氷結の皇帝
初めての全部三人称
氷が全てを侵食する。
空気も風も全てがこの氷に叶わず凍っていく。
止めようと手を伸ばした倒れ伏していた北条 勇馬はただその光景を呆然と見ているだけだった。
ただ、氷と言う名の理不尽を見つめていた。
「なにそれ?」
そして、勇馬の前に立つ二人の一人がポツリと呟く。
身の丈に合わないような刀を構えている少女は目の前の光景に対して畏怖を抱いていた。
ただ単純な脅威、純粋にまでなる圧倒的な力…。
それを起こしたのは少女と対面している人、利差に他ならなかった。
しかし、利差は無感情いや、なに一つとしてなにも見ていなかった。
そう、今まで利差が一片も譲らず抑えてきた力…記憶を取り戻した時からずっと隠し続けたもの…人災『氷の女王』と呼ばれた少女の力であり、幾万という人を殺めた力。
しかし、それを知ったか知らずか少女は利差に斬りかかる。
それでも、それは叶うことはない。
利差は氷により身体は守られそして、すぐ後ろまで利差は跳ぶ。
「死ね」
ただ純粋な殺気とともに頭に突きつけた銃の引き金を弾く。
そして、なる破裂音そこから飛び出したのは鉛の弾丸どころか金属…いや、個体ですらなかった。
そもそもが多少の不意をついた程度で少女が避けられない道理などは無い。
だからこそ、少女は真横に飛び避けられる筈だった。
発砲されたのが純粋な冷気でなければ…。
弾丸の射線には無くてもその冷気に左腕が当たってしまった少女の体は凍りつき始める。
体中では無いにしろ少女の左腕は完璧に凍りつき最早使い物にならなくなっていた。
(なにこれ?何で避けたよね?嘘でしょ…何で動いてよ…この程度で…何で?)
痛みもない、氷が体を侵食していく感覚をリアルタイムで感じている少女は完璧に恐れてしまった。
その瞬間、侵食は早まり気がつけば左腕は氷に成り代わっていた。
それを見た利差はゆっくりと銃を構える。
少女は何とか正気に戻り、すぐに左腕を切断する。
「一か八か…」
そう呟いて少女は刀を投げつける。
利差はそれを視認するとともに引き金を引く。
それと共に刀は凍りつき、砕け散る。
しかし、脅威的な速さで後ろに回る。
利差はすぐに後ろに構えて引き金を引く瞬間…。
少女がすぐに作り出した刀により銃が弾き飛ばされる。
利差は目を見開いて後ろ飛ぶ。
「もらった」
少女は勝利を確信して斬りかかる。
だが、少女の目には映った。
いや、ギリギリ映ったのだ。
もう片方の手で銃を握る利差の姿が…。
瞬間的にやばいと悟り、少女はすぐに避けるように体を動かすが引き金を引く方が早い。
再び聞こえる破裂音は少女の右足を砕いた。
「っっ!」
今度は痛みが伴い、少女は叫び声をあげそうになるが何とか噛み砕く。
右足だけで済んだだけ安いものだと考えて少女はこの場を離れようとする。
しかし、それを許される何て甘い希望なんて少女ははなから抱いていなかった。
ガッ
という音とともに少女は倒れる。
そして、下を見ると氷に包まれた地面と着いた手足に侵食している氷だった。
(ハハハ、この戦いは始まった時には負けてたのか…)
そして、利差は少女に対して銃を向ける。
そう、この引き金を引けば少女は吹き飛ぶと誰もが認識していた。
だか、引き金を引く瞬間、利差はあらぬ方向に向けて放つ。
木々を凍らせて砕く。
しかし、そこになにもいない…。
「いや、違う…」
その声はずっと呆然と見ていた勇馬だった。
ある程度、慣れたのか勇馬は立ち上がるがすぐに膝をついてしまう。
「くそっ!」
何とかもう一度立ち上がろうと試みた瞬間、勇馬は吹き飛ぶ…。
「まだ身体はできてないから無理はしないほうがいいよ」
その瞬間、勇馬の元いた場所に一人少女がいた。
利差はすかさず銃を向ける。
しかし、引き金を引くに至らなかった。
銃は一瞬で弾き飛ばされて懐に入り込んでいたのだ。
利差も剣を抜いてぶつかり合う。
そして、押され負けた利差は剣を弾かれて肩を切られる。
これ以上の追撃をしようと一歩踏み出された瞬間に辺りに冷気が包み込む。
危険だと判断したしたのか利差の相手は後ろに飛んで冷気から逃れる。
「これは危ないな…まさかあの一瞬でもこれだけだと…」
相手はあとコンマ一でも遅かったらとヒヤッとしていた。
「何でいるんですか!
幸凱 千那!」
そう、利差に傷を与えたのは千那が行ったことだった。
「僕はただ単に君に加勢をしただけだよ?
まぁ、敢えて言うなら僕なりに事を進めてる最中に危なそうだったから割り込んだ…かな?」
どこかおちょくるように言う千那に少女は眉をしかめる。
「まぁ、とりあえずは僕に任せておいてよ」
そう言って少女のところまで歩く千那。
利差は先ほどと比べて表情が出ており、目を瞑って気持ちを落ち着けていた。
そして、目を開いて千那を見る。
「あなたは…『死の救い手』」
「へぇ、僕のこと知ってるんだ。
それとさっきと比べて意識があるね。
まぁ、火鎚君と続いて利差ちゃんという強者を逃す気は無いけど」
「おかげさまで…私も逃げる気は無い」
お互いに武器を構える。
利差は先ほどと比べて大きな力は無い。
それでもお互いに覇気だけは恐ろしいほど纏っている。
気迫だけじゃ勝てないがそれでもあることによるメリットをお互いに知っている。
そして、お互いに同時に踏み込み剣がぶつかり合う。
「心の幻想、イフリート」
瞬間、あたりは炎に包まれる。
しかし、大半の炎は氷により鎮火するどころか完全に凍りつく。
千那だけではなく少女も「いや、おかしいよね?」と動揺を露わにする。
しかし、その動揺が仇となる。
利差は氷越しに銃を構えて狙う。
正確に把握したその構えは破裂音と共に正確な軌道かつ氷が射線になくなる瞬間に通る。
その弾丸は千那の頭を撃ち抜く筈だった。
「油断は禁物だよ」
利差のすぐ近くにそんな声が聞こえる。
気がついた時には遅かった。
利差の横から剣線が走る。
右腕をバッサリと切り裂かれる。
なぜ、千那がすぐ近くにいるとかの疑問は捨てて利差は傷を凍らせて体を動くようにしながら千那から逃げるように後退する。
「逃がさないよ」
千那は舌なめずりをして、そう呟くと走り出して突きを後ろからいれる。
ガッ!
違和感の感覚が千那走る。
刺した時に感じたのは人を刺した感覚ではなかった。
何か…硬いもの…。
「逃げないと言った」
その言葉と共になにが起きたか、認識した千那は前に転がるように受け身を取る。
しかし、遅かったのか肩に少し切り傷ができる。
利差は後ろから銃を構えて追撃する。
破裂音が響いて千那の左肩に刺さる。
少し、驚きはするが痛みに慣れているのか無言で再び構えの姿勢をとる。
「イフリートとコネクトしてなかったら今頃は血が凍りついて死んでたね」
千那は冗談混じりにそう言うと大きく息を吐く。
そして、それは一瞬だった。
氷で止めていた氷で止めておいた右腕を一瞬のうちに切り飛ばされたのだ。
いつの間にか利差の後ろにいた千那は剣に着いた血を払うように剣を振る。
「これが君と僕との違いだよ…。
久々の全力…見せてあげるね」
先程までとは違う雰囲気…誰よりもこの場を支配した。
しかし、利差の心は折れる前に壊れた。
不安定だった利差の情緒や感覚が本当の意味で崩れ去った瞬間だった。
(何も言わせない…私は役立たずじゃない…私は強くならなきゃ…やだ…もうあんなのは嫌だ…私は忌子じゃない…私はただ…ただただただ…やだ…やだやだ…やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…)
記憶が刺激された利差は壊れる。
あの日のように…氷の女王として…壊れ切る。
「うん?
まぁ、これで終わりだからいいか…」
千那は何かを感じたのか一瞬止まるが思い直して動き出す。
千那の姿が消える。
次の瞬間には利差のメガネが飛んでいた。
そこにあったのは利差の頭が千那の剣に貫かれた瞬間だった。
「終わったね…」
この場で意識のある少女は千那の呟きに何も答えなかった。
圧倒的…いや、そんな言葉も足りないくらいの差で相手を倒す千那に対してありとあらゆる疑問と困惑などを抱いていた。
千那は溜息をついて剣を…。
「へ、抜けない?」
その瞬間、千那にとって不可解なことが起きる。
剣が抜けないのだ。
バリンッ
と割れるような音が響く。
その音がしたのは利差の頭の貫かれている部分だった。
顔半分が氷となっており、割れる。
そして、気がつけばその顔は元どおりになった利差が目の前に立っている。
千那は驚きながらも剣を構えて振る瞬間に止まる。
「っっ!」
剣が軽い破裂と共に砕け散ったのだ。
すぐに飛び退いたが少し破裂の際に飛び散った氷にやられて血を流す。
「まさか、やろうと思えば触れたものを全て氷に変えるというのかな?」
最早苦笑いしかできない千那は目を閉じて気持ちを落ち着ける。
だが、そんなものを利差…否、『氷の女王』が許すわけがなかった。
千那の前までゆっくり移動すると手をゆっくりと出す。
千那は本能的に左手で払う。
その瞬間に千那は失敗を悟る。
しかし、今更もう遅い。
左手が氷に変わっていき、侵食していく。
それを見た千那はすぐに剣を取り出して切り落とす。
並の人間の人間どころか殆どの者でも近付いただけでも凍りつき始めるというのに千那は凍ることは無かった。
通常ならそれだけでも賞賛はできるだろう。
それは互角にそれで持ち越せるならである。
千那と利差の差は歴然で圧倒的に千那の方が今は負けている。
触れるだけで凍らせるのではなく、氷に変えられてしまうのがその証拠となっている。
「悪いけど短期決戦で行かせてもらうよ」
千那は炎の塊を放つがやはり、凍らされてしまう。
しかし、その炎はまだ生きていた。
大きな爆発が起きる。
辺りが吹き飛び、小さくクレーターを作ってしまうような爆発が利差の目の前に起きる。
それだけで千那は倒せると思っていない。
『六色七斬流』『秩序』の型、奥技『白夜』
究極の一閃…無数の斬撃と突きが辺りに一瞬のうちに撒き散らされる。
「まだまだ!」
それでも千那は油断しない。
肉片一つ残さないつもりで自分の全力をぶつける。
『六色七斬流』『秩序』の型、奥技『地』
千那が動いたのは一瞬だけだった。
大地を砕き、利差に切りかかる。
刹那の時にして万を超える…筈だった。
「うそ…」
無事である剣を持っている右手を利差に握られていた。
徐々に氷に変わっていくその右手を見て千那は絶望の色を見せた。
「なーんてね!
掛かった!」
瞬間、千那の右腕が炎に包まれて大爆発を起こす。
両腕を失った千那はすぐに体制を立て直す。
「逃げるよ!」
少女にそう呼びかけて走り去る。
その際に千那と少女は見ていたのだ。
絶望と呼べるものを…。
利差の体は吹き飛んでいる筈だった。
しかし、利差の体には無数の氷か纏わり付いており、無傷でジッと自分達を見ていたことを…。
しかし、何か困惑しているように目を見開いており、それのおかげもあり千那達は逃げることが…いや、逃がされたとも言える状況になったのだった。
その場に残された利差は僅かに理性を取り戻しており、頭を抱えていた。
「違う!私は…私は…」
膝をついて辺りを見る。
「こんな事したい訳じゃない‼︎」
そう、破壊された周りは自然ではなかった。
氷に成り代わった…何かだった。
それを見て、より原初の自分と重ねてしまい崩れ落ちる。
「違う…違う…私は…私は…」
その時、利差の鳴き声と絶叫が轟く。
悲痛な叫びが辺りに響き渡る。
人里離れたこの場に聞くものは僅かしかいなかった。
「利差か?」
一番最初に封印の解除の連絡で来た皆帰は呆然と利差の姿を見ていた。
「もう…あぁ…そっか…」
利差はそう呟くと周りを再び見回す。
そして、勇馬の倒れてるのを見つけるとそっと近付く。
「生きてる…よかった…」
安心したように利差は呟くとそっと勇馬の体制を変えて顔を見る。
「やっぱり起きてないか…。
勇馬…さようなら…できればもう探さないで忘れてほしいな」
利差はそう言ってその場から離れる。
「おい、利差!」
皆帰はそれを見て追いかけようとするが、その時にはもう既に利差の姿は無かった。
辺りを見回したりしたがもう既に遠くに行っており見つけられなかった。
皆帰は呆然と利差が去ったであろう方向を見ることしかできなかった…。
それと同時にどうしようもない怒りが皆帰の中で渦巻いていた。
誰も悪くない、誰にも責めることができない憤りに皆帰は静かに歯軋りをしていた。
今回は勇馬がとても役立たずでした。
因みに今回、勇馬の視点や利差、千那の視点が難しくなりそうなのとバトルだったので三人称視点を貫かせていただきました。
さて、ここで宣伝させていただきます。
久々にそろそろVRMMOを題材とした話!
『スキルクラスオンライン』を更新させていただく予定です。
いや、本当に悩みに悩み切った結果の更新となります。
これくらいの宣伝は普通ですよね?多分…。
では、また次回と『スキルクラスオンライン』をできればよろしくお願いします。
おもしろいと思っていただけたなら幸いです。
できればブクマや評価もよろしくお願いします。




