取り合えない手
「全く、時間を変に食っちまった」
後ろにいる倉庫の方で何故か無駄にアピールして来た男はその言葉を聞いて照れ臭そうに頭をかく。
俺はため息をつきながらも加藤さんに固有能力を使うためのエネルギーの受け渡しをしていた。
しかし、その際に問題があった。
使用しているエネルギーの種類が技法のものだったのだ。
技法というのは根本が自分にある力であるが為、人によって同じ火でも使用する過程などが違っている。
それはエネルギーとしての性質も同じで十人十色と言えるほど違う。
故に変換効率が悪く、俺の技法をガンガン使って行く。
「ここを右です…次で左を…そこを真っ直ぐ…」などと運転している陸也に細かく指示をしていき利差を追っている。
勿論、何とか固有能力で足取りを掴めているレベルであり、到底追いつく気がしない。
正直、車の方のスピードを出してもらいたい気持ちも大きいがここで下手に捕まる方が時間を取られる可能性があるため無茶はできない。
そうして、しばらくすると俺の感知の方で大きな反応が引っかかった。
俺はそれを調べるために集中する。
すると、そこには何やらおかしなところを走り回っている利差の反応だった。
え?あいつ何してんの?
という思いが頭の全てを支配するような感覚に捉われる。
しかし、すぐに俺は納得した。
あ、ただの迷子か…。
俺はその瞬間、携帯を開いてとある人達に連絡をする。
そして、加藤さんへの技法供給を止めて陸也の方を向く。
「陸也今から支持する場所に動いてくれ。
利差を見つけた」
「へ?でもまだ五時間前の状況を追ってるんですけど…」
「いや、あいつ方向音痴だからな…大体五キロくらい先に見つけたんだよな…」
俺がそう言うと加藤さんと斎藤さんは明らかに落ち込んでいる、何があったのかは聞かない方が良さそうだ。
「とりあえず全力でアクセルを踏んでくれ、カメラなどの機器は全部とある奴にお願いして掌握したから安心しろ」
約3名から「え?」と何か末恐ろしいものを見たと言う表情をしていたが最近得意になってきた技術を使ってそのまま陸也にアクセルを促す。
陸也はそれを聞いて笑ってアクセルを思いっきり踏む。
まぁ、鈴利とか刃月とか疾風の辺りがそこら辺に関しては化け物レベルでハッキングとかその他諸々とやらかせるからな…まぁ、普段はやらないらしいけど覚えておいて損は無いとか言って付けた力らしい。
「さて、三人とも気を付けろ今からこの車体に無茶をさせて更に速くするから衝撃に備えろ。
ああ、後でちゃんと車は直すから許してくれ」
俺は滅茶苦茶を言って初めての試みを実行する。
まず、霊格で車の構造の把握と掌握を開始する。
続いて技法で車を無理矢理、効率を上げて稼働効率を上げる。
そして、それを直接それを速くなるように燃費などを気にせずに全力で押し込むように技法を作動させる。
最近、精密操作の練習していたお陰で自爆はせずに上手く出来たようだ。
まぁ、補助までは上手くできなくて故障どころか内部が全損してそうだけど…。
そこは最低でも陸也に耐えられる物を頑張って作って返すとしよう。
その瞬間、とんでもない速度で車が動き出す。
俺は内心車の通りが少ない区域でよかったと安堵の息を漏らす。
まぁ、俺が予め出てくる反応を教えてるので陸也が避けてくれているけど…。
因みに後ろの三人は衝撃のあまりに白目を向いている。
「それにしても勇馬、お前は一人で行けただろ?
何でわざわざそんな面倒な方法を取った?」
「それは…」
「言い難いことなのか?」
実際、言い難い訳ではない簡単なことだからだ。
「はぁ、こいつら信頼してるからだ。
利差に無謀にも敵対はしないだろう。
それに俺達に関することに関してもう届かないと思って手を引いてくれるならそれでいいしな」
「そうか…」
陸也は表情を一切変えずにとんでもない速度の車を自由自在に動かしながらそう返事する。
「勇馬、ひとつだけ忠告するぞ」
「何だ?」
陸也は俺が反応を示すとニヤリと笑ってハンドルを切る。
「たった一日だけだよ…仕事をこいつらとして分かったんだ。
そんなこいつらは楽な生き物として生まれてないようだぞ」
俺は一瞬、陸也が何を言ってるか分からなかった。
しかし、俺はふと思い出したことがあった。
彼らの顔だった。
どんな理不尽な力が目の前にあっても勝てないと割り切りはしていたが…諦めでは無かった。
ふと僅かに思い出した原初の自分と重ねてしまった。
「どうした、急に笑って…」
「いや、そうだな…と思ってな。
こいつらはきっと誰かが誰かに無理矢理押し付けた理不尽が嫌いなんだろうなと思ってな…」
「そうだな…お前にソックリだ…。
自分が一番辛い思いをしてるのに背負う必要のある罪を背負わないで無理矢理背負わなくていい奴に背負わせるのを見ては何があっても手を差し伸べて黙っていなかったからな…お前は」
陸也の茶化すような口調だがあまり覚えていない俺にとってはそんなことがあったのかと昔の俺にため息をついてしまう。
「それにしても…こいつらはそんなに酷くないだろ」
「そうだなぁ…」
俺たちはクスリと笑ってしまう。
しかし、あと少しで利差に追いつく。
こんな和んだ時間も終わりかもしれないと俺は気を引き締める。
「さて、そろそろ着くぞ。
勇馬、準備は…出来てそうだな」
俺はコクリと頷いて利差の通るであろう道で車を止めてもらう。
軽く無茶したこともあり、少し技法を使用するための回路と呼べる部分がかなりダメになっていたので『高速再生』何とか治す。
今度、安全な強化の方を定める必要がありそうだなとため息を吐く。
「そういえば、疾風の辺りがお前と似たようなことをネットで行なっていたな」
ふと思い出したように呟く陸也に俺は振り向いてしまう。
「え?それマジで」
「あぁ、霊格の使い道って意外と多いなとか言って悪い笑みをして…」
俺は何も言えずに現実逃避しながら大人しく利差を待つことにした。
そして、待つこと数秒後だった。
「勇馬…どうしてここに?」
と声が後ろから聞こえた。
その瞬間、俺は失敗を悟った。
能力の温存の為に探知をしなかったのがいけなかった。
いや、寧ろ何故しなかったし…でも、ノーコストで使える手段じゃないからそんな持続的に下手に使えないしな…。
俺は仕方ないと割り切って振り返る。
「全くそれはこっちのセリフだ。
利差、本心からなら何も言わない…。
でも、僅かに帰りたいなら…一緒に帰ろ。
俺たちの家によ」
俺の言葉に利差は少し戸惑ったように俺の差し伸べた手を見る。
「あ、手はいらなかったか?」
「いや、そうじゃなくて…私は…いいの?
…傷付けるかもしれないよ私の力はそう言ったものだから…」
俺の的外れな言葉に対して利差は首を振りながら言った言葉に俺は一瞬言葉を失う。
僅かにその瞳には涙が出ていた。
それでも俺はこの言葉を分かっていた。
「…そんなこと関係ない。
それにそれはお前の力が上手く制御出来ていないから誰かを傷つけてしまう。
その制御するための訓練を何だったら付き合うぞ…それにあいつらも手伝ってくれるはずだ」
皆帰達なら喜んで手伝うなと思いながらそう言うと利差は恐る恐ると手を出す。
「本当にいいの?」
俺が頷くと利差は少し躊躇いながらも手を…。
取ることは無かった。
「ダメ…ダメ…無理だ…だって嘘だ…」
利差は頭を抱えて涙を流しながら否定の言葉を言い続ける。
気が付けば辺りが冷気に包まれていた。
俺は後ろにいた陸也にアイコンタクトを取ると陸也は分かってると言った表情で頷く。
俺も何が起きてるか分からない。
とりあえず、利差に何があったか聞こうと近付いて時だった。
「来ないで!」
利差は一歩引いて俺から遠ざかる。
そして、逃げるように利差はその場を去ってしまった。
その時、俺はわかった。
利差の何か決定的なものが砕けたのだと…。
そう、これは…
人災に委ねようとしてしまっている。
「一体…何があったんだよ」
俺は分からずに頭を抱えるだけだった。
********利差********
ダメだ…もう、彼の手をとってはいけない…あの日のようにまた彼に迷惑をかけてしまう。
また、私は大切な友人を殺してしまう。
次は勇馬かもしれない…嫌だ…それだけは嫌だ…だって私はもう…大切な何かを失いたくない…私は自分のせいで何か酷いものを生み出したくない。
嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…。
私はこんな力が欲しかったんじゃない。
ただ…理不尽から救って欲しかった。
でも、それは叶わなかった。
よりひどい理不尽を背負ってしまった。
誰か…助けて…
私は決してこの言葉を使うことを許されない。
罪のある人間、無い人間を関係なく無差別に殺してきた私からは決して許されない言葉…。
でも、この言葉を口にしていた。
「助けて…」
もう、私は殺す必要の無い人間を殺したくない。
自分に対して敵意を向けなかった人まで殺したくない。
だからだろう…私は考えてしまった。
殺される方法を…。
ならば、私が人災になってしまえばいい。
本物の人災になって殺してもらおう…。
そう考えた瞬間、私の意識が落ちていく。
****************
氷でできた部屋の中で私は目の前の勇馬と名乗った少年とボードゲームをしていた。
これをするときは必ずどこかの国が私を殺そうと騎士団を派遣している時だった。
「ねぇ、勇馬は何とも思わないの?
私が沢山の騎士を今もなお殺してるのに?」
私は何となく聞いたその言葉に勇馬は少し悩んだ後に結論が出たのか笑う。
「まぁ、自業自得だと思ってるな…。
俺がここに来る前に止めたからな、それにお前は理不尽に侵略をしてる訳ではない。
だから逆に何とも思わないな」
私は本心からそう言ってもらったことが少し分かって嬉しくつい頰が緩んでしまった。
いけないと思って少し頰を叩いて次の手を打つ。
そうして、何局かし終えた頃には騎士団は全滅したようだった。
そんな日常を勇馬と過ごしていく中で私は嬉しかった。
みんな凍ってしまい接する機会もない中だった私と対等に話してくれる存在…。
夢みたいだった。
しかし、そんなある日のことだった。
「お前ら…何でここに?」
「いや、なんか勇馬さんがここにいるって話を聞いてきたんですけど…」
男二人、女三人のグループが来たのだった。
勇馬は何やらため息をついて、私に「少し確認して来るからあいつらに関しては…まぁ、それとなく相手しておけ」と言って急いでどこか行ってしまった。
私は五人に話しかける意外と良い人達だった。
そして、不思議なことに彼らは他の騎士のように凍り付くことは無かった。
それから数日間は楽しかった。
勇馬以外に友人と呼べる存在が出来たことに浮かれていた。
もし、私が彼等を追い返していたならきっとあの悲劇は起きなかっただろう。
そうして、数日が経って朝起きたときだった。
彼等は氷になって死んでいた…。
その時、私は自分がどういった存在なのか再認識した…。
自身が人を殺す災厄だと…。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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