捜索
「何で…だろう」
一人の少女が狭い氷でできた部屋の中で氷で出来たボードゲームで遊んでいた。
いや、正確には退屈していた。
外では無数の叫び声と何かがぶつかり合う音が鳴り響いていた。
しかし、やがてそれは止み、少女はため息をついた。
「終局」
少女はそう言ってボードゲームが終わる。
それと同時に役目を終えたようにボードゲームは砕け散る。
そして、少女は狭い部屋から出てその部屋が設置されている建物から出るとそこには無数の騎士の形をした氷の像があった。
「約六千…これまでと合わせて二万七千…無駄なことを…」
そう零した少女の数字はこの騎士の像の数であり…この地にて少女を殺すために犠牲になった騎士の数でもある。
「いい加減…放っておいて欲しい」
そう言って少女は立ち去ろうとすると今までに感じたことない不思議な感覚を感じた。
敵意でも、殺意でも無い…無関心…いや、もしかしたら逆の感情を向けられていた。
少女はすぐに感覚を感じた方向に向いた身を引く。
そこには一人の男がいた。
そして、少女は見開く…。
5メートル…
その数字は後ろにいた男との距離であり少女の経験上、氷化の効果が急速に強くなる距離だった。
しかし、目の前の男はどうだ?一切の氷化現象が起きていない。
「バレちまったか…」
男はバツの悪そうに苦笑しながら一歩前に出る。
「何の用?」
少女は何とか声を出して男に聞く。
「えーと、その前にお前が『氷の女王』と呼ばれる人災で合ってるのか?」
「今となっては凍りついてしまっている騎士さん達は私のことをそう呼んでたわ」
「そうか…」
男は短くそう返事すると剣を取り出して逆手持ちで地面に突き立てるように前に出す。
「俺は北条 勇馬=*****だ。
あ、*****は英雄名という奴だ。
要するに…」
男は思いっきり地面に剣を突き刺す。
「お前という人災に終わりをもたらしに来た。
英雄さ」
男は…いや、勇馬はそう言って笑う。
それが…『氷の女王』冬華 利差と北条 勇馬との出会いだった。
****************
「ううん…」
利差は薄暗い倉庫で閉じていた目を開けると周りを見渡した。
「…懐かしい夢を見た」
利差はそう言って先程の夢の内容を思い出してふふっと微笑む。
しかし、そんな自分の感情に浸るのもすぐに終わってしまった。
「お前かぁ、ウチの者が世話になったようだが?」
そこに現れたのは一人の男だった。
おそらくこの前潰した組織の長をはじめとした複数の組織の元締めをしてた人間だと利差は考えた。
(ご丁寧にかなりの数の敵意を用意して…意味をなさないのに…)
男は何も言わない利差を見て嘲るように笑う。
「まぁ、いい。
ここで…」
そう言って何かをしようと手を上げた時だった。
一発の乾いた破裂音と共に男の顔が破裂した。
「長!」
近くに待機していたであろうかなりの数の人が一斉に駆け寄る。
そして敵愾心を露わにして銃を取り出したり火を放ったりとしてくる。
しかし、それと共に利差は引き金を引いていた。
乾いた破裂音がやけに響く。
銃声と共に凍りつくもの肉体を失うものと次々と現れていく。
利差は真正面に突っ込み、剣を取り出す。
「誰も逃がさない」
その言葉と共に利差は敵の集団のど真ん中に降り立ち、剣を振るう。
返り血が利差に降り注ぐ。
しかし、利差はそんなもの気にならない。
ただ、純粋に自分に負がある存在を殺そうと動き出した。
ひたすら切って撃って殺してる中で利差はそれを聞いた。
ー殺せばいい…そう、憎い全てが憎い…殺してしまえー
そんな声が利差の中で響いた時、動きが止まっていた。
「なんだか知らないが今だ!」
利差はやばいと思い剣を振り抜こうとする。
ーそう、憎い私を否定するものは殺してしまえ壊してしまえー
「違う!」
利差が再び止まってしまう。
たしかに殺そうとした…しかし、何かがそれを促す。
どうしてもそれに乗ろうとは思えず利差は止まってしまう。
その瞬間、利差の胸に刀身が現れる。
気がつけば後ろから刀で突き刺している男がいた。
「…『氷化』」
その瞬間、利差の胸から氷に変わり砕ける。
そして、気がつけば無傷な体の利差がいた。
そのまま、利差は体を捻って男の首を刈り取る。
すぐさま剣を逆手持ちに変えて後ろから襲い掛かろうとしている男を刺して、そのまま切り裂く。
そこから動かずに次々と来る猛攻に利差は剣を振るって殺していく。
しかし…
ーそう、私は憎い…自分を否定する全てが自分を拒絶するものがー
次に切ろうとしてまた止まる。
何か戻らないような気がしてならなかった。
その瞬間、利差は串刺しに近い状態になっていた。
無数の弾丸により体は蜂の巣のように空き、色々な場所に剣やら刀やらが刺さっていた。
しかし、不思議と血は出ていない。
「…ねぇ、私はどうしたらいいの?」
利差が再び氷化を始める。
割れる音ともに利差はその場にいなかった。
「ど、どこに!」
「まだ近くにあるはずだ長の仇だ!
草の根分けてでも探し出せ!」
「俺たち以外の人間を見たら発砲しろ!
責任は取ってやる!」
組織の男達は長を殺されたことにより激情して探し回る。
そして、利差はというと倉庫の影でゆっくりと息をしながら壁に背を預けていた。
「自身の氷化を二回は無茶をした…」
よく見ると未だ体が氷になってる部分が複数箇所存在しており、見るからに痛々しかった。
ゆっくりと回復を待っており、利差はぼーっと天井を眺めていた。
音を聞けばこの倉庫を出入りして報告したりしてる声がチラホラ聞こえておりまだ見つかることは無さそうだと利差は安堵する。
(違う…私は復讐なんてもう望んでいない…もう、私は自由なんだ…許してくれる人がいる…)
自分が人災という衝動に駆られる中で抑え続けようとしていたが…段々と自分の考えに変化が訪れているのに気が付いていた。
本当に復讐を望んでいないのか?本当に許してくれているのか?
そんな考えがぐるぐると巡っており、利差は答えを決めかねていた。
(この衝動を抑えることができなくなったら私はどうなってしまうの?きっと、全てを殺してしまう)
この力はほぼ例外なく自分以外を氷に変えてしまう。
故に今も何とか抑え込んでいる。
そんな自分がもし表で生きる道を選んだとしよう…それこそ…大切なものを失ってしまう。
「いだぞ!
こっちだ!」
気持ちが整理できないうちにそんな声が響いてくる。
気がつけば利差の目の前に一人の男が立っていた。
「逃すな!囲え!」
利差は笑っていた。
自分の不甲斐なさもある。
しかし、そこには
(これで死ぬのかな?
ある意味それが一番いいかな…)
そんな諦めが心の内にあったからだろう。
利差目を瞑り、ジッと死を待つ。
そんな時だった。
殺意でも敵意でも無い、そんな視線を感じたのは…。
そんな直後、爆音が響く。
絶叫や悲鳴、苦痛で叫ぶような声が無数に響き渡った。
「変な覚悟をしたところ悪いけど…あなたにはまだ死んでもらう訳にはいかないのよね」
利差が目を開くと半透明の利差と同じくらいの年齢をした少女が立っていた。
茶色の髪に金色の瞳…そして、なによりも目立つのが少女が持っている杖だった。
派手な飾りは無いが材質が明らかに異常なものだった。
この世界には未だ実在し得ないものだと利差は瞬間的に理解した。
「あなたは…いや、何であなたがここに?
えっと…そうだ…『六賢者』…」
その瞬間、少女に利差は口を塞がれた。
「名前はまだ思い出されたら困るんだ…だから、勇馬に伝えといて…私の下まで来てみなって」
少女はそう言って利差に立つように促す。
「形勢逆転…といこう」
利差はそう呟くと共に氷化が治る。
(今、私は頼まれた…今、私は存在意義がある…私は傷つけるだけの存在じゃない)
利差は微笑む。
今までとは少し違う笑顔で前を見る。
「惜しみなく今出せる全力を使える!」
気が付けば私の中にずっと聞こえていた声が聞こえなくなっていた。
********勇馬********
現在、俺は陸也と一緒に利差の捜索に出ていた。
学校を欠席をするのは少し忍びないと思ったが一分一秒を争う状況なので俺は陸也に連れられて捜索に出ていた。
「ふぅ、本当にこの辺りにいるのか?」
俺が陸也に問うと多分としか返事が返ってこなかった。
実際、かなりの場所を既に巡った後であり次の候補地に陸也の運転頼りに向かっている最中である。
「すいません、少しでも早くいたというと事実が見つかればどうとでもできるのですけど…」
後ろから申し訳なさそうな声が聞こえる。
細身の体をした加藤さんだ。
彼の能力は優秀で二十四時間以内なら過去をいくらでも技法などのエネルギーが許す限り探ることができるようだ。
既にかなりの量を使っており、辛そうだ。
因みに陸也が何やら「俺は名前を聞いたことないのに…」とか言っていたが気のせいだろう。
「いや、大丈夫ですよ。
それを言うなら候補地を約千カ所なんて無茶な数値にまでしか絞り込めなかった陸也の方が…」
「悪かったな!」
「いや、だって必要ないところまで候補地にしてるし…次はここの候補地な。
こことここは利差は絶対に行かない」
「わ、分かった」
俺は加藤さんの弁護しながらも陸也に指示を出していく。
「それにしてもまさかこうして捜索の手伝いをすることになるとはな…」
「悪いな斎藤さん疾風と陸也に頼んだのは俺なんだ」
「いや、別にいい。
ここまで来て別のやつが全て片付けるのはそれはそれで寝覚めが悪いからな」
「ありがとう」
加藤さんの隣に座る少し大柄の男の人、斎藤さんはアドバイスをよくくれる。
俺と違ってここら辺の地理を仕事の都合上知ってるようでかなり助かっている。
普段は運転をしてるようだが、今回は陸也に代わってもらい俺が今現在書き直してる候補地をよくよく吟味してくれている。
「そうだ、利差という奴の速さがどれくらいか分からないが近くのここはどうだろうか?」
「えっと…ここは?」
何かに気が付いたのか地図を俺に見せて指差してくれる。
「確か…ここは使われなくなった倉庫でしたね。
処分に困ってるようで空のコンテナや倉庫の中には中身の未だに残った箱などが山積みだって話を聞いたことがあります」
俺はその補足説明を聞いて色々とツッコミたい気持ちを抑えて考える。
利差の足の速さからしてというか、俺達の速さからしてもう少し遠くでも大丈夫だが、ここは車がないと回り道になって時間がかかる立地になっていた。
「正規で行くなら急がないで行ってギリギリか…」
それでもそれは夜に休む予定でいた場合の話である。
今となってはもっと遠くに行ってる可能性がある。
それでも二十四時間には間に合う筈だ。
「陸也、そこを左に曲がって!
そこに急ぐよ」
俺は二人の話を聞いて即決して陸也に指示する。
ひょっとしたら利差のことだから迷った挙句いい場所に着いたと思って行ったかもしれない。
「全く、人使い荒い奴め」
「褒めてくれてありがとう、だから無駄口叩かずに行くよ」
「褒めてねぇよ!」
そうして、俺は着くまでの間、候補地を探り続けるのであった。
そして、少し時間をかけてやっとの思いで倉庫にたどり着いた。
「陸也、ありがとう」
「皮肉とかは多い癖してお礼はちゃんと言うのな」
「まぁ、気が楽な相手だからこそだな。
それでお前は行くのか?」
「付いてくよ、お前だと戦略過多で事情が聞けるような馬鹿がいた時に全員誤って殺しちまいそうだからな…」
「流石にそこまで制御ができないわけじゃない」
陸也に皮肉を言われて思わず苦笑いしてしまうが俺達は気を取り直して車の外に出て借りた銃とホルスターを腰に着ける。
「では、行きましょう」
加藤さんと斎藤さんに先導されて俺達は歩み出す。
「…」
「どうした?勇馬そんなに険しい顔をして…」
「いや、死の匂いと血の匂い…そして、利差っぽい技法能力の残滓を見つけたけど、近くに行って確認しないと分からない」
俺の言葉にやっと当たりかと安堵の息を漏らした陸也は一息ついた後に気を引き締める。
「ここだな…加藤さんお願い」
「はい!」
加藤さんは一度深呼吸してから能力を発動させた。
俺は今のうちに技法の残滓を調べていた。
「やっぱり…これは利差の技法だ…」
「見つけました!どうやら当たりのようです!」
加藤さんからもどうやらここに利差がいたという情報が取れたようで能力の発動を止めている。
「んじゃ、ここから追うと言いたいところだけど…その前にすぐそばにいる馬鹿に事情を聞かせてもらおうか?」
そう言って俺は能力を使って思いっきり大地を駆る。
そして、草むらにいた男の首根っこを掴んで陸也達のところに戻る。
「まさか、感知系固有能力に引っかからなかっただと?」
斎藤さんは男を見て驚いているが実のところ感知系にも欠点があり、相手との力量差がありすぎると逆に感知できないのだ。
例えば俺が今首根っこ掴んでいる明らかに下っ端感溢れる男とか…。
今回は弱いというケースだったから良かったがその逆も然り、その場合は本当に危険が大きくて死にかけた経験があるのであまり感知系は使わないようにしてる。
「それで、お前はどうしてここにいるんだ?」
俺は呆然としてる二人を無視して陸也と男の尋問を開始した。
最初は渋っていたが途中からしっかりと語り始めた。
昨日、下部組織の一つが潰れてさん原因たる少女の抹殺に出たが一瞬で長が殺されて無謀にも全員、その少女に挑んで殆どが氷の塵となって死んだらしい。
「それでお前はどうして生きてるんだ?」
「いや、もう長が死んだ時点でどうでもよくなって隠れて見てたんですよね…」
あっけらかんとして言う男に思わず溜息が出てしまうが利差から逃げるには正しい判断だと感心した。
それを無意識で簡単にできるものではないからだ。
いや、意識的でもできない…寧ろ意識的にやる方が難しいと言っても過言ではないからだ。
「とりあえず、行くか…」
「いや、待ってくださいよ坊ちゃん…俺絶対に役に立ちますから連れてってくださいよ」
俺が三人に行こうと促そうとしたら俺に抱きついてそんなことを言う男がいた。
「俺は坊ちゃんじゃねぇ!」
その後、説得などでかなり時間を使って最終的に連れて行くことになったのだった。
なんか華がないな…。
いや、こっちの話です。
決してむさいのが好きなわけではありません。
でも、最近利差以外の女キャラあんまり出てないような…いや、この際仕方ないと割り切ろう。
という訳でストーリー的にはカオス(ある意味)な状況になりながらも何とか更新できました。
いや、本当に『六賢者』を出すべきか悩みに悩んだ結果で自分が想定しているより時間がかかりました。
では、いつも通り恒例の挨拶+αで締めさせていただきます。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
面白いと思って頂けたなら幸いです。
そろそろ、別の話の更新も頑張る予定ですが七月七日までこの話を中心に頑張ろうと思っています。
そろそろ一年だし…一番最初に書いた話だし…。
という訳でこれからも応援よろしくお願いします!




