人災
『どんな世であろうと私は一人であるべきだといつも思う』
利差は一人、離れたところで放課後の練習風景を見ながらポツリと呟く。
「言い訳はそれだけか?冬花」
ふと声をかけられて利差は後ろを向くとそこには
相模先生がそこにはいた。
後ろの方で二つほど屍ができているのは気にしないお約束であろう。
「はい…」
利差は迷わずにそう答える。
相模はそれを見て一瞬呆気にとられる…。
この時、他人だからこそ分かり得たのだ。
利差の異常な思考と目について…。
(子供のくせに何でそんな目をしてんの…)
相模は少し歯ぎしりをしたところで我に返り、大きく息を吐くとそのままその場から去ろうとした。
「何も…しないの?」
「萎えた…運が良いと思え」
相模は利差の問いかけに一切振り返りもせずに答える。
その時の相模の顔は酷いものだった…。
しかし、周りが体育祭の練習に集中しており、彼女が怖い事で有名なのがよかったのか誰一人として彼女の顔を見ようとは思えなかった。
ただ一人を除いて…。
勇馬は先程から僅かに目を開けて様子を伺っていたのだが、理解ができていなかった。
(何で…先生が怒ってんだよ…どうして怒ってるんだ?)
そう、常識だったのである。
彼にとっては利差の目に何も感じない…なぜ相模が悔しそうに怖い顔をしてるのか理解できなかったのである。
それ故に勇馬は断言できなかった。
『原初でも何でもそう…どうして私を助けてくれたの?』
そう、原初以外でも記憶が無くても何度か勇馬は利差を助けた…。
全然知らない、それどころか助けを求めない限りわからない状況でも助けたことがあった。
勇馬も原初は覚えてないが断片的な記憶の中に原初以外の記憶にそれにあたる部分があったが故に彼は『わからない』という言葉は使えなかった。
たしかにその時はあったのだ理由が…それでも分からないというジレンマの中で妙に勇馬の中に相模の顔が残った。
(そう、やっぱり私はここにいてはいけないんだ)
利差は余計に考えを歪めて行く。
それはおそらく利差自身の原初の記憶を取り戻して実は日が浅いのが原因とも言えた。
しかし、そんな葛藤などの中で聞こえる体育祭の練習の音は当事者達にとってはやけに虚しく聞こえた。
*******勇馬*********
俺は今、家に帰ると軽く風呂を洗ってから部屋に篭っていた。
机に向かい合って座り難しい顔をしながら俺はまた一ページ、本を捲る。
その本は那奈がこの前持ってきた『失われた神話』を読み返していた。
俺が主に読み返しているのは『人災』についてだ。
俺たちの原初は基本的に『人災』と呼ばれるものだったと雪菜から聞いて、俺は必死で調べていた。
そもそも『人災』とは人が行う災厄のことを指すのではない。
人の行いから生まれた災厄を『人災』と呼んでいた。
しっかりとした目線で見れば魔獣や魔人も人災と呼べるらしいが被害が大きすぎて『人災』とは違った災いとして捉えられているらしい。
大まかに分けてそれらは三つに分けられている。
直接的に人が災厄となること、間接的に別の生物が人のせいで災厄になること、人の願望や絶望から生まれた概念による災厄…それらを直接人災、間接人災、干渉人災と言うそうだ。
「いくら読み込んでもこれしか情報が入らないか…」
俺はそこまで読んで伸びをする。
「読める文字と読めない文字があって微妙なんだよな…」
そう、俺は記憶どころか情報すら曖昧にしか思い出せない故に原初の頃の字が読めるといっても実は半分以上読めていない。
素の自頭は良くないのもあって全く読めない状況も多かった。
そうして俺が再び頭を悩ませたところでドアがノックされた。
「勇馬いる?
雪菜だけど…中に入って大丈夫?」
「…大丈夫だ」
少し悩んでから俺は雪菜を部屋に入れる。
「あれ、勉強なんてめずら…これは」
雪菜は机の上を見て驚愕する。
「勇馬、この本をどこで?」
「えっと、この前話したような気がするんだが?」
いや、明らかに動揺していた。
「そ、そう、それが…」
雪菜は一息つくと少し悩む仕草を見せた後に俺の方を見る。
「いい、勇馬。
これは絶対に他の人に見せちゃダメ!
特に今の不安定な状態の利差とかに…」
「あ、ああ。
そんなに大変なものなのかそれ?」
俺が雪菜に気圧されてる中で本に指をさして聞く。
「これは私たちのとっては衝撃的なものなんだよ…勇馬に出会う前後の記憶を持ってるとは言っても全てを鮮明に覚えているわけでなくて一部分なんだけどこれには私達の行ってきた行動が書かれていて、自分の行った行動を知って自分を知って…人間不審などが再発する可能性がある…実際、今の利差は思い出したばかりでまた周りを不幸にしないかとまた自分は否定されるのかと怯えてるんだよ!」
それを聞いて俺は何も言えなかった。
こんなにも大変いや、衝撃的なものとは思わなかった。
「私は元々、人災とはちょっと違ったからなんとも思わないし、昔のことだと割り切ってるけど、みんなはそれがトラウマになってるから気をつけて」
雪菜はそう言うと周りをくるりと見渡して近くに座れそうなものが無いと認識すると、俺のベッドに腰を下ろした。
「一度、この話は終わりにしようか…」
「そういえば、要件は何なんだ?
わざわざ俺の部屋に来るなんて」
「そうだね…。
勇馬の記憶はどれだけある?」
「ここ数百年前の記憶しか無いな」
俺がそう言うと雪菜は何か勇気付けるように深呼吸をする。
「私の勘違いならいいんだ。
勇馬は八十年前に初めてシャルロットと対峙した時も目的をある程度知っているようだったんだけどどういうことなの?」
その質問に関しては俺はそのうちされると思っていた。
自分でも不思議だった。
しかし、この本を読んだ後なら話は違った。
那奈といた時代にこの本を読んだことを考えると昔の俺の行動に納得できる点が多々ある。
「なぁ、雪菜は元々何で魔獣を放っておいてはダメなのか知ってるか?」
「え、それは危ないからじゃ無いの?被害だって出るし説得もできない」
「そうだな…それだけなら原初の人間も折り合いをつけていたはずなんだ。
被害が出たり出そうになるまで手を出さないとかな。
そうでもしないと倒すのに被害が大きすぎて割合わない」
「そうなの?
となると、そうせざる負えない理由があった?
それとも…」
「そうしないと更に酷い被害が出るようなことが起きる可能性があったかだな?」
俺の言葉に雪菜は思案顔に変わる。
「そう、俺が前世の方でシャルロットと敵対関係になったのもそれが原因だ。
世界が滅ぶ程度なら何とかなるが下手すればこの世の全ての存在が終わる可能性があるんだよ。
俺たちに関係してるからな」
「待って、今の話から考えると、今は彼らはそれを行える可能性が低いと言うこと?」
「違うな、低くもない。
条件さえ揃えばいつでもできるんだ。
前回は戦争が条件をうまく揃えて、今回は『桜霊樹の弓』が条件を揃える要因となった」
俺がそう言うと余計混乱したような表情で雪菜は首をかしげる。
「そうだな…そもそも魔獣の発生理由を知ってるか?」
「それは人の感情の一部により生まれんだよね?」
「そう、それだ。
そして、戦争は普段は出ない負の感情だけではなく破壊衝動なども発生するため魔獣ができる条件はこれ以上なく揃っていたんだ。
そして、今回は『桜霊樹の弓』に溜め込んできたそう言った感情を入れてきた…故に戦争と比べて無尽蔵ではないがかなりの膨大な量があるから成功する可能性が高かったんだ」
俺がそう言うと雪菜が納得したように頷く。
「勇馬はすごいね…」
「何がすごいんだ?」
雪菜のしおらしい雰囲気を感じとり俺は少し目を見開く。
「だってさ…私達は未だに原初に囚われてる…今に生きてる勇馬が羨ましいや」
雪菜はうつむきながらそう言う。
「いつだって私達を考えていつも前を向いて生きてる…」
「違う」
「違わないよ…だって…勇馬は私達をいつだって救ってきたんだもん」
「違うんだ!
俺はただ怖いんだよ!
失ったものがあって…余裕がなくなって心の支えがほしくて…お前達に押し付けて寄りかかって…ただのそうであってほしいと言うエゴのかたま…」
瞬間、俺の目に映ったのは不安の感情を目に宿した雪菜だった。
「うん、だから…。
私達は不安なんだよ…私達は記憶ない自分達がいらないみたいで…」
「そんなわけ…」
「知ってるよ…でも、みんなわかっていて…怖くなるんだよ…自分が許されるわけ無いって…私もそう…でも、一番今不安なのは利差達だと思う…勝手なお願いをしていい?」
「わかった…」
この時、俺は理解した…いや、してしまった。
利差の抱えていたものを…。
「利差達は声を出さない…だから、私からこの言葉を言わせて…」
俺はゆっくりと目を閉じる。
そう、俺とは違いあいつらは頼るものが無いからな…。
「助けて」
その声を受けて俺は立ち上がる。
『失われた神話』の隅の方に書かれた7人の英雄の一人、『真実の英雄』のように…。
****************
私は元々、強い力を持っていた。
しかし、それは制御なんてできなかった。
私はそれでよかった。
平穏で楽しく生きていれば…。
それでも…
誰もが私を認めなかった。
誰もが私を忌子と呼んだ。
親でさえも、教師であっても…そんな私に友人なんているはずもなかった。
私に対して肯定をしたものは誰一人としていなかった。
ただの敵意が私には怖いものだった。
嘲笑や暴力、罵倒罵声それらの類が毎日のように老若男女、親、知人、他人も問わずに私に向けられ続けた。
時が経つにつれて私の心は冷え切っていた。
何もいらない…私を否定するなら私も否定をすれば良い…。
いつしかそんな考えだけが頭に過ぎり続けた。
そして、あれが起きた。
最初は何だっただろうか?
ベッドが凍っていた。
いや…そうだ。
親が氷に包まれて母は台所で父は居間で突然凍り出して死んだ。
前触れもなく、氷に包まれていく光景を見て私は…何も思わなかった。
ただ私は親が死んだことを喜んでしまっていた。
それで悪夢は終わらなかった。
今まで以上の迫害を受けた。
しかし、それも消えてしまった。
街がひとつ、氷に変えられてその街の王や騎士が動いたが一人の例外も無しに私に敵意を向けたものは一人残らず凍って死んだ。
それが私…利差が『人災』になった瞬間だった。
そして、それが私の…
ー罪ー
体育祭も並行して利差編開幕です!
用語集は…少し固有能力を何を出したのか確認していて未だに戸惑ってます。
気長に待ってくれると嬉しいです。
すいません、どうやらしっかりと期間内に書ききることが出来ませんでした。
こんな作品でも呼んでくださっていると幸いです。




