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荒廃都市の戦い 4日目の2

暗い暗い暗雲が覆う中、俺たちはようやく合流ポイントであるコンテナのあるポイントに着いたのだった。


いま、ここにたどり着いているのは俺とアリア…そして、コンテナの中に見える影が一つ存在した。


「敵か…それとも」


俺の呟きにアリアはしっかりと反応して動けるように体制をとってくれる。

コンテナの中は最低限の光があり、覗けば見ることは可能である。

俺はゆっくりと慎重に中を覗いていく。


考えられる可能性としては三つ…仲間か、狂化した人間か…希少にも天然に能力があり、生き残った火事場泥棒である。

もちろん三つ目はただ単に安全な場所を見つけたくて飛び込んだだけかもしれない。


しかし、三つ目の可能性が低いのにも関わらず、どこか感じたことのない気配を感じていた。


俺は意を決してゆっくりと中へと一歩進み、その正体を見る。


すると…そこには


「明日美?」

「お、勇馬か…悪いな勝手にこの二人の来ていた連絡を見せもらって入らせてもらった」


そこにいたのは一人の少年、明日美だった。

彼は苦笑いしながら簡易ベッドで寝ている加藤さんと斎藤さんを指差す。

二人にはある程度、傷を治した後なのか、不自然な形で塞がっている傷跡がチラチラと見える。


「なんでここにいるかは気になるが…とりあえず二人を助けてくれたみたいだな」

「まぁな、特に少し細身の方は右腕がほぼ切るしか無い程だったが、何とかなったよ…あとは暫くは安静にしておけば目を覚ます」

「そうか…なら、よかった」


ほら、安堵の息を吐いて武器を鞘に収める。


「…」

「どうかしたのか?明日美」

「いや、なんで武器を消さずに鞘に収めてんだろと…顕現の維持には確かにそんなに力は使わないけど…」

「あぁ、そのことか」


前にも言ったように俺達は基本的に武器は自身の魂とかに刻まれており、その武器を簡単に現実として形を作ることができる。

その強度は本人の資質によって変わるが常に丸腰ではなくなるという点がかなりいい点となる。


「まぁ、俺の場合はこの鎖が原因だな」


俺はそう言って前に雪菜と相談して取り付けた封印の目標となる鎖を可視化する。

実際、鎖というのにはなんの役割もない。しかし、わかりやすいように鎖という形で俺達は戒めているのだ。


「なるほどな…見たところ能力の制限系だから、もともとエネルギー量が少なければいちいち顕現するよりそのままにしておいた方がコスト的に良いということか」

「なんか、1言うと2、3まで理解するな」

「まぁ、これでもお前達と同じように俺は色々と精通してるからな」


そう言って明日美は笑うと暇そうに頬杖をつく。


彼の言った通り、元々のエネルギー量が少ない。

それは剣を顕現するのに必要なコスト…と言うことではなく、俺自身の話である。細かく言うなら、俺は確かに強い部類に現在入っている。

しかし、俺の持つ俊王は武器としては破格の高性能なため、顕現だけでもかなりのエネルギーを要する。


本来、武器というのはその人の持つ力の補助として使い、己の持つ力の性質を強める傾向にある。

例えばこの前の『桜霊樹の弓』というのは霊格というものに指向性を持たせて強力な矢という武器に変える性質である。そして、多少の顕現の仕方などに応じて性質の変化などを行うことだってできる。


しかし、俺の場合は違う…武器そのものが強力な力や能力を持ち、不思議なことに俺という存在の持つ能力とは別の能力を持っている。


故に例えば銃系統の武器のようにアタッチメントを付けるように多少の性質の変化などの融通が効かずに不変の武器としてしか扱えないため、顕現回数に制限がある中で顕現のし直しなどで大きく性質を変えることなどができず、いちいち、消すと無駄にエネルギーを喰うのである。


「えっと…味方…ということでいいんですか?」

「あ、アリアもいたな。大丈夫だ。今のところは味方みたいだ」

「忘れてたんですね…」

「…すまん」


とりあえず、半分は集まった…あとは二人が何を持って帰ってくるかでこれからの行動が変わってくるだろう。

今のところだと、このまま強行で地下施設を探し出さないと一週間では終われないだろうな。


「…あの、このあとはどうなるのでしょうか?」

「アリアか…どうなんだろうな。ある程度の予定は建てられても正直こう言ったことは得意じゃなくてな」


俺はこれからの予定は言わずに首を振る。リーダー格みたいに扱われてはいるが、あくまでそれは俺を中心として始まったことだから。


それだけに過ぎなく、それの中心だからリーダーとして扱われる。それでも、俺自身の頭では指揮などと言った仕事は向いていない。


「これから、どうなるのかすら予測付かないのに予定なんて建てられるかっての」

「…あはは、そ、そうですね。私もそう言ったことはからっきしなのでよくわかりません」


そう言い合って俺は大きく息を吐いて姿勢を楽にする。前世とかで行ったことがある。そう言ったことがあったとしてもこの体はそんな経験なんてないただの中学生の肉体だ。疲れが溜まっていても不思議なんてない。


俺はゆっくりと目を閉じてから周りを見渡す。一瞬、意識が飛んだような気さえしたが、変化はなく、ただ思考が止まっただけ…。


「悪い…少し眠る」


俺はそう言って意識を手放す。体がゆっくりと休む形となっていき深い深い暗闇の中に目の前が染まっていく。



**



いくつもの記憶がフラッシュバックされる。知ってるような知らないような見た瞬間には忘れてしまう記憶だってある。そんな中で一つの何かに止まった。あまりにも現実味のないくり抜かれたいた場面…これは夢…いや、記憶なのだろうか?


そこにあるのはある一つの台座と書籍…そこにあるものに俺は触れてはならないような気さえする。


しかし、俺は手を伸ばす。それが何であろうと不思議な魅力…いや、何か絶対的な確信が俺を突き動かす。


そうして、触れようとした時、手がすり抜ける。


まるで、自分が実体を持たないように透けて、本に触れることはできない。


『なんだ…これ』


しかし、そうしていくうちに目の前に自分が立っていた…いや、自分と表現していいのだろうか?


目立ちはある程度整っていて黒い髪…そして、翠色に近い瞳がそこにはある。似ているけど所々違う自分。


なのに、それが自分だと認識ができる。


(あぁ、これが原初の頃の俺…なのか?)


記憶が曖昧なままの自分では知っているはずの自分の姿形さえ、疑問に思えてしまう。


そんなことを考えているのも束の間…俺が動く。


本に触れ、そして、頭を抱える…。


『…あ…ぁ、』


声にならないのような悲鳴をあげながら目の前の俺は本を手に取る。それと同時に目の前の俺が頭を抱えた理由に至る。


『…そ、そうか…この…この想いは…お前が…』


そうやって本をめくろうする…。

しかし、まるで本に実体がないかのように消え失せる。

そう、初めから何もなかったかのように本は消え失せていた。

そして、目の前の俺は呟く。


『ここにも…何もなかったか』


何もなかったように。


いや、自分は何を言ってるのだろう。初めから何もなかった…ただ、呆然とした夢じゃないか。



**



そこで、俺こと北条 勇馬は目を覚ます。

夢を見た気がする。しかし、そこに記憶はなくただ呆然と何もなかったような夢を見たとしか思わなかった。


ただ、何か大切なものを垣間見た記憶があるような…。


そんな時、一つの視線が俺に刺さっていた。


「明日美か、どうしたんだ?」

「いや、さっきお前は何も予測が付かないと言っていたが…本当に何の予測もつかないのか?」

「な、何を言ってるんだ?わかるわけないだろ、だってここに誰が来てるかなんて知らないし…何が起きてるか…あれ?」


不思議な感覚に襲われる。先程までわからない筈だった…なのに…何故かわかる。


「え?なんだこれ?なんだよ!なんなんだよ!」

「ちっ、ずっとおかしいと思っていたが…やっぱりか」

「…何か…知ってるのか?おまえは…」


明日美に問いかけるが彼は首を振るだけで何も知らない…いや、違う。


「教えられないんだ」

「…やっぱり、俺がここにいるのはダメみたいだな。少し前だったらここで気付くだけで終わっていたのに…お前は忘れている…力に頼らなくては分からない時点で」


それだけ言うと明日美は去っていく。

残った俺は全員が眠っている部屋で呆然と訳の分からない問答を続けていた。


どこかに存在するはずの記憶がないことについて。



**



しばらくすると俺は落ち着いて息を整えていた。

すると、おかしなことに先程まで分かっていたことが分からなくなっていた。

いや、違う…見えなくなっていたのだ。

そうだ、見えるはずだこの目なら…でも、なんでだ…分からない…何で…。


「大丈夫か、勇馬」

「…ぁ、刃月?」


気が付けば帰還していた刃月に呼びかけられて俺はようやく正気に戻る。

そして、先程までの自分を振り返る。


どこかおかしい。


二つの何かが俺を混乱させている。


原初の頃の記憶だけで動く自分と何か分からない焦燥で動く自分。


そして、今生きて考えることのできる今世の自分。


まるで自分の中にもう二人くらい知らない自分がいるみたいな感覚だった。


「…だ、大丈夫…なのか?」

「あぁ、もう落ち着いた。何か…成果はあったか?」

「なら、よかった。成果についてなら一つ良い助っ人が入った」


刃月はそう言ってコンテナを開くと見知らぬ二人の日本人の少女が入ってきた。

いや、どこかで見たことがある…そう、まるでロックを掛けられたように思い出せない。

しかし、知っているはずだ…この二人を…


「あぁ、聖十院 鏡と雪音」


何か、弾けるように名前が思い浮かぶ。

それと共にその二人は笑う。


「正解!記憶を封じたはずなのによく分かったね!」

「…雪菜の繋がりで分かったと思う」

「というか、二人とも何でこんなところに…」


快活そうな印象を受ける黒髪の少女が鏡。雪菜の三つ子の姉であり、封じる力の使い手。

そして、もう一人が最後の片割れである雪音。次女にあたるらしく無口な印象がある。雪菜はこの二人の間を取ってるのだと改めて思う組み合わせである。


そして、雪音の能力は俺達は器と呼んでいる。エネルギーを凝縮し一定の指向性と形などを取る力を持つ。


「まぁ、私達は今回ある義理で祓魔師エクソシスト達の応援部隊として来てるんだよね」

「家柄の問題」

「お、おう」


二人は説明してるかわからない説明を受けて納得はする。理由は知らないが俺たちの家柄というのは原初の頃と殆ど同じような感じなのである。

一部を除けば、最近になって原初の頃の記憶を思い出したものの、こう言った繰り返しの過程の段階からすでに似通った境遇で生まれることが多かった。


故に彼女達の家もどんな家なのか知ってるはずなのだが…俺は分からなかった…いや、分りはする。


しかし、記憶が無く知識だけが他人から教えてもらったみたいに不思議な感覚だった。


「えーと、確か…聖十院って陰陽師の家系じゃなかったか?」

「お、そこら辺の記憶は那奈ちゃんもいなかったし封じてたはずなんだけどなぁ」


鏡はそう苦笑いをして俺を見る。その目は疑問の色が浮かんでおり、不思議そうな目で俺を見ていた。しかし、俺もまた疑問に思ったことがあった。


「うん?那奈について知ってるのか?」

「知ってるも何も…」

「勇馬…今、目を使った?」


俺は言葉が止まる…雪音の言葉。それに対して俺は図星だった。

陰陽師、そんなことは雪菜からも那奈からも聞いたことのない情報だった。


「…大丈夫。ダメなものではないから」

「そうか、ならよかったが…」


しかし、俺は雪音の心配そうな目がどうしても気になっていた。


「それで、どうするんだ?」

「二人に協力してもらってさっさとこの件を終わらせる」

「まぁ、単純明快な答えか…できれば作戦を立てられる人材がいれば楽だったんだがな…」


そう言いながら俺は二人を見るが二人は肩を竦めて身を逸らすだけ…いや、知ってたよ。

この二人はかなりの脳筋戦法を取るってことも何となく記憶にあったし。


目は陰陽師ということ以外は文字化けしてるように把握ができないことばかりで判断基準にもならないし、とりあえず研究所に行って元凶をどうにかするしかないか…。


「私が言うのもどうかと思うけど、作戦らしい作戦も無しで動くのは危険じゃない?」

「うん?何でだ?」

「今までそれで上手くいってきただろ?」


俺と刃月という順番で鏡の意見に疑問符を浮かべる。鏡は何故か呆れているような気がした。実際、作戦を立てるよりある程度の方針を決めてその場で動く方が効率的だし…臨機応変に動ける。


「勇馬、刃月…それは私たちが強かったから出来ること…ただ、今回は少し難しいと思う」

「うーん、雪音が言うならそうなのか?」

「何で勇馬は雪音の言うことを聞くの!?」

「いや、鏡に言われたくないと言うか、何というか…」

「まぁ、鏡はアホだから無理もない」

「何故か雪音からも攻撃が!?」


そう言って笑いながらコンテナで話し合ってるとコンテナを荒く何度も叩く音が聞こえて来る。

それを聞いて俺達は顔をを見合わせる。

まずは刃月の方を向く、彼は指で軽く外にいる人数を教えてくれる。


数的には多いがその大半が何かを追うようにこっちに来てる。そして、そこには追われてる側があり今コンテナを叩いてるのは終われてる方である。


「開けるか?」

「味方という保証はないが…開くべきだろうな」


刃月の意見に頷くと俺は今眠っているアリアを起こす。そして、気絶してる二人を出来るだけ安全を確保できるように奥へと運ぶ作業をそれぞれしてもらう。その間に俺はゆっくりとコンテナのドアを開ける。


そこは暗闇だった。


目の前にあるのはひたすらな暗闇…。

黒い雲が先ほどまでより渦巻いて見える。


「ほ、北条さん!」

「健斗か!その人数は…」

「そ、そんなことよりお願いがあります!」


あまりにも慌てた様子かつ真剣な剣幕に俺は頷くと健斗はある言葉を放つ。


「あの人達を助けてください!」



**



「空!もう持たない!私の能力でも簡単には貫けない!」

「分かってる!でも、こっちも同類には弱いんだよ!」


空と悠乃は化け物と対峙していた。

その化け物は人の姿ではなく今までの狂化の中で最も異質と呼んでもよかった。


「いや、人間以外の生物はどうなってるんだとか思ったことはあるけど…」

「これは流石にキツイ…」


相手は空と悠乃の技法などのエネルギー系の攻撃の全てを無力化していた。

その姿は近いもので表現するなら犬…いや、狼であろう。しかし、その体長は5メートルにも及び、隆起した筋肉と厚い骨、柔らかい毛皮は天然の鎧となり、剣や弾丸を弾くなり受け止めるなりしていた。


「ワォオォオォン‼︎」


ただの遠吠え…たったそれだけのことだった。しかし、その音は巨大な振動を辺りに引き起こし、衝撃だけで辺りの瓦礫を吹き飛ばすほどの力を持っていた。


「勝てるか…勝てないか…と言われたら勝てないな」

「次があるのか知らないけど死んだら今度こそ勇馬の直近になりたいな…空とコンビじゃなくて」

「そうなるといいな。でも、リーダーは色々と抱えてるから大変だぞ」

「そこがいいんだよ…多分彼は何も覚えてないそれでもいい!それでも芯となる部分は変わらないのだから!」

「はぁ、無駄口は終わらせるか…」


二人の表情は真剣そのものに変わる。

悠乃は何もない虚空で剣を構えるような構えをし、空は前回のとは違い槍でなく剣を構えていた。

そして、二人の一撃が地をえぐり、化け物に向かって二つのエネルギーの塊が放たれる。


「「六色七斬流『龍斬』!!」」


思い思い斬撃が空気をも切り裂き、化物の胴を抉る。

初めて出来た傷…勝ち目が見えてきたと二人は希望が宿る。

しかし、それは現実としての希望ではなかった。


化け物にできた傷は埋まっていき、元どおりの化け物が二人を見下ろしていた。

ただ、純粋な強者として二人を喰らおうとした時だった。



鎖が化け物を捕らえる。


「え?な、何が…」


空は唐突なことに戸惑う。しかし、悠乃は見惚れるように一点を見つめていた。それに気がついた空はそこを向くと…。


「雪音さん…鏡さん…そして、刃月と勇馬もか」




**



俺達が来たときには空も悠乃もどうやら限界だったようで気を失ってしまった。

とりあえず、目の前の敵を見る。


姿は人間ではなく犬だった。それでも狂化しており、辺りのエネルギーを多量に吸収していく。

そして現在、鏡の鎖によって捕らえているがすぐに自身の肉体を切断して再生をすることによって鎖から逃れる。


「なぁ、あれを倒せるか?」

「…分からない…あれはかなり異質だ」


不安になり問いかけたことに刃月が律儀に答えてくれる。聞いといて何だが、勝てると嘘でも言ってくれれば少しは安心できたんだが…。


そう油断していると目の前に犬の化け物が来ていた。


咄嗟に後ろに跳ぶが迫ってくる爪に片腕一本軽く持っていかれる。


「っっ!この能力は体の大切さを忘れそうになるな」


俺はそう言いながらも千切れた腕を再生させる。『限界突破』によって体を限界を超えて避け続けるが基本的な身体スペックが明らかに違いすぎて、正直いつまでも避け続けることはできない。


「もう一度動きを止める!」

「…私はその瞬間を狙う!」


鏡と雪音のその言葉に俺と刃月は従う。鏡は鎖を使い化け物を止める。しかし、それは一瞬だけだ。化け物も学習しており、簡単に抜け出す。


しかし、そこに待ち構えていたのは俺たち三人だった。


雪音の翼は刃となり犬の化物を切り裂く、そして刃月の一撃は見えない剣だった。一瞬で放たれるその見えざる斬撃が犬の化け物に傷をつける。

そして、俺が振るう剣は一振りで大きく犬の化け物の体を抉る。


それでも、犬の化け物は元気そのものでエネルギー弾を口から放つ…それも俺達を囲うように移動しながら何発も。


前後左右からエネルギー弾を俺たち避けつつも反撃の糸口を探る。


鏡はどうにかして鎖で行手を阻もうとするがその場で分裂して鎖を綺麗に避けていく。


「勇馬避けろ!」


刃月の声で俺はふと後ろを振り向く。考えに没頭し始めていたせいでどうやら、視界の外に対して疎かになっており、見事に間近にエネルギー弾が迫ってきていた。


もう、避けるのは間に合わない…かと言って剣を振るったところで打ち消すに至るかと言えば不可能だろう…


そんなことを考えている間に肌が焼けるような感覚を味わう。これはエネルギー弾による余波であり、それだけで自分の体が焼かれていく。


次の瞬間には剣を振るった腕の感覚が消えていた。視界には光しか写っておらず、あるはずの腕が光に飲み込まれていた。


そして、次の時には俺の意識は消えていた。




**刃月


「ば、バカな…」


確かに勇馬の能力はそんなに強くは無い。

そう、簡単に俺でも傷をつけられるレベルだ。

しかし、それでも一瞬で肉体を消し飛ばすレベルの攻撃は早々に出せるものでは無い。


「刃月!よそ見はダメ!勇馬が死んでもやることはやるんだよ!」

「…あ、ぁそうだな…」


どこか俺たちは死というものを軽く見えてしまっている。

それは何度も転生を繰り返すうちにそう言った命は一つという観念が消えていったのかもしれない。


しかし、転生について一つ気がかりなことがある…。


(『転生の輪』の本来の意味は存在するはずの輪廻転生の再現)


かつて、頭が唐突に痛くなっていた勇馬が呟いた言葉である。


そんなことを考えていると目の前から凄まじい熱気が迫ってくる。


そこで改めて自分が戦っていることを思い出す。


「氷よ…」


冷気を起こしてエネルギー弾を相殺する。ただ、相殺するだけでは意味はないのだろうが、思った以上にかの者は強い。

正直、余計な力をあまり使えない状況である。


「あまり…使いたくはないが…」


勝つためには一つしか手段はない。

それだけで鏡さんと雪音さんはわかったようで先ほどより積極的に敵に攻撃を仕掛ける。


俺は軽く腕を噛む。


布の上からとはいえでも、八重歯が通ったようで血が流れ出てくる感覚がする。

その血をできるだけ舐める。


普通の吸血鬼なら自分の血を吸っても何もない。


そう、普通の吸血鬼なら…


俺の場合は魂そのものが吸血鬼なのであって肉体は魂に釣られて半分吸血鬼、半分人間と中途半端な存在となっている。


要するに人間の血も含まれているのだ。


そして、人間の肉体とは凄いもので肉体ごとに何らかの巨大な力を使える。しかし、その力を振るうには代償が大きすぎて普通は使うものではない。

代償というのが技法や魔法と言った他の力を使うことができなくなるのだ。


そして、この力を人はこう呼ぶ。


『超能力』


と。


俺は自分の血を取り込むことで一時的に魂を改変し超能力を使うことのできるように作り替えることができるのだ。


だが、超能力というのは肉体に宿るものであり自分の使う肉体によって能力が違くて、俺もこの体の超能力を知らない。


血が体に染み渡る。


それが魂まで届き、肌が焼ける感覚が起きてくる。


これは技法が使えなくなり肌を保護するために張っていた薄い障壁が消えた為だ。


光に弱い肌は激痛を訴えかけてくる中、変化が訪れる。


「ちょうど…いい!」


その瞬間、積み上げられた瓦礫が全てひっくり返ったように飛ぶ。

それを見た鏡さんと雪音さんの二人は気絶した悠乃と空を安全な場所へと運んでいく。


その様子を見た敵は俺に向かってエネルギー弾を放ってくる。凄まじい熱が迫りくるが、今の俺にとっては痛みで熱は感じることはない。

そして、少し手を動かすだけでこちらに向かってきていたエネルギー弾は下へと落ちてクレーターを作る。


「ふぅ、危なかった…まだ、慣れてはいないとは言え…扱い方は殆ど技法と同じだからな…」


上手く行った結果に納得をしながらもその理由を突き止めていく。

そもそも超能力超能力と言ってるが実際、これは超能力ではない。あくまで超能力で使える能力を使えるだけであって実際超能力ではなく技法などで固有能力として再現してるのだ。


「ただ、実際に他の能力が使えなくなるくらい扱いが難しい」


今自分の使ってる能力は『力の追加』である。

自分の動きで使った力の分、他の場所に任意の方向に同じだけ力を加えることができるのだ。


故に敵に攻撃を相殺したりすることは結構簡単である。


ここまで理解できれば…あとはこれを利用して反撃するだけだ。ただ、超能力は10分までしか使えないため短期決戦で挑まなければならない。


エネルギー弾が何発も放たれる。俺は体を回転させて全て弾く。そして、次放とうとしているエネルギー弾を放つ前に力を加えて破裂させる。


『ギャウン!』


と甲高い鳴き声と共に敵が怯む。


意外だ思ったより打たれ弱い…いや、なぜあの攻撃が効いた?


そうか、こいつはエネルギーの塊でできたような存在なのか…そして、自分のエネルギーをかき乱されることが何よりの弱点。


「…なら」


敵のエネルギーをかき乱す。敵の体はどんどん歪んでいき、そのたびの苦しむ鳴き声が大きくなっていく。


「…くっ、結構抵抗するな…」


ひたすらに動いてエネルギをかき乱すのだが、自身でエネルギーを安定させようとしているようで中々、決まらない。


エネルギー弾が放たれて逆にこっちを乱される。


それでも相手をかき乱そうとする。


『グルルルルルルル!ヴァォーン』


苦しみながらも決して弱みを見せまいと敵は吠える。そして、より強い力でねじ伏せようとエネルギーが放たれる。


それを俺は気にしない。


内臓が潰れるような圧迫感を無視して敵の中をかき乱す。

身体中を覆っていた布が破れ始める。


真っ白な肌が出てきて焼けるような痛みが強くなる…燃えるような感覚に襲われて膝をつきそうになる。

それでも止められない。


「…っぐぅ…まだまだ!」


肌が赤くなっていく…痛みが増していく…やがて、火が着き始める。

決して陽が出てるわけでもない…光が強いわけでもない…それなのに火が着き始めて痛みが大きくなっていく。

それでも止められない…止まるわけにはいかない…いくら辛くてもここで止めてしまえば待つのは敗北の二文字だけだ。


「…ぁぉ」


熱に耐えきれずに喉が鳴らない。

体がいうことを聞かなくなり始める。


このまま…止まるのか…いや、止まるわけにはいかない…まだ、相手を…殴ってでも…動き続けなきゃいけないんだ!


踏み出す…止まらないように必至に踏み出していく…


また一歩…


また一歩


と近づいていく。

力を送るだけではいけない。


実際に殴ってでもイメージを強固なものにしないと完全にかき乱すなんてできない。


遠吠えがまた聞こえる。


それだけで体が重くなる…


あと一歩…それだけで拳が届く。


あと一歩だけ…踏み込むだけで…


たったそれだけのことだ…踏み込めないわけがない。

この体が言うことを聞かなくても…体がどれだけ重くても…一発…たった一発の拳なら振れるはず。


最後の…


「ぁさ…最後の…一歩!」


拳がぶつかる。


ドオォオォン!


今までにない音が響く…


そして、敵…否、犬の化け物はまるで沸騰したようにボコボコとなったかと思うと弾ける。


破裂音が響き、ようやく俺は膝を着く。


「勝った…勇馬は?そうか…そういえば…」


そこでふと思い出す。


エネルギー弾に飲まれていった勇馬の姿を…そこからの生存はほぼ絶望的であろう。

俺はふぅ、息を吐いて戻ろうと立ち上がる。


「まぁ、とりあえずは先に逃げてもらった二人と合流すると…」


そんな油断が仇となる。

牙が俺の腕に刺さる。それは、先程の犬の化け物だった。

いや、正確には違う。弱り切って一回りをほど小さくなった犬の化け物の本体が襲いかかってきたのだ。


「ぐっ…離れろ!」


一撃を入れてなんとか牙から逃れるが勝つ術が思いつかない。

10分は経ち、もう能力は使えない。また、技法などいった能力も使えるようになるのにしばらくかかる。

手段としては血を飲むことだが、自分の血をこれ以上の飲んでも耐性のようなものを持ってしまい数日は意味がない。


「グルルル!」


敵の唸り声が聞こえる。


先程より弱くなっているし、普通の攻撃も効くのだろうが、能力なしで勝てるほど甘い相手ではない。


知ってる限りの格闘技で対応するが、獣相手に効くようなものではなく、反撃をくらい小さな傷を増やしていく。


そんな時だった…あるものが目に映る。


「ゆ、勇馬…」


そう、気絶した勇馬である。

生きていたのかと言うよりも先に賭けに出ると言う感情が先に走った。それはこの場を早く打破したいと言う思いからきており、勇馬の方に向かうが血を飲むような暇はない。


「ちくしょう!」


蹴りをして距離を取ろうとするがその分距離をすぐに詰められる。


そんな時だった。


銃声が聞こえる。


それもただの銃声ではない。威力のデカいライフル級であり、それも何発も速射した音。


それは目の前の犬の化け物を貫き、動きを止める。


なんだか知らないが時間ができた。


俺はすぐに勇馬の腕を噛む。


その瞬間、血が沸騰するように熱くなる。

動悸が激しくなり、頭がくらくらとしてくる。

そして、幾つもの何かが頭を過ぎる。それは過ぎるだけでも頭痛を起こすほど見てはいけない何かのような気がする。


怖くなるような真っ暗な何かが微笑んだようにも見える。


そして、視界が真っ赤に染まったかと思うと次の瞬間には真っ暗になる…激しい動悸と沸騰するような発熱に汗がびっしょりと出てくる。


そして、次の瞬間には燃えていた肌が治ったかと思うと体の芯に激痛が走る。


そうして、やがて収まってくると共に何かが流れ込んでくる。


『究極』


『超越者』


「なぜだ?何か分かる?それが何か…これは…」


犬の化け物が俺を見て怯えている。そして、一歩…また一歩と逃げ出そうとしている。


『限界突破(原点)』


体を少し動かす。それだけで犬の化け物体が崩れていく…再生しようと再構築されるがそれ以上の速さで俺は動けた。


やってることは単純。


ただ殴っただけ…それだけで脆く崩れていく…そして、トドメを刺して終わった瞬間には動けなくなる。


「ガ…ぐぁあぁ…」


唐突に起きる痛みに少しも体が動かなくなる。身体中の力が抜けて倒れる。


なぜだ…まだ、時間は…いや、時間なんて関係ないか…不相応の力を使えばそうなるか…


いや、そもそもが不相応な力ってなんだ?


おかしい…一体…今の感覚はなんだった?



記憶が抜けている…




そう気づくと共に激痛がひどくなり気が遠くなっていく。



**


刃月を助けた弾丸を放ったのは椎名だった。

彼女は刃月が死にかけているのを見て自分の持つ銃で撃ったのだった。

そして、あとは様子を見ていたのだが…。


「あれは…よく分かんないなぁ…」


刃月が行ったことは異常の一言だった。


そもそもが攻撃そのものが見えず、約2、3キロは離れているここまで余波が飛んできていた。


例え刃月が行ったことが理解できて見えたとしてもアレは明らかに別の次元いや、存在そのものの格が違う動きだった。


「とりあえず、二人して気絶してるし私が拾っていくか」


呆れたように椎名は呟くと刃月と勇馬の元まで走って行くのだった。


そして、その更に向こう側には一人の深くフードを被った男が様子を見ていた。


「なるほどな吸血鬼は時に失われたものでさえ呼び起こすことができるのか」


男はそう言うとその場を離れていくのだった。

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