荒廃都市での戦い 2日目 3
暗い、真っ暗だ…いや、違う。
真っ暗なんじゃない、自分の目が閉じられているのだ。
ゆっくりと自分は目を開く。
すると、そこは薄暗い部屋の中だった。
水槽?
自分のところを見てみるとそれしか浮かばなかった。
周りには扉があるだけで特に何かあるわけでもない。
殺風景と言ってたしまえばそれまでだ。
しかし、どこか遠い昔に同じような経験をしたような気がした。
そうだ、何かを忘れている?
しかし、自分には探る記憶はなく、なんの記憶もない。
まるでここで初めて生まれたかのように…。
嘘だ。
自分はどこか別の場所で生きてた。
地球?ヨーロッパ?アジア?…どんどんと取り出されていく情報は意味のわからないものばかり…いくら探っても自分の知るはずの情報は出てこない。
そう思った矢先だった。
終焉?魔人?人災?真実?英雄?……三代目真実…
北条 勇馬…
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それを思い出した瞬間、自分は酷い頭痛に襲われて意識が遠くなっていく。
**勇馬
空が見えなくて分からないが今は夜なのだろう。
そんな時間、俺はアリアという少女と一緒にいた。
「あの、勇馬さんの仲間は大丈夫何ですか?」
「それは大丈夫だ。しばらくは別行動だからな」
「それって、危険はないんですか?」
「いや、むしろ単独行動の方が危険が少ないかな、みんなそこそこ強いし無理な戦闘は避けるから」
俺の言葉にアリアは納得していないようで首をかしげるがわざわざ、詳細を教える必要はないだろう。
アリアもそういうものだと思って何も言わないでいてくれていた。
「それで『絶対悪』と呼ばれる組織がわざわざ何故?」
「あー、そのことか。こっちは頼まれたそうだから来たんだけどな」
「頼まれたって…この王国にですか?」
「うん、王国?」
よく聞くけど最近ではあまり聞かないような単語に俺は首をかしげる。
そして、資料を見直すがそんなことは書かれていない。
「えっと、王国というのはこの町を所有する国のことでして…えっと…他には」
「ありがとう。見つけたから大丈夫だ」
俺はアリアにお礼を言うと資料を読む。
そこに書かれてるのは所属組織『王国』と呼ばれる国家のことだった。
王国という組織は新生国家にも関わらず珍しい王政制度の国であり、その裏には様々な組織を纏める大規模組織という面を持っている。
そして、国家としての軍事力はほぼ皆無に等しいのだが組織という構成上、情報力やコネ、工作などは類を見ないくらい高いそうだ。
しかし、それは組織として見れば話は別だ。組織としての軍事力を見ると簡単に言えばそこらの組織や国が対抗できないレベルである。
めちゃくちゃな組織だなこの国を敵に回すくらいなら、そこらの大規模組織を敵に回す方が何倍もマシだな。
俺はそんな感想を抱きつつも資料をしまう。
とりあえずは目の前にいるアリアを守りながら他の祓魔師との合流が先決だが…
「今の時間は分かるか?」
「え、はい。えっと…今は夜の8時くらいですね」
アリアはポーチから取り出した懐中時計を見ながら時間を教えてくれる。
暗雲で明かりが殆どなくて分からないが思ったより時間が遅いらしく流石に普通の生活リズムの人間にはきつい時間だ。
「私は大丈夫ですよ」
「そうか、ならしばらく歩いて少しでも安全な場所を…」
その瞬間、悪寒が感じた。俺はアリアにジェスチャーを送って隠れる。
そして、悪寒の正体を探っていく。
感覚的にはそんなに遠くから来たものではないのだが、一向にそれらしいものが見つからない。
しかし、たしかに何かがこっちに向かってきている。
一刻も早くここから離れるのもありだが、おそらく途中でバレて変わらない。
予想では狂化した能力者の中の一人だろう。
相手として厄介だが、問題はそこではない。
『俺が救える人間を殺せるかだ』
俺は僅かに流れる額の汗を拭い剣を手に取る。
実のところ、いつでも抜けるように腰にずっと挿していたのだ。
その手は僅かに震えてるのが分かる。
俺は隣にいるアリアを見てみるが状況は察してるようで俺の手と同じように少し手が震えている。
そこで俺は一度冷静になろうと深呼吸をした瞬間だった。
『ダジガニゴゴガライギダニンゲンノゲバイガジダンダガナ』
そう呟きながらきたのは今までの狂化した者より一回り大きい男の姿だった。その体には他とは違い痩せ細った部分がなくどこも必要以上に発達しているように見える。
溢れ出ているエネルギーの量も僅かに可視化できるレベルにまで強大なものだと理解できる。
「…あ、あれは…?」
僅かに震えるような小さな声でアリアが呟く。
「多分、能力者が狂化した姿だろうな」
俺はアリアの疑問に答える。その間にも男は周りを見渡している。
このまま、立ち去ってくれることを願うがもし、見つかったなら話しかけてみて…
いや、無理だな…両方ともあり得ない。あの目は正真正銘の狂人の目。おそらく、話が通じそうに見えてもあそこに残ってるのはどうしようもないばかりの破壊衝動だろう。
そして、必要以上に取り込んだエネルギーのせいで辺りの空間把握能力がとんでもないレベルにまで上がっている筈だ。
「何かあったら声を出してくれ」
俺はそう言って男の前にまで歩いていく。
『オオ、ニンゲンバッゲン』
「なぁ、あんたは理性があるのか?」
俺は変なところで自分の心に嘘をつけない。だから、まずは大義名分を作らなくてはならない。自分が納得できる大義名分を…
『アア?リゼイ?ナニバガイッデルンダ…オレハドゴガラドウミデモリゼイデギダロ』
「なら、お前はさっきから俺を殺そうと殺気立ってるのも自分の意思か?」
『オガジナゴドヲイウナ。ヂガラヲモダヌモノガヂガラヲモヅモノニゴロザレルノハドウゼンノゴドダロウ』
「なら、あんたは力があればいいのか?」
『ドウゼンダロ。ゾジデオレハゴゴニギデヂガラヲエダ。オレハザイギョウダ!』
「そうか…」
大義名分は得た。
そう、俺が自分の意思でこいつを殺す大義名分を。
『ザァ、ムダバナジモオワリニジデ…』
その瞬間、俺は動き出す。
限界突破で強化した肉体は簡単に空気を蹴り一瞬で間合いを詰める。
そして、男の心臓部に手を当てる。
その瞬間、手から伝わって音が聞こえてくる。
やけに生々しい破裂音が…。
『ガバッ…イッダイナニガ』
男は困惑してるうちに剣を抜き腕を切り飛ばす。
そして、首を切り落とそうと剣を振るうが思った以上に硬く刃が通るどころか衝撃すら伝わらずに逆にこちらが衝撃で一瞬止まる。
『ベェ、オマエバエミダイニウザグバヤイナ』
男はそう言って笑って止まってる俺を殴る。
威力はそこまで来なかったが男の力がどうやら強いようで空中でバランスの取れない俺はいとも簡単に吹き飛ばされる。
「ちっ、思った以上に強いな…」
『ババッ、ムダダオレヲゴロズゴドハデギナイ。ニグダイヲギョグゲンマデタガメルヂガラガアルノダガラナ』
そう言って男は『ゴノドオリ』と言いながら俺が切り飛ばした腕をくっつける。
俺も人のことは言えないけど地味に面倒な奴だな。
でも、その力は見た限り周りに漂う大量のエネルギーを糧にしてこそ成り立つ力だ。
やりようはある筈だ。
「『六色七斬流』」
俺は剣を構える。技を出すためではない。
ただ、基礎的なものだけを意識して男に突っ込む。
何度も、何度も無駄と分かっても切れない、再生されると分かっても俺は何度も切りかかる。
『ダガラムダダドイッデイル』
何度も俺は反撃を受けても俺は切りかかる。
別に切ろうなんて思っていない。ただ、こいつに勝てるその瞬間まで俺はこうして何度でも切りかかるだけだ。
そして、流れが変わった。
そう、それは男が痺れを切らしたことが原因だった。
俺の体を掴み、攻撃できないように押さえつける。
それでも、俺は抵抗をやめない。
それを見て、鬱陶しく思った男は何度も俺の顔面を殴る。
固定されている分、首が飛ぶのではないかと思われるような衝撃と痛みが俺の意識を削る。
それでも、まだ…動ける…。
「六…色…な……ん…流」
『龍殺し』『虎脚』
足技が俺を掴んでいた手を砕く。
その傷は大きく広がり腕の中腹まで砕く。
『アァァァァ!イダイ、イダイ!ナンダゴレ?フザゲンナ!』
男は痛みで怒り、足で俺を踏みつける。
体格差だけではなくボロボロの体はもう動かず俺は到底、抜け出せそうにない。
『ジネ!ジネ!オマエナンデヅブレヂマエ!』
「ろ……な斬…」
俺はそれでも抵抗はやめない。
もうじきなんだ…そう、そろそろ…
「やめて!」
その瞬間、男に光の槍が当たる。
それに対して男は驚いたようでバランスを崩す。
その隙を突いて俺は転がるように男から離れる。
仰向けになって朝か昼かも分からないような暗雲を見る。
そして、改めて光の槍を放った主を見る。すると、そこにいたのはアリアだった。どうやら、俺がやられそうなのを見て飛び出したらしい。
「くそ…あと…もう少し…『六色七斬流』」
早く…そうすればこのままじゃアリアが狙われる。アリアの実力だとほぼほぼ死ぬ。
俺のそんな考えとは裏腹に事態進んでいく。
『ギザマ、ヨグモジャマヲジデグレダナ!』
そう言って男は怒りでより周りのエネルギーを集める。
そして、今まで以上に体が膨れ上がり…アリアに迫る。そのまま、男の拳がアリアを吹き飛ばす…はずだった。
『ガ、ガラダガウゴガナイ』
「いやー、最後はお前の自爆とはな」
俺は固有能力で再生され、普段の口調で男に言葉を放つ。
そう、これでこの男はもう勝ち筋がなくなった。
『ナ、ナニヲジダ!ギザマァァァ!』
「なにも…言っただろお前の自爆だって?まぁ、途中までは仕組んでいたけど…」
俺は剣を握り走り出す。
そして、男の首を一撃で今度はなんの引っ掛かりもなく切り落とす。
「まぁ、これ以上教える義理なんてねぇけどな」
俺はそう言ってのけるのだった。
まぁ、俺のやったことと言えば単純なことだ。
一時的にとはいえでも霊格で辺りのエネルギー流れを変えて俺と男の周りを隔離した。
そして、あとは隔離したエネルギーを消費すれば男はエネルギー不足で肉体の維持などが不可能になる。その結果、予想通り男は俺が切らなくても実際、数分で体が破裂していただろう。
『六色七斬流』を使用したのも周りのエネルギーを少量ながら使うその特徴を利用していたにしか過ぎない。
とりあえずはこれでゆっくりできるだろう。
**
「ふむ、いくら暗くても微細な光でも俺の肌は焼けるのだな」
刃月は現在、隠れながらも自分の体について調べていた。
彼自身、人災に身を落とした時から光というものに酷い反応を示して焼け始める。
今でも身体中が火に炙られるような苦しみを覚えており、普段から巻いている布を昔から手放せないでいた。
「はぁ〜、また厄介なことを知ってしまったよ」
刃月はため息を吐きながら進み続ける。目指す場所はなく。ただ、歩き続けるだけ。
特に何かを探す様子もなく、何かに執着する様子もなく刃月はひたすら歩き続けていた。
そして、そんな時だった。
「どうして、ここにいるんだ?六賢者の最後の一人」
そうポツリと呟く。
すると、そこには半透明の少女が現れる。
彼女は何も喋らず笑ってその場に佇むだけだった。
「話せるだろう、何でここにいるんだ?」
「ふふ、私はただ探しに来ただけ。弟を誑かした真犯人の存在をね」
その言葉に刃月は疑問に持つもののこれ以上の回答はないらしく少女は去っていった。
「…弟、まさかな」
ある懸念を抱く刃月だったが今はこの場の解決を優先させようと気持ちを切り替えるのだった。
**
地下に眠る研究室で一人の少女が水槽から目を覚ます。
その見た目は歳にして15前後で金髪の綺麗な見た目をしていた。
彼女は自分が出た水槽とは別の水槽の中でも唯一まだ中に入ってるものを見つめる。愛おしそうに切なそうに…。
「私はあなたに何もしてあげられない。でも、あなたを守ることは…」
少女は呟く。その眠る者に対して語りかけるように。
しかし、その声は届くことはない。それは彼女も分かっていた。分からないはずがない。
少女は苦しみ始める。頭を抱えて水槽にすがるように体重を預けていた。その顔には涙が流れており絞り出すような声で話し出す。
「っっ!そう、始まったのね…もう…届かないかもしれない…でも、聞いて…。あなたの答えを貫いて…決して…自分には嘘をつかないで…あの日を思い出したのなら…」
少女の言葉は届くことはない。しかし、それでも彼女は諦められなかった。こんな終わり方など誰も望んではいない。そう言い聞かせて彼女は最後までと立ち上がり歩き出す。
「少しでも情報を…手に入れないと」
自分を…水槽の中に未だ眠る者を助けるために。




