虎龍
今回は山籠りに行った雪虎の話ですね。
「それで、いきなり呼び出してきて殴られる準備は出来てるんだろうな?」
雪虎はとある喫茶店でいつになく険しい表情で向かい側に座る男をにらんでいた。
向かい側に座る男は何も言わずに微笑を浮かべる。
「テメェ、なんか言え!
お前、姫さんを裏切ったのかライト!」
雪虎は机を軽く片手で叩いて立ち上がる。
大きな音が鳴るが雪虎達に目を向けるものは一人もいない。
「落ち着け雪虎。
そもそもが君が人のことを言える立場ではないだろう。
あの日、俺達を逃した後生きていたにも関わらずに俺たちの前に姿を現さなかった君がな…」
ここで初めて男、ライトは言葉を発する。
その一言に雪虎言葉を詰まらせる。
事実、雪虎とライトの話は原初の頃の記憶…。
二人は何となくだがそれを思い出す前からお互いに同期だと覚えていた。
しかし、それが明確となった今、雪虎はどうしても今のライト達の立ち位置が気に食わなかった。
原初の頃に同じ人達を守った身としては気に食わなかったのだ。
「てことはお前の姫さん達への忠誠は偽物だったのかよ…」
「さてな」
ライトの発言に雪虎はより腹をたてる。
ライトはというと以前と表情を変えずに雪虎を見ていた。
「こんな詰まらない話をしに来たわけじゃないんだけどな…。
いい加減、本題に入らせてくれないか」
ライトはそう言うと雪虎は何かを言い返そうとするが無駄だと思い黙る。
「いい判断だ。
雪虎、君には人災の制御をして貰わなくては困るな」
「何を言って…」
「俺が知らないと思ったか?
『虎龍』君はそう呼ばれていたはずだ」
雪虎はそれを聞いて黙り込む。
図星…知るものは少ない雪虎の人災…。
それはライトが知るはずがないのだ。
「やはりか…その力は俺にとっては厄介なものだ。
それと、元同僚としては弱い君にうんざりしてしまいそうだ。
正直、詰まらなかった」
ライトの言葉を聞いて雪虎は前回のライトとの戦いを思い出す。
途中まではいい勝負に見えていたあの戦いはライトの手加減によりなされていた。
少し本気を出されただけで一瞬で終わった。
雪虎自身分かっていた今の自分が実力不足だと言うことに…。
しかし、いくらライトが戦闘狂とは言えでも疑問は残る。
「敵である俺が強くなってお前は困らないのかよ」
そう、たとえライトの戦闘欲求があってもライト自身は危険な真似は絶対にしないのだ。
例え楽しむためとは言えでも相手を逃したりアドバイスをしたりはしなかった。
「鋭いな…安心しろ。
ただの保険だ。
下手に暴走した人災にエネルギーを喰われるかもしれないからな」
ライトはそう言ってテーブルの上にお金を置いて店を出て行った。
残された雪虎は自分の手を見つめていた。
そう、おそらく人災が暴走してもライトにら届かない、そんな確信を雪虎は持っており悔しそうに顔を歪めた。
それと同時に安心した表情を浮かべた。
「なんだよ、変わってねぇじゃねぇか。
器用なようで不器用なところも…姫さん達命なところも…。
自分のことを考えないこと…」
雪虎はブツブツと呟く。
それでいた大きく溜息を吐いて結論付ける。
「他は知らんがあいつがそう言うなら姫さん達だけは無事な道になるように俺に言ったんだろうな…。
でも、なんでお前がその立ち位置に立っているんだろうな?」
雪虎は知らなかった。
ライトという男が抱えるもう一つものを…
故に間違っていると言える場所に立ち、なにかをしようとしている。
しかし、雪虎にとってはそんな詳しいことは関係ない。
元同僚を信じている。
いずれ、姫さん達を守るためにまた帆走するだろうと…。
**
それから雪虎はある山を登っていた。
元より、修行をする場所も決めており、その理由も既にあった。
一つは強くなるために…もう一つは人災を制御するためだった。
そもそもが雪虎の事情は特殊であり、勇馬は雪虎の力を喰らってはいないのだ。
故に勇馬に頼ることをやめた。
「悪いな…ここから先は俺の心の問題なんだ…」
雪虎は脳裏によぎる仲間達の顔を浮かべながらそうつぶやく。
そうして、もうじき頂上になる頃に雪虎辺りを見回していた。
「感覚的にはこの辺りの筈なんだけどな…」
雪虎は直感に従い辺りを歩く。
そして、雪虎はあるものを見つけた。
それは二本の大木だった。
それは何の変哲も無いただ高いだけの木…雪虎はそれを確認をしてからその二本の木の間を通る。
「やっと見つけた」
すると、辺りの光景が変わっていた。
雪虎が通った二本の木は見事な門になっており、歩いている場所は綺麗に敷き詰められた石畳だった。
「ほぉ、ここに自分の意志からこれる者とは珍しいのう」
突然の声に雪虎は僅かに顔をひきつらせる。
しかし、すぐに表情を戻して声のした方を向く。
そこには井戸があり、すぐ近くに厳つい老人がいた。
筋肉はある程度あり、老人というには些か問題があるような健康体そのものの体つきに俺は思わず感嘆の声を上げる。
しかし、すぐに気を取り直して雪虎は話そうとした瞬間だった。
「舐めたことを考えるじゃ無いか…雪虎よ」
気が付いた時にはもう既に刀は雪虎の首を捉えていた。
すぐ後ろに俺に刀を突き付ける人間がいたのだ。
雪虎は振り向かずにゆっくりと手をあげる。
話しかけた老人は戸惑ってる様子だった。
「おっさん、こいつは俺に用事があるようだ。
それにしても、イレギュラーだ。
しかし、俺が敵だとは考えなかったのか?」
「いや、あんたはどちらにも属して無いような気がしてな…属してるならあいつを試す真似をしないだろ?」
その瞬間、笑い声が聞こえる。
それは「盲点だった」と言ってるかのような笑い。
雪虎自身あくまで推測の域にしか出ず、確証は無かった。
しかし、その笑いを聞いてそれは確証に変わる。
「ただ、だからといって俺があんたに師事をする義理は無いな」
全てを見透かしたような言葉に対して雪虎冷や汗をかく。
図星を突かれて雪虎なにも言えなくなる。
「何故?って顔をしてるようだな。
お前が俺のところに来たということはそれしかあり得ないからだ」
「そうなのか?」
「当然だろ、雪虎が戦う気ならここに張ってる結界をぶっ壊しにまず来るだろ?
しかし、来るのがお前だったのは予想外だった」
雪虎さらに図星を突かれて顔をひきつらせる。
それが面白いのか再び笑い声が聞こえる。
「いや、悪いな…。
今回はどうやら何かが変わりそうだな」
「何の話だ?」
「いや、こっちの話だ。
まぁ、気が変わった。
乗ってやる…」
「本当か!」
雪虎は嬉しいのか動こうとするが刀がより首に近づけられて思わず固まる。
「ただし、そこの爺さんを倒して認めさせられたらな…勿論、能力は無しだぞ…今お前の持つ純粋な技術だけで勝ってみせろ」
そう言うと雪虎の首から刀が引かれる。
そして、鞘に仕舞う音がやけに響く。
雪虎は「もう大丈夫か?」と言わんばかりに警戒をしながら後ろを向く。
そして、そこにいたのは明日美だった。
明日美は雪虎をジッと見た後、溜息を吐く。
「さて、爺さんに勝つのが簡単だと思わないようにな」
明日美はそう言っておくと建物に歩いて行ってしまった。
「明日美も無茶を言いおる。
小童如きに簡単に儂が負けるわけがなかろうて」
老人と残された雪虎はその老人の言葉に怒りを感じた。
雪虎は剣を取り出して振るう。
しかし、その瞬間雪虎にとって不可解なことが起きた。
手応えがない、そして気付けばすぐ後ろに老人が立っていた。
「動きはある程度良いがその程度か…」
そう言って老人は雪虎を小突く。
すると、呆気なく雪虎はバランスを崩して倒れる。
突然のことで雪虎は理解ができずに芒然とする。
「明日美と同じと聞いて楽しみに知っておったのだが、期待はずれじゃのう」
雪虎は憤りを感じていた。
老人の言葉にではない。
自身の不甲斐なさにだ。
雪虎は知っている自分がどんなに弱いのか…しかし、真の意味でそれを理解していなかった。
故にかの老人に雪虎は今、負けた。
よく見たら持っている老人の刀すら抜かせることができずに…。
ー強くありたい
それが雪虎が心の底から望んだ願い。
「なるほどのう。
これが明日美の言っていた人災と言うやつか…。
確かこの環境では深層意識などが表に出やすいから人災が顔を出しやすいとか言っておったな」
老人も碌に覚えていなかった。
元々はこの場所は老人の私有地で強さだけを貪欲に求めていた。
しかし、それを半ば老人は諦めていた。
明日美に出会うまでは…
この場所で明日美はこの老人から刀術を少し齧り、自分のものとしていた。
自分のための刀術として…。
それから老人は明日美をこの場に置いていた。
そして、その過程で明日美はこの空間にある結界を張っていた。
それは己の深層意識…正確にはこびり付いたものを呼び起こすものを引き出す環境を作り出したのだ。
それによって、感情のコントロールなどの修練を行なっていた。
しかし、人災持ちは話が変わっていた。
己の中にある人災を呼び起こしやすくなる空間となっているのだ。
咆哮が鳴り響く。
それは雪虎から発せられたものだとは思えないほどの野生的で獣じみた咆哮。
雪虎の肌は無数の鱗のように硬く規則的なものとしたのに変わり、雪虎の目は肉食獣のそれだった。
老人は笑う。
刀と剣が交錯する…。
**雪虎
気が付けば地べたに俺は倒れていた。
何が起きたのか俺は思い出せずにいた。
爺さんに切りかかったことだけは覚えている。
しかし、それ以降のことは一向に思い出せずにいた。
「ふん、やっと起きおったか。
本能に呑まれていては先が思いやれるのう」
その言葉で俺は理解した。
負けたのだと…そして、理解した。
俺の人災が顔を出したのだと…。
「今日は休むが良い。
幸いにも部屋は余るほどあるからのう」
爺さんはそう言って明日美が先ほど向かった建物の方に歩いて行った。
俺は立つ気力も湧かずに仰向けになって考えていた。
「世界は広いもんだなぁ〜」
あの爺さんは一切の能力を使用せずに俺の人災までをも無傷で圧倒してみせたのだ。
辺りに漂う戦闘の残り香的なものを見る限り、どうやら手も足も出せなかったようだ。
俺はそう考えると気を引き締めて立ち上がって同じように建物に向かって行った。
ヤベェ、爺さんが化け物すぎる…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
また読んでいただけると幸いです。
2018.11.10.0.08
レイト→ライト
すいません間違えました。
ライトの方でした。




