失われた神話
俺こと北条 勇馬は目を覚ましてゆっくりと伸びをする。
そして、軽く体を動かして調子を確認する。
「よし、どうやら治ったようだな」
俺はベッドから出て時間を確認する。
今は丁度お昼頃の時間帯で今から学校に行くには遅すぎる。
「まぁ、どうせ一週間程休んでいるからな…」
俺はため息を吐いて一週間前を思い出す。
とは言ってもあまり覚えていないが、記憶にある限りだと皆帰の暴走を止めた後に『限界突破』により体の半分以上がボロボロになって技法と霊格の枯渇による回復行動によって一週間程寝たきりの生活だった。
そのおかげもあり、体も完璧に治って技法や霊格もしっかりと回復している。
そもそも、通常なら一週間も倒れることは無かった。
しかし、それは枯渇じゃ無かった場合の話だ。
たとえ普段なら1日で回復する量の技法を消費しても枯渇状態だと能力の回復にかなりの時間を要するのだ。
原因は微量に放出されたエネルギーによって行われていたエネルギーの管理が狂うからと言われているがそこらへんはよく分かっていない。
漫画とか読んでいて枯渇しても1日で回復する世界が羨ましいと思うくらい辛い一週間を枯渇したら過ごすことになることは変わらない。
とりあえず、朝食(もう既に昼なので昼食)をとらためにリビングに行くとその部屋には何人か人がいた。
「あれ、みんな仕事の方は大丈夫なのか?」
そう、そこには静域、陸也、鈴利、疾風がいた。
「元々、俺の仕事場の最高責任者は俺だから大丈夫だ」
「いや、それ全然大丈夫じゃない。
仕事場の部下が困るわ!」
疾風の言いように俺は全力で否定する。
「まぁ、疾風はともかく私は今日に仕事を入れてないから」
「俺は流浪の医者だ。
特に何もない」
「鈴利はともかく、静域はブラ○ク何とかかよ!
よくそれで稼げるな!」
「そもそも裏社会に休みなんてあってないようなものだし…トラックの運転手の方はこの前事故に巻き込まれて解雇された。
どんな事情があれ一度事故った人は信用問題に関わるんだとさ…バスの運転手かよ」
「お、おう。
陸也、頑張れよ」
「同情するなら仕事を紹介してくれ…」
まぁ、四人の事情はよく分かった。
約1名はとても不憫に見えるのは気のせいだと信じたい…。
「んで、本音の方はどうなのよ?
俺に言うことがあったんだろ、じゃなきゃわざわざこの日に四人も揃って今日に休みを取らないだろ?」
それに対して各々頷く。
「いや、俺は普通に仕事がないのが大きんだが…」
まぁ、一人だけズレてるけど…。
「まず聞くけどお前はどれだけの記憶を思い出している?」
静域に聞かれて考える。
まず、俺の記憶は曖昧な部分が多い。
さらに言えば思い出せている量もそこまで多くない。
言ってしまえば全く思い出せていないと言ってもいい。
「お前ら含めた皆帰達の人柄や印象の記憶やシャルロットと戦った記憶の一部、そして那奈との記憶くらいしか思い出していない」
「そうか…ということは原初とここに来る前の記憶は無いんだな?」
「あ、ああ」
疾風の言葉のどこかに俺は引っ掛かりを覚えた。
「そうか、ならお前はシャルロットに固執されている真の理由を知らないようだな」
「真の理由?
いや、待てそれは俺の…」
陸也に俺は反論をしようとした瞬間、鈴利にその声を被せられた。
「『転生の輪』…だけだと思っていたの?
本当の理由は違うのよ…それはあなたがまだ思い出せていないと思う『六賢者』最後の一人が一番知っているわ」
それを聞いた時…俺は不思議な違和感に囚われた…いや、納得と言った方がいいだろう。
しかし、その理由が分からなかった。
最後の『六賢者』と言っても俺が思い出しているのは五人…その最後の一人がどうしても思い出せないのだ。
ジャック、鈴利、アレン、仁、由無
そして、最後の一人…その一人だけがどうしても思い出せていない。
「一応、海外の方にも出してる空達にも捜索はして貰っているけど行方は知らず…一人でまた…何かを背負って歩いているのかもしれないな…」
静域はしんみりとした表情でそう言うと俺を再び見る。
「もし、あいつを見つけたならお前がどうにかしてくれ…あいつはお前には固執しているからな」
静域がそう言うと四人とも軽く伸びをした。
「まぁ、こんなもので話は終わりだ。
注意しておいてくれ、お前がシャルロットに固執されている本当の理由は俺には正直言えばよくわからない。
でも、間違っても『転生の輪』で何かしようとするな。
あれで本当にもう一度転生できるとは限らないからな」
「分かってる、だから俺は一生一生を真剣に生きろと無理矢理お前達に枷ているんだろ」
「それもそうだな…」
疾風の言葉に俺はそう返すと疾風は満足そうに頷いて、緊張が解けたのか思いっきり背もたれに寄りかかる。
「ただいま」
丁度いいタイミングで玄関から声が聞こえる。
この時間はまだ学校は終わっていないはずだが誰だ?
「はぁ、あれ勇馬起きて大丈夫なの?」
帰って早々に疲れたようにため息を吐いて那奈がリビングに入ってくると俺に気付いたようで心配そうに俺を見る。
「だ、大丈夫だ…というか那奈…近い」
じっと俺の顔を覗いていた那奈は俺に言われて気付いたのか少し顔を赤くしながら引く。
「それで、なんで那奈がここに?」
那奈は普通に家があるはずだ。
それにこの時間は学校だってあるはずだし…。
「えっと…ああ、家のことかな?」
「ああ、それと学校はどうしたんだ?」
「えっと、家に関してはお祖母様にお願いしてこちらに住む許可を貰いました。
それに静域さん達の許可も貰いました。
それで学校は今回の報告書などの作成とか提出とか色々とあって休んだんだ」
「なるほどな…お疲れ」
俺がそう言葉をかけると後ろの方から疾風が那奈に問いかけた。
「報告書ってなんだ?」
「あー、報告書ですか。
あれは陰陽師の活動以外での霊格を使用した理由やその状況についての報告の義務があるんです。
まぁ、今回はお祖母様の口添えなどあり技法などについて伏せることはできましたが…」
「賢明な判断だな…陰陽師の他にも裏では技法使いがいるが、下手にお互いに領分を荒らすと後々それが問題になる。
俺達の場合は陸也が基本的に抑えてくれているから何とかなっているがそう言った連中の干渉は極力少ないに越したことはない」
「「へぇ」」
俺と那奈が感心したように声を漏らすと四人から呆れの溜息が聞こえた。
「勇馬…お前知らなかったのか?」
「たしかに俺たちと比べると天と地くらい違うが存在してることは覚えておいた方がいい。
お前達に回してる仕事もそう言った類の仕事だからな」
静域が呆れながら呟いた後に陸也が念を押してくる。
というか、あの仕事って変なのばかりだと思ったら裏の仕事だったのか…。
「とりあえず、今のところは全員の記憶の擦り合わせとかしておくべきだな」
静域の意見に俺達は頷く。
それから少しの間記憶の擦り合わせをした後、那奈が思い出したようにカバンを探っていた。
「そうだ、勇馬が前世で興味を持っていた書物を見つけたから持ってきたよ」
那奈はそう言うと一つの本を取り出す。
「これは…」
見たことのない文字の本だった。
俺は文字を見るが自然とその字を理解できた。
「どれどれ…」
四人も興味を持ったのか横から本を見る。
「ねぇ、那奈ちゃん…これをどこで?」
「嘘だろ…この文字は…」
「いや、でも確かにこの字は…」
「間違いない…これは」
鈴利、陸也、静域、疾風とそれぞれの反応を示す。
四人はどうやらこの文字について何か知っているようだ。
「えっと…これは多分千年以上前に見つかった書物だったと思うですけど…ていうか、静域さん達も読めるの?」
「ということは那奈ちゃんも読めるのね…」
「は、はい『失われた神話』という題名ですよね?」
それを聞いて俺たち五人は頷く。
でも…この字は一体…。
「勇馬と最近思い出したばかりの那奈は思い当たらないのも無理はない」
静域さんはそう言って一息つくと後に続けた。
「これは、原初で使われていた文字だ」
「原初…それって…」
「あぁ、俺たちの始まりでもあり…失われた世界だ」
「失われた…」
静域の言葉に俺は目を見開く。
そんなこと聞いたことがない…だって…。
「他の原初を知る人間は知らないだろうな…。
俺と陸也は死ぬ間際の記憶がある。
なぜ、滅んだかは分からないが最後からして、滅んだことは確かだろう。
気がつけば俺たちは別の世界で転生していた…」
陸也もそれに対して頷く。
それには嘘はないだろう…でも、とても信じられない話だった。
「ということは…失われた神話、要するに原初の何かについて書かれた書物ということ?」
那奈の言葉に全員がおし黙る。
そして、俺達は本を手に取り、始めの一ページを見た。
そこから俺たちは読み進めると原初について何となく分かったことがあった。
原初の世界は定める者が存在せずに非常にあやふやな世界だった。
そして、その世界には概念持ちというそれを定めて安定させる存在がいた。
人は彼らを英雄と呼んだ。
しかし、それはいいことばかりではなかった。
人の負の情念が固まり、魔獣や魔人、天魔、魔神という概念が生み出されてしまった。
それは人の無意識のうちに持つ破壊衝動などの塊であり、危険な存在とされていた。
そう言ったものの他にも氷の女王、風の巫女、水連の守り手、救いを知らない救い手なども生まれた。
それを人は災厄と恐れた。
そして、それらは英雄の手により収めた。
「まだ、続くとは書かれているがこれは…」
読み終えて俺がそう言うとみんなもそう考えたようで頷く。
「予定外の情報だったな…こんなところで魔獣について知ることになるなんてな…」
静域が真剣な表情で呟く。
「でも、まぁ今は必要は無さそうだな…」
俺の呟きに誰もが固まる。
確かに重要な情報であるが正直、水連の守り手とかそう言ったものの方がこの先関わるかもしれない分重要だと思えた。
「それも…そうだな…まぁ、でも使えないわけではないはずだ」
「とりあえず、色々と調べようか」
疾風と鈴利の言葉で俺たち五人はとりあえず、本について考察し合うことにしたのだった。
皆帰達が学校から帰ってくるまで休まず四時間ほどぶっ通しで…。
その後、あまり頭を使わない俺と那奈、疾風が疲れて倒れた際に周りから呆れられたのはまた別の話…。
読んでいただきありがとうございます。
そろそろ、用語の紹介などを入れようと書き込んでいます。
一部に入れる予定になっています。
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