しかし、鏡だけは呑気にそうぼやいていた。
それでも毛は逆立ち、全員が足を震わせ、恐怖で立ちすくんでしまっている。
「これは…俺が行くしかないか」
「ごめん、でも頼るしかないみたいだね」
刃月の言葉に鏡は一言謝るとそのまま二手に分かれるのだった。
**
刃月が向かう先は鏡達とは真逆の方向だった。
一人ゆっくりと歩く道の先には危険な存在がいると思われる場所だった。
そして、それに関連した資料もまた持ち出していたが…
「殆ど全てに黒く塗りつぶされた跡…か」
先程のクローン実験についてだった。
そこに書かれているのはある存在を疑似的に再現するための実験と書かれており、そのための遺伝子情報を使ったこと…
そして、錬金術師について書かれていた。
「かの者は始まりの者…かの者らによって世界の調停は行われ、大いなる力を生み出した…かの者を人はーーーと呼ぶ…か」
この内容だけは刃月の目に止まり、そして一番気にかけていた文だった。
特別何かあるわけでもない。しかしどうしても何か不安にさせる一文だった。
そうしてる間に気配は濃くなっていき刃月はある扉の前で止まる。
「この先に…いる」
ゆっくりと扉に近づく。
自動ドアのようで刃月に反応して扉は開く。
そして、刃月の目の前に広がるものは予想の範囲内ではあった。
「随分と酷い有り様だな…」
目の前にあるのは一つの大きなカプセル型の水槽…中に入っているのは人間であり、そこから濃密な気配が漏れ出ていた。
そして、刃月が辺りを見渡すと他にも沢山の水槽があるが、中には同じく人間が入っている。
中に入ってる人間は目の前の以外は全員死んでいると言う違いを除けば…。
「誰…侵入者?」
刃月が水槽に気を取られていた時、部屋の隅から声が聞こえてくる。
咄嗟に振り返るとそこにいたのは一人の少女だった。
「お前こそ何者だ」
「私は…試作機最高傑作、零」
「俺は…」
「答えなくていいよ」
名乗ろうとする刃月に零からの静止がくる。そして、ゆらりとした様子で零が刃月見る。
「今から死ぬのに名乗らせるのは悪いからね」
次の瞬間、刃月の体を貫くものがあった。
そして、先程まで無手だった零の手には一本の剣が握られていた。
「…ぐっ…がぁっ…はぁはぁ…何の…感じも…しない…だと」
そう、何の予兆も無かったのだ。
決して刃月が油断していた訳ではない。
何のエネルギーの反応もなしに唐突に彼女の手に剣が存在していたのだ。
「ほぉ、確実に心臓を貫いてるのに生きてるのか」
「……ぐっ…がぁ…あ…いにく…とっ…」
なんとか発声しようとするが時間が経つたびに刃月の余裕がなくなっていく。なんとか剣を抜こうと手を伸ばすが
「手伝おっか」
その言葉とともに刃月は浮遊感を味わい剣が胸から脇へと切り裂く。
「…ガホッ…ゴホッゴホッ…はぁはぁ…はぁ…はぁ…厄介な…相手だ」
刃月はそう言って剣を抜く。
「ほぉ、まだ抵抗する気なんだ…まぁ、どちらにしろ終わりだけどね」
零が動くそれに合わせて刃月もまた剣を振るう。
**勇馬side
体が重い…思うように動かない…
この感覚を知っている…大きな力を使った後にいつも起きることだ…
うん?おかしい何かがおかしい。
何か分からないがどこかおかしい。
こんな感覚…俺はいつ味わった…そもそも俺の知ってる感覚よりも軽微だ…
そう思えば動ける気がする。
そう考えれば動ける気がする。
後一歩…少しで体が動く。
ゆっくりと目を開く感覚と共に眩しいと思え明かりが入ってくる。
「…俺は…」
目を覚ますとそこはコンテナの中と思える天井があった。
ゆっくりと立ち上がり中を見回るが誰もおらず一人の空間ができていた。
チラリと作戦を組み立てる時に使っていた箱を見るとそこには一枚の紙があった。
「これは…俺宛か…」
それを見て俺はおおよその作戦を知り、どうしようかと途方に暮れようとした時…
嫌な胸騒ぎがした。
どこか落ち着かないような感覚…まるで呼ばれたような…いや、違う懐かしい感覚に近いものがあった。
そして、それを何か知ろうと外に出た瞬間…それは濃密な気配として辺りを支配した。
俺の周りの地が歪み俺を捕まえようとしてくる。
なんとか、それを避けるものの逃がすまいと大地がうねり飲み込もうとしてくる。
「一体これは…何が起きていると言うんだ」
大地が生きているかのように…
瓦礫が生きてるように…
俺に迫りくる。
やがて、逃げ場は無くなっていきそれに俺は捕われる。
**
気がつけば目の前には水槽があった。
地面には戦闘跡が残っており、遠くから金属同士がぶつかり合うような音が聞こえてくる。
俺は目の前の水槽に目を奪われていた。
「人…いや、お前は…」
段々と記憶が蘇ってくる。
そして、目の前の存在がなんなのか認識できていく。
そう、彼は…水槽の中にいる存在は…原初の時代、勇馬よりも前の存在を疑似的に再現しようと作られたクローン…であり、体の半分が機械の存在…二条 燈。
おそらく、それと同一の存在とは言えないだろう。しかし、間違いなく俺の感覚が彼は二条 燈だと言っていた。
そして、水槽の中にいる燈が目を覚ます。
バリッン
と水槽が破壊される音が辺りに響く。
そして、その水槽からゆっくりと歩みを進めてきていた。
警戒して半歩下がるが漏れ出てくる殺気から足が僅かに震えていた。
「…ろす…殺す…殺す殺す殺す!」
出てきた燈からは明らかに異常なまでの殺意が存在していた。純粋に向けられる殺意それに恐怖をしながらも俺は剣を顕現させる。
「てか、もう少しまともに言葉を喋らないか?」
「お前は…俺の敵だ!俺から全てを奪った敵だ」
その言葉に僅かに俺の心が冷たく沈む。
「何を言ってるか分からんが…お前の何を俺が奪ったと言うんだ?」
「お前が…お前がいなければこうして苦しむ世界に…生まれるはずがなかった!」
「それは昔にもした問答だ…今更引っ張り出すな」
昔にこの問答を彼としたことがある。
いや、彼と初めて会った時その問答を何度もしたことがある。
「暴走…いや、何か意図的な感じがするな」
「うるさい!うるさいうるさい!お前に何がわかる!こんな絶望しかない世界!救われない世界に一体どれだけの生きる価値が存在する!」
「うるさいのはお前だ燈。世界の価値を決めるのはその個人だ」
俺の一言にこれ以上の問答はなかった。
代わりに…
大地が揺れ動く。
唸りでは無く地盤そのものが砕ける音が聞こえる。
そして、目の前から迫りくるのは巨大な岩の塊。
それを切るがすぐに右から左からと地から作られる巨大な岩の塊が拳のように迫ってくる。
「流石に砕くのはキツいな」
少しずつ大きくなっていく岩に切るのは無理と判断して剣を使わず避けることに徹する。
そして、避けれない攻撃は限界突破によって引き出された身体能力によって破壊していくが…
「ぐっ!壊れねぇ…硬いってのはあるが…出力が安定しねぇ…」
瞬間的に使う限界突破の場合、一定の出力で動き続けることよりも燃費はいいがその代わり出力が安定せず時折、岩を破壊できずに吹っ飛ばされていた。
そもそも、勇馬は完全に回復しておらず現状エネルギー量が普段より少ない状況だった。
「くそっ…やけにエネルギー量が少ない…」
悪態を吐きながら立ち上がるとすぐ下の感覚が消える。
どうやら、地面そのものが抜けたようで落ちていく。
ここでもまた限界突破を使用して宙を飛びことなきを得るが余計なエネルギーを使うことができない。
「これは…骨が折れるな」
現在のエネルギー量からして簡単な格闘戦をするしかなく普段のようにガンガンにエネルギーを使う戦い方をしてしまえば長期戦に対応できない。
そんな状況のために他の能力を極力使うことができなかった。
大地を踏み締める…
燈に近づこうと一歩…また一歩と踏み締めていく。確かな感覚が自分の中にはある。
それは…
今のままじゃ負けると言うことだった。




